閉経による卵巣からのホルモン分泌が減少することで性交痛を引き起こし、セックスレスになる人も多く性生活が崩壊する場合があったり、或いは更年期障害・不定愁訴によるうつ状態の人もいる。これらの症状を和らげ改善する方法を真剣に考えてみたい

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第四章 若い恋人の悩み

本表紙 快楽(けらく)工藤美代子著

十二歳年上の恋人の自殺未遂騒動

 あれは、新潟で大地震のあった直後のことだった。夜のかなり遅い時間に、自宅の電話が鳴った。

 新潟は私の父の故郷なので、親戚や知人がいる。何があったと胸騒ぎがしなから受話器を照ると、「いや、すみません、こんな時間に、実はユキが自殺しようとして」といって、谷田さんが電話口のむ向こうで、言葉を詰まらせている。

 谷田さんとは、もう十五年くらいのつき合いだろうか。正確にいうと彼の父親と、あるきっかけで知り合い、それが家族ぐるみの交際は発展した。だから、以前は谷田さんのお父さんと話すことが多かった。

しかし、そのお父さん定年退職してからは、もっぱら息子さんのほうと行き来をしている。それというのも、彼が歯医者で、私のみならず一家でお世話になっているという背景がある。

さて、その谷田さんは、現在三十七歳で、独身だ。
 彼にユキさんという十二歳年上の恋人ができたのは、今から五年ほど前だった。正直言って、そのときは驚いた。谷田さんは、ただでさえ年齢より若く見える。いわゆる童顔だ。それに比べてユキさんは、美人だが、やや剣のある顔立ちで、うっかりすると彼の母さんくらいの年齢に見えてしまうほどだ。

それでも二人の気が合って幸せならいいと私は思っていた。矢田さんは離婚歴があり、ひとり息子は別れた夫が引き取って入るとの話だった。その息子も、もう大学を卒業すると聞いていた。

 谷田さんからの夜更けの電話で、まず知りたかったのは、ユキさんの状態だった。彼女は今どこにいるのか? 病院に運ばれたのか、それとも、亡くなってしまっのか?
「いや、多分、大丈夫だと思います。死んではいません。それは確かです」

 谷田さんの口調はどこか歯切れが悪くかった。そして、とにかく時間を作って、明日会ってくれないかという。私は初め勘違いして、谷田さんは、私にユキさんに会いに行ってほしいのかと思ったら、そうではなくて、自分と会ってくれというのである。

「ちょっと工藤さんに、女の人の気持ちを教えてもらいたいんです。ボクには全くもう見当もつきません。お願いします」

 けっこう悲愴な声で頼んできた。私はユキさんが生きていると聞いて、まずはほっと安心した。それから急に、なぜ谷田さんは、彼女に付き添っていないのだろうということが、気になりだした。

「だって、ボク、もう彼女のマンションには行けません。だから工藤さんにお会いして、そのへんの事情を説明したいんです」

 どうも要領を得ない話なのだが、とにかく翌日、谷田さんと銀座のレストランで食事をしながら、ゆっくり話を聞く約束をした。

「あれは僕を脅かすための狂言なんですよ」
 当日、私が店に着くと、もう谷田さんは先に来て待っていた。憔悴しきったような顔で、ふっと深いため息をついた。
「工藤さんにユキの歳を知っていますよね」
「ええ、たしか四十九歳じゃなかった?」

「そうなんです、付き合い始めたのはまだ四十四歳になったばかりで、まあ年上なのは承知していましたが、別に気にならなかったんです」

 実際、谷田さんはユキさんの存在を隠そうとはしていなかった。二人一緒に私の家にも遊びに来たことがあったし、新宿で、腕を組んで歩く二人に、ばったり出会ったこともあった。

