肩の力を抜いて
お母さんが子どもに向かって、色々とおっしゃる言葉がありますが、中でも一番多いのは、
「早くしなさい」
という言葉でしょう。子どもを励まし、勇気づけるときにおっしゃるのは、
「頑張りなさい」
「頑張るのよ、いいわね、がんばって」
という言葉をお使いになると思います。
この間、ある小学校に伺ったとき、体育の指導をしておられるところを見せてもらいました。
跳び箱の指導をしておられました。跳び箱の高さは五段、四段、三段、二段、一段です。五段跳べる子もいれば、一段をやっと跳び超えている子どももいます。
そうすると、先生は五段跳べる子どもに向かって、
「えらいぞ」
と言われました。
こういう場合、「えらい」という言葉は使わない方がいいと思いました。
五段跳んだ子どもを「えらい」と言うと、一段や二段を跳んでいる子どもは「えらくない」ことになります。「私はあかん」「ぼくはだめだ」という意識を持つことになります。
誉めるのであれば、「えらい」じゃなくて、「よく跳んだね」と言えばいいと思います。五段跳べる子、三段跳べる子、一段を飛べる子という見方をすることが大事だと思うのです。先生は一段や二段を跳んでいる子どもに向かっては、
「がんばれ、がんばりが足らんぞ」
と、おっしゃるのです。
見ていると、二段や一段を跳んでいる子どもも、それなりに努力をしています。また、跳び箱などは、頑張りだけで飛べるものでしょうか。
体格の大小、股下の長さ、跳躍力などの問題もあります。
つまり、頑張るだけでは跳べない要素もあるのです。ですから、ただ「頑張れ」だけでは跳べないのです。
「頑張れ」
「頑張ってください」
「はい、頑張ります」
どうも日本人の好きな言葉のように思えてなりません。
そこで、きょうは、この「頑張って」ということについて考えてみたいと思います。
「頑張れ」だけでは力が出せない
あなたが、「頑張って」と言われたとき、体の状態はどうなりますか。
私は「頑張って」と言われたり、「よし、頑張るぞ」と自分に言い聞かせたりすると、体に力が入ります。
つまり緊張することになります。緊張して、体に力が入ったときは、どんな事をするときにも、充分実力が出ないように思うのです。
オリンピックのように、世界的な大きな競技会のとき、外国の選手たちは、自分の平生の記録よりも、ずっと上回った記録を出す選手が多いように思います。水泳にして、陸上競技にしても。平常五十秒をきって、新記録をつくるといった事がよくあります。
それに比べて、日本の選手は、その逆の場合が多いのです。平常の実力を上回るどころか、平常の力も出し切れない選手が多いように思うのです。
平常の記録からすれば、当然決勝に残って、しかも上位に入れるにもかかわらず、予選で落ちてしまうという選手があります。これは、緊張しすぎるところから来るのではないでしょうか。
オリンピックに行くとき
「頑張れ、頑張れ」
といって、送り出します。また競技が近づいてくると、周りにいる人が、
「頑張って」
と、声をかけます。
すると、本人もまた、大きな声で、
「頑張ります」
と、力を入れます。そして、緊張しすぎて、平常の実力を出すことが出来なくなるように思えてなりません。
「頑張れ」という言葉のために、体に力を入れすぎて、コチコチになってしまって、せっかくトレーニングして得た実力が出ないということになるのです。
柔道で世界選手権をずっととり続けた山下選手の試合で、いよいよ決勝に臨むというとき、自分で両方のほっぺたをパン、パンと叩いている姿を見ました。
また時には控えにいる友人に、自分のほっぺたをパチーンと叩いてもらっているのを見たことがあります。これなどは、緊張しきっている体の力をゆるめているものだとおもうのです。
「ようし、がんばるぞ」という緊張感を少し緩めて、脱力して事に臨むと、平常の実力、またそれ以上の力を発揮できるように思います。
「肩の力を抜く」のです。緊張すると、肩に力が入りすぎるのです。その力を抜かないと、思うように体が動かないのです。
