
亀山早苗著
オーガズムへのこだわり
「もう時間がないんです、私には。あまりにも惨めです」
その人は切羽詰まった口調で、そう言った。彼女は、友人の紹介で知り会った、専業主婦の谷口志津子さん(四五歳)で、やはり「オーガズムを感じたことがない」のだという。年齢よりずっと若く見える、かわいらしいタイプの彼女が、大きな瞳からこぼれそうな涙をためて、「イケない自分が惨め」だとせつせつと語る。
たまたまオーガズムを感じない女性の記事を書いたせいか、このところ、「私もそう」という話がやたらと耳に入って来る。どうしても一度、話を聞いてほしい。志津子さんも、そうやって会うことになった。
だが私には、ひとつだけわからないことがある。どうして女性は、これほど「イク」ことにこだわるのか、ということだ。
「女だから。それがすべてじゃないでしょうか。補足するなら、快感を味わってみたいから。自分が『普通』だと思いたいから。いろいろあるでしょうけど」
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喫茶店に落ち着いて少したってから、志津子さんは、そんなふうに答えてくれた。親戚の紹介で知り合った男性と結婚して十八年、なかなか子供に恵まれず、ひとり娘は十歳になったばかり。三歳年上の夫は、とある有名企業の役員で、「見栄や体裁ばかり気にするタイプ」だとか。志津子さん自身も働きたいと思ったこともあるが、夫に反対された。
「妻の心をちゃんと見ない人なんです。娘には甘い父親ですけど、私に関しては、『妻、母としてきちんとやっておればいい』というだけ。私はひとりの人間として扱ってくれていない、ときどき感じます。
私が風邪をひいて寝込むと、絶対に同じ部屋で寝ようとしない。うつされると困るからでしょう。それはまだわかるけど『具合はどう?』という一言もありません。思いやりがないんです。家の中だけ守る長が仕事のくせに、それさえ満足できないのか、と内心は思っているのかもしれません」
家の中の事さえきちんとやっていれば、文句は言わない。昼間、何処へ出かけようが、習い事を始めようが、志津子さんのすることには口は挟まない代わりに、興味も抱かない。二年ほど前、学生時代からの親友に愚痴ったこともある。
「友達は、『私だって同じようなものよ。主婦って、セックス付きの家政婦だって誰かが言っていたけど、本当よね』ってため息をついたんです。だけど、うちはセックスさえない。
その時からですね、私はただの家政婦なんだろうかと真剣に悩むようになったのは、夫に飼われているだけの女なのか、と」
女として不完全
夫は六年前ほど前までは、月に数回、志津子さんを求めてきた。若いときから、おざなりで、自分の欲望を満たすためだけの夫のセックス。「身体を貸しているだけ」と諦めて、志津子さんいつも黙って目をつぶっていた。最後にセックスしたとき、夫は自分勝手に終わって、吐き捨てるように言った。
「つまらない女だな、オマエは」
その一言を聞いたとき、志津子さんは後頭部を何かに殴られたような衝撃を感じた。そうか、自分はつまらない女だったのか。だから夫に女として大事にされないのか、と。それ以来、六年間、夫は一度も求めてこない。
外に女性がいるかも知れないと疑ったこともあるが、「それならそれでいい」と思っていた。ところが四三歳の誕生日を迎えたとき、志津子さんの心の中で、人知れず警鐘が鳴った。「このままでいいの?」と。親友に話した直後であった。
「私の母は、四三歳で死んだんです。私が十八歳、妹が十六歳でした。うちは父が早く亡くなったので、苦労の連続だったと思う。母は、子供たちが大きくなるのを見届けることもなかったし、おそらく女として満たされなかったでしょう。私、亡くなった母と同い年になったとき、このまま死ぬのは嫌だ、と思ったんです。
あまりにも女として不完全すぎる。女として満たされたい。気持ちいいセックスがしたい、イクという感覚を知りたい。そればかり考えるようになりました」
彼女の頭の中で、常に大きな位置を占めているのが、「自分は女として不完全」と言いう一言。オーガズムを感じない女は、なぜ女として不完全なのか。そこがやはりどうしてもわからない。不用意にそう漏らすと、彼女は私の目を見据えて、ビシッとい言った。
「あなたは感じたことがあるでしょう? 感じたことのある人には、私の惨めさなんて、わかるはずがない」
そう言われれば、返す言葉はない。もちろん、何に重きを置くかは人それぞれ。手に入らないものだからこそ、固執するのだろうし、未知のものへの欲求が強烈になるのもわからなくはない。彼女にとって、「イケない」ことは、自分の存在価値を揺るがすほどの重大な悩みとなっている。
価値観が多様化している現在においても、女の人生は、案外、従来の価値観に縛られている。結婚して子供を産むのは女性として当然。さらに、時代的なオプションとして、セックスの快感も手に入れ、やりがいのある仕事をしたい。趣味も友達も必要だ。「ほしいものは手に入れないと気が済まない」時代なのかもしれない。
もちろん、欲張って生きていくことは悪いことではないけれど、不足しているものにだけ目が行くのは、ある意味で不幸の始まりとも言える。