 今の時代、男女の年齢差が開いたからといって、とくに不思議がる人もいない。いろいろな形の愛があって当然だと誰もが思っている。

 ただ、一度だけ谷田さんのお父さんがユキさんについて、愚痴ともとれるような言葉を吐いたのを聞いた。

「もしも、あいつがユキさんと結婚したいといいだしたら、私は孫の顔を見られないでしょうねえ」

 そういって、お父さんは淋しそうな笑いを浮かべた。しかし、その一回だけで、ほかには一度も息子の交際に反対する様子は見せなかった。

 いったい何が原因でユキさんは自殺を図ったのか、私はなかなか本題に入らない谷田さんに、こちらから尋ねてみた。

「いやあ、ユキは初めから死ぬつもり何なかったと思いますよ。あれは狂言自殺ですよ」
 と日頃は温厚な谷田さんらからぬ皮肉な口ぶりだった。

 その前日、二人は一緒に食事をした。そして、いつもならユキさんのマンションへ寄るのだが、思う所があって、谷田さんは食事だけで別れた。

 そして翌日の夜、何度、彼女のところに電話をしても返事がない。心配になったので、同じマンションに住む、ユキさんの妹に電話して様子を見てくれるように頼んで。間もなく、妹から電話があった。

 彼女は谷田さんからの電話の直後、ユキさんの部屋に行った。すると、玄関のドアに鍵がかかっていない。おかしいと思って開けてみたら、寝室のベッドにユキさんが横たわっていて、サイドテーブルの上に「遺書」と書かれた封筒が置いてあった。

 仰天した妹は救急車を呼ぼうかと思ったが、その前に、ユキさんの身体を強く揺すってみた。すると、ユキさんが眠そうに眼を開けた。そして突然泣き出した。子供のように泣き続け、「死にたい」と繰り返しいう。

 妹は困り果てて、しばらく姉の背中をさすってやって、ようやく落ち着いたところで、自宅に帰り、谷田さんにことの顛末を連絡してきた。

 ユキさんの妹も独身で、キャリア・ウーマンだが、姉とは正反対にまったく色気がなく、男にも興味がない。登山が趣味で、その仲間がたくさんいる。

「ユキの妹が、ボクに駆けつけてくる必要はないって言ったんですよ」
 妹の説明によると、ユキさんは、買ったばかりのお気に入りのワンピースを着ていた。そして、睡眠薬を飲んで死ぬつもりだったというが、よく聞いてみると〇・五ミリのデパスを十錠飲んだという。

 悪いと思ったが、デパスを十錠というところで、私は思わず笑ってしまった。なぜならデパスは、私も飲んでいるだが、軽い精神安定剤のようなもので、普段でも三錠くらい飲んでいる。たった十錠で死ねるわけがない薬だ。

「つまり、妹に言わせると、あれは完全に狂言自殺だっていうんです。わざわざ玄関のドアの鍵を開けておいて、一張羅のワンピースを着て、しかもデパス十錠でしょ。ボクを脅かすためなんだから、その手には乗らない方がいいって妹が言うんです」

 ちょっと聞くと、妹の発言はずいぶん薄情に聞こえる。だが、妹は姉の生き方に日頃から批判的だった。ユキさんと別れた夫から莫大な慰謝料を貰って、悠々自適の生活をしている。妹にしてみると、働こうともせず年下の男にうつつを抜かしている姉の姿勢に嫌悪感を覚えていたようだ。

 だから突き放した眼で、姉の自殺未遂をみていたのだろう。
 では、肝心の谷田さんはどう感じたのだろうか。そのへんが実に微妙なのである。

 過剰にセックスに依存する彼女に違和感を覚えて

 二人の間に初めて別れ話が出たのは、一週間ほど前だったという。
 とくに谷田さんに新しい恋人ができたわけではないのだが、そろそろ別れようと彼の方から提案した。

「なぜ?」と私が質問すると彼はしばらくじっと考え込んで、眼を伏せた。それから返事はせず質問を返してきた。

「工藤さん、たしか更年期のことをお調でしたよね。更年期って、女性の心身にどんな影響があるんですか?」
「どうして?」また、私が質問した。

「ユキのことを見ていると、この一年、とても異常だったんです。いや、少なくともボクには異常に感じられました。それが何か更年期と関係があるのではないかと思って」

 私はとっさに、ユキさんが閉経して、それに伴う性交痛などのトラブルがあったのかと思った。あるいは、人によってはうつの症状が出ることもある。精神状態が悪くなるのは、私も経験ずみだ。

