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第三章 エゴ――傷の癒し

本表紙
リズ・ブルボー 著 浅岡夢二 訳

ピンクパラ第三章 エゴ――傷の癒しを最もさまたげる存在

本章のタイトルを書きながら、私は次のように自問していました。すなわち、エゴが私たちに及ぼす悪影響に関して、これほど多くの本が書かれているのにもかかわらず、どうして私たちは、エゴの支配から脱することができないのだろうか、と。

 それに対する答えは、次のようなものでした。「私たちの集合意識が目覚め始めたので、エゴの抵抗がますます強くなった。エゴは消滅することを恐れている」

 したがって、これまでと同様に、私は、ETCのセミナーや講演会、そして私の本の中で、エゴについて語りつづけようと思っています。私の本をすでに何冊か読んだ人たち、あるいは、私のセミナーに参加した人たちのために、この章の中で、また本書全体の中で、具体例をなるべくたくさん上げるつもりです。あなたがどれくらい自分の人生を統御しているか、そして、どれくらいエゴの支配を受けているかを明らかにしたいのです。

 精神世界の探究を開始して以来、これまでの四十五年のあいだ、私は無数といってよいほどの本を読んできました。また、この三十年間、数多くのセミナーやワークショップに参加して、私の意識を高め、一方で、人々に教えてきました。ひれでも、これまでに意識化できていなかったことをまだ発見し続けています。
 それらを発見するたびに、驚きのあまり呆然とするのです。どうして、こんなことを、これまで知らずにいられたのだろうかと不思議に思うのです。

 だからこそ、私はこの本を通じて、今度はあなたに、エゴがどれほど私たちに悪影響を与えているか、どれほど私たちを支配しているかをお伝えしたいのです。
 毎年、毎月、毎週、毎日、少しずつ〈意識化〉が進んでいるのは、決して私一人ではないと考えています。いつか、エゴの影響を受けてないようになる日がやって来るでしょうか? 私は、その日を夢見て、〈手放す〉作業を続けています。
 そうすれば、やがて、エゴが用いるあらゆる手段を意識できるようになるに違いありません。私は、もっともっと、自分の人生を統御できるようになりたいのです。

エゴが生れるとき

私は、よく、次のような質問を受けます。「エゴはどこからやって来るんですか? どうして、エゴは人生において、それほど重要な役割を果たしているのでしょうか?」
 エゴは、今から数百年前に、人類が精神エネルギーを発達させ始めたときに、登場したのです。あなたは、アダムとイブの話を知っているでしょう。彼らは、地上の楽園で暮らしており、完全な存在でした。イブが知恵の木の実を食べたとき――つまり、精神の次元を発達させ始めとき――、
 彼らは不完全になり、数々の問題が起こり始めたのです。
 
 この象徴的なお話が示しているのは、精神エネルギーを発達させることで、私たち人類が、選択する力を身につけたということです。人類は、この地球上において、〈自由意志〉を持つ唯一の種です。時間が経つにつれ、私たちは精神の次元に多くの権限を与え、そのエネルギーを使ってエゴを創造したのです。そうすることが私たちにとって有用だと考えたからです。そして、ついに、エゴに力を譲り渡してしまったのです。その結果、唯一の現実的な力というのが、私たちの内部にある聖なる存在――私たちの光、私たちの大いなる智慧(ちえ)、私たちの〈内なる神〉――の力であることを、すっかり忘れてしまいました。

 エゴは、ちょうど、あなたの隣人のようなものです。あなたは、その隣人に多くの権限を与えたために、その隣人は、しょっちゅうやって来ては、あなたに「ああしなさい」「こうしなさい」と指示するようになりました。この隣人は、自分の事を、ものすごく重要で、不可欠な存在だと思い込んでいるのです。自分無しには、あなたは生きていくことができない、と思っています。というのも、あなたはたった一人では、人生において、何ひとつ決定することができない、とその隣人は考えているからです。あなたは、その人を非難することができるのでしょうか? いいえ、できませんよね。なぜなら、彼は私たちのために奉仕していると思い込んでいるのですから。

