日本の夫婦 パートナーとやっていく幸せと葛藤
柏木恵子・平木典子 偏著
1〇結婚をめぐる状況の変化
結婚することの利点として一番多いのが、男女とも「子どもや家族をもてる」で、調査の回を追うごとに上昇しています。次いで多いのが「精神的安らぎの場が得られる」で、男性では前調査まで終始一貫してこれが最大の理由でした。かつて男性の多かった「社会的信用が得られる」は、今日では低下の一途をたどり、一方、女性では「経済的余裕がもてる」は急上昇しています。
昨今の不況により、結婚して経済的に安定したいという女性の現れと解釈できます。一方、独身生活の利点として、男女とも他の理由を圧倒して「行動や生き方が自由」であることをあげています。つまり結婚することで子どもや家族をもち、精神的安寧を得る代わりに、これまでの行動や生き方の自由が制限される、と多くの未婚男女は考えているようです。
2〇恋人をほしいと思わない若者
3〇結婚による恩恵
2 子育てと夫婦の幸せ
1〇子どもをもつと夫婦に何が起こるか
子どもが生まれる事で妻と夫のそれまでの関係が崩れ、妻が子どもの世話を焼き多くのエネルギーを子どもに注ぐことで、夫が疎外感を抱き、カップルの関係が悪化するという報告があります。
妻にとって夫の子育ておよび家庭への関与の少なさが、結婚満足度の著しい低下を招くのだと考えられています。
2〇日本の夫の家庭関与の少なさ
中年期の危機 婚外交渉を中心に=布柴靖枝著
1 中年期を生きることは――中年期の発達課題
2 中年期の婚外交渉をどのように捉えるか
3 1〇婚外交渉
4 2〇婚外交渉をどのように捉えたらよいか
5 3〇婚外交渉に関する二重規範
4〇現実のファンタジーの狭間で起こる婚外交渉
――その背景要因
現在社会において婚外交渉において婚外交渉はどのような背景の中で生じているのでしょうか。衡平理論(Hatfield&Walster,1978)によると、均衡のない愛情関係は破れる傾向があり、受け取るものより得る者が多いと感じる側が婚外交渉をもちやすいといわれています。
婚外交渉は、セックスの問題というよりも夫婦の親密性を問われることになります。また、文化人類学者のマーガレット・ミードは、羞恥心は傷つけられた自尊心と深く関係していると述べています。すなわち、パートナーの浮気によって自尊心が深く傷つけられたことによって嫉妬心がさらに強くなります。
そして、婚外交渉は現実の夫婦・家族関係や職場やその他の人間関係のなかに居場所が見出せないときに、現実とファンタジーの狭間で起こりやすい現象です。すなわち、婚外交渉は現実生活の重圧から一時的に解放され、かつ夢の世界ではない、その中間に位置する第三の狭間になるファンタジーとして発生しやすいのです。
(1) 愛の対象とセックスの対象の不一致布柴靖枝著
愛する対象とセックスの快感を得られる対象が異なる場合です。これは、「した側」本人にとっても不幸な事だと思われます。これらの不一致は、性を巡る問題でさまざまな問題をパートナーと引き起こす可能性があります。またこれらの中には、背景に性依存症がある場合や、抑うつ状態や不安・恐怖を一時的に軽減するための身体・生理学的理由でパートナー以外の相手と性関係を持つ場合もあります。
人は、情緒的に混乱したときや、ある一定量の不安や緊張があるときには性的反応を高めることが分かっています。衡平理論(Hatfield &
Walster,1978)。こういったケースは、医療による治療やカウンセリングを受けることが有効といえましょう。
(2) 分離―個体化の発達課題の未完の作業
(3) パワー・コントロールの手段
現在のパートナーで満たされない補償行為
(4) パートナーにはない魅力をもつ人に惹かれる場合がそれに当たります。そもそも人は、「自分はこんな人になりたい」という願望をもっています。その願望は自分で気づいていない無意識も含みます。この意識的、無意識的にもつ理想の自分を「理想我」と呼びます。そして、自分が求める理想我の欠如感をパートナーで埋めようとする傾向があります。
