同世代の彼の前では「女として甘く見られたくない」と突っ張っていた気持ちが助教授の前ではあっけなく崩れ、「かわい女と思われたい」とハルカさんの中で“女性らしさ”が全開モードとなりました。ハッピー嬢煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。

「運命の恋」が「一人芝居」に

本表紙 香山リカ 著

ピンクバラ「運命の恋」が「一人芝居」に

それにしても、能力が高くて真面目なハルカさんがどうしてここまで不倫にハマってしまったのでしょう。
 彼女の場合、この「仕事ができて真面目」というところが逆に仇となったと考えられます。
 同じ世代の男性はハルカさんをライバルと見なし、悔しさのあまり「女のくせに」といったセクハラ発言で男性である自分の優位を示そうとする。
 ハルカさんの方もそうされると、よけいに「負けたくない」という思いが強くなります。

 でも助教授は彼女より知識も人生経験もはるかに豊富なのは明らかだったので、ハルカさんも素直に尊敬の念を向けることができました。
 また、彼の方もハルカさんの努力や能力を高く評価してくれた上で、「女性として魅力的だ」と言ったのです。
「こんな立派な人に認めてもらった」という嬉しさの中で「女としてもかわいいよ」と言われれば、それはセクハラには聞こえません。

 同世代の彼の前では「女として甘く見られたくない」と突っ張っていた気持ちが助教授の前ではあっけなく崩れ、「かわい女と思われたい」とハルカさんの中で“女性らしさ”が全開モードとなりました。

 ところが、助教授が望んでいたのは妻と同じようなふつうの“女性らしさ”ではなくて、あくまでも日常離れした恋愛のできる特殊な関係だったのです。
 そこで「この人のために料理やお洗濯もしたい。病気のときはお世話したい」とひな開いたハルカさんの“女性らしさ”は、宙ぶらりんなってしまった。

 ハルカさんのように勉強や仕事に燃えている女性にとって、自分の中の“女性らしさ”に目覚めさせてくれた男性は、第二の誕生を可能にしてくれた神のように見えます。

 そして、その神は自分よりもずってレベルの高い男性でなければならず、そうなるとだいたいその人は年上で妻子のいる不倫関係の恋人ということになってしまいます。

 男性のほうも、自分には家庭があり日常ができ上がっているからこそ、違った気分でまだ目覚めていない優秀な女性を人間としても女としても開花させられる余裕のようなものが持てるのです。

 そう言う意味で、「魅力や能力のある女性」「家庭のある年上男性」との不倫関係は、ある種の必然と言うこともできます。

 将来、そうやって自分の中に眠っていた“女性らしさ”に気づいた女性は、不倫の相手をあきらめて適当な独身男性と結婚するケースが多かったのです。

 私の友だちの美しい女性医師も、大学病院の教授と不倫の数年間を経たあとで、教授の勧めで彼の弟子にあたる若い医師と結婚しました。

 もちろんその青年医師は、自分の妻が師匠の恋人であったことなど全く知りません。「教授のおかげで、僕にとっては高嶺の花の女性を妻にできた!」と有頂天です。

 彼女も、人間的なスケールは教授に比べれば格段に落ちるものの、やさしくて誠実な夫に愛され、幸せそうな生活を送っています。
 一度、開花した“女性らしさ”を教授になら全面的に向けられた彼女ですが、夫に対してはその一部だけを使い、あとは一医師として仕事に打ち込んでいます。

「教授とのあのままどうかなっていたら、私は医者なんて止めちゃっていたかもしれない。今の夫だからこそ、あまり夢中にならずに医者の仕事も続けられるのよ」と彼女は私に教えてくれました。

 彼女の生き方が正しいかどうか、それは分かりません。夫は利用されているだけのような気もしますし。
 もし医者を止めることになっても、彼女は本当に教授と結ばれたかったのではないか、という気もします。
 とはいえ、これは不倫の恋愛のもっともソフトな着地の一つであることは間違いありません。

 ところが最近、不倫が行き詰ったときに、仕事やほかの男性との結婚にうまく着地できず、突っ走った挙句ハルカさんのように心のバランスを崩すケースも少なくありません。
 自分の中に眠っていた人間としての能力、女性としての魅力を刺激し、目覚めさせてくれた。そういう意味で、不倫の相手は“運命の人”です。
 しかし、その“運命”は人生や生活を丸ごと共にする、という“運命”ではなかった。
 だとしたら、一度いろいろな可能性が目覚めて肩の力が抜けた後は、現実生活のほうは自分と年齢やキャリアのつり合った適当な相手とともにしょう。
 こういうふうに気持ちを切り替えて、不倫を終わらすことはできない。
「これは運命の恋なんだから、結婚できないなんてありえない」と最初の衝撃と現実とのギャップを認めることができないのです。

