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HEADLINE
デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
女と男のだましあ
い
女が望むものは他のどんな動物種より選択をも凌(しの)ぐと言っていいだろう。
生殖機能に関して、女性は一生通じて約400個という限られた数の卵子しか排卵することができない。一方男性は一度に数百万個の精子を放出するが、その精子は1時間あたり約120万個の割合で補充されていく。
女性はセックスするたびに、大きな労力を強いられる危険を冒さなくてはならない。
子供を妊娠し9カ月にわたる労力、出産し、その後1・2年にわたる授乳という多大な労力を費やしながら育て、保護するといった人間の配偶者の好みはきわめて複雑で、謎に満ちている。雌雄の能力は、子孫を残すための本能であって、軽率に使うことはできないし、もし相手を軽率に選んでしまったら、数年、あるいは数十年にわたって、自分の行為のツケを払い続けなくてはいけないからだ。
現代の避妊技術の進歩は、こうしたリスクを大きく変えてしまった。現在の先進国では、女性は妊娠を恐れることなく、その場かぎりの情事を楽しむことができる。
ピルを服用することで妊娠状態に子宮が擬態することで卵子を供給しないことで懐妊させない方法がもっともポピュラーである。最近少し流行りだしている子宮内装着(IUD)避妊方法もあるが、たまに子宮内損傷事故も発生している。いずれも薬剤を用いているために、薬害副作用および、または、懐妊、胎児奇形。あるいは、性感染症など危険との隣り合わせである。
一生添い遂げるために (2)
人間の配偶者行動は、思春期の内なる衝動の目覚めに始まり、生き残った配偶者に資源が最終的に遺贈されるまで一生を通じて変化していく。
男女どちらも、時間的な変化をもたらす課題を解決するための心理メカニズムを進化させてきた。そのメカニズムは、繁殖的な価値や所有する資源、地位、配偶の機会などの変化に反応してはたらく。変化は男性と女性とでは異なったかたちで生じ、その一部は不愉快なものである。
女性が繁殖年齢にいるのは男性よりも約2年早いが、繁殖能力の喪失は男性にくらべ20〜30年早く起こる。子供のいない女性が、繁殖可能な年数が残り少なくなり、いわば生物学的な時計の針音が徐々に高まっていくにつれ、焦燥感を覚えるようになるのは、ある特定の文化が押しつけた恣意的な思考習慣ではなく、繁殖という現実に即した心理メカニズムの反映なのだ。
女性の繁殖的価値の変化は、その女性自身の性戦略を左右するだけでなく、夫や配偶者候補といった、彼女をとりまく社会環境にいる男性たちの性戦略にも影響をおよぼす。女性が若いうちは、夫が厳しくガードし、うまく獲得できた価値ある繁殖資源を死守しようする。夫のガードの厳しさは、妻の浮気の可能性を封じると同時に、場合によっては夫の献身を示す指標とみなされる。
結婚当初には、夫婦の性生活は活発なのが普通で、妻に関心を示すライバルが存在することにより、さらに促進されると思われる。しかし、年を重ねるにつれ、女性の繁殖的価値の低下と軌を一にして性交の回数は減少していく。強い嫉妬の発露もしだいに見られなくなる。男性は徐々に不満を抱くようになり、妻に愛情を向けなくなっていく。
女性は夫が関心を示さなくなっていくのを不快に思い、ないがしろにされていると不平を言うようになり、同時に男性は、妻から時間と関心を振り向けろと要求されることに対し不満を募らせる。
女性が年をとるにつれ、男性はガードをゆるめるので、浮気をする女性の割合はしだいに高くなっていき、繁殖可能年齢の終わりにさしかかるころにピークに達する。
男性の場合、浮気の最大の動機はさまざまな相手とセックスしてみたいという欲求である。しかし女性は、より感情的な動機から浮気に走る。それはおそらく、まだ繁殖が可能なうちに別の配偶者を見つけようとする努力の表れなのだろう。女性は今の夫と別れるのが早ければ早いほど、配偶市場における自分の値打ちが高くなることを知っているようなのだ。
閉経後の女性は子供や孫の世話に労力を注ぎ、自分で直接子供を産むのではなく、子孫たちの生き残りと繁殖を助けるようになる。女性は、繁殖期間が短いことを、早期の迅速な繁殖という戦略で埋め合わせていのだ。
