亀山早苗著
男と女の浮気の定義
取材で、二十代から三十代にかけての独身女性たちに会うことがある。そんなとき、私は、
「恋人がいるに、他の男性とセックスしてしまったことがありますか」
と尋ねてみる。
彼女たちは、けっこう、恋人以外の男性とセックスの経験を持っている。長い間、二股をかけて、両方とのつきあうのでなく、恋人は恋人として大事にしながら、ちょこちょこと「つまみ食い」するケースが多い。
男性たちは、ちょこちょこと他の女性とセックスすることを、
「浮気」
「遊んでいる」
と呼ぶが、彼女たちは絶対にそういう言葉は使わない。
「ちょっとしたあやまち」
「一夜の恋愛」
「セックスもしてしまう、ただの友だち」
と認識している。
彼女たちは、
「酔った勢いで」
「なんとなく」
「雰囲気に負けて」
という理由にならない理由で、出会ったその日のうちに、男性とセックスしてしまうこともある。あるいは、以前からの顔見知りと、ひょんなことから深い関係になったりする。
「女だから」こそ、愛していない男とセックスするには、「自分の意思でなかった」という言い訳が必要なのだろう。「相手に性欲を感じたからセックスした」と言った女性はほとんどいない。
そのあたりが女性の女性たるゆえんなのだろう。「私は遊んでいる女なの」と自ら言えるわけがないから、自分に対する言い訳は大切なのかもしれない。
ただ、本音をいえば、私は、
「性欲に負けて、ある日、知り合った人とその日のうちに寝てしまった」
と言うことがあってもいいし、それほど恥ずべきことではないと思う。
そのとき、その人とセックスしてしまったのは、自分自身が、「誰とでもいいからしたい、というほど性欲が強まっていたから」かもしれない。あるいは、「相手が非常にセクシーだと感じて、自分の欲求を止められなかった」ということかもしれない。いずれにせよ、したかったからした。それ以上でもそれ以下でもない。
、
クラブでの実験
ふたまたかけた愛
「恋人上手くいかなくなると、仕事関係の男性と一夜限りの関係を持ってしまう。そのあと、たいてい恋人に別れを告げるの。でも、突発的に寝てしまった男性と、その後、つきあったことは一度もない」
という女友だちもいる。彼女は、恋人との関係が終焉に近づいてくると感じたとき、他の男性と寝てしまうことで、恋人との関係に「区切り」をつける。そして、一夜の関係をばねにして、恋人に別れを告げるのだ。
彼女はそれを、「自分の癖みたいなもの」と言っているが、何かがないと、自分から相手に別れを告げるのは難しいもの。愛情がなくなっているのに、「ひとりでいたくない」という恐怖心から、ずるずるとつきあうより、さっさと別れて次の恋を見つけた方が、前向きだ。
だが、そのためには「きっかけ」が必要で、彼女の場合、そのきっかけが、他の男性と寝てしまうことなのだろう。
前書きにも書いたが、アメリカのドラマ『SEX AND THA CITY』に出てくる四人のキャリアウーマンたちは、自分の姓的欲求を隠さない。「いい男とした―い」と彼女たちはあっけからんと言う。四人のうち一人は、あるとき、妊娠し、シングルマザーになることを決意するのだが、「お腹が大きくならないうちに、どうしてもセックスしたい」と思い、男友達とその晩だけの関係を持ってしまう。そして彼女はにんまりとするのだ。
もちろん、男女問わず、寝た異性の自慢をすることは下品なことだ。実際には、多くの異性とセックスをすることがいけないことだとは思えない。もちろん、下品なことでもない。性感染症と妊娠にさえ気を付ければ、「したい」という気持ちに言い訳をつける必要はないと思う。
ただし、セックスしたい時にしたからといって、ドラマのように必ずしも深い満足感を得られるとは限らない。セックスには相性があるからだ。それはサイズ問題のみならず、
「なんとなく、相手のやり方がしっくりこなかった」
「もっと激しいセックスを期待していたのに、相手は穏やかなセックスをしたがっていた」
など、この身の問題もある。
そして、そんなときには、相手も同じように思っているものだ。
病気と妊娠だけでなく、そういったリスクもあるけれど、それでもあえて、愛情とは切り離して、「セックスを楽しむ」という選択肢があってもいいような気がしてならない。
「妻たちの恋」最新情報
最近、結婚していながら外で恋愛をしている女性がた急増している。そして、
「私は決してそんなことはできないタイプの女だと信じていたけれど、つい他の男性と関係を持ってしまった」
という女性たちは本当に多い。
山下美春さん(三十八歳)は、三歳年上の男性と結婚して、十年たつ専業主婦だ。八歳と五歳の息子がいる。小柄で、笑顔のかわいらしい美春さんだが、一年ほど前、夫の浮気が発覚。相手は、会社に来ていた派遣社員の女性だった。夫は、「関係を持ってしまったのは一度きりだ」と、泣いて謝ったが、美春さんの気分は晴れなかった。
「あるとき、携帯電話に出会系サイトからの広告メールが届いていたんです。いつもだったら削除するのに、そのときは何も考えずに、画面にあったサイトにアクセスしてしまいました。『寂しい人妻です。だれかともだちになってください』
と書きこんだら、二日で三百通近く、男性からメールがきました。その中から、感じのよさそうな人を選んでメールを返して‥‥。メールのやり取りから始まって。電話で話すようになり、つい先日、四十代の会社員の男性と会ったんです。