志津子さんに不足しているのは「オーガズム」だ。だが、その欲求が、世間的には「身勝手」に映ってしまうことも、彼女は解っている。同情を得られない悩みだからこそ、どこに気持ちをぶつけたらいいのかわからないのだろう。しかも、夫に「つまらない女」というレッテルを貼られたことが、決定的に彼女の自己評価を下げとしまった。
それからの日々を、彼女は悶々と過ごした。自分が動かない限り、事態は変わらない。一年ほど前、何を思ったか、彼女は突然、風俗店の面接に出かけていく。風俗専門の求人誌を買ってみているうち、これほどたくさん求人があるなら、何処か雇ってくれる所があるのではないかと思ったのだそうだ。
「昼間だけなら働ける、と思って、もちろんそういう仕事をしたかったわけではなくて、男性と接してみたい、自分が女として男性からどう見られるのか知りたい、という気持ちでした」
熟女系のヘルスだった。手と口を使って、男性を射精させるのが仕事。いわゆる「本番行為」はない。若く見える志津子さんは、面接に合格し、早速、その日から仕事に就いた。
「次の日から、と言われたら。もう怖くて行けなかったかもしれない。だけどそのまま店に出てしまったので、考えるひまもなかったんですよね。午前中、面接に行って、昼は最初のお客さんと接していました。
三十代初めの若いサラリーマンで、感じのいい人でした。口の中に射精された時は驚いたけど、不思議なことに嫌じゃなかった。人間ポイと言うかな‥‥。私の日常が、どこか『生々しさ』から遠のいていたから、動物的だったり生々しかったりすることが、何となく悪くない、という気がしたんです」
一歩、踏み出してしまった女は強い。もう四の五の言わずに、踏み出した道をひたすら走り続ける。志津子さんもそうだった。週に四日、彼女は十時から三時まで、店に出た。フェラチオなど慣れていなかったが、その素人っぽさがかえって男性には好評で、指名も付くようになる。だからといって、彼女の「女として自信」が戻ったわけではない。
「そういう店で働いている女性って、みんなワケありなんですよ。そこで知り合ったミオさんという同世代の女性と仲良くなって、私は感じたことがないと打ち明けたんです。そうしたら彼女が、『私の知り合いが乱交パーティを主宰しているから、行ってみる?』と誘ってくれたんです。
彼女もご主人とセックスレス。しかもご主人が病気で働けなくなって、風俗で稼ぐようになったんです。自分自身もセックスしたいから、乱交パーティに参加しているって。けっこういい男もいるし、みんなセックスがとてもうまいから、行ってみようかなって思って」
乱交パーティ
自分が「堕ちていく」という感覚はあった、と言う。だが、それは決して嫌悪感にはならなかった。それより、「感じたい」誘惑には勝てなかった。主宰者に会い、あらかじめきちんと内容を確認している。そのへんにはぬかりはない。
「主宰者の男性に、『私はイケないんです』『オーガズムを知らないんです』と言っているうち、惨めになって泣きました。でも、それを乗り越えなければ、自分を女として認められない。一生、惨めなまま過ごすのは嫌だと思ったのですが」
志津子さんの表情にも口調にも、鬼気迫るものがある。
そして、半年ほど前、彼女は、とある乱交パーティに出かけて行った。夫の泊りがけの出張時を狙い、同窓会だから、とようやく許可をもらった、心が痛まないわけではなかったが、
「何十年も欲しかったものが手に入るチャンスを逃すことはできなかった」と彼女は言う。
パーティは都心のホテルの一室で行われた。参加者は男女合わせ十数名、薄暗いから、年齢はわからなかったが、二十代か四十代くらいらしい。三々五々集まってきて、グラス片手にあちこちで即席カップルができ上がっていく。お酒も用意されていて、女性は会費も無料だ。雰囲気に飲まれそうだった志津子さんだが、主宰者が男性会員に言い含めておいてくれたのか、感じのいい男性ふたりが、いつしか彼女の横へやってきて、お酒を勧めてくれた。
ひとりは四〇歳前後、もうひとりは三十代半ばだった。ふたりとも物腰が柔らかく、軽い世間話をして志津子さんをリラックスさせようとしているのがわかったという。
そのうち、十数名いる男女が、それぞれ入り乱れていく。初めて見る光景に驚く間もなく、彼女もほろ酔い気分で、男性に身を任せた。
「ふたりの男性に責められるなんて初めてだったけど、全身しまなくソフトに触られて、とても気持ちよかった。信じられないくらい濡れました。頃合いを見計らって、ひとりが上半身を後ろから抱きしめてくれ、若い方が私の中に入ってきたんです。そのとたん、ずっと続いていた気持ち良さがすっと消えました。
何も感じない。入っていることはもちろんわかるし、出し入れしているのもわかるんだけど、それが気持ち良さにつながらない。後ろから抱いてくれている彼が、ずっとソフトに胸を触ってくれていて、それはある程度、きもちいいんですけど。
上半身は気持ちいい、下半身は何も感じない。出し入れしながらクリトリスも触られて、それはかえって不快でした。私はクリトリスはそこそこ感じるはずなのに、何が気持ちをよくて、何が気持ちが良くないのか、わからなくなっていきましたね」