男性の一生における変化は、チンパンジーのオスの場合と同じく、配偶および繁殖の状況に応じてさまざまである。年ともに地位と名声を高めていく男性は、配偶市場においてずっと価値が高い。しかし、資源と名声を手に入れそこねた男性は、しだいに配偶市場からはじき出されてしまう。既婚男性の約半数は、一生のうち何度かの婚外セックスを経験するが、そうした情事は妻とのセックスを犠牲にして行われることになる。さらに、多くの男性は一生を通じて新しい配偶者を求め続けおり、年をとった妻と別れて若い女性と再婚したりする。
これまでの学者たちは、年をとった男性が若い女性を求めることはあさはか男性のエゴや精神的・性的な未成熟、「男性版の閉経」や若者文化といったもので説明しようとしてきた。しかしそれは、長い進化の歴史をもつ、普遍的な欲求にほかならない。
男女の一生を通じた配偶者の違いが生みだした顕著な副産物の一つは、男性が女性よりも早死にする傾向である。これは、配偶者獲得に必要な資源や地位を手に入れるために、男性が大きなリスクを背負ったり同性のライバルと競争したりすることから予測できる結果だ。そうやって男性が配偶市場から少しずつ姿を消していくと、しだいに女性に対する男性の割合が少なくなっていき、結果として女性の余剰が生じる。配偶市場に再び参入した女性たちにとっては、年を経るごとに婚姻の機会が縮小していくのである。そのため、男女双方が、こうした男女比の変化に応じて配偶戦略を変更していく心理メカニズムを進化させてきた。
このように、男性も女性も一生を通じて様々な変化を体験するが、にもかかわらず、現実に50%近くの男女が、幾多の試練を乗り越えて一緒に暮らし続けるという事実には注目すべきだろう。遺伝子を共有しているわけでもないふたりが、生涯を通じて利害を一致させつづけるということは、人類の配偶者行動の進化史においてもっとも驚嘆すべき偉業である。われわれ人類は、男女間に軋轢を生じさせる心理メカニズムを進化させてきた一方で、異性との協調を可能にするメカニズムをも進化させたのだ。たとえば、国際的な調査の結果、男性も女性も年をとるにつれて配偶者の容姿をあまり重要視しなくなり、かわりに頼りがいや思いやりといった永続的な資質に価値を見出すようになることがわかっている。このような資質は、幸福な結婚生活や子供への投資のために欠くべからずものだ。そして、この男女間の戦略的協議を可能にする心理メカニズムは、不和をもたらすメカニズムと全く同じく、人間の配偶行動の適応的な論理から生じてきたものなのである。
女と男のだましあい (3)
自分の個人的状況に応じた配偶者の選択を行い、繁殖という欲求を満たすことができる。このように繁殖行動という場においては、不可避的だったり、遺伝的に決定されていたりする行動は何ひとつ存在しない。乱婚、一夫一妻制、配偶者への暴力、性的な充足、嫉妬にかられて配偶種をガードしたり、反対に配偶者に関心を抱かなかったりすることは、どれも必然的なものではない。
男性は、さまざまな相手とのセックスを求める抑えがたい欲求のために、浮気に走るように宿命づけされているわけではなく、女性もまた、誠意を見せない男性をののしるよう決定されているわけではない。われわれは、臣下が押しつけた性的な役割に従うだけの奴隷ではないのだ。さまざまな配偶者戦略がそれぞれどんな条件下で有効に働くか知ることで、どの戦略を採用し、どれを使わずにおくかを選び取ることができる。
さまざまな性戦略がなぜ発達してきたか、その本来の機能は何であったのかを理解することは、行動を変化させるうえで有用な指針を提供してくれる。それは、ある生理的メカニズムの適応的機能の理解が、変化にたいする洞察をもたらすのに似ている。
パートナーを惹きつける (4)
配偶者に何を望むのかをはっはり認識していても、望んだものを獲得できるという保証はない。成功するためには、自分なら、相手が求めている利益を与えられるということを示してやらなければならない。
たとえば、祖先の女性たちが男性の地位の高さを望んだからこそ、男性は高い地位につき、それを誇示しようとする心理的動機を進化させてきた。男たちが未来の配偶者に若さと健康を望んだからこそ、女性たちは自分を若く、健康的に見せようとする心理的動機を進化させてきたのだ。必然的に、配偶者を惹きつけようとする競争は、異性が最も望んでいる資質においてライバルを圧倒するという側面を備えることになった。
