男を買う。セックスを買う。自分にそれができるのか。だが、してみないとオーガズムは、手に入らない。バイブで初めての「快感」が忘れられなかった。もっともっと強い快感を一度でいいから味わいたい。女として、女なんだから、本当の女になるために。 

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女の残り時間 ときめきは突然、やってくる 亀山早苗著

本表紙

 主婦という「重荷」下して

身も心も叫んでいる

女性たちが自由に生きられる時代になったと言われて久しい。だが、本当にそうだろうか。確かに職業や生き方の自由は広がった。その一方で、若い女性たちは、「恋愛にのめりこめない」「結婚に希望がない」と悩む。

 では、大人の女性たちは幸せなのか。いろいろ取材を重ねてきたが、大人の女性たちはもっと混とんと思いを抱えているように見える。夫や恋人とのセックスレスに悩んでいる女性の多さには驚くほどだ。それはセックスだけの問題ではなく、心の領域にも入り込む、愛されていない寂しさ、女として見てもらえない辛さは、年齢を経ると共に大きくなっていく。

自分自身が、「ときめきのない人生」を送っていることに、うんざりしている女性も少なくない。ときめきたい、愛されたいと身も心も叫んでいるのかもしれない、私を含めて誰もが。

「私もそうでした。一年前までは」
 と言うのは、都内に住む瑛子さん(四四歳)だ。中肉中背、パステルカラーのニットのアンサンブルがよく似合う、かわいらしい感じの女性だ。三歳上の夫と結婚して二〇年になる。二人の娘は大学一年生と高校三年生。夫は、名前を聞けば誰もが知っている一流メーカーの部長職だ。

「ごく普通の結婚生活、ごく普通の家庭生活だと思います。マンションのローンがつらかった時代もあるし、娘たちの教育費に家計が圧迫された時代もあった。でも、下の娘が高校に入ってほっとしたとき、ようやく私は『母親』という重荷が少し軽くなりました」

 母としての役割は、一段落した。そう思った瞬間、瑛子さんを極度の空虚感が襲った。三十代後半から、かつて勤めていた銀行の関連会社でパートをしていたのだが、その仕事に行くも辛くなる。

「何のために生きてきたのか、と急に自分を振り返るようになったんです。それは夫との関係を考えることにもつながりました。夫は別に暴力を振うわけでもないし、娘たちをとても可愛がっている、いい父親です。

でも、いつの間にか、男女というより夫と妻、父親と母親、という役割の側面が大きくなったような気がします。長年、一緒にいるのに、本当にこの人と心が通じ合ってきたのかな、とふと思ってしまったんですよね。私は女として幸せなのか、これでいいのかという思いがだんだん強くなっていきました」

 結婚生活は、確かに男女としての情熱を損なっていく。結婚が「生活」である限り、それは避けられない。男と女のぎりぎりの「恋心」は、非日常の場においてこそ輝きを放つのだから。
その代わり、結婚の場では、別の愛情が育つ。家族として、同志としての大きな愛情が。

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 瑛子さんが「女として幸せなのか」と言う裏には、おそらくセックスのことがあるのだろう。
単刀直入に聞いてみた。

「私三五歳くらいの頃から、セックスは年に一、二回あるかないか。酔って帰ってきた夫が、私のパジャマのズボンと下着だけ脱がせて、何度か出し入れして終わり、というセックスです。夫はもともとあまりセックスに関心がある方じゃなくて、自分の欲望を処理するだけ。

そんなものなのかなと思っていましたかが、私、四〇代に入ってから、妙に人肌が恋しいことが多く。うちはシングルベッドを二つ並べて寝ているんですけど、手を伸ばせば夫がいるのに、手を握ることも抱き合うこともない。それが寂しくてたまりませんでした」

四〇歳から花開く

 三十代の女性たちは、まだ子育てに忙しい。子どものことが第一だから、夫婦生活が間遠になっても、それほど気にも留めない、ところが子育てが一段落すると、やはり自分の事に目が行くようになり、考えは夫との関係にも及んでいく。

そして気づくのだ。女として満たされてこなかったことに。四〇代になると、女は嫌でも「老化」に向き合わざるを得ない。どんなに見た目が若くても、女としてきれいに装うっていても、肉体的には着実に老いていく。

以前、シャワーを浴びると湯を弾いていた肌は、いまや湯になじんでしまう。男を惹きつけられるのは、やはり「若さ」だと女は本能的に知っている。だから老いを怖れる。男に見向きもされなくなるとき、どれほど絶望感を抱くか、自信を喪失するか、現実を見たくないのだ。