メールでお互いの写真は見ていたから、会っても、まったく印象が変わらなくて。お互い気が合って、初めて会ったその日に、ホテルに行ってしまったんです。そのとき、私は、夫の気持ち少しわかったような気がしました、夫は浮気が発覚したとき、『愛しているのはお前だけだ』と言ったんです。
私は、そんなの?っぱちだと思っていた。だけど、その人と寝てみて、分かったんです。私、もちろん、その人のことは嫌いじゃないから寝たんですけど、その直後に、夫のことも愛していると心から感じたから。その人とは、今もつきあっています。
彼とは、本当にセックスが合う。セックスに関しては夫以上。だからといって、夫への愛情が減ったわけじゃない。最初は自分が他の男性と付き合っていることで、夫に対して罪悪感がありましたけど、今はどちらともうまくやっていきたい、というのが本音です」
美春さんは、彼と関係をつづけながら、夫ともセックスしている。夫のセックスのテクニックは恋人に劣るが、それでも、恋人とのセックスにはない安心感があるという。
「彼との関係が浮気といったらいいのか、恋といったらいいのか、私自身、よくわからないんです。いつかは終わってしまうのだろうという気持ちもあるし、ずっとつきあっていけるものならそうしたい、という気持ちもある。
ただ、彼にも家庭があるから、とにかく、お互いに家庭を壊さないように付き合っていこうと決めています。彼も奥さんのことを嫌いなわけでもないと言っているし‥‥。私、女はひとりの人しか好きになれないと思っていたんだけど、違うんですね。
女が同時に、ふたりを愛することができるんだってわかりました。自分がこんな経験してから、前ほど夫の動向を気にしなくなったんです。夫は夫で、私にあまり神経質にならなくなったせいか、最近は妙に優しくて。夫婦の関係って、いろいろなことで、微妙に変わっていくものですね」
「恋人とのセックスは、ただでさえ、『道義的にはよくない関係』なのだから、興奮があります。ホテルに入るときから、『誰かに見られていないか』と、びくびくしている。その不安や恐怖感が興奮に結びつく。夫とは、逆に安心感があるんですよね。
精神的にも肉体的にも、興奮度は低いけど、抱きしめられているだけで安心できるというか。私、自分がこんなことを言うようになるなんて、考えもしていませんでした。他人から見たら、単に浮気をしている人妻なんでしょう。
それは分かっている。だから、彼との関係を恋愛なんて言っちゃいけないんじゃないかと思っているんです。でも、私の本当の気持ちとしては、彼と恋愛、夫とは夫婦愛というふうに考えたいんです」
おそらく、女性も、同時に複数の男性を愛せるのだろう。順位や優劣が生じるかもしれない。あるいは、「暮らしていくには、この人が夫であることが望ましい」とか、「セックスするならこの人」とか、状況に応じて、相手を選択していくことになるかもしれない。それでも、「この人もあの人も好き」ということが、女性にもあり得る。
既婚者の「恋するリスク」と「性の歓び」
既婚男性たちは、配偶者以外に目を向けない理由として、こんな理由をあげられる。
「外で女性と関係をもって、それが発覚したら、家庭に騒動が起こる。そうしたら、いろいろ面倒だという想像がつくから」
「社会的信用を失いたくないから」
一方、既婚女性は、
「いまさら恋愛するのは、面倒くさい」
「子供のことを考えるとできない」
「もう誰も相手にしてくれないと思う」
などが多い。男女ともに、
「配偶者だけを心身ともに愛しているから、他の異性には目が向かない」
と答える人はほとんどいない。内心はだれも彼も、
「恋したい」
「他の人とセックスしてみたい」
と思っている。現実を考えると、精神的にも肉体的にも時間的経済的にも、面倒くさいという気持ちが先に立って、他の異性を好きにならないだけのようだ。また、好きになっても、感情を押し殺してしまう、
病気、妊娠、露見など、あらゆるリスクが排除されれば、男も女も、
「外で恋をしてみたい」
「いろいろ人とセックスをしてみたい」
と思っているのではないだろうか。
もちろん、配偶者にばれるリスク、すべてが暴露されたときに社会的信用をなくすリスクなどあるから、それが抑止力となり、結婚という形態は、なんとか秩序を保っていくことができるかもしれないが。そのリスクを重く受け止めるか軽く受け止めるかで、恋愛へのアプローチも変わってくるだろう。
なぜ他の女性と関係をもつのか。ずばり、経験者である既婚男性に聞いてみた。
「なりゆき。目の前に女性がいて、触れれば落ちんという風情だった、やはりいくしかない、と思うでしょう」(三十八歳)
「好きだったから。彼女の全部がほしいと、強く思ってしまった」(四十二歳)
「チャンスがあったから。チャンスさえあれば、ほとんどの男は妻以外の女性と寝るんじゃないかなあ。この年になると、先がみえてきて、何か心が浮き立つようなものが欲しくなる」(四十八歳)
「刺激的なセックスがしたかった。妻とは、今さらそんなことはできない」(三十七歳)
理由はそれぞれだが、おしなべて男たちは、「セックスのない男女関係はあり得ない」と思っている。婚外恋愛の多くの動機は、セックスにあるいっても過言ではない。
女性たちは、必ずしもセックスを第一義にはあげない。やはり、「気が合って好きになったから、セックスという行為に及んだ」と言う。それは本当に「男女の違い」なのだろうか。
自分の心の中で、「なぜ他の異性と寝たのか」と考えたとき、「性欲に負けたら」と素直に認める男性と、「好きになったから」という女の心に、どれほどの違いがあるのだろう。根底に、相手への姓的欲求がなければ、「好き」にはならないと思うのだが。
つづく
第4 セックスと愛情の関係