この共進化の過程で、異性に押し付けられた適応上の課題を解決するための心理メカニズムが進化していった。腕のいい釣り師は、魚が進化させてきた食物の嗜好にもっと合った疑似餌(ルアー)を使う。同じように、配偶者獲得競争は、異性が進化させてきた欲求にもっとも適合した心理的な戦術を使うのである。
したがって、男性と女性がそれぞれ配偶者に求める資質は何であるかを知れば、配偶者を惹きつける方法をも理解することができる。
とはいえ、人間は社会的な真空状態のかで配偶者を得るのではない。望ましいパートナーを手に入れようとすれば、激しい社会的な軋轢(あつれき)が生じることになる。誘惑が成功するかどうかは、自分なら相手の潜在的な欲求を満たしてやれるというシグナルをうまく送るだけでなく、競争相手が送る誘惑のシグナルを妨害できるかどうかにかかっている。そのため人類は、言葉で競争相手を貶(おとし)めるという、動物界でも他に類を見ない干渉手段を進化させてきた。ライバルの評判を失墜させるための中傷・懺言(ざんげん)・誹謗(ひぼう)などはすべて、うまく配偶者を惹(ひ)きつけようとするプロセスの一環なのだ。
こうした中傷の戦略は、誘惑の戦略と同じく、資源や容貌(よぼう)など自分の価値ある資源に相手の目を向けさせる心理的メカニズムを利用することで機能している。ある男性が、思いを寄せている女性にむかって、恋敵の男性に野心が欠けていると言ったとしよう。その言葉が効果をもつには、女性が、資源を獲得する能力の低い男性を嫌うように方向づけられていなくてはならない。同じように、女性が男性に向かって、恋敵の女性は男出入りが激しいと中傷する場合には、男性の側に、セックスの相手をひとりに限定しない女性を排除する方向づけがなされている必要がある。
また、誘惑や中傷の戦略の成功は、そのとき目指す相手がカジュアル・セックスのパートナーを求めているのか、それとも結婚相手を求めているのかにもかかっている。たとえば、ある女性が、恋敵の女のことを、手当たり次第に男と寝ていると中傷したとする。男性が配偶者を求めている場合には、この戦略はきわめて効果的である。男性は未来の妻が性的に奔放であることを好まないからだ。だが、男性がその場限りのセックス相手を求めている場合には、この戦略は裏目に出てしまう。大部分の男性は、一時的にしか関係しない相手がどんな性生活を送っていようと気にしていないからだ。同じように、女性からさまに性的魅力をひけらかすのも、一時的な戦術としては有効でも、長い目で見ればマイナスにはたらく。誘惑がどれくらいの効果を発揮するかは、そのときの配偶行動の状況に左右される。男性も女性も、求める関係の長短に応じて、誘惑のテクニックを変えていくのである。
パートナーを惹きつける (5)
カジュアル・セックスをめぐる駆け引きのルールは、婚姻市場のルールとは根本的に異なる。長期的な配偶者関係を結ぶ場合には、男女どちらも求愛に長い時間をかけようとする。その過程で、相手がどんな資質をそなえているか、その資質がどれぐらい強力かを値踏みすることができるし、相手がどんなコストを背負っているかを見抜くこともできるからだ。
出会った当初は、相手の地位や資源を過大評価してしまっても、やがて真実が明らかになってくる。前にどんな配偶者がいたかもわかるし、前の配偶者との間に子供がいたかどうかも知ることができる。
一時的な情事の場合には、こうした品定めが行われないため、欺(あざむ)かれる可能性は飛躍的に大きくなる。相手が名声や地位、収入を偽ったとしても、それを見抜くことはできない。
過去に結婚したことがあるかどうかわからないままだ。悪い評判が耳に届くころには、もう遅すぎる。一時的な情事は、言ってみれば岩だらけの荒れ地のようなもので、一歩歩くごとに、策略や嘘が不注意な人間を待ち受けているのだ。さらに問題を深刻にしているのは、そういっただましが、相手がもっとも重要視している部分―たとえば、女性にとっては男性の地位や資産、献身度であり、男性にとっては女性の容貌や性的な貞淑(ていしゅく)さ―において行われるという点にある。