 女性がいくら不倫の恋から抜け出されないとしても、何度も言うように恋愛物語にはもうひとりの主役がいるわけですから、相手が舞台を降りれば“独り芝居”になってしまいます。
 不倫をする女性側が恋をなかなか諦めない、というように変化しているのですが、男性側は同じようには変化しません。
 相変わらず、ほとんどのケースで「家庭はこわしたくない」というのが基本です。そうなると、“独り芝居”を演じる女性だけがどんどん多くなることになります。ハルカさんの場合もその典型と言えるでしょう。

ピンクバラ気持を切り替えられない

 どうして女性たちだけに変化が生じたのか。その理由のひとつは、「不倫は悪いこと」という大前提が消えた、という社会の価値観の変化にあると思います。

「不倫はいけない」「不倫はいつかやめなければならない」と日頃から思っていれば、うまくいかなくなったときに「ああ、その時が来たんだ」と自分で納得させることができます。

 ところが「不倫だって立派な恋愛なんだ」「この恋は不倫じゃなくて運命」と思っていれば、妻に比べて自分の立場が弱いことは間違っている、理不尽だとしか感じられないでしょう。
 そうなれば「不倫だからって止めなきゃならない理由はない」と、なかなか不倫を脱出できなくなります。

 この意識の変化は、本人だけでなくてその友だちや家族にも生じます。ハルカさんも調子を崩して精神科に通うになってから、すべての事情を両親に打ち明けました。

 すると両親は「不倫だなんて!」と娘を叱ることなく、「かわいそうに」「相手の男性がもう少し気を遣ってくれればいいのに」とひたすらハルカさんに同情し、「ゆっくり休みなさい」と慰めました。
 ハルカさんにとってありがたいことではあったのですが、親にも不倫が承認された形になったため、ますます気持ちを切り替えるきっかけを失ったことは確かです。

 もちろん「不倫はいけないことではない」という意識の変化は、男性側にも起きていることは確かです。
 しかし、男性の場合、その変化は「今の妻と離婚してでも、不倫を実らせよう」というところまでは至っていません。だから、気軽に不倫する人は増えても、不倫の恋から結婚に至るケースはそれほど増えていなのです。

 では、これからも女性だけが一方的に損をする、ということなのでしょうか。ただ、ここでひとつ注意しなければならない点があります。ハルカさんのケースを冷静に見てもらえれば分かるように、不倫の相手は本当は「運命の恋」の相手ではないかもしれない、ということです。

 先ほども説明したように、勉強や仕事に打ち込んできた女性ほど年上男性との不倫にハマりやすい傾向があることは事実です。
 しかし相手が「年上で人生経験豊かな男性」であることは必然であっても、その彼でなければダメということはありません。
 ハルカさんの場合も、おそらくツアーで出会ったのがその助教授でなくて作家だったとしても、恋は始まったのではないでしょうか。

 不倫の恋をするのは運命であったかもしれないが、相手が彼だったのは運命ではない。
 不倫にハマっている人たちはこの基本原則が見えなくなってしまい、「この彼と別れたらこれ以上の人に出会えることはない」と信じ込んでしまうのです。

 また、まわりの家族や友達が「とにかく理解しなければ」と思うあまり、「不倫は許されない事よ」とストップをかけられなくなっているのも、本人にとっては残酷なことです。

 だれかが「いくらあなたが好きでも、不倫だけはどうにもならないのよ」と現実を突きつければ、ハルカさんも「この恋で自分は変わることはできただけで、よしとしよう」とあきらめることもできたかもしれません。

 世間や周りの人たちの抑止力があまりにも弱まっていること、そして本人が「これは運命だ」という最初の思いを捨てきれずにいること、それが病に至る不倫が増えている原因でしょう。

「あの人のおかげでこれまでとは違う自分に気付けて、よかった」と納得しながらも、「でも、これ以上苦しんだり親に白い目で見られたりするのは不毛」とどこかで見切りをつける。これが“健全な不倫”――そういうものがもしあったとして、の話ですが――の楽しい方だと思います。
 つづく 暴力男に愛される満足感