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伊藤明著「プライドの男・シンパシーの女」

本表紙

ピンクパラ女にいらだつ男・男にあきれる女 
「プライドの男・シンパシーの女」

大学時代から付き合っている会社員のカップル。交際を始めて2年になるが、そのうち1年は学生としてあり余る時間と自由を満喫した。ところが就職して社会人となってからは、研修やら何やらで、とても忙しい日々。
 学生時代のように気ままなデートを楽しむ時間的余裕がなくなってしまった。
 彼女の携帯電話にかけて
♂ごめん、今日、ちょっとダメそうなんだよ
♀えー、またぁ〜?
♂うん、どうしても今日中にやらなきゃいけない仕事が終わらなくて…・
♀今日はデートって、1週間前から決めてたんじゃん! どうしてちゃんとやっとかないの?
♂(ムカッ!)…・だってしょうがないだろう、いろいろ大変なんだよ
♀わかるわよ、それぐらい、ワタシもOLなんだから
♂わかるなら、なんでそんな言い方するんだよ
♀約束したんだから、時間どおりに終わらせばいいのよ。ダンドリが悪いんじゃないの? 
♂なんだよ! その言い方は!
♀何よ・・・・・。そんなに怒ることないじゃん…・
♂オレの仕事のことなんかなんにもわかっていないくせしに! もういいよ!
 「男の言い分」
 オレだってデートの約束守れるように一生懸命しているのに、何でその努力をわかってくれないのかな。
 所詮、女に仕事のことを理解しろっていうのが無理なのかもな。それだけじゃない。
 あいつ、オレのダンドリが悪いとまで言いやがって、約束を破ったのは悪いと思うけど、言っていいことと悪いことがあるんだぞ!
 「女の言い分」
 彼って、いっつも「仕事だから」って言い訳ばっかりしているの。彼ってちょっとのんびり屋な性格だからなぁ…・仕事なんてテキパキ終わらせて、パッと遊びに行ったほうがいいのに。
 そりゃ仕事が大変なのは私もよくわかるけど、せっかくのデートが台無しになるのは寂しいものでしょう? 早く仕事を片付けてくれたら、それだけで一緒にいられるのに。私は彼と一緒にいたいだけ。
 それがわからないのかしら。それになんで?あんなに急に怒ったりして。なんだか私の方がわるいみたいじゃない!

男性心理の翻訳ポイント

「なぜ彼は激怒したのか?」
  会えない日が多ければ多いほど、デートの約束を破るのはつらいものである。会える日を楽しみにしていた女性のがっかりした気持ちもわかるし、彼女の期待を裏切った男性の心苦しい心境もお分かり頂けるだろう。

 この男性の場合、仕事が片付かないために、どうしてもデートの約束をキャンセルするしかなかった。そのときは彼女に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだったはずだ。

 しかし、基本的に平謝りの姿勢でデートのキャンセルを申し出た会話は、最終的には“男性の激怒”という思わぬ結果で終わることになった。
実は、彼の怒りに火をつけたのは、彼女のこんなセリフだったのである。

「約束したんだから、時間通りに終わらせればいいのよ。ダンドリが悪いんじゃない?」
 彼女が怒っているのは言うまでもない。
なぜなら、約束を守るために万難を排し、仕事を早く片付けることは、彼女にとっては当たり前のことだったからだ。
そんなことが、どうしてできないのか。彼女は彼にそう言いたかった。

もしかしたら、デートの事など忘れ、前もって仕事を進めておかなかったのではないか。
 あるいはデートに対するいい意味での緊張感や期待感が薄いのではないか、という疑念があったかもしれない。

 しかし、彼女の深層にあったのは、何より「あなたに会いたい」
という切ない思いだったのである。彼女が起こる理由にも、多少
は共感していただけるだろう。
 だが、彼の方はまったく正反対のメッセージを受けとってしま
ったのだ。「どうしてもあなたに会いたい」ではなく、「ダンドリが悪いんじゃない?」のひと言から、
「あなたって、仕事のデキナイダメ男ね」
「あなたって、デートの約束すら守れない無能な男ね」
とのメッセージを受け取ってしまったのである。こうして彼はいたくプライドを傷つけられた。

 彼女の側としては、まったくそんなつもりはなかったのに、たった一言が彼のプライドをずたずたに引き裂いてしまったのである。
 男はプライドにたいしてあまりにも敏感だ。相手のちょっとした一言をすぐに自分のプライドと結び付けて…・「すごい」オレ? 
 それとも「ダメな」オレ?…・と解釈しようとする。自分のプライドを満足させられるような一言をもらえれば過剰に喜ぶし、プライドを傷づけられるような一言を言われれば極端に落ち込むか、極端に攻撃的な態度に出る。

 「男のプライド」とは、

女性にはまったく理解しがたく、そしてときには男性自身にとっても非常にやっかいなシロモノなのである。

 女性の側に立った場合、予測せず相手の男性が過剰に怒ったり、落ち込んだりしたときは、あなたが知らず知らずのうちに相手のプライドを傷つけてしまった可能性が非常に高い。
女性にしてみれば、「なんでそんなつまらないことでプライドを気にするの? 
 なんでそんなことでプライドがきずついちゃうの?」などと不思議におもうだろうが、男のプライドは非常に繊細で、ほんのちょつとしたとことでプライドがアップ/ダウンしてしまうものだと覚えておいてほしい。

 「なぜそれほど男はプライドが過敏なのか?」

 では、どうしてこのように男性はプライドや対面、メンツを異常なほどに気にしるのだろうか。それは男として生まれ、男として育てられたという一種の宿命だといえる。
 男の子は物心つくようになると、

「人よりも上に立ちなさい」
「人よりも優れた人間になりなさい」
「人に負けないようにしなさい」

といった他者との協調性を基本としたメッセージを受け取る女の子とは、非常に対照的なのである。
 たとえば、男性読者ならケンカして泣いて帰ってきたとき、

「負けてなく泣くやつがあるか!」「仕返ししてこい」「勝つまで帰ってくるな」
などと父親からどやしつけられた経験を持つ読者も少なくないだろう。

 男の子は強くあらねばならない、

いつも勝たねばならないと、父は息子に教えたがるものだ。
 つまり、男として生まれた以上、他人から認めてもらえるか、他人に受け入れてもらえるか、他人に高く評価してもらえるか、他人に愛してもらえるかどうかは、すべて「自分は人より優れているか否かにかかっている」
と教育されるのである。「負け犬」は男の世界では最も恥ずべき生き物である。

 このようにして、大人なっても男性は他人より下位になることを“強迫的に”恐れるようになる。
 人より下になったら、この世界から弾き飛ばされてしまう、手に入れたいものはまつたく手に入らない、生きている価値もない…・そのような恐怖感を心の底で強く抱えるようになる。

 その代り、自分が人より上だと思えば、過剰なまでの自身や安心感や満足感を得ることができる。
だから、ちょっとでも人より下だと思えたり、人から批判的・否定的なメッセージを受け取ってしまうと、プライドが傷つき、過剰なまでに落ち込んだり、自信を喪失したり、悲しんだりする。

また、その裏返し的行動として、プライドを傷つけた相手に対して怒りをあらわにしたり、憎んだり、徹底的に攻撃したりする。

 「自分は優秀か否か」

そこに自分の存在価値すべてがかかっていると思い込んでいる・思い込まされているからこそ、男性はこれほどまでにプライドというものに敏感なのである。
 つづく 「男同士の会話は『勝負』である」