カジュアル・セックスをめぐる駆け引きには、男女双方が参加するが、その関与の仕方は同等ではない。カジュアル・セックスを求める男性の数は、同じ願望をもつ女性の数より多いという事実が、男性に、相手となる女性の不足という高いハードルを課すことになる。そのため、結婚を求める場合と違って、短期的な情事においては女性が主導権を握りやすい。カジュアル・セックスの願望を抱く女性ひとりにたいして、彼女と寝たがる男性は少なくとも1ダースはいる。対象となる男性が数多くいれば、女性は自分の好みに合った相手をよりどりみどりに選べるわけだ。しかし結婚相手を選ぶ際には、そんな贅沢な選択が許されるのは、最高の条件をそなえたひと握りの女性だけだろう。
とはいえ、永続的配偶者を求める場合も、一時的なセックス・パートナーを探す場合も、相手を惹きつけるためのディスプレィ行動が必要であることに変わりはない。ハタオリドリが自分の巣を、あるいはシリアゲムシが「婚姻ギフト」をディスプレィするのと同じように、人間の男女もまた、配偶市場における自分の長所を宣伝する。ただ、男性と女性とでは求めるものが違うために、何をディスプレィするかもおのずと異なったものになるのだ。
パートナーを惹きつける (6)
資源のディスプレィ
オスが資源を獲得し、それをディスプレィするという戦略は、動物界全般において進化してきた。たとえばミチバシリのオスは、ハッカネズミなど仔ネズミを捕まえると、叩きつけて殺すか、ショック状態に陥らせる。それからメスに食物としてもっていくのだが、そのまま差し出すわけではない。まず、ネズミをメスから遠ざけておき、そのあいだに鳴いたり尾羽を振ったりする。そしてうまく交尾を終えた場合にだけ、贈り物を手放してメスに与える。メスはその餌を、いまオスによって受精させられたばかりの卵の栄養源として使うのである。餌を差し出すことのできないオスは、メスに求愛したり、メスを惹きつけたりすることができない。
人間の男性もまた、配偶者を惹きつけるために、大きな労力を費やして自分の持つ資源を誇示する。われわれが行った調査によれば、人間の男女が配偶者を惹きつけるために用いている戦略はじつに数十種類におよぶことが明らかになった。
調査対象にしたのはカリフォルニア大学バークレー校、ハーヴァード大学、ミシガン大学の学生数百人で、自分や知人がどんな異性誘惑の戦略を取っているかを列挙してもらった。学生たちがあげた例の中には、自分の長所を売り込む、どれだけ重要な仕事をしているかを話す、相手の悩みを同情してみせる。視線でコンタクトを試みる、セクシーな服を着る、などあった。ここであげられた100種類以上の行動は、四人の研究者たちによって二八のかなり明確なカテゴリーに分類された。たとえば「肉体的能力を誇示する」というカテゴリーには、ウェイトトレーニングで身体を鍛える、スポーツでの活躍を自慢する、といった行動が含まれる。そして既婚のカップル一〇〇組と未婚の大学生二〇〇人に、それぞれの戦略が異性を惹きつける上でどれだけ効果的か、一時的な関係を求める場合と永続的な関係を求める場合とではどちらが効力を発揮するか、自分の親しい友人や配偶者は、どれくらいの頻度でその戦略を用いているか、などを評価させた。
男性の用いるテクニックのひとつとして、具体的な資源を示すことがある、高給を得る能力があることを誇示したり、女性に印象づけるために大金を見せつけたり、高級車を乗り回したり、自分がどれだけ仕事ができるかを宣伝したり、長所を売り込んだりするのだ。その一方で、男性がもってもいない資源を持っているように見せかけて、女性をだますという方法もある。たとえば、自分のキャリアを詐称し、職場での地位を大げさに言うのである。
同時に、男性はライバルの持つ資源をけなすことも忘れない。われわれにはこうした誹謗行動についても研究を行った。まず、男女を問わず、同性のライバルをおとしめて人気を失わせるにはどうすればいいかを、調査対象とした大学生達に答えさせたところ、八三種類の方法があげられた。
もつとも典型的な行動としては、ライバルに関する偽りのうわさを広める、ライバルの外見を笑いものにする、成績をけなす、性病にかかっていると言いふらす、などあった。われわれの研究チームは、そうした誹謗行動を、誘惑の戦略の場合と同じく二八のカテゴリーに分類した。たとえば「競争相手の知性をけなす」というカテゴリーには、ライバルがまぬけに見えるように仕向ける。あいつはバカだ、頭がからっぽだと言って回るなどが含まれる。そして最後に、既婚のカップル一〇〇組と未婚の大学三二一人を対象に、それぞれの戦略がどれだけ効果的か、一時的な関係を求める場合と永続的な関係を求める場合とではどちらが効力を発揮するか、自分の友人や配偶者は、どれくらいの頻度でその戦略を用いているかを評価させた。