「セックスがしたい、それも気が狂うほど激しく」

 瑛子さんの頭の中には、常にそういう思いが渦巻いていく。雑誌の「恋をしてこそ女」「セックスが女をキレイにする」といった記事をみると、どきっとした。鏡を見ては、目尻や口の脇の皺(しわ)にため息をつく日々が続いた。

これではいけない、とパートの合間に、フラメンコ、彫金、手芸などいろいろ習い事を試してみた。それでも心は満たされない。
「女としてこのまま終わりたくない。それが強迫観念みたいになったんです」

 私の怪訝(けげん)な表情に気づいたのだろう、瑛子さんは言葉を置き換え、鋭さの感じられる声で早口に言った。

「私、オーガズムというものを知らなかったんです。夫が二人目の男性で、最初の人とは一度きりの関係だった。このままじゃ、どうしても嫌。なんとしても、いまのうちに女として満たされたい。そうでなければ、死んでも死にきれない、とまで思い詰めてしまったんです」

 三〇させ時、四〇はし時、という言葉がある。女の性は四〇歳から花開くと考えてもいいだろう。身体が熟し、精神的にも大人になっている時期だからこそ、性感も豊かになる。

 私も四五歳、確かに性欲は、若い頃より強くなっていると思う。それは一度一度のセックスで感じる快感が深まっているせいだ。より深く、もっと深く、と貪欲さは底を知らない。
それでも、いつまで私をセックスの相手として見てくれる人がいるのか、と不安になることも多い。現に、見てもらえない場合も増えてきていると身に染みてわかっている。

 肉体的現象もある。つい先日、生理が不順になり、産婦人科で女性ホルモンの量を測ってもらったばかりだ。結果は、三十代前半の女医さんが、「私より多い〜」と笑うほどだったから一安心した。

だが言い換えれば、女性ホルモンの量が多い、とほっとするのは、それだけ女としての時分に不安がるからだ。だから、瑛子さんの「女として、このまま死んでも死にきれない」という気持ちはよくわかる。

いかに女性ホルモンの量が多くても、男と女として見てもらえなければ、女として扱ってもらえなければ、意味がない。抱きしめてくれる男、自分を欲してくれる男がいるかどうかは、私にとっても切実な問題だ。

 瑛子さんは、悶々とした日々を過ごしてきたという。自分で自分を慰めることも多くなった。だが、虚しさは消えない。夫も娘たちも。毎日、溌溂(はつらつ)とした日々を送っているように見える。自分だけが取り残されている。だが、このまま終わりたくない、と――。

 そんなとき、パート先に新しい上司がやってきた。今からちょうど一年半前の事だ。
「短大を出て勤めた銀行を結婚でやめ、また関連会社で働きだしたんですが、なんとその上司は、独身時代から知っている人だったんです。奇遇でした。

彼も新しい職場で緊張しているせいか、よく私に話し掛けてきましたね。懐かしさもあって、食事に誘われたときも抵抗はありませんでした。それからたびたび食事を共にするようになったんです」

 以前、その七歳年上の先輩・和雄さんは仕事に厳しくて有名だった。だが、再会した時には、彼も苦労してきたのか、人の気持ちがわかる優しい上司に変貌していたという。

「毎週のように食事やお酒をともにしながら、いろいろなことを話しました。最初は上司としての好意しかもっていませんでしたけど、ある日、彼が自分の挫折の事をちらっと話してくれたんです。

彼が関連会社に出向してきたのは、派閥争いに巻き込まれて仕事の責任を取らされたから。そういえば、昔はエリートと言われていたのに、と思いだしました。私は組織のことはわからないけど、男の人は大変なんだなあ、とほろりとして、急に彼が愛しくなってしまったんですよね」

 狂おしい気分

その晩、瑛子さんは店を出ると、「まだ別れたくない」と言ってしまった。自分でも意外なほど、気づいたらそう言っていたのだという。彼は黙って瑛子さんの手を握り、ホテルの街へ歩き出した。大人同士、暗黙の了解がすでにできあがっていた。秘密の共有は欲望への道に加速をつける。歩きながら、瑛子さんは自分の下腹部の奥が期待と不安で、きゅっと締まるのを感じたという。

「どうしてあんなに大胆な行動がとれたのか、自分でも不思議でした。浮気したいなんて思ったこともなかったのに」

 だが、何年にもわたって「女として満たされない気持ち」がくすぶっていたのだ。そこを刺激されれば爆発するのは目に見えていたはず。それでも、女は自分に対する言い訳が必要なのだ。酒け、男の弱さ、そして愛しさ。すべてがベストの言い訳になる。