 まさに、エゴは、そのような存在なのです。エゴは自分を客観的に見ることができません。何が本当に起こっているかを知ることができないのです。ですから、あなたは、エゴが存在するとき、それを意識化するために、自分をきちんと観察しなければなら入のです。エゴはタオルについているシミと同じで、自分がシミであることを自覚できません。シミを見るには、タオルの外側に出なければならないのです。

 エゴが精神エネルギーで出来ているのは、たいへん重要なことです。私たちの精神の次元は、思考し、推論し、組織し、記憶するために、不可欠な存在です。それは、物質の次元とは、異なり、みることもできなければ、触ることもできない、精妙な次元に属します。とはいえ、それは、厳然と存在する、たいへん重要な次元なのです。

 思考したり、組織したりするため、私たちの精神は、記憶を探って、これまで学んだあらゆることを参照にします。過去に学んだあらゆることを用いて、私たちがニーズを満たすのを助ける時、エゴが最高に幸せで安定しているのです。

 どうして、この本の中で、それほどエゴについて語るのでしょうか? なぜなら、エゴについて知れば知るほど、あなたの傷が活性化されてあなたが反応するたびに、それを〈意識化〉することができるようになるからです。事実、それぞれの〈反応〉は活性化された傷によって引き起こされるのであり、それは、あなたがエゴの支配下にあることを示しているのです。

エゴが支配しているということは、あなたが
 傷を仮面で覆っているということを意味しています。

エゴとは何か

 エゴは人間だけが持っているものです。動動物にはエゴがありません。エゴは、精神エネルギーによって養われます。そして、エゴは、自分が過去に学んだことを信じません。たとえば、過去に危険だと見なされた〈状況〉は、エゴによって、ずっと危険だと見なされ続けます。エゴは、常に危険とみなされた〈状況〉は、エゴによって、ずっと危険だと見なされ続けます。エゴは、常にものごとを固定的にとらえ、あらゆる変化を嫌うのです。エゴが大好きなのは苦しむことです。

エゴは、満たされない欲望が原因で苦しみます。
 さらに、欲望がみたされてしまったことを恐れます。したがって、ここには、出口がありません。

 エゴには〈現実〉が見えません。というのも、エゴは、すべてを、自分が割り出した世界に基づいて見るからです。エゴによって、自分が創った世界だけが、本当の世界なのです。
 多くの大人たちが、幼少期の困難な出来事について語るのを私は聞いてきました。彼らにとって、それらの出来事は、まさに真実なのです。ところが、家族の人たちに聞いてみると、彼らの〈認知〉の仕方が必ずしも正しいわけではないことが判明しています。家族のほかの人たちは、その出来事を別の形でとらえているのです。彼らは、長い年月にわたって、その出来事ゆえに苦しんできたのですが、実を言えば、それは、エゴによって認知が歪められていたために、ただ単に現実が見えなかっただけなのです。

 私は、子どもが十一人いる家庭で育ちました。もし、その子どもたち全員に、両親がどういう人であったかを順番に聞いていたら、おそらく、まったく違う両親に育てられたように感じられるはずです。私が幼かったころ、家が火事になったことがあります。何年か経ってから、私の姉たちとその話をしたのですが、誰一人として、私と同じ話をする人はいませんでした。まったく別の火事の話をしているとしか思われませんでした。それほど、人によって現実の受け止め方は違うのです。
 つまり、私たちは、〈現実〉を、思い込みや恐れ、つまり〈エゴのフィルター〉を通して作り上げるわけです。

 精神を材料にして作られるため、エゴは、精神の〈異常増殖物〉だと考えられます。あなたは、肉体の〈異常増殖物〉を知っているでしょう。たとえば、いぼ、嚢胞、腫瘍などがそれです。それらの増殖物は、肉体を材料にして作られます。自然なものではありません。肉体に寄生して、肉体エネルギーを使ってみずからを作り出し、存在し続けます。私は、そうした増殖物の構造に、ずっと感慨し続けてきました。というのも、それらは自らを生ながえさせるために、細い血管すら作り出すからです。