男性は、他の男性の誘惑戦略に対抗するために、ライバルの資源獲得能力にけちをつける。典型的な例としては、女性に向かって、あの男は貧乏だ、金に困っている、向上心がない、安い車に乗っている、などと悪口をいうのである。一方女性は、あまりライバルの資源をけなそうとしない。たとえそうしても、その戦略は男性の場合ほど効果を示さない。
さまざまなタイプの資源のディスプレィが、どれだけ効果的にはたらくかは、それをどのような場合に行うかにかかっている。女性に大金をみせびらかしたり、贈り物をしたり、最初のデートで高級レストランにつれていくといった直接的な富裕さのディスプレィは、永続的な伴侶を得ようとするときよりも、一時的なセックス・パートナーを惹きつけようとする場合には効力を発揮する。バーの店内のような、資源の使いみちが限られている環境では、男性はまず酒をおごることでセックス・パートナー候補の女性の気を惹こうとする。ビールやワインよりも高価なカクテルをおごったり、ウェイレスにチップをはずんだりすれば、より効果的である。そうした行為は、ただ資源を所有しているというだけでなく、その資産を即座に提供する意思があるということを示しているからだ。
パートナーを惹きつける (7)
大学での成績のよさや野心的な夢を語って聞かせて、資源を獲得する将来的な可能性を女性にアピールすることは、一時的なセックス・パートナーよりも永続的な伴侶を得ようとする場合に効果がある。誹謗中傷の戦略も、同じように、使うタイミングが重要である。ライバルの男性が職場で無能だとか、野心がかけているとか言いふらすことは、婚姻市場においてはきわめて効果的な戦略だが、カジュアル・セックスの場合はそうでもない。こうした事実は、女性が一時的な情事と永続的な婚姻関係という二つの状況(コンテスト)で求められるもの― 前者では即座の資源の供与であり。後者では将来にわたる安定した資源の供給である―と完璧に符合している。
上等な服を着ることは、この二つの状況のどちらにおいても、同じように効果的にはたらく。女性に複数のスライドを見せて、魅力的だと思われる男性の選ばせる実験では、タンクトップやTシャツといつた安っぽい服装の男性よりも、スリーピースやスポーツジャケット、デザイナージーンズといった高価な服を着た男性のほうが人気が高いということがわかっている。この傾向は、女性に結婚相手としてふさわしい男性を選ばせ場合でも、カジュアルの相手を選ばせた場合でも変わらなかった。それはおそらく、高価な服を着ていることが、現在資源を持っていることと、将来資産を獲得する可能性の両方を示しているからであろう。
文化人類学者ジョン・マーシャル・タウンゼントとゲイリー・レヴィは、身に着けている服が上等で手入れのいいことが、女性を確実に惹きつける要素であり、それはたんにその男性とコーヒーを飲む場合から、結婚相手として選ぶ場合まで変わらないことを発見した。たとえば、同じ男性に二種類の服装をさせて写真を撮る。ひとつは、野球帽をかぶり、ポロシャツを着た上にファストフード店のユニフォームをはおった格好であり、もう一つは、白いドレスシャツに有名なブランドのネクタイを締め、ネイビー・ブレザーにロレックスの腕時計という格好だ。この二枚の写真見せたところ、女性は、前者の男性とは、デート、セックス、結婚のどれについてもいやがり、一方、後者の男性とは、デート、セックス、結婚のどれについても前向きだった。
女性を惹きつけるうえでの資源の重要性は、西欧文化だけに限られたものではない。ボリヴィア東部のシリオノ族では、狩りが下手で、狩りのうまい男たちに何人も妻を奪われた男性は、集団内での地位も落下していく。文化人学者A・R・ホルムバーグは、そうした男にショットガンを使って狩りをする方法を教えてやった。すると、その男は狩りの腕前が上がったおかげで「集団内でもつとも高い地位につき、何人ものセックス相手を獲得し、他の人々からばかにされるのではなく、逆に他人をばかにする側にまわった」
