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セルフ・マネジメントの心理学

本表紙ダン・カイリ―女と男の人生相談 近藤 裕訳

ピンクバラセルフ・マネジメントの心理学

ところで、十年前にはジュリーに対するセラピスイは、これまで記したものとはだいぶ異なったアプローチを用いたと思います。夫との問題は、さまざまな試行錯誤のあげくに、何とか解決することが可能だから、それを信じて努力を続けるようなガイダンスを与えと思います。

もちろん、そのようなアプローチが功を奏することが多かったのですが、それが最善のアプローチとはいえません。
それに、それはかなりの時間がんがかかるやり方です。

現在は、今までと違って、すぐに行動に移せるような処方箋を与えることも躊躇(ちゅうちょ)しません。
というのは、私自身、セラピストがセラピスイのセッションで主にリードしていくといった伝統的なサイコセラピイ(心理療法)すら、セラピストが教師としての役割を果たす新しいサイコセラピイの方式に転向したからです。

〈愛情による対決〉

この新しいアプローチはセフル・マネジメントの心理学的手法を用います。
〈教師〉としての役割を演ずるセラピストが、〈生徒〉としての患者に問題解決の手法を教えるのです。
つまり、こうすることによって、患者自身が自分に対して最善の教師になれるように指導していくというわけです。

さて、話をジュリーとのセッションに戻しましょう。
先に述べたような〈愛情による対決〉の手法に触れた時に、ジュリーは、具体的にどうすればよいのかを知りたいと言いました。
そこで、私は次のように答えたのです。

「多くのご婦人方は“夫は自分の気持ちを語ろうとしない”と言われます。“夫の心が穏やかでないことは分かっているが、夫はそのことについて語ろうとしない”と言うのです。

 ですからそういうご婦人方は、“自分が信じられない”といった気持ちを抱いたり、また、拒絶されたような気持になるわけです。そこで、私は、そういう夫に、気持ちとか、感情というものは、〈心の反応〉であると理解できるように教える方法を、そういう妻たちに示します。
つまり、〈感情〉は〈心の中に起こった刺激〉であることを、夫たちが抵抗なく受け容けられるように助けるわけです」

こう言いますと、ジュリーは顔をややしかめながら、聞き返しました。
「でも、先生、妻は、(小さな子供)である夫を脅かすようなことはできないんじゃありません?」
「無情だとおっしゃるのは分かります。でも、〈愛情による対決〉の、効果的なやり方を示しますから、その点は心配いりませんよ。

〈分類のし直し〉

 たとえば、あなたの夫は無神経で、全然、変わろうとしないと言いましたね。
 そして、あなたの気持ちに対する配慮が足りないって。
 そこで、〈分類のし直し〉という作業をやってみることをすすめたいのです。
 つまり、夫は〈表現の方法を知らない〉から、自分の感情を表に現わさないし、また、あなたの問題に無関心を装うっているのだというふうに考えてみるわけです」

「でも、そんなふうに考えたら、何だか夫に対して、かわいそうな気分になってしまうような気がしてしまいますけど」
「いや、私は、この方法は、そんな気持ちにはさせないと思います。むしろ、あなたがたお二人が問題に取り組みやすくすると思いますよ。
 つまり、〈分類のし直し〉は、行き詰ったと思える問題を解決するために別の見方を加えるという作業なんです」
「では、別の見方をすれば、どういう結果になるんですか?」

「まず、あなたが教師の役割を果たすんです。世の中の夫たちは認めないかもしれませんが、男は女性の助けが必要なんですよ。
もちろん、助けが必要なのであって、憐憫(れんび)でもなければ、甘やかしでもありませんよ。
 非常に無神経な世界に生活している男たちが、感性が豊かで、長けている女性の助けが必要なんですよ。

 だいたい、このごろの男たちは問題ですよ。
 表面では有能な人間に見せかけていますが、その実は生活上の問題に圧倒されているんですから、問題に対応できる力を持っていないですよ。