「彼は私に迷ったり考えたりする時間を与えなかった。浮気慣れしているな、と一瞬思ったけど、それでもいいかと思わせるほど、心地いい男の強引さに酔いました。ホテルの部屋に入ってからも、彼はまったく逡巡することなく、私を抱きしめて熱いキスを交わして‥‥。

『あのころの瑛子さんより、いまのほうが魅力的だよ』と言ってくれたんです。このひとことは嬉しかったですね。こっちはやっぱり、もう若くないという負い目がある。彼は、そういう私の不安を拭い去ってくれた」

 熱いキスのままベッドになだれこむ。シャワーを浴びる余裕もなく、瑛子さんは全身に彼の唇と、繊細な指使いを感じ取っていた。前戯だけで、瑛子さんはそれまで経験したことのない、狂おしいような気分に陥ったという。五〇男の手慣れた技巧に、瑛子さんは獣のような声を上げた。太もも伝った瑛子さんの液体が、シーツを濡らしていくのもわかったという。

自分から、彼のモノを咥(くわ)えた。何年ぶりか分からないくらいだったから、それだけで頭の芯が痺(しび)れるくらい興奮した。夫のモノなど、口に入れたら吐き気がするのに、彼のモノは愛しくてたまらなかった。

「恥ずかしいんですけど、彼が入ってきたとき、それだけで気が遠くなりそうでした。夫と比べては悪いけど、彼のはずつと大きくて、それを私自身が包み込んでいるような。それでいて、私自身が攻められているような、とても不思議な感覚。とにかく気持ち良くて、自分でも何を言っているのかわからなかった。あとから聞いたら、『死んじゃう死んじゃう』って泣き叫んでいたそうです(笑)」

 これはあんまりな言い方だけど、と瑛子さんは笑いながら、「気持ちがよすぎて、気分が悪くなって、内臓から口から飛び出しそうだった」と言った。わかるわかる、と私も笑った。確かに突出した快感は、ぎりぎりの線を越えると、ある種の苦痛につながることもある。

「だけど」
 と瑛子さんはしみじみした口調になる。
「いま振り返ると、あのときは、本当に砂漠に水がしみこむような感じだったなと思います。自分が考えていた以上に、私はセックスを求めていた。いや、セックスという行為そのものもそうだけど、『女として求められる』ことを望んでいたような気がします」

 奥さんへの嫉妬
 それ以来、瑛子さんは和雄さんと月に一、二回の関係を続けている。つい先日、つきあって一年を超えたところだ。お互い家庭を壊さず、時間があるときに会って、語り合って、ベッドを共にしようと、と話は一致していた。

「恋してる、という実感があった。ずっと幸せだったんです」
 そう言いながら、瑛子さんはいきなり目を潤ませた。恋の苦しさから、己の罪深さからか、それにしてもなぜ過去形で話すのだろうと見ていると、彼女は意外な事実を打ち明けた。

「実は私、彼の奥さんと同じ彫金の学校に通っているんです。それがわかったのは、つい最近。よくある名字だし、彫金の学校ではあまり私生活については話さなかったけど、たまたま学校の帰りに彼女とデパートの地下であったんです。時間があるならお茶でも、ということになって。そのとき、彼女が夫の仕事のことを話したので、わかってしまった。私がパートで同じ会社にいることは言っていません。

また、奥さんと学校が一緒だ、ということを彼にも言っていない。ただ、それ以来、自分の中で急速に嫉妬の塊が大きくなって‥‥。奥さん、いい人なんですよ。だから苦しい。でも話を聞くと夫婦仲がいいみたいで、それは憎い。自分がどうしたらいいのか、わからなくなっているんで」

 どちらにも言わず、瑛子さんは不倫の恋を続け、趣味の場では、男の妻と友達付き合いをしている。

「彼への執着が増しているような気がします。彼に抱かれると、嫉妬の塊が身体の中から飛び出しそうになる。だけど、嫉妬しながらセックスすると、今までよりもっと鋭い快感の波がやって来るんです。この前なんて、彼に腰を持ち上げられながら突かれて、つい私、失神してしまったんです。

彼は『家ではこんなことはしないよ』って言うけど、奥さんの穏やかな顔を見ていると、女として満足しているに違いない、と思う。私の大事なあの人のアレが、彼女の中にも入っていると思うと、ときどき、身体中が火照って苦しくなるんです」