「異常って、どんなふうに?」と尋ねると、谷田さんは辛そうに眉をひそめた。

「谷田さん、私はご相談に乗って、お役に立つのなら、喜んでそうしたいです。でも、あなたがすべてをお話ししてくださらないなかったら、アドバイスのしようがありません。いったいユキさんとの間に何があったんですか?」

 私の口調はかなり強かったかもしれない。谷田さんは、背中を押されたように一気にしゃべりだした。

 まず、一年前にユキさんが生理不順を訴えるようになった。やがて半年ほど生理がなくなり、もう閉経したのかと思った頃、また生理が来た。そんな状態が続く中で、ユキさんが異常なほどの性欲を見せ出したのだという。

「ボクもいささかたじろいだんですが、一晩に三回くらい求めてくるんです。それもすごいしつこさで、正直、辟易(へきえき)しました」

 変わったのはそれだけでなかった。谷田さんが少しでも躊躇する様子を見せると、彼女は、強引に彼の身体の上にまたがってきて、ペニスを挿入しようとした。

 そんなことをされれば、逆に男は萎えてしまう。すると執拗に手や口を使って谷田さんのペニスを愛撫する。
 ユキさんに愛情を持っていた谷田さんは、なんとか彼女の要求に応えようと努力した。

「だけど、考えても見てください。ボクだってもう三十代半ばを過ぎているんですからね、高校生のときみたいに、抜かずに三発なんて、そりゃあ無理っていうもんです。するとユキの機嫌がすごく悪くなるんです。あなた、他に女がいるのねとか、めちゃくちゃなことをいい出すわけです。ボクも参りましたよ」

 だからといって、谷田さんがユキさんとのセックスを嫌っていたわけではない。年上だけあって彼女がリードする場面が多かったが、気にはならなかった。

「若い女の子がただ丸太みたいに転がっていて、さあ入れてっていわれるようなの、ボクは苦手だったんです。ユキのやり方はいつも自分からあそこを動かして、なるべくこっちの負担を少なくするっていうか、ボクが下になって、仰向けに寝ていても快感を感じさせてくれるように、うまく盛り上げてくれたんです。そそるのがうまいんです」

 そうした技術はユキさんだけのものと思っていたので、谷田さんも最初のうちは、どっぷりと彼女のセックスにのめり込んだ。

 しかし、あまりに積極的な彼女の態度にしばしば違和感を覚えるようになった。

「恥ずかしいけど、ボクがユキから感じたのは、もう執念みたいなものでした。ボクに対してじゃありませんよ。セックスに対してなんです。夜になると電話がかかって来て、できないのが苦しいって言うんです。電話口でオナニーをするから、ボクも一緒にマスターベーションをしてくれとか、思いつめた声でいうんですよ。それが何カ月も会えない状態ならわかりますよ。

でも、その前日に日とかに会って、セックスをしたばかりなんですよ。これって明らかに変です。しかも、もう付き合って五年も経つんですから、もう少し、なんというか、精神的なものにも喜びを見いだしてもいい時期です。この人の頭は一体どうなっちゃっているんだろうって、なんか空恐ろしくなりました」

 コントロールできない力に操られた結果?