あるプロ野球の選手で、味方のランナーがサードに来ていて、ここで一発打てば味方が勝つという場面に、打者としてバッターボックスに立ったとき、その打率がすごく良いという方に、私が話を聞いたことがあります。
「たいての選手は、平常よく打っていても、そういう大事な場面になると打てない人が多いのに、あなたが高打率を示しておられるのは、どういう秘訣があるのでしょうか、そういう場面に、あなたがバッターボックスに入られると、観ている人は、“また打ってくれる”“これで勝った”と思うのですが、あの緊張した場面で、あなたは固くならないんですか」
すると、その選手は、
「私だって、緊張します。どんなときでも緊張しない人間は、おおきな仕事は出来ないと思うんです。前のバッターがバッターボックスに入っているとき、ネクストバッターサークルで待っているときは、緊張して、体がコチコチになっています。
肩に力が入ってきます。いよいよ自分に打つ番が回ってきたとき、そのままの状態でバッターボックスに入ったら、絶対と言っていいほど打てません。
バッターボックスに向かって歩いている間に、コチコチになった体から肩の力をぐっと抜くのです。体が柔らかくします。そうすれば、ボールがよく見えます。体が思うように動くのです。ですから、緊張すること、「よし、やるぞ」という心構えは大事なことです。肩に力が入ったままですと、失敗してしまいます」
「緊張して、その場に立ったとき、肩の力を抜くことが出来るようになるには、どうすればいいでしょう」
「それは、トレーニングをするよりほかに方法はないでしょう。だから、平常からよく練習することです。練習して、力をつけて、これなら俺はやれるという自信を持つことだと思いますね」
と、話されました。
「頑張れ」というのは、練習中に言えばいいことであって、大事な場面に出て行く選手に向かって、「頑張れ」と言うと、かえって緊張してしまって、実力が出なくなってしまうのです。
練習中にはいくら頑張っても、充分ということはないんです。それによって、実力をつけて、自信が持てるのです。つまり、自信がつくまで頑張らせるのです。大事な試合に臨んだときは、
「さあ、頑張れよ、お前が打つかどうかで、味方が勝つか、負けるかだぞ。頑張れよ」なんて、選手に言うと、選手はますます緊張して、体がコチコチになり、肩に力が入って、どうにもならなくなります。
「まあ、お前の思うようにやってこいや」
といった調子の方が、選手は実力を出すのではないでしょうか。
気楽に、ゆったりと
子どもが試験を受けに行くとき、お母さんが、
「頑張ってよ。落ちたらだめよ。いいわね」
などと、悲壮な顔でおっしゃると、子どもはすごく緊張してしまって、実力も出なくなるのではないでしょうか。
「よう勉強したんやから、いける、いける。一生懸命やったらええんや」
と、お母さんがまず肩の力を抜いておっしゃれば、きっと子どもものびのびと実力で試験を受けられると思います。
私の友人の一人が、
「頑張らねばならないとき、私は心の中で唱える言葉があるんです」と言うのです。それで、私が、
「どんな言葉を唱えるの」
と、たずねますと、彼は、
「Take it easy(テイク・イット。イージー)と言うんですよ」
と答えました。
「(テイク・イット。イージー)って、どういうことか」
「日本語でいえば、“気楽にやろうよ”ということですね。そんなに肩に力を入れて、気張るんじゃなくて、ゆったりと、気楽にやろうというような事でしょう。この言葉を心の中で唱えると、気分がゆったりとするのです」
肩の力を抜いて、ガツガツしないで、ゆったりとした気分で事にあたる――このゆとりが、今に私たちに必要だと思います。
子どもに「頑張れって」というお母さんも肩に力を入れて緊張していませんか。親も子も「頑張り」すぎているように思います。
五年生の作文です。
《私のお母さんは、いつもニコニコ笑っています。のんびりしたところがあります。
友達が、
「あんたのお母さん、えびすさんみたいやなあ」
と言います。えびすさんみたい笑っているからでしょう。
私は、走るのが苦手です。体育の時間でも、運動会でも、かけっこはいつもビリの方です。
この間のマラソンも、ビリの方でした。家に帰って、
「マラソンやった」