資源を与える効力は、現代のみに見られる現象でもない。オウィディウスは、いまから2000年前に、まったく同じ現象を正確に観察し、この戦略が、有史以来脈々と受け継がれてきたものであることを裏書きしてくれている。「娘たちは詩を嘆賞するが、高価な贈り物にはなびいてしまう。どんな無学な愚かな者でも、裕福でありさえすれば、娘たちの目を惹きつけることができる。いまこそ、まことの黄金時代だ。黄金で名誉を買い、黄金で愛を得ることができるのだから」。われわれはいまだに、オウィディウスの言う「黄金時代」に生きているのだ。
献身のディスプレィ(8)
「配偶者獲得行動の研究・・・・」
愛情や献身のディスプレィは、女性を強く惹きつける。それは、男性がその女性のために、時間やエネルギー、労力を長期間にわたって提供する意思があることを意味するものであるからだ。
献身的であることを示すのはなかなか難しく、偽ってそう見せかけようとするのはかなりの努力をようする。それは、ある程度の期間を通じて繰り返し送られるシグナルによって判断されるからである。ただカジュアル・セックスだけを求めている男性は、あまり多くの努力を注ぎ込もうとはしない。献身のディスプレィは、女性から見ればシグナルとして信頼がおけるものなので、女性を惹きつけるためのきわめて強力なテクニックとして機能する。
配偶者獲得行動の研究は、婚姻市場において、献身のディスプレィがもつ力を明確に物語っている。ある男性が結婚を口にすることは、相手の女性を社会生活と家庭生活の両方に受け入れ、彼女のために自分の資源を提供し、そして多くの場合は子供をつくる意思があることを示す。男性が、結婚するために自分の宗教を変えてもいいと申し出ることは、女性の必要に応じようとする意思の表れである。女性が抱えている問題に深い関心を示すことは、必要なときに感情的な支えと献身を提供してくれることを意味するだろう。調査対象とした新婚の女性100人は、みな例外なく、夫が恋愛期間中にそうしたシグナルを示してくれたと答えている。 これは、そうしたシグナルがいかに効果的にはたらくかを立証している。
献身を強くあらわすシグナルのひとつは、求愛期間中の男性の「熱意」である。これは、なるべく多くの時間を相手の女性と過ごすというかたちで表現される。他のどんな女性よりも頻繁(ひんぱん)に彼女と会い、なるべく長い時間をかけてデートし、ことあるごとに電話をかけ、手紙をかく。この戦術は、永続的な配偶者を獲得する場合にはきわめて有効であり、平均すると7点満点で5.48点という高い効果を示している。
それに対し、カジュアル・セックスのパートナーを誘惑する場合には、4.54点というごくふつうの効果を及ぼすにすぎない。
さらに、恋愛における熱意は、女性よりも男性にとって有利にはたらく。それは、男性がたんなるカジュアル・セックス以上のものに関心を抱いていることを示すからだである。
恋愛における強い熱意の効果は、ある新婚の女性が語った次のようなエピソードにあらわれている。「最初、私はジョンに何の関心も抱いていなかったわ。なんだか退屈そうな人に思えたから、誘われても断り続けたの。でも、彼は何度も電話をくれたり、職場に訪ねてきたり、私と会えそうな機会をつくろうとしたのね。それで、とうとうデートしてあげたわけ。そうすれば、ジョンもあまりつきまとわなくなると思ったんだけど、一回のデートが二回、三回になって、6カ月後には私たち、結婚したの」
献身を示すもうひとつの要素である「優しさ」のディスプレィも、効果的な誘惑のテクニックとしてあげられる。女性の抱えている問題を理解し、彼女が求めていることに敏感で、同情的に振るまい、救いの手を差し伸べるような男性は、長期的な配偶者にふさわしい存在として女性の心をつかむことができる。優しさが効果を発揮するのは、それが、男性が女性のことを気にかけ、必要なときはかならずそばにいて、資源を提供してくれることを暗示するものだからだ。優しさは、たんなるカジュアル・セックスへの興味でなく、長期にわたるロマンティックな愛情の証なのである。
とはいえ、一部の男性は、カジュアル・セックスのパートナーを誘惑するのにも、この戦術を用いている。心理学者ウィリアム・トゥークとロリ・ケィミアは、大学生の集団を対象に、搾取的・詐欺的な誘惑の戦術について調査した。まず、前述した誘惑戦略の調査と同じような方法で、学生が異常性を惹きつけるために用いている「騙しの戦術」を八八通りリストアップした。その中には、自分の将来のキャリアを過大評価させる、異性が近くを歩いているときには腹をへこませて体形をごまかす、異性の前では実際よりも誠実で思慮深げにふるまう、内心ではセックスを欲していても、それを表面にださないようにする、などが含まれる。