 例えば、妻はほんとうは愛したいんだけれど、その愛し方を知らないんです。
 稼ぎ、保護するという役割を果たせるんだけれども、それじゃ、妻たちはもうまんぞくできなくなったんじゃないんですか。
 夫が妻たちの帰属感を満たし、自尊心を高めることができるような精神的なコンパニオンとなって欲しいと願っているんですよ。
 もちろん、妻たちも、この頃は多くの問題を抱えていますね。
 でも、夫たちに比べたら、ずっとましですよ。というのは、妻たちは、自分の心配や悩みごとを女友だちに打ち明けたり、相談したりするけれど、夫たちはそれをしないんです。
 伝統的な(男性像)にとらわれて、そこから脱皮する方法を知らないんですよ」

 ジュリーの手を握り、彼女の眼をじっと見ながら、私はこう結びました。
「私を含めて、男たちは女性の助けが必要なんですよ。援助の手を差し伸べてください。それでも、目が冷めなかったら、その時は、あきらめても遅くはないと思いますよ。

 でも、“心を見ようとしない”って責める前に、明かりをつけてください。そしたら、真実な姿が見えるようになるかもしれませんよ」

教え方を学ぶ

 保険業界の統計調査によると、愛に満ちた親しい関係は男性の寿命を九年延ばせるということです
 というのは、そのような関係において、男性は自分の心情を理解し、また、それを表現する助けを得ることができるからです。
 さらに、心の悩みを生み出す原因となる問題自体の解決を可能にするからなのです。

 つまり、夫の寿命をあなたも延ばすことができるというわけです。
 それは、夫と共に過ごすあなたの年月を伸ばすこともできるのです。
 そのためには、まず、あなた自身がよき教師にならなければならないのです。
実はそのためにこの本は書かれたのです。
 
 ところで、夫に対する教師になるためには二つの目標を定め、達成する必要があります。
 その第一は、有能な教師になるためのそれなりの準備をするということです。このことについては本書の第一部で詳しく述べましょう。

 第二は、夫との愛情による対決です。そして、夫があなたから学べるような精神的環境をつくるということ。これについては第二部で詳しく述べます。

 この二つの目標を達成しますと、〈生徒〉の方が、ある領域では〈教師〉より優れるようになるという結果が生ずることも予想すべきでしょう。
 そうなったら、そうなったで、今度は、教師は生徒から学ぶことも必要になるのです。

 このような目標を達成する過程において、教師が教えるレッスンの学習を拒否する権利が生徒にあることも銘記しておくべきです。
 ということは、たとえ、あなた自身が有能な教師になり得ても、生徒が学ぶか学ばないかについては、最終的には生徒自身の問題であって、あなたには責任がないわけです。

 さて、話はジュリーの事に戻りましょう。二回目のセラピイのセッションの終わりごろに、ジュリーは私にこう言いました。
「先生は多分、アンディについて正しく理解されていないように思うんですが。
 彼は優しい人間になれるんです。ですから、このまま、彼との関係をつづけたいんです。
問題が起こった時に、別なやり方で問題に対処さえすればいいんだと思います。

今やっているやり方ですと、問題を解決するどころか、悪くするばっかりです。
そして、私自身、惨めになるだけなんです。アンディとの結婚生活を何とかうまくやっていきたいんです。
そのためにどんなことでもします」

「なんでもすることによって、結果的にこの結果はもうどうにもならないという認識に達することがあってもいいんですか?」
「自分の最善を尽くすまでは、諦めるということはしませんわ。先生! 最善を尽くした後に、それでもうまくいかないでしたら、諦めるしか仕方ないでしょう。でも、今は、私は、自分の最善を尽くしているとはおもえないんです」
この言葉を背景に、私ジュリーに並々ならぬ決意を感じ取ったのです。
「そうですか。それなら大丈夫です」
 つづく 夫の短気をどうするか?