 考えてみれば二人の間に結婚の話が出たことは一度もない。十二歳も年齢が離れているので、やはり結婚まで踏み込む勇気が谷田さんにはなかった。なるべく結婚の話題は避けていた。それがユキさんの気持ちをこじらせて、過剰にセックスに依存するようになったのだろうかと考えた。だとすると、結論は一つしかない。自分には結婚する意志がない以上、早く別れたほうがお互いのためだ。

 ユキさんは美人だし魅力的なので、これからだって新しい出会いがあるに違いない。谷田さんはそう思って、さりげない調子で、別れ話を切り出した。それぞれの人生を自立して歩いて行かないといった抽象的な言葉を選んだ。もう君とは会わないといった直接的な表現は何も口にしなかった。

 ただ、これからはセックスするのを止めようと決心した。そしてユキさんが大人の判断をしてくれて、すんなりと良い友達に移行できたらと希望していた。

 私は谷田さんの言葉に耳を傾けながら、あることを思い出していた。もう数年前だが、更年期の取材で産婦人科の医師に会った。その人が非常に興味深い話をしてくれたのだ。

 たしかに更年期のトラブルは女性のホルモン・バランスが崩れることから起きる。そのために性欲を失う女性も出てくるのだが、逆にバランスを取ろうとして脳がすごい勢いでホルモンを供給するために、異常なほど性欲が強くなるケースがあるのだという。

 だから、更年期というと、つい性交痛とか性欲の減退を考えがちなのだが、必ずしもそうは限らない。反対に性欲がとても強くなる人がいるのですよと、その医師は教えてくれた。

 私はユキさんの今回の事態は、どうもそれに当てはまるのではないと思った。まだ三十代の恋人が持て余すほどの性欲を彼女が示したのだとしたら、それはやはり尋常ではない。更年期でホルモン・バランスを崩した結果ととらえた方が自然ではないだろうか。

 谷田さんに私の意見を伝えると心底驚いた表情をした。まさかそんなことがあるとは想像もしていなかったようだ。

「わかりました。今夜は眼から鱗が何枚も落ちたような気がします」といってしきりに頷いた。

 その晩、地下鉄の銀座線に乗って、家路につく途中で考えた。ほんとうに更年期とは厄介なものだ。女性にとっては魔の季節につがいない。

 自分がコントロールできない、不思議な力にユキさんは操られていたのではないか。いや、今、現在も操られている。それを周囲は結局どうしても上げることもできないのだ。

 もちろん、すべてを更年期のせいにはできないが、なんだか暗くて深い闇を覗いたような気分だった。

 若々しい美肌を保つために

 閉経すると急速に変わる顔、食い止める手立てはあるのか

 私と恵美子さんの友情は、もう二十年以上続いている。彼女がもっとも親しい女の友人といってよいだろう。お互いに秘密はない。私が安心して仕事や家族について愚痴をこぼせる相手も恵美子さんだ。それは彼女も同じらしい。かなり細かなことまで打ち明けてくれる。

 さて、その彼女が、やや沈んだ表情で私の事務所を訪れたのは、つい先月のことである。
「悩んでいるのよね」という。

「ホルモン補充療法?」と尋ねると、「それもそうだけど、他にもね」と歯切れが悪い返事だ。
「実は、彼のことなの」と口を切って語り出した。

 もう二十年も不倫の関係が続いている恋人の、最近の様子がちょっと変だという。彼は恵美子さんと同じ五十六歳である。マスコミ関係の仕事に就いていて、どちらかというと華やかで忙しい日々を送っている。

 その彼が、最近、仕事で出会った、ある劇団の若い女優の話を盛んにするそうだ。とても才能があるけれど、控えめで礼儀正しい女の子だと絶賛する。

「なあーんか、こう、ひっかかるのよね、その子と男女の仲になっているとは思わないのだけど、惹かれいるのはたしかよね。それでね、この間、私のマンションに来たときに二人で古いアルバムを見ていたの。知り会った頃は私だってまだ三十の半ばだったんだから、そりゃあ若いわよ。

その頃の写真を彼がじーっと見ていて、『若さよもう一度』って呟いたの、私、それを聞いて胸がはっとした。たしかに、二十年前の顔に比べたら、今の私はシミ、シワ、タルミ、もうすごいわよ。それでね、考えたの、彼を繋ぎとめるには美容整形しかないんじゃないかって」

