人は、情緒的に混乱したときや、ある一定量の不安や緊張があるときには性的反応を高めることが分かっています。衡平理論(Hatfield & Walster,1978)。こういったケースは、医療による治療やカウンセリングを受けることが有効といえましょう。
(2) 分離―個体化の発達課題の未完の作業
分離―個体化とは、マーラーが、母子関係の観察実験から見出した発達理論で、おおよそ子どもが生後5か月目から36か月くらいに行われる作業を指します、つまり、この時期の子どもは母親を安全基準として、自己の内面に内在化しながら母親のもとから離れる練習を始めます。そして、外の世界で怖い思いをすると母の元に戻る最接近を経て最終的に自立に向かっていくのです。
ところが、幼児期のこの時期に母親が十分な安全基地に慣れなかった場合や、母親がその時々で一貫しない態度をとると、この時期の発達課題が未完のままになります。そして成人になってから子どもの時に十分体験できなかった発達課題のやり直し作業が始まります。パートナーという安全基地があって初めて浮気ができたケースがこれに該当します。もちろん、本人はそのようなことにはまったく気づいていません。
こういうケースの場合、パートナーに浮気がばれて、離婚を迫られたとたん浮気が出来なくなります。「した側」にはよほど追い詰められないかぎり、離婚は選択肢にはありません。こういう場合、「された側」が「した側」に根気強く母親のように見守る役割が求められます。このプロセスを通して「した側」も未完の発達課題を完了できると、パートナー(された側)は確固たる存在感をもち、夫婦・カップルの親密性を取り戻すことができます。
(3) パワー・コントロールの手段
これは、のみ込まれ不安や親密になることに恐れを持っているために、力関係でバランスをとろうとすることで婚外交渉が生じる場合です。相手が心理的に近づいてくると距離をとりたくなる接近―回避型タイプです。このタイプは、親密性に関する問題を抱えていることが多く、多くは幼少期の親子関係に起因しています。
相手との心理的距離が近づくと、相手に呑み込まれコントロールされることに恐怖を覚えます。そのために無意識に相手を回避してしまいます。また、相手が苦しむ姿に罪悪感を覚えながらも、サディスティックな快感を得ている場合もあります。こういう場合、本人、配偶者そして婚外交渉相手で三角関係を形成することで、緊張感のなかにつかず離れずの関係がもてるので丁度居心地がいい場合などです。
このようなパターンで起こる婚外交渉は、「された側」にとって、非常に大きな心理的負荷がかかります。「する側」に改善が見られない場合は、むしろ離婚した方が「された側」の心理的健康は保たれるのではないかと思われケースもあります。また、こういった関係が続くと今度は「された側」が、「する側」になって仕返しのような形で婚外交渉に発展することもあります。
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こうなってくると悪循環が生じ、さらに両者の関係を悪化させることになります。いずれにして、パワー・コントロールをしようとすることで起こる婚外交渉は、夫婦・カップルの関係性をますます悪化させます。
(4) 現在のパートナーで満たされない補償行為
パートナーにはない魅力をもつ人に惹かれる場合がそれに当たります。そもそも人は、「自分はこんな人になりたい」という願望をもっています。その願望は自分で気づいていない無意識も含みます。この意識的、無意識的にもつ理想の自分を「理想我」と呼びます。そして、自分が求める理想我の欠如感をパートナーで埋めようとする傾向があります。
それが恋の始まりともいわれており、現在のパートナーではそれが満たされないとわかると、それを満たしてくれる人をほかに希求することで生じる婚外交渉がこれにあたります。こういうタイプで婚外交渉が起こった場合、「する側」の理想我を満たす存在に「された側」が近づくことでパートナーの婚外交渉は収まる傾向があります。また、「する側」」が自分では気づいていなかった自分の理想我に気づくことで、婚外交渉をふみとどめることができます。
(5) メールやネットの普及による婚外交渉の機会のもちやすさ
婚外交渉は社会的要因も大きく影響を与えています。とくにインターネットが、普及して日常的に生活の一部に取り入れられてきてから、人間関係のもち方はさらに多様化してきました。また、出会い系サイトがビジネスとして広がってきたことから、婚外交渉の機会が圧倒的に増えてきており、性モラルに大きな影響を与えていると言えます。最近は出会い系サイトばかりでなく、FacebookやMixiなどの「知り合いコミュニティ」ともいわれているソーシャルネットワークサービス(SNS)を通しての出会いも多くなっています。