次に、大学生二五二人にそのリストを見せ、それぞれの戦術を自分たちはどれくらいの頻度で用いているか、また他の男女が用いていた場合にどの程度効果的だと思うかを答えてもらった。その結果、男性は、女性の気を惹こうとしたとき、ふだんよりも優しくふるまい、思慮深げに見せかけ、また傷つきやすいふりをしがちであることがわかった。
シングルズ・バーを対象にした調査でも、似た結果がでている。この調査は、四人の研究者がミシガン州ウォッシュテノー郡にある複数のシングルズ・バーで行ったもので、彼はそこで約一〇〇時間を過ごし、客がどんな誘惑の戦略を用いているかをひとつひとつ記録した。その結果、ストローを使ってセクシーに飲み物をすする、目を付けた相手に飲み物をおごる、豊かな胸を誇示する、相手の身体をじっと見つめるなど、一〇九種の誘惑戦術が確認された。次に、別の大学生一〇〇人を対象に、もし異性がそうした戦略を使って誘惑してきたら、どの程度効果的かを評価させた。女性は、自分たちを惹きつけるもっとも効果的な戦略は、上品にふるまう、助力を申し出る、同情を示す、親切にするなどだと答えた。すなわち、女性が夫に求めるように優しさや真摯な関心を装うことは、女性を一時的な情事に引き入れるうえでも有効な戦略なのである。
優しさを誇示するもうひとつの戦術として、子供への愛情をディスプレィすることがあげられる。ある調査で、女性たちに、同じひとりの男性が三つの異なるシチュエーションで写っているスライド― 一枚目は男性がひとりだけいるところ、二枚目は男性が赤ん坊をあやしているところ、三枚目は赤ん坊に関心を示さずにいるところ― を見せると、女性は赤ん坊をあやしている男性をもっとも魅力的だと評価し、反対に赤ん坊に無関心な男性を最低と見なした。
次に、男性にも同じ実験を試みたところ、今度は三枚のスライドの女性はみんな同じくらい魅力的と評価された。子供への愛情を見せる戦術は、主として男性が用いた場合のみ有効になるようだ。それは、子供に献身的に尽くし、世話をする資質を暗示するものだからである。
男性はまた、誠意と貞節を見せつけることでも、長期にわたる献身を暗示することができる。逆に、多くの女性と関係を持っていることは、その男性が短期的なカジュアル・セックス戦略を採用していることを意味している。短期的な性戦略を取る男性は、ひとりの女性とより長い関係を築く男性に比べ、自分の資源を数多くの女性たちに分散させて費やすのが普通だ。男性が女性を誘惑するのに用いる一三〇通り方法のうち、誠実さを示すことは、女性の抱えている問題に理解を示すことに次いで、二番目に効果的なやりかたと評価されている。
誠実さ献身を意味する以上、男性がライバルを蹴落とそうとするとき、そのライバルがセックス目当てだという疑念を女性に吹きこむことが有効な戦術となる。たとえば、女性に対し、ライバルの男はただあとくされのない情事をもとめているだけだと告げたとしよう。この行為は、短期的よりはむしろ長期的な関係の場合に、ライバルの魅力を減じさせるうえで効果的にはたらく。同じように、ライバルが女癖が悪く、ひとりの女に忠実なタイプでないと吹き込むことも、長期的な場合にライバルの魅力を色褪せさせる有効な戦略となり得る。
愛情をディスプレィすることも献身を示すサインのひとつである。男性は、女性に何か特別なことをしてやったり、愛情表現をしたり、「愛している」とささやいたりすることで、その女性を惹きつけることができる。こうした戦略は、永続的な結婚相手をえるためのあらゆる戦略の中でも、上位一〇%に入る高い評価を男からも女からも受けている。愛情の表現は、長期にわたる献身を示す重要な鍵なのだ。
パートナーを惹きつける (9)
一九九一年、テレビで活躍するコメディ女優ロザンナ・バーは、夫の俳優トム・アーノルドとある取り引きをした。ロザンナはトムに、愛情の証しとしてユダヤ教に改宗することを望み、トムはトムで自分の姓であるアーノルドを名乗ることを妻に求めた。たがいの意思を確かめ合った後、トムは改宗し、ロザンナは改名した。こうした愛の行為は、自己犠牲を伴うと同時に、お互いのへの献身をある意味で公的に示すことで、一時的な関係でない永続的な結びつきを保証する役割を果たす。