 エゴも、そうした増殖物に似ていますが、増殖物以上のダメージを私たちに与えます。というのも、エゴ自体が、生きようという意志、生き延びようという意志を持っているからです。エゴは、死ぬのではないか、消えてしまうのではないかと、絶えず恐れていますが、それは、みずからが、現実の存在ではなく、束の間の存在にすぎない。ということを知っているからです。だからこそ、よけいに自分が存在すると思い込みたがるのでしょう。

 エゴはこのように無知なのですが、そのさまは、お金が足りなくなりそうなのを認めたがらず、その結果、自分が危険な状態にあることを意識できずに浪費し続けておりながら、自分は安全である、言い続けるのです。「あなたは財政的に危険な状態にあるのですから、すぐに生活を変えた方がいいですよ」などと言う人がいようなものなら、そういう人を手ひどく批判するでしょう。
 この人は不安を感じていないので、ほかの人たちも、自分自身も、納得させる必要など感じないのです。エゴも同じことです。自分が幻想であることを知らずに、自分は存在するのだ、といつも思い込もうとしています。

 エゴは、精神エネルギーの中における強力な存在で、あなたからたくさんの力を奪います。あなたがエゴに支配されるたびに、あなたはエネルギーを失うでしょう。それを貴方はこれまで何度も経験していると思われます。あなたが、恐れやネガティブな感情を持つとき――それこそ、まさに、エゴに支配されているしるしなのですが――1日の終わりにあなたは疲れ感じているはずです。

 エゴを養い続けるか、あるいは、それを止めるかを決めることが出来るのは、まさにあなただけなのです。ただし、それを止めることは、そんなに簡単ではありません。というのも、これまでの数多くの転生の過程で、私たちはエゴに力を譲り渡してきたからです。エゴは私たちを騙すための巧妙な手口をたくさん知っています。そして、本当のエゴが私たちの人生を決めているのに、私たち自身が人生を決めていると、私たちに錯覚させるのです。

エゴは、あなたの〈思い込み〉の総体

エゴについて話をするとき、私はすべての〈思い込み〉に言及します。つまり、エゴがあなたの人生に影響を与えためのすべての手段について語るのです。
 何百もの〈小さな声〉が、絶えず、あなたにささやきかけることに、たぶんあなたも気づいていることでしょう。あなたを不安にさせたり、自分や他人を疑わせたり、あなたに罪悪感をいだかせたり、行動に移すのを邪魔したりする、あの小さな声たちです。

 それらの声の一つひとつの思い込みに結びついています。それらの思い込みを正しいと思って、それらを維持すればするほど、あなたはますます、それらを重要だと思うようになるでしょう。要するに、エゴは、あなたが自分自身であることを妨げる、〈思い込み〉の総体であると言えるのです。

力をとり戻すことの難しさ

人生を管理する力をとり戻して、もうこれ以上、私たちをエゴに支配させないようにすることが、これほど難しいのはなぜでしょうか? その主要な理由は、人類が〈意識化〉の力を失っているということです。私たち人類は、心の中に生起していることの五パーセントから十パーセントくらいしか意識化できていません。つまり、私たちの何百もの〈思い込み〉が私たちを支配している時、私たちはそのことをほとんど意識化できていないということなのです。

 この本を読み終えるころには、あなたはたぶん、いろいろなことを素早く〈意識化〉できるようになっているでしょう。そのためには、自分の事しか考えないエゴ、つまり、〈卑小な私〉が、「私が、私が」、「私に、私に」、と言い続けていることを意識化しなければなりません。そう言い続けることが、エゴにとって唯一の存在証明なのです。エゴは、世界全体に対して、自分ひとりで立向かっていると考えています。
 つづく エゴは、自分が存在していると、絶えず思う必要があるのです