少したって、後ろから抱きしめてくれた男性が、今度はバックで志津子さんを責めてきた。若い方の男性に抱かれながら、後ろからの別の男性を受け入れる。聞いて想像すると、興奮するような絵柄なのだが、彼女はそれでも、ほとんど何も感じなかった。
「そのうち、感情が乱れて来て、私、泣き出してしまったんです。イケない自分に情けなくて悲しくて、何やっているんだろうって思って。
主宰者が慌てて飛んできて、『何かありましたか?』って言ってくれたけど、誰が悪いわけじゃない。感じない私が悪いだけ。結局、私、そのまま帰りました。彼らには悪いことをしましたけれど、ここでは私の欲求は満たせない、と思うしかなかった」
パーティを紹介してくれた同僚のミオさんにその報告をすると、「あんまり深刻に考えないで、また別の所に行ってみたら? 紹介するわょ」と言ってくれた。だが、志津子さんは、まだ他のパーティには行けないという、他でも感じなかったら、と思うと怖くて身がすくんでしまうのだとか。
どうしょうもない孤独
オーガズムを得られない女性たちは、かなりドラスティックな行動をとりがちだ。出張ホストを買ったり、乱交パーティに行ってみたり。それだけ「早く、なんとかしたい」という気持ちが強いのだろうが、原点に返って考えてみれば、オーガズムは心身ともに最高にリラックスし、最高の興奮した時に得られるような気がする。
だから本来は、心から愛する人と、互いの心身に興味を抱きながらするセックスでこそ、得られるはずのものなのだ。気持ちがこもらなければ、女はイケない。だから、「売春」が世界最古の職業として昔からあるのではないか。いちいちイッていたら、その仕事は続かない。もし、機械的にオーガズムが得られたとしても、それは「虚しい快感」にしかないのではないか。
「イクのが目的だから、虚しいことにはならないと思う。風俗の仕事を前、実は出張ホストを買ったことがあるんです。かなり有名な人で、メールでは『僕が相手して、イケなかった女性はいない』と豪語していたんです。そういうことを言う男性はどうかな、ちょっと不信感をもったけど、それでもチャンスは逃すまいと思って会いました。ダメでしたけどね。
彼は、自分だけイッて終わりましたから。そういう意味では、例のパーティのほうがずっと気を遣ってくれました。アンナ醜態をさらしてしまったから、パーティには二度と行けませんけど」
風俗の仕事は今も続けている。店に来る客と恋愛する気にはなれないが、今度、客のひとりと外でデートしようという話になっている、と志津子さんは言った。
「外でデートしようということは、どこかでセックスしようという意味だと思います。その人は三十代のサラ―リマン。私がイケないことを言っていないから、会うのは怖いんですけど、彼なら、私を救い出してくれるかもしれない」
最後に一言におや、と思った。彼女が求めているものは、セックスのオーガズムだけではないのだろうか。
彼女が言う、「オーガズム」には、彼女の「女として」だけではなく、「人間として」必要とされたい、愛されたいという気持ちが集約されているのではないか。
それについて彼女は否定したが、オーガズムを求める女性の心理の底に共通する「どうしょうもない孤独」を感じてならなかった。
またまだ女を降りたくない
仲のいい夫婦
セックスレスについて何人もの女性たちに話を聞いてきたが、必ずしも夫婦仲が悪いわけじゃないが不思議だ。子供を中心に家族が成り立っている証拠かもしれない。夫婦は、「男女」でなくても、父と母、あるいは主たる稼ぎ手と主たる家事の担い手という役割を互いに認識していれば、協力態勢をとって家庭を切り盛りしていけるのだろう。
それでも「女を捨てたくない」という欲求は、今の女性たちには強い。だから勢い。悶々とすることになる。
「うちも仲は悪くないんです。学生時代からの付き合いだから、言いたいことは言える関係。だからかえって、男女と言う感覚が少なくて、セックスレスになってしまったのかもしれませんけどね」
苦笑しながらそう言うのは、埼玉県に住む新田久仁子さん(四六歳)だ。夫と同じ大学で学んだ。卒業すると、久仁子さんは通信関係の会社、夫は大手銀行に就職、四年目に結婚した。丸七年間の交際で、結婚したきっかけは「できちゃったから」。いずれ、結婚するつもりだったため、何の問題もなかった。
「子供は二、三人欲しかったんだけど、結局はできなくて。ひとり息子は二〇歳になります。地方の大学に行ったので、ここ二年、夫婦ふたりきり生活です」
息子が中学に入ったころから、久仁子さんはかつての職場の関連会社で、パートとして仕事をするようになった。そのころは夫婦はまだ、「男女」だった。
「中学三年の一時期、息子が少しあれたんです。口答えがひどい程度だったけれど、一回だけ私の足をけったことがあった。それを見た夫が息子に殴りかかったんです。普通は、『親に向かって何をするんだ』と怒りますよね。夫もそう言ったけど、そのあとで、『オレの女だぞ』って怒鳴ったんです。息子は何故か、それっきりおとなしくなりました。