 思いがけない言葉が彼女の口から飛び出して私は驚いた。つまり恵美子さんは危機感を感じているのだ。恋人は若い女性に興味を示している。だからといって、すぐに自分たちの関係が崩れるとは思わないが、彼女もそれに対抗するべく、何か手を打たなければならない。

 ホルモン補充療法もさることながら、まずは顔の若返りをはかりたいというわけだ。
 実は、顔については、私は以前から悩んでいた。とにかくおそろしい勢いでシミが増えている。

 かつて、ある産婦人科の医師に取材をしたときに、言われたことがある。
「工藤さん、女性は閉経すると、急速に顔が変わります。四十歳と五十歳の顔はそうは違いません。ところが五十歳と六十歳の顔は、全く違います。その間に老女の顔になってしまうからです。はっきり言って、五十歳を過ぎたら、もう老人まっしぐらですよ」

 この言葉にショックだった。しかし真実でもあると思った。少なくとも自分に関していうと、毎朝、鏡を見るのが憂鬱になるほど、どんどん顔は老けている。

 それを何とか食い止める方法はないものかと私も思っていたので恵美子さんの気持ちは、痛いほどわかる。

「わかったわ。基本的には私は美容整形に賛成だけど、それ以外にもたとえば漢方という手もあるかもしれない。とにかく調べてみるわ」
 そう約束すると彼女はやや安心したような微笑みを浮かべて帰って行った。

 メスを入れるのではなく皮膚そのものに活力を与える方法

  だが、私もとくに心当たりの病院があるわけではない。
 インターネットで検索していたら、とても丁寧に治療について説明して、料金も明示しているクリニックがあった。偶然だが、その「表参道皮膚科」は、私の事務所から歩いて五分ほどのところにあった。だれの紹介もなく、いきなり取材をお願いしたのだが、理事長の堀越真澄さんと、医師の古川直子先生が気持ち良く対応して下さった。

 古川先生の説明によると、まずシミの治療は大きく分けて二種類あるという。一つは美白剤の外用である。これはハイドロキノンを使用する。もう一つはルビーレーザーでの治療だ。こちらはターゲットをメラニンとした光線を当てて、メラニンを死滅させる効果がある。

 しかし、なんでもかんでもレーザーを当てればよいというものではないらしい。ホルモンの分泌が関与する肝斑には当てない。

 日光や加齢によってできたシミには、レーザー治療が効果的なようだ。面白いのはシミの大きさによって治療費が変わることだ。一ショットが二千百円だが、それは大体四ミリくらいをカバーする。しがって、シミが大きくなほどショット数も増える。

 レーザー治療するとその部分が少し腫れて蚊に刺されたようになる。数時間後には腫れは引いき薄い膜を張ったようなかさぶたになる。

 このときに医師が皮膚用テープを貼ってくれる。一週間ほどテープを貼ったままにしておいて、それから、テープと一緒にかさぶたも剥がす。

 かさぶたが取れて三ヶ月から半年は遮光を徹底させる必要があるという、また、しばらくは色素の沈着がみられるが、あまり心配はないらしい。自然に治るか、あるいはレチノイドやハイドロキノンなどで漂白治療ができる。

 気なるのは痛みと費用だが、痛みの方は麻酔をするほどではないというから、たいしたことはないのだろう。費用も表参道皮膚科は、初めからきちんとして提示してくれている。シミの大きさや、治療のプロセスに個人差があるので、一概にはいえないが、予算を聞いてから始めればよいわけだ。