それが恋の始まりともいわれており、現在のパートナーではそれが満たされないとわかると、それを満たしてくれる人をほかに希求することで生じる婚外交渉がこれにあたります。こういうタイプで婚外交渉が起こった場合、「する側」の理想我を満たす存在に「された側」が近づくことでパートナーの婚外交渉は収まる傾向があります。また、「する側」」が自分では気づいていなかった自分の理想我に気づくことで、婚外交渉をふみとどめることができます。
(5)メールやネットの普及による婚外交渉の機会のもちやすさ
(6)性の価値観・ジェンダー観
未熟な結婚。原家族の問題(自己分化度・世代間伝達された家族神話)
(7)家族療法家のボーエンは、夫婦・カップルは同じ自己分化度の人と結婚する傾向がある傾向があると指摘しました。
自己分化度とは原家族(「夫(妻)にとって結婚そのものが自分の両親との三角関係を脱するための手段で、両親から離れるための合法的方策になっていることがあります。ただ、それが片方の親との密着度がつよかったり、両親に反対された結婚だったりすると、両親との関係を強引に遮断することがあります。たとえば、無意識に母親に依存し情緒的なニーズを満たしていた夫(妻)が母親との関係を遮断した結果、失った親の代わりを配偶者に求めたりする場合です。
恋愛と思われていた関係は無意識の親子関係の再現になっていたり、夫(妻)と父母の三角関係に配偶者が引き込まれたりすることになります。嫁姑の問題などその一例です」)のなかで身に着けたもので、知性システムと感情システムの分化度合いをいいます。
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3)婚外交渉を克服するために
1〇婚外交渉を予防する心理教育
2〇カップルセラピー
――行動の意味と感情に焦点を当てて
3〇さらにセラピーで焦点をあてるところ
――関係性と個の問題
離婚を選ぶ夫婦たち 藤田博康
――いかに危機を乗り越えられるか
1 離婚に至る背景とその要因
1〇離婚の増加とその背景
1〇離婚の増加とその背景
我が国の離婚は、平成14年の約29万組をピークにその後やや減少傾向にありますが、依然として高止まりで(厚生労働省 2013)、今や3組に1組近くの夫婦が離婚する時代になっています。また、それを裏付けるかのように、「相手に満足できないときには離婚すればいい」と考える男女は半数以上にのぼっています(内閣府 2009)。
フェミニスト的な立場からは、性的役割分業の男女の不均衡。婚姻関係における男性の未熟さや発達不全、そのための女性の満足度の低さなどが一様に指摘されており、親密でも対等でない夫婦関係の解消は悲劇ではなく、離婚は自己実現のための一つの有力な手段であるという論調もみられます。
2〇離婚の迷い
しかし、実際、離婚はそう簡単なことではありません。離婚を決断した人の大半が、挫折感や不安、絶望、抑うつ状態などの情緒的混乱を体験していますし、その後長い年月を経ても何らかの心理的・身体的症状を抱え続ける者が少なくありません。
3〇離婚の理由
まず離婚の理由を統計でみてみましょう。司法統計年報によれば、家庭裁判所への調停離婚の申し立ての理由は、夫側1 性格が合わない、2 異性関係、3 家族親族と折り合いが悪い、4 異性格 5 浪費する。
妻側が1 性格が合わない、2 暴力を振るう、3 異性関係、4 精神的に虐待する、5 生活費を渡さない、となっています(最高裁判所 2012)
夫が妻の意見を聞き入れない夫婦は、そうでない夫婦より4倍も離婚率が高いといった報告あり、男性の婚姻関係における「発達不全」といった問題は確かにあるとおもいます。
4〇さまざまな要因が相互関連するプロセスと離婚
2 離婚への分かれ道 藤田博康
1〇夫婦カップル関係をめぐる循環プロセスモデル
2〇夫婦のコミュニケーションの悪循環
(1) 結婚生活への期待と蜜月期