高校受験前のもやもやしたものを抱えていたのかもしれない。ただ、父親が男であることを再認識した日だったんじゃないでしょうか。私も嬉しかったですよ」
三LDKのマンションでは、なかなか夜の夫婦生活もままならなかったから、息子がいない時を見計らって、夫婦は愛をセックスという形が確認していた。頻?ではなかったが、久仁子さんは夫と肌を合わせている安心感が好きだった。
「そう、あのころはけっこうしていたんですよね。だけど、ここ二年はまったくレスです。きっかけは夫のあそこがちゃんと固くならなかったこと」
*「差し込み文書=当サイト
セックスレス改善法記載セクシャルヌレヌレフィンガーテクによって大阪府在住の斎藤則夫さん(七二歳)、経験した例と同じです。男が勃起不全となると全くのお手上げ状態。パートナーをイカス事もできない。自分も射精できなかったがセクシャルヌレヌレフィンガーテクによって再び「男」を取り戻した」。
そう言って、久仁子さんはぺろっと舌を出した。見た目は、目鼻立ちがはっきりした美形なのに、実はあっけからんとしていて、とてもかわい女性だ。
夫が勃起しなくなったのは、二年前ほど前のこと。息子の大学受験が心配だったし、夫自身も仕事で大きなプロジェクトを担当して過酷な日程をこなしていたから、久仁子さんも特に気にしていなかった。息子が大学に合格し、これから心置きなく夫婦で楽しめる、と思ったとたん、夫が、「オレ、やっぱりダメみたい」と言い出した。
「ダメならダメで病院に行ってくればいいのに、本人は何だかあまりやる気もないみたいで・・‥。もともと、ふたりともそれほどセックスに没頭するタイプではないし、長年一緒にいるから飽きたのかなあ、とも思いました。
夫はダメになったら、私に触れようともしなくなった。それに腹が立ってね、ダメでも私だけ気持ちよくさせてくれる努力が見えればよかったんだけど」
久仁子さんは言いながら、「女って勝手よね」とぷっと噴出した。ふれられなくなって一年、ついに久仁子さんは爆発してしまう。明るくてうじうじ悩むタイプでない彼女でさえ、夫に振り向いてもらえないのはつらかったという。
「とうとう、夫に『どうにかして。私したいの』って言ったんです。そうしたら、夫は夫で、『そんなにしたいのなら、何処かでしてこい』って。ひどいでしょう? さすがに泣きましたよ。夫も悪いと思ったらしいけど、『もうそんなことをしなくてもいいんじゃないか。オレたちも年なんだし。
ふたりで友達みたいにやっていこうよ』と言うんです。私も一応、納得したそぶりは見せたけど、どうしてもしたい。したいというよりは、誰かに女として扱ってもらいたい、という気持ちが大きかったような気がします。女を降りるのはまだ早い、まだまだ降りたくない、と思った」
男は男を降りるとほっとするかもしれないが、女はそうはいかない。心と身体の奥にマグマのようなものを常に抱いているのが女なのだ。それは年齢を経るにつれ、いつ爆発してもおかしくないほど熟していく、「女」として扱われることだけが、そのマグマを異常噴火させない方法かもしれない。
ハプニングバー
あるとき、久仁子さん美容院で読んだ週刊誌に、「ハプニングバー」の記事があった。店の形態は単なるバーだが、そこに集まった男女によって、店内ではエッチなハプニングが起こる可能性がある。さまざまな性的嗜好の持ち主が集まる店とも書いてあった。
「SM、露出好き、のぞき好き。人にはいろいろな性癖がある。その記事を読んでいたら、一度行ってみたくなったんです。ネットで検索した店いくつかにメールを出してみて、きちんと返事をくれた店に行ってみることにした。もちろん、年齢層が広い店にね」
パートは週に四日だから、平日の昼間を選び、都心の繁華街にある店に出かけてみた。薄暗い店内には数人の客がいて、はだけた胸を男ふたりに触られている女性もいたという。そして、それをじっと見つめている数人の男性客たち。
男性たちはサラリーマンで、その女性は久仁子さん同様、主婦だった。久仁子さんもしばらくその様子をみていたのだが、その後、トイレに行って驚いた。
「下着がすごく濡れていたんです。見ているだけで私、けっこう興奮してしまった。他人が濃厚にイチャイチャしているのを見たのは初めてだし、まして女性ひとりに男性たりでしょう? 外は昼間なの、そこだけが異次元のように薄暗くて、まさに非日常だったんですよ。セックスって夜、ベッドでするものと思っていた私にとっては、大きな衝撃でした」
その日はそのまま帰ったが、それ以来、仕事休みの日の昼間は、たびたび足を運ぶようになった。そうなると顔見知りも増えてくる。「どんなセックスが好き?」と聞かれて、久仁子さんははたと考え込んだ。
自分のセックスの嗜好はどういうものなのだろう。セックスをそんなふうに考えたことはなかった。そもそも、夫しか知らないから、セックスを比較しようもない。
世の中には、本当にいろいろな性的趣味を持った人たちがいる。自分はどんなセックスが好きなのか。その店にいろいろな嗜好の持ち主たちと話をするうち、久仁子さんも自分が興奮するシチュエーションが見えてきた。