 シワに関しては、このクリニックでは「悲観血的な治療」のみ行っている。つまりメスを使った手術はしないという意味である。
 それで何種類かの治療法があるが、その基本は保湿だ。
 更年期を迎えた女性はどうしても顔や首の筋肉が萎縮して土台が崩れてくる。皮膚の張りがなくなる。だからケミカル・ピーリングも一つの選択肢だ。これはフルーツ酸の仲間であるグリコール酸を塗って、ふき取るだけだが、二週間に一回の頻度で、四、五回やるだけで効果が出る。

 またビタミンA(レチノール)の誘導体であるトレチノィンも効果があるといわれている

 こちらは角質をはがし、表皮の細胞をどんどん分裂させ、皮膚の再生を促す。さらに、皮脂腺の働きを抑え、皮脂の分泌を抑える。真皮で、コラーゲンの分泌を高め、長期的には皮膚の張り、小ジワの改善をもたらす。そして、真皮内でのヒアルロン酸などの粘液性物質の分泌を高め、皮膚をみずみずしくする。

 あるいは、ダイオードレーザーを活用する方法もある。
 これは皮膚をクリーニングさらながら、弱い波長の光を当て、真皮のコラーゲンを活性化させる。おでこ、眼のまわり、口元など、気になる部分だけ当ててもらうこともできる。顔全体に当てても三万円くらいとのことだ。

 私自身の好みからいうと、顔の皮膚を切り刻んで、シワをなくすという方法はあまり好きではないので、このように、皮膚そのものに活力を与え、シワを少なくするほうが、なんだか安心だ。

 実際に治療を受けるとしたら、先生にとことん相談して、自分に合った治療方法を選んだらいいだろう。

 表情豊かに生き生きと過ごし、基本的な洗顔は怠らない

 皮膚科の病院なので、当たり前と言えば当たり前だが、古川先生も堀越理事長も、思わず見とれるほど美しい肌をしている。
 古川先生はまだ三十代半ばの若さとお見受けしたが、堀越理事長は。私の年齢に近いのではないかと思った。しかし、驚異的な美貌を維持されておられる。

 もしも、堀越理事長と同じような肌を手に入れられるなら、我が親友の恵美子さんは喜んで、治療を受けるだろう。
「更年期世代の方の場合、はっきり言って、シミやシワを全部取るのは無理です。ただ、このシミだけは許せないというのは治療なさったらいいですね」

 明るい声で古川先生がおっしゃる。
「シワに関していうと、表情ジワ、つまり笑ったりしたときにできるシワはいいんです。そうじゃない状態のときのシワはやはり気になりますね。なるべく、表情は豊かに生活なさる方がいいみたいですよ。一人で無表情で喋らないでいると筋力が低下しますから」

 そういわれると、たしかに若く見える人は表情も生き生きしていることが多い。
 表参道皮膚科で、いろいろなお話を聞いて分かったのは、一口に美容整形といっても、そのクリニックによって、治療方針はさまざまだということだ。料金についても、セット料金となっていて、ときには何十万も費用がかかるところもあれば、表参道皮膚科のように、保険が適用され、料金が細かく明示されているところもある。ただし、表参道皮膚科では、前述のように基本的には手術はしない。

 どれを選ぶにせよ、事前にじっくりと研究する必要があるだろう。
「美容整形をしてみようと思ったら、その気持ちを大切にして、くじかないようにしたらどうでしょう」とは古川先生の勧めだ。

 先生の患者さんも、更年期世代の女性が多い。皆さんと、とても長いおつき合いになるという。なぜなら、一ヶ所を治すと、また別の場所を治したくなるものだそうだ。じゅうぶんにきれいな人でも、本人は納得していない場合もある。

 たしかに、美醜というのはいたって主観的なものだ。どんな美人でも、自分の顔に大満足ということはないかもしれない。逆に不美人であっても、精神状態が安定しているため、容姿をまったく気にしていない人もいる。

 いずれにしても、肌の手入れは基本的に大切なことだ。古川先生によると、ポイントは四つある、第一に朝はかならず洗顔する。第二にクレンジングをしっかりする。第三はぬるま湯で洗顔し、すすぎ切ったら、水道水の水を一番冷たくして二十回くらいスプラッシングする。第四に角質を除去してくれるタイプの石?をつかう。