すべてのカップルは結婚を意識する前後から、結婚生活や配偶者に対して、それぞれがさまざまな期待や欲求を抱きます。心理的情緒的安定や経済的に安定、性的欲求の充足、子どもをもちたいという欲求などです。とくに、現代は経済的なニーズは相対的に薄れ、情緒的心理的な「癒し」に対するニーズが強くなっています。
その期待や欲求は、それぞれがはっきりと意識して相手に期待し求めていて分かりやすいレベルのものもあれば、本人が心の内に抱えてはいるものの、恥や不安などでなかなかはっきりとは口にできないレベルのもの、さらには、自分でも気づいていない願望やコンプレックスなどに深くかかわっており、本人にも意識できないレベルの欲求など、さまざまな水準があります。
たとえば、結婚相手に「甘えたい」とか「依存したい」などという欲求は、ほとんどの人がもつ欲求ですが、これを相手に直接求めてゆくには躊躇があり、なかなかはっきりとは口にできなかったり、あるいは本人にも意識さえもできなかったりする欲求の最たるものかもしれません。
とにかく、その後の男女の関わり合いは、当事者に意識されているにせよ、そうではないにせよ、それらの期待や欲求に濃く色づけられることになります。
新婚前後は、互いに相手からの好意をつかんで濃密な関係を築こうとする動因が働きます。つまり、相手にとって魅力的な自分であろうと、そんな自分を提示しようという思いが強くなるのが普通ですから、相手の期待や欲求に沿おうとするコミュニケーションややりとりが多くなります。
たとえば、「男性は仕事、女性は家」という性役割分業観に反対の女性さえも、家事を大切にする女性像を提示する傾向が強くなったりします。総じて、相手と自分の違いなどを意に介すことなく、相手の「あばた」も「えくぼ」に見える、いわゆる「蜜月期」を過ごします。
配偶者選択においては自分が育った原家族の影響を強く受けます。たとえば、原家族で満たされなかった愛情やケアなどを、結婚により埋め合わせようとする期待や欲求が強いカップルはその一例ですが、相手の問題や欠点をことさら見ないようになり、二人だけの閉鎖的な世界へと突き進んでしまうことがあります。
(2)親密さのパラドクス
たとえば、第一子が生まれた夫婦の七割近くは、結婚生活に不満を覚えるようになるというデータがあります。子どもが産まれると、子育ての負担や生活形態の変化などから、夫婦それぞれの相手への期待や欲求が急激に高まるにもかかわらず、逆に満たされにくい状況にもなります。
したがって、夫婦は互いに協力してゆこうとする姿勢をもちながらも、一方で、相手に頼れなかったり、甘えられなかったりする事態を自分なりに受け止めるという必要性に迫られます。つまり、夫婦は、自分を犠牲にすることなく自分らしさを大切にしたうえで、しかも、相手を自分のいいように変えようとか説得しようなどという過大な要求を抱かずに、互いに相手のありようを認めあえるという「親密性」を築かなくてはならないのです。
(3)相手に情緒的ケアを期待するタイミングのズレ
(4)コミュニケーションの悪循環から深刻な不和へ
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5)離婚危機からの分かれ道
イ 協議離婚に至るケース
ロ カウンセリングを求めるケース
ハ 子どもの問題などが生じるケース
夫婦関係が悪化すると、子どもの行動上の問題や精神的症状が顕在化することが少なくありません。二 経済安定や家族の形態維持を優先して葛藤に耐え続けるケース
いわゆる家庭内別居や一部の熟年離婚ケースなどが、これに当てはまります。
ホ 家庭裁判所に調停が申し立てられるケースが
夫婦の一方が離婚を強く望み、他方がそうではない場合は、調停が申し立てられることになります。
3〇「縮小・背信」への落差が深刻な場合
決定的な異性関係や顕著な暴力、虐待など深刻な出来事があった場合には、それだけで、「縮小・背信」への転落が大きく、関係修復が相当難しくなります。
「自己分化」という観点から
自己分化とは、私たちが情緒的にも知性的にも多様な機能を細やかに働かせられるようになる内的プロセスです
4 いかに危機を乗り越えられるか?