と言いますと、
「そうか。一生懸命走ったか」
と言います。
「うん。でも、ビリやった」
と言いますと、
「ビリでもええ。一生懸命に走ったんやろ。それでええ。なあ、ビリの人がいるから、一等のひとも二等の人もいるんや」
と言って、笑っています。》
このお母さんはいいなと思います。子どもが「ビリや」と言ったとき、カッとして、
「いつもビリばっかりで。ちょっと頑張ったらどうや。運動会なんか格好わるくて、観に行くのいやや」
と言われたら、子どもはどんな思いになるでしょうか。
四年生の子どもの作文です。
《きょう、返してもらったテストは、いつもより、成績が落ちました。きょうは??られるなと思って帰りました。
家に帰って、お母さんにテストを渡しながら、
「こんどはあかんかった。前よりおちたわ」
と言いますと、お母さんはテストを見てから、私に、
「みんな、ようがんばったんやな」
と言いました。
「うん」
と、私が返事すると、
「次のときは、こんどのかわり、アキコが上の方にいかしてもろたらええんや」
と言っただけで、??りませんでした。
「そのかわり、平常から一生懸命勉強しとかなあかん」
と、言いました。
私はお母ちゃんの言うとおりやと思いました。》
このお母さんも、すばらしいお母さんだなと思います。
「あかんな。しっかり勉強せんからや」
と、頭から叱りつけるのでなく、なかなかゆとりがあって、
「みんな、よう頑張ったんやな」
と、友だちをほめておいて、そのあとで、
「こんどはあんたの番や、上にいかしてもらい」
と言って、平常の勉強の大切さにもふれておられるのは、いいお母さんです。
お母さん自身、肩の力を抜いた、ゆとりのある気持ちをもっておられると思いました。
ゴムひものように
日本人はどうしてか、緊張していることをいいことだと決めつけているようです。ですから、ゆるむこと、休むことに対して、よい感情をもっていません。緊張していることだけをよいと思い込むために、その反対のゆるむことや休むことをいけないことと決めつけてしまっています。
人間は緊張ばかり出来るものではありません。緊張することとゆるむことが一つのリズムを持って、交互にあることが大大事なのです。
ゴムひもを思い切り伸ばした状態(これが緊張です)にして長く続けますと、それを離した場合、縮まなくなってしまいます。
ゴムひもは伸びたり、縮んだりすることによって、より強く伸びるのです。
つまり縮むことによって、次に更に強く伸びるのです。緊張とゆるむ関係は全く同じで、人間が緊張しすぎたり、長く緊張を続けていると、次は疲れ切って、大きく成長することが出来なくなるのです。
ゆるむということは次の緊張の準備なのです。昔から諺(ことわざ)の中に、
「伸びんと欲するものはまず屈せよ」
というのがありますが、まさにこの事を言っているのです。
屈し方、つまりゆるみ方を知ることが大切なのです。
次への飛躍のために、どのようにゆるむかということを学ばねばならないと思います。
カレンダーを見ますと、日、月、火、水、木、金、土と並んでいるのですが、話し合いをしている時には、月、・・・・土という人が案外多いことに気がつきます。同じことのようですが、私は考え方が大きく違っていると思うのです。
月、……日と言われる人は、月曜から土曜まで働いて、さあ、日曜日に休もうという考え方ですが、日、・・・・・土と言われる人は、日曜日は月曜から土曜まで充分働くために、休養を取っておこうという考えで、まさに「伸びんと欲するものはまず屈せよ」に通じる心だと思います。
お母さんも、子どもたちにただ一途に、「頑張れ、頑張れ」と繰り返していても子どもは本当に伸びることは出来ないのです。
トレーニングは頑張ってやりますが、いざというときには、テイク・イット。イージー、気楽に、あわてずに、ゆっくりやりなさいと言えるだけの心にゆとりを持ってほしいのです。
まずお母さんがテイク・イット・イージーで、子どもを見つめてほしいと思います。
つづく
3「わせ」と「おくて」
煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。