 これらを守っただけでも、ずいぶんと美肌つくりに影響するそうだ。
 つまりはたゆまぬ努力と投資が女性を美しくするのだと思った。

 皮膚は「内臓の鏡」精神状態を安定させることも大切
 さて、表参道皮膚科での取材を終えた後、私は神田川小川町にある「千代田漢方クリニック」へと向かった。以前に東洋医学についてお話を聞いた三位敏子先生に、今度は漢方で美肌を手に入れる可能性について伺うつもりだった。

 三位先生もまた、陶器のようにすべすべした美肌の持つ主だ。
 初めに皮膚とは何かという話から語って下さった。

 私たちはつい皮膚とは身体の表面の皮膚と思いがちだが、実はそれだけではない。皮膚は複雑な臓器の機能を営んでいる。下界からの菌の侵入を防ぎ、水分を漏らさない保湿機能を持っている。さらに体温を調節する機能、肺を補助して呼吸をする作用、知覚作用などもあり、まことにさまざまな働きをしている。

 そして肝臓や腎臓、胃腸などの臓器の影響を受けるために「内臓の鏡」ともいわれている。
 肝臓を例に取って見ると、これが弱くなると日光に過敏になり、肌が荒れる。腎臓の場合は尿を通して老廃物が排泄されるのだが、うまく行かないと顔が黒っぽくなる。腸も、便秘のときは有毒物質を吸収するため肌が荒れる。

 つまり女性の顔の表面に表れる、シミやシワ、クスミは内臓と密接に関係していると言うことらしい。

 だから更年期の女性の場合、卵巣の働きが悪くなり、色素細胞に異変がおきてシミができる。通常は更年期という四十九歳前後なのだが、今はプチ更年期といって、四十歳くらいでも症状が出る人がいる。とくに性生活があまりない場合に卵巣機能の働きが普通の人より早く衰える。そうすると白髪が出たり、日光で皮膚がかぶれたりして、シミ、シワ、クスミに悩まされる。

 もちろん、精神的な要素も看過できない。中年以降の女性はストレスが多くなる。精神的な動揺が色素細胞に影響を与え、シミができやすくなるという。だとすると、自分の精神状態を安定させておくのも、美肌を保つ大切な要素だ。

 さて、それでは、美肌に作るために効果のある漢方薬はあるのだろうか。
「もちろん、あります」という三位先生の返事だ。

 東洋医学では、血液の流れが滞り、血が溜まるのを「?血(おけつ)」という。それがシミやクスミの原因となる。これを解消するには「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」という薬がある。また、はと麦茶の一種であるヨクイニンを加えるともっと効果がある。

「田七人参」も肝臓の働きをよくして血流の流れを活発にする。紫外線などのダメージを受けた肌を回復させる働きもある。

 それに更年期世代の女性たちだったら、ストレス用の薬を加えても良いかも知れないとのことだ。「加味逍遥散(かみしょうようさん)」などが、その一例だ。効果は半年くらいで表れるらしい。

 その他、個人の症状に合わせてブレンドした薬を処方できるという。
 即効性という意味では「陳珠粉」が良いらしい。真珠の粉が成分で、飲んでもいいし、卵の白身と混ぜて直接、肌にパックする方法もある。

 どうやら西洋医学、東洋医学ともに、更年期世代の女性たちが選べる美肌作りの方法は、かなり選択肢が多いようだ。

 ここで重要なことは心意気かも知れないと私は思った。歳を取ったら容貌が衰えるのは当たり前だと居直るのではなくて、少しでも美しい自分を手に入れるために、努力を惜しまない姿勢が大切なのだ。それは、ただ表面的な美しさだけでなくて、気っとその人が持つ内面の充実感も、はきりと表してくれるはずだ。
  つづく  第五章 結婚と不倫、両方に夢破れて