「私はやはり、最初に見たとき下着を濡らしてしまったように、ふたりの男性に優しく責められるのが好きだなあ、なんて、常連さんたちと話していたんです。そうしたら、常連の男性ふたりが『じゃあ、僕たちでどう?』って。『私と年だし、女として見ていないでしょ』と半ば本気で言ったら、
『いや、以前から素敵だと思っていましたよ』とふたりとも声を揃えて言ってくれたんです。『年齢はわらないけど、女として魅力的』『色気がある』なんていう言葉に酔わされて、気づいたら私、ふたりの男性に両側から胸や下半身を愛撫されていました」
胸がはだけられ、足は広げられ、男たちの指がまさぐってくる。そして、それを見ている人がいる。恥ずかしさに全身が燃えるようだったが、同じような状況を何度も体験するうちに、見ている人の目が快感に拍車をかけるようだった。
女は快楽から抜け出せなくなりやすい。それ以来、久仁子さんは店で知り合った男性とその場でいちゃいちゃしたり、外でデートしてホテルに行ったり、とセックスライフを楽しむようになる。
比較的割り切って遊べる女だ。と自分でも不思議に感じた。男慣れしたのか、すれた女になったのか。いいんだろうか、と自問自答したことがある。だが、セックスしても、相手に執着はしない。
スポーツ感覚でセックスだけ切り離して考えることもできた。だから、夫に対して罪悪感もなかったし、裏切っているという気持ちなかった。身も心もすっきりするという意味では、エステやスポーツジムと変わらない。そこに相手への「情」はあったが、「愛」はなかったから、自分をいくらでも納得させられた。
情と肉欲がベストな割合
ところがあるとき、そのハプニングバーでいつものように常連の男性たちと話していると、カウンターのすぐ隣に座った男性がいた。ひとり客だから、隙を見計らって、久仁子さんに話し掛けてくる。
「こんにちは。初めまして」
礼儀正しい男性だなと思いながら、声のほうに顔を向けると、なんと、そこにいたのは、夫の会社のかつての後輩。彼は他社に転職したが、何度か家に遊びに来たこともある。転職の際も、夫は彼の相談に親身に乗ったはずだ。久仁子さんは、呆然と彼を見つめていた。彼の方もすぐにわかったようで、声を潜めて「驚いたなあ」とつぶやいた。
「パニクりました。ああいう店で知り合いに会うと、うろたえますね。瞬間的にいろんなことが頭に浮かんで。常連だと思われるんじゃないか、夫に密告されるんじゃないか、どうしよう、と」
彼にも家庭がある。お互い気まずいのがわかったから、久仁子さんは早々に店をあとにした。
外へ出てしばらく歩いていると、後ろから声を掛けられる。彼だった。久仁子さんはさりげなく歩調を合わせ、自分は歩道側に回って歩き始める。
「お茶を飲みませんか?」
いつまた夫と彼が飲みに行き、帰りに自宅に連れてこないとも限らない。気まずいまま別れるのは得策でない。
「うち、カミさんが全然させてくれないんですよ。だから刺激を求めて、ああいう店にたまに行ってみるんです。今日の所は初めてだけど」
喫茶店に落ち着くと、彼は急にそんなことを言いだした。久仁子さんを安心させようというつもりだったのかもしれない。手の内をさらしてしまった方がいい、と彼は判断したのだろう。あるいは、男の自分を先に白状しまうべきだと思った可能性もある。久仁子さん、自分が通っていることは言わずに、
「どうして奥さんは拒否するの?」
と訊ねてみた。自分は夫に拒否されている。彼は妻に拒否されている。どうしてうまくいかないのだろう、と夫婦の組み合わせの皮肉を感じながら。
彼は四〇歳.八歳の長男と、四歳になる双子の女の子がいる・同い年の妻は、子育てで常に疲れていて、とてもセックスしようとは誘えない。子供三人がいる暮らしはにぎやかで、男女の関係などなくてもいいと思っていたが、セックスレスが四年以上に及ぶにつれ、自分自身が男としてどうなのかと疑問を抱くようになった。
かといって、風俗へ行くのも虚しい。性欲処理だけならひとりでできる。「女性との語らい」や「ドキドキするような関係」がほしい。それでハプニングバーに出入りするようになった。
そういう店で知り合う女性は捌けているのから、たとえ深い関係になっても、家庭に泥沼を持ち込むようなことにはならない。
動機が似ていた。久仁子さんも家庭を大事にしたい、だが自分が「女としてイケルかどうか」という気持ちを持っていた。男もそうなのか、と久仁子さんは彼のシンパシーを感じた。
「一度だけ。お互いそう約束して、彼とそのままラブホテルに行ってしまったんです。燃えましたね、あの日は。夫の後輩と、秘密の関係をもっている、しかも許されたのは一度だけ、という状況が私自身を解放したんでしょう。
それまではほかの人としていたスポーツ感覚で遊んでる、というのはちょっと違って、情と肉欲がベストな割合でセックスできた、という気がします」
ばれるかもしれないスリル
充実したセックス、あるいは相性がいいと感じるセックスには、いくつかの要素がある。情、欲求、肌合い、秘密の共有や状況などへの興奮、そして相手への好奇心などなど。それらは人によって割合が異なるのだろうか。好みの割合が一致するのが相性がいいというのかもしれないし、その中のどれかが突出しても、相性がいいというのかもしれない。