このように献身を示すことは永続的な配偶者を獲得するうえできわめて有効的なため、献身的なふりをして女性をうまく惹きつけ、誘惑することも可能になる。その場かぎりの関係を求める男性は、女性が永続的な配偶者に求める資質をうまく真似ることで、ライバルを出し抜こうとする。この戦術は、女性が未来の夫候補を値踏みする手段としてカジュアル・セックスを利用している場合には、よりいっそう効果的になる。女性は、少なくとも短い目で見れば、永続的な配偶者として理想的にみえる男性を受け入れやすいからである。
男性が、自分の本当の意図を女性に悟られまいとするとき、さまざまな騙しの戦術を用いることもわかっている。男性は女性に比べ、たとえほんとうはその気がない場合でも、永続的な関係をきずく意思があるようにみせかけることがきわめて多い。また、実際には女性を保護する気などなくても、そういうふりをしがちだ。長期にわたる配偶者を求めるふりは、女性よりも男性にとって役立つ戦術であり、そのことは男女双方が認めている。男性は、献身的に見せかけることがカジュアル・セックスへの早道であることに気づいており、そうやって女性をうまくだまそうとする。
生物学者リン・マーギュリスによれば、「知覚能力をそなえた動物は、例外なくだますことができる」。また、同じ生物学者のロバート・トリヴァーズは、だましのテクニックを説明するなかで、次のように述べている。「だましは、真実を真似ることによって成立する。それはいわば、正しい情報を伝えるために存在するシステムへの寄生なのである」。メスが自分に投資してくれそうなオスを求めている以上、つねにオスは、投資するふりをして相手を欺こうとする。ある種の昆虫のオスは、メスにいつたん餌を差し出すが、交尾が終わるとそれを奪い返してしまう。そして、その同じ餌を、次のメスへの求愛に使うのだ。こうした戦略は、メスの側に、欺瞞や不誠実を見抜き、たくらみを察知する必要をもたらした。人間の場合、その解決策として、誠実さをなによりも重視する傾向が生じたのである。
実際、誠実さのディスプレィは、男性が永続的な配偶者を獲得するうえできわめて有効な戦略だ。それによって、女性に対し、単なるその場限りのセックスのパートナーを求めているのではないことを納得させられるからだ。
女性を惹きつけるための一三〇種類の戦略のうち、トップクラスの効力を誇る三つの戦略― 女性にたいして誠実にふるまう、自分の感情をありのままに伝える。自分を飾らずに見せる――は、みな誠実さと隠しごとのなさをアピールするものである。これらは、男性が用いる誘惑戦略のうち、その有効性において上位一〇%に入るものと評価されているのだ。
男性が、短期的と長期的の両方の性戦略を採用していることは、進化の歴史を通じて女性に適応上の課題を投げかけてきた。そのため、男性の本性と真意を女性に明示するような戦術が、きわめて大きな効力を発揮するようになった。逆に、不誠実を示すシグナルは、本性と真意を覆い隠し、正しい評価を下すのをさまたげるため、女性を惹きつける際にはマイナスに作用することになった。
資源がすでに他の相手に投資されているというシグナルは、その男性の魅力を大きく減じている。シグナルズ・バーに通う男たちのうち、かなりの人数が既婚者もしくは特定の女性と交際しており、なかには妻だけではなく子供までいて、もてる資源の大部分を子供の養育に注ぎ込んでいる場合さえある。そうした男性たちは、バーに入る前に結婚指輪を外すのがふつうだ。あるシングルズ・バーで、調査にあたった研究者たちが粘り強く訊ねた結果、「一二人が、実は妻帯者であることを認めた…・さらに私たちは、他の複数の客も既婚者ではないかと推測した」。永続的な配偶者を求めている女性をカジュアル・セックスに誘うとする場合、男性がすでに結婚していることは戦略的に大きな不利をもたらす。
男性が既婚者であることがわかると、女性を誘惑する際に大きな障害となることは、大学生を対象とした調査からもはっきりと読み取れる。男性がライバルを蹴落とそうとするときに用いる八三種類の戦略のうち、「あいつにはもうつきあっている女がいる」と告げ口することは、とびぬけて効果的なのだ。
デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之=