ネットは相手の顔が見えない分、内面的な本音を出しやすく、急速に心理的距離が近くなりやすいこともあり、その気になればすぐに相手が見つかりやすくなります。そこから婚外交渉が増え、夫婦・カップルに大きなダメージを与える事例がアメリカでかなり報告されるようになってきました。本人は、実際に会って身体的関係をもっていないので、罪悪感も少なく、パートナーに発覚しないかぎり、その依存から抜け出すことに困難さを抱えているのが特徴です。
(6) 性の価値観・ジェンダー観
性に対する価値観も大きく影響を与えています。セックスと結婚のパートナーの存在を切り分けている人もいるようです。いわばセックスするだけを目的とした関係を割り切ってもっている人もいます。また、「キスまでなら挨拶であって、婚外交渉にはあたらない」、「(たとえ、浮気をしても)妻、夫を愛しているのに変わりはない」、「むしろ、浮気があるから、夫(妻)のことを愛し続けられる」等の声を聞くこともあります。このように性に関する価値観は多様です。
また、「男の浮気は甲斐性」という言葉あるようにジェンダー観も大きく影響を与えています。性に関し
ては、長い間、家父長制社会の中で、男性と女性への二重規範が存在したいたことから、男性の
方に性交渉の決定権が委ねられていた時代が長く続いていました。また、性の問題と不可分であるDVの被害者は、圧倒的に女性が多いことからも、ジェンダーの問題が色濃く性の問題を支配しているのも事実です。
しかし、長年性的弱者として不利益を被ってきた女性にとっても「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(通称:DV防止法)の成立や、男女雇用機会均等法によるセクシャルハラスメント防止に関しての使用責任が問われるようになってから、少しずつではありますが、男女の性に関する不利益な扱いは改善の方向に向かいつつあるといえるでしょう。
(7) 未熟な結婚。原家族の問題(自己分化度・世代間伝達された家族神話)
青年期にアイデンティティを十分確立せずに未熟なまま結婚した場合、子育てなどある程度一段落し始めた第二の青年期といわれる中年期に入った頃に、恋人探しが再燃する場合があります。なかには、ファンタジー世界に近い芸能人の追っかけなどで発散するケースも多いようです。
家族療法家のボーエンは、夫婦・カップルは同じ自己分化度の人と結婚する傾向がある傾向があると指摘しました。
自己分化度とは原家族(「夫(妻)にとって結婚そのものが自分の両親との三角関係を脱するための手段で、両親から離れるための合法的方策になっていることがあります。ただ、それが片方の親との密着度がつよかったり、両親に反対された結婚だったりすると、両親との関係を強引に遮断することがあります。たとえば、無意識に母親に依存し情緒的なニーズを満たしていた夫(妻)が母親との関係を遮断した結果、失った親の代わりを配偶者に求めたりする場合です。
恋愛と思われていた関係は無意識の親子関係の再現になっていたり、夫(妻)と父母の三角関係に配偶者が引き込まれたりすることになります。嫁姑の問題などその一例です」)のなかで身に着けたもので、知性システムと感情システムの分化度合いをいいます。
自己分化度が低いと、外からの刺激や相手の反応にすぐに影響を受けて、感情的に巻き込まれやすくなる傾向があります。自己分化度の低い夫婦・カップルは、心理的に融合状態が起こりやすく、葛藤が生じやすくなります。しかし、お互いが強い依存関係にありますので、別れたくても別れられない関係に陥ります。
しかも、自己分化度の低いカップルが不安や葛藤にさらされると、第三者を巻き込んで家族システムの安定を図ろうとします。家族の中では、子どもが巻き込まれることが多いのですが、時には婚外交渉相手を巻き込んで強力な三角関係を形成する場合も見受けられる。
こう言った夫婦・カップルの場合、三世代以上の家系図であるジェノグラムの作成などを通して自らの原家族との関係の見直しをすることが有効です。原家族の中での未完の課題に取り組んで、夫婦・カップルのそれぞれが自己分化度を高めていく必要があります。
そうでないと相手が変わっても同様のことが繰り返し起こり、根本的な問題である融合関係が引き起こす三角関係の悪循環から抜け出せなくなります。また、性の問題や婚外交渉などを原家族がどのように捉えて体験して来たかも大きく影響をあたえます。世代間伝達された家族の物語は、家族神話としてその人の生き方や価値観に大きく影響を与えているからです。
つづく
3 婚外交渉を克服するために
1〇婚外交渉を予防する心理教育