「その状況なら、女として何もかも忘れられるように、強引に迫って欲しい。彼はそのあたりを分かっていた。私をバックからガンガン突き上げながら、『奥さんは新田さんにもこうやって責められるんですか?』と胸をわしづかみにしたりする。恥ずかしさと同時に、異様な興奮がこみ上げてきました。
向かい合って座位でしながら、『入っている所を見て』と命令されたり…。私の愛液で彼のペニスがぬめっているのを見たときは、頭が真っ白になるくらい感じていました。あんなセックスは初めてでしたね」
熟れた女と活力満ちた男だ。「一度だけ」は当てにはならない。携帯電話の番号はあえて教え合わなかったが、久仁子さんは、翌日から彼が家に電話を掛けてくるに違いないと信じていた。仕事が休みの日はどこにもいかずに待った。
きっかり一週間後、昼間、自宅の電話はやはり鳴った、久仁子さんが名乗ると、
「すいません、我慢できなかった」
と彼の声がした。その声を聞いただけで、久仁子さんの下半身は濡れた。
それから七ヶ月、彼との関係は月に二回ほどのペースで続いている。久仁子さんの感じ方はますます激しくなり、会えないときはマスターベーションでしのぐ。いままでしたことのなかったのに。
夫にばれるかも知れない、という危険性は感じている。
「セックスで溺れているだけなのか、彼を本気で好きになっているのか、それは考えないようにしているんです。今はこの関係を失いたくない。それしか考えていません」
久仁子さんは、例の店には足を運ばなくなった。そこに答えが隠されているのではないだろうか。彼女自身の中に答えはあり、もちろん本人も気づいている。ただ、それを認めたら「夫を裏切ることになる」と思っているのかもしれない。
親友の夫との関係に溺れて
「したい」と「好き」
ある男性から聞いたことがある。「女性はどうして、結婚とセックスと恋愛を全部一緒に考えるのか」と。もちろん、すべての男性がその三つを分けて考えているわけではないだろうし、すべての女性が分けられないわけでもない。ただ、おしなべて男は「分けて」考えがちなのに対して、女性はすべてをひとりの男性に求める傾向があるのは確かだと、私も思う。
「好きな人とでないとセックスできない」
と言う女性は多い。だが、好きかどうかはセックス込みで決まっていくのではないだろうか。「セックスしたら好きになる」こともあり得る。逆に、とても好きな人だったのに、セックスが合わなかったために関係が終わることもある。
「したい」と「好き」とは、鶏と卵のような関係だと思うのだが、多くの女性たちはそれを認めようとはしない。あくまでも「好きだからしたい」のであって、「したいから好き」だとは考えない。もう少し肩の力を抜いたら、気が楽になるだろうに、と思うことが多々ある。
ただ、「したい欲求が先」を認めてしまうと、「していない今の私は惨め」という気持ちに陥る可能性もある。「好きな人がいないから、していない」と思えば、惨めに思わないで済むのかもしれない。セックスと恋愛感情と自己証明が絡み合っているところが、女性の「性」の難しいところなのではないかと、つくづく思う。
セックスがタブーになる
「愛されているという実感がないと、生きているかいがない、という気がします。そういう意味で、一年半ほど前までの私は、生きる屍(しかばね)みたいなものだった。実は今もいろいろ大変なんですけど、それでも生きているという実感はあります」
衝撃的にさえ聞こえてくる強い言葉で、そう話してくれたのは、都内に住む笹川日紗子さん(四四歳)だ。日紗子さんは、七年前に子宮がんで子宮と卵巣を切除した。転移も再発もなく、今は非常に元気だが、病気をきっかけに夫はセックスレスになってしまった。
「三歳年上の夫と職場結婚して、今年で二十年になります。子供は息子二人で十八歳と十六歳、難しい年ごろだけど、それぞれに目標をもっているようですから、そう心配はしていません。
夫は、私の病気のときもその後も、優しくしてくれました。だけど、気を使い過ぎて、夜の生活ができなくなってしまいました。私も夫を責める気にはなれなくて…」
手術のために入院する前日、日紗子さんは夫に抱いてほしい、とせがんだ。すぐに命に別状があるほど病気が進行しているわけでもなかったか、やはり怖かったのだろう。夫にしっかり抱かれたかった。それによって、今後、病気と闘える気力も湧くような気がしたという。
「夫はこわごわでしたけど、セックスしてくれました。だけどそのとき、ちょっと出血してしまったんですよね。私の方はどうせ明日入院するだし、ここで多少出血があったところでどうってことはないと思っていましたけど、夫はかなりびびってしまった(笑)。
ただでさえ、男性は血に弱い。そこへもってきて、病気の妻と入院前にセックスして出血したことになったから、夫は相当、ショックだったみたいです。手術が成功して退院して、半年ほど経ったころ、私から誘ってみたんですが、夫は『できない』と。苦しそうにそういう夫を見て、私も無理強いはできませんでした。
そのまま歳月が流れ、手術をしてから五年が経った。再発せず五年経って、日紗子は心からほっとしたという。
「その報告をした晩、夫の布団に手を伸ばしたんです。『もう大丈夫だから』って。夫も頑張ってくれようとしたんですけど、やはりダメだった。『どうしてもその気になれない、オマエがかわいそうで』って言うんです。
夫がしないのは私をもっと傷つけることになるんだけど、夫には分かってもらえない。それからも関係は悪くはないけど、セックスだけはふたりの間でタブーになってしまったんです。私は私で、『子宮がないから、夫は私を女として見ていないんじゃないか』とすごくコンプレックスを持つようになりました』
息子たちに気持ちを打ち明けるわけにもいかない。身体はよくなったが、気持ちは沈みがちだった。そんなとき、学生時代からの親友が、日紗子さんをひたすら励まし、仕事をするように勧めてくれた。
「親友は、『ぜひ働いた方がいいわよ。気持ちも紛れると思う』と言って、ご主人に話してくれたんです。彼女のご主人は、自分で会社を興した人なんですけど、顔が広いので、知り合いの会社を紹介してくれることになりました。私は以前、経理の仕事をしていたし、家計管理もパソコンをつかっていた。そういう方面の仕事ならできるかなあと思ったんです」
運よく、経理を募集している会社があった。大きな会社ではなかったか、居心地がよさそうだったので、彼女はすくに決めたという。パートで、仕事は週四日、時間は九時から五時までだ。
「親友のご主人は、それからも気をかけてくれて、ときどき電話をくれたり、会社に顔を出してくれました。パートだけどやりがいも感じてがんばっていたら、三ヶ月ほど経ったころ、その会社の社長さんが、『がんばってくれているから、たまには食事でしましょう』と誘ってくれたんです。私を会社に紹介してくれた親友のご主人、加藤さんというんですが、彼も来てくれて、三人で食事会をしました。楽しかったですね、あの日は」
会社近くの料理屋で食事をし、三人でカラオケに行った。四十代から五十代にかけての男女三人が、若し頃に戻ったかのように昔の歌を歌って楽しんだ。
「加藤さんと私は帰り道が同じだったので、駅の方へ一緒に歩いて行ったんです。ふたりともけっこういい気持ちで酔っていて、何がおかしいかったのかケラケラ笑いながら歩いていた。すると加藤さんが、ふいに立ち止まって、キスしてきたんです」
思いがけなかった。気づくと日紗子さんも、彼の背中に手を回して、必死に舌を絡ませていた。
「うなじにそうっと唇を這わせて、『日紗子さんはとっても女っぽい。素敵だなあと思っていた』って、嬉しいことを言うんです。そしてまた唇を合わせる。ディーブなキスでしたね、自分の舌か相手の舌かが分からなかくなった。夫ともしたことのないようなキス。いけない、という気持ちはあるんですけど、そのキスがあまりに心地よくて離れられない。どのくらい道端でキスをしていたのか‥‥」
天国のために地獄を生き抜くような日々
親友の夫であることは頭から消えていた。そのまま、ふたりは駅の裏手に見えたホテルのネオンに向かって足早に歩いて行った。こういうとき、人はたいてい自分の行動を止めることができない。恋に落ちているのかわからないのか、この時点では判断できないのに、自分がしようとしていることも分っているのに、理性はすでにどこかに飛んでいるのだ。
「ホテルの部屋に入ってからです、私は子宮がなくて、手術痕もまだあるんだ、と気づいたのは、そんなことを打ち明ける必要があるかどうかはわからなかったけど、彼には正直に言いました、『それが原因で、夫とは女として見てもらえない』とも。彼は、『手術のことはうちのヤッから聞いている。だけど僕にとって、あなたは女だ。それもとびきりセクシーな女』って」
そう言いながら、日紗子さんは、恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めた。シャワーも浴びずに、ふたりは唇だけでなく、お互いの身体中にキスをし、激しく抱き合った。ひとつにならなくては気がすまないかのように。
「六年ぶりくらいのセックスでしたけど、彼はそのあたりもわかってくれていたから、激しい情熱を見せながらも、丁寧に扱ってくれましたね。彼が入ってきたときは、体の内部から潤っていたから痛くはなかった。その直後に、もう激しい快感の波が来て、あとは何もわからなくなっていました」
セックスしたいという潜在的な欲求があったから、それほど快感があったのか、彼への恋心が芽生えていたから感じたのか、こればかりは判断のしようがない。個人的には、密かに前者の方が強かったのではないかと思ってしまうが。
すべてが終わって、彼がぽつりと言った。「これからも会えるかな」と。そこで初めて、日紗子さんは我に返る。親友は、彼女の病気のとき、たびたび病院に来て励ましてくれた。退院後も、沈んでいるときにはすぐに電話をくれたし、食事に誘ってくれた。仕事が見つかったのも彼女のおかげだ。そんな心優しい親友を裏切ってしまった。日紗子さんは、ベットから飛び起きた。
「『私、彼女を裏切ってしまったのね?』と叫んでしまいました。彼は、『僕も同罪だよ。今までこんなこと、したことがなかったんだ』って。ほんとか嘘か分かりませんが、そのとき、少しだけ嬉しかった。私は男の人から女として見られたんだって思えたから。本当はそこでやめておけばよかったんですよ、ふたりとも」
携帯電話を使って連絡を取り、ふたりはそれからも、月に一度か二度、時間を作って会った。帰り際に、いつも「もう会うのを止めよう」と思うのに、連絡を待つ自分がいた、とかのじょはいう。親友には心の中で、いつも拝むような気持だった。
同時に、ばれないでほしい、いつまでもこの逢瀬が続けばいい、とも感じていた。矛盾しているが、それが日紗子さんの本音だろう。こうなると、恋心は加速していく。もはや、「したくて会いたいのか、好きで会いたいのか」などとは言っていられない。渾然一体、ひたすら相手を思い、ひとつになれる時間を心待ちにするような日々が過ぎる。
「私は当然、彼女とのつきあいも続けていたんです。いつも心苦しいかたけど、私たち、それまでも余り自分の夫たちの話はしていなかったから、なんとか彼女に会うことができていた。だけど、半年くらい前に会った時、彼女が急に言ったんです。『うちのダンナ、浮気しているみたいなの』って。
どきっとしたけど、『まさか。加藤さんはいまだにあなたにゾッコンみたいよ』と言ったんです。言いながら、自分でも顔が引きつるのがわかったけど、彼女はまさか私が相手だなんて思ってもいないから、『今まで浮気なんて疑ったこともないんだけど、最近、なんだか様子がおかしいのよね』と悩んでいる。彼女を傷つけるわけにもいかない、と思ったけれど、それでもやめることができなかったんです」
裏切った女と、裏切られた女
彼には携帯電話に気を付けるように、と口を酸っぱくして言っていた。彼女が疑っているようだ、ということも話していた。それなのに、関係が始まって一年ほどたったとき、すべて親友にばれてしまった。
「今から三ヶ月ほど前ですが、やはり携帯からばれました。彼がたまたま私のメールを消し忘れていたようです。それを、疑っていた彼女に見られてしまったんですね、私はいつもは、たわいもないことしか書かないようにしていたのに、その日に限って、『会うたびに感じ方が強くなっているの。どこまで感じていくのか自分でも不安になるくらい』
なんていう怪しい文章だったんです。実はその前の晩、あまりに感じ過ぎて、私、失神しちゃったんですよ。彼が心配してメールをくれたので、それに対する返信だったんです。これは動かぬ証拠ですやね」
その日のうちに、日紗子さんは彼女に呼び出された。仕事帰りに彼女の待つ喫茶店に行くと、彼女がいきなり日紗子さんに自分の携帯を突き付けてきた。それは日紗子さんが彼に宛てたそのメールの文章を写真に撮ったものだった。
「私は何も言えませんでした。『あなたが私を裏切るなんて、思ってもみなかった』と彼女は、妙に淡々と言いました。本気で怒っていて、本気で傷ついている。だからあれほど、淡々と無表情だったんだと思う。『何度寝たの?』と、
彼女が冷たい声で聞きました。私はそれでも何も言えなかった。謝ることもできなかったし、言い訳も考えつかなかった。何もしてない、と断言してしまえばよかったのかもしれないけど、あの文章では言い逃れもできませんし…‥。
黙りこくる私の顔に、彼女はコップの水を思いっきりぶちまけて席を立ちました。喫茶店中の人が私を見ていた。情けなかったです』
裏切った女と、裏切られた女。どちらがどれほど情けなくて、どれほど惨めなのか。日紗子さんの罪は確かに重いが、それも相手があってのこと。失神するほど相性のいい相手だったら、離れられないのもしかたないかもしれない。
余談だが、好きな相手を殺してペニスを切断、「猟奇事件」として有名になった昭和初期の阿部定事件で、ときの裁判官は、「ふたりの相性は稀にみるよさだった」と言っている。定は当然、厳罰に処されているが、裁判官から見ても、「あまりに肉体的相性がよかったために離れられなかった」ということを認めざるを得なかったのかもしれない。男と女には、善悪を超えて、こうした運命が横たわることがある。
その後、彼が妻に対してどういう対処したのか、日紗子さんは詳しいことはしらされていない。ただ、彼は、「ひとまず事態は収まったけど、慎重にしよう」とだけ言った。
「私も怖くてそれ以上、聞くことができなかった。彼とはどうしても離れられないから。彼に言われて、私は携帯の番号もメルアドも全部変えました。親友とはそれっきり会っていません。
気になるけど、私から連絡できるはずもないし…‥。今でも彼女から何か言ってくるんじゃないかと、戦々兢々としています。私の夫にばらされる可能性もありますから。一歩間違えば、私がすべてを失うかもしれない。それでも彼と離れることだけは考えられないのです」
この執着が何処から来るのか、それもまた考えても仕方がないことなのだろう。苦悩しながらも、日紗子さんは充実した顔をしている。何もない日常より、茨の道であっても愛する人がいる日常が、彼女を勇気づけているのかもしれない。一般的に、彼女が許されることをしているとは思えない。それでもやはり善悪だけで彼女を糾弾することなど、他人にはできないのではないだろうか。
づつく
第3章 いい夫を愛せない自分が悪いのか
煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。