 不倫であっても、ふたりの間だけで関係が成り立っているなら、それは「恋」ということができる。だが、妻の顔を知ってしまった今、瑛子さんの苦悩は増す。彼女が耐えられなくなったら、お互いの家族を巻き込んでしまう危険性が大きい。一方で、嫉妬が快感を増幅させてもいる。それを楽しむには、相当な精神力がいりそうだが。

「この先どうなるか分かりません。でも、彼との関係がなくなったら、私は生きていけないと思う。つらいけど幸せ、と言えなくはないんです」
 大人の恋だ。明るく楽しいことばかりではない。恋に身をやつしながらも、瑛子さんの表情き、やはり輝いていた。

 出会い系サイトから始まった恋の明暗

 恋に落ちたんだ

普段の自分なら決してしないようなことを、人は、あるときふっと、してしまうことがある。後から考えれば、そこに心の隙があったのか、魔が差したのか、いずれにして、その瞬間は、深い思いがあってしたわけではない。それがのちのち、「運命の恋」と有頂天になるか、「大失敗」と落ち込むかは結果次第と言えるのだろう。

 出会い系サイトにアクセスしたことのある多くの女性たちが、
「いつもならしないのに、あのときはなぜかアクセスしてしまった」
 と話す、なぜ「あのとき」だったのか。出会い系で知り合った男性と、ほんの短期間、つきあっことがあるという都内在住の主婦、今野敏恵さん(四三歳)は、夫の浮気さえなければと、悔しそうに語った。

「三年前のことですが、夫が浮気していることがわったんです。相手は職場の部下で、家に遊びに来たこともある。夫は『たった一回の過ち』と言い張りました。でも、少なくとも半年くらいは続いていたと思う」

 結婚して一三年で、初めての裏切りだった。敏恵さんは、ひたすら謝る夫を責めることさえできず、悶々としていた。十一歳と八歳の子どもたちを連れて実家に帰ろうかとも思ったが、子供たちの学校の事を考えると、自分の勝手はできない。悶々とするしかなかったのだ。そんなとき、携帯電話に入ってきた、出会い系サイトの広告につられ、アクセスしてしまう。

「年齢を四つほどサバ読んで、『三六歳主婦、夫の浮気が分かって落ち込んでいます。真面目に話せる人いませんか』って書き込んだら、二日で百五十件ほどのメールが来ました。その中から真面目そうな人を選んで、メールのやり取りを始めたんです」

 相手は神奈川県に住む三九歳のサラリーマンで、病気がちな妻と一〇歳の息子がいるという。相手にも家族がいること、写真を交換している安心感も手伝って、一ヶ月もたたないうちに、メールの内容は恋人のそれと変わらない熱さになっていった。

「恋に落ち込んだ、私、と思いましたね。朝から夕方まで、携帯を手放せなかった。もう会うしかない、会いたいという思いで一杯になってしまった。夫の浮気どころの話じゃありません。そのころにはそんなこと、頭から飛んでいました(笑)。相手もどんどん熱くなってきて、一ヶ月ほどたつころには、もう会わずにいられなかった」

 ときめいた。一週間も前からデパートに出かけ、新たらし洋服を買った。中肉中背だが、敏恵さんは胸が大きい。そのとき選んだのは、その胸を強調するような、胸元が大きく刳(く)れたサマーセーターだった。女は恋すると無意識のうちに、自らの”女”を前面に出すようになる。

「当日、待ち合わせの場所に向かう時は、心臓が口から飛び出しそうでした。会った瞬間も違和感はなかったですね。写真と同じイメージ、彼は躊躇(ちゅうちょ)することなく、落ち着いた喫茶店に案内してくれました。事前に調べておいたのかも知れませんね。そこでゆっくり話すことができたんです」

 だが、話している間も、敏恵さんは落ち着かなかった。気持ちは沸騰したままだ。相手の耳や指を細かくチェックしていた。
「清潔感があったので合格、と心の中で思ったんです」

 それでは、その時点ですでに、彼と寝ることを考えていたということだろう。私がそう言うと、彼女は言下に否定したが、潜在意識の中には、おそらくそんな願望があったはずだ。

「ふと途切れたとき、彼がテーブルの上で私の手に自分の手を重ねて、じっと目を見て『静かな所で、一緒にいたい』と言ったんです。男の人にじっと見つめられるなんて、結婚以来、初めての事だもの、こっちも魔法にかかったみたいに頷いてしまいました」

 ホテルに直行、彼と濃密な時間を過ごした。敏恵さんは、夫のセックスがなくなっていたわけではない。浮気が発覚した直後も、謝りながら求めてきた夫を受け入れていた。だが、実は結婚以来、いつも「演技」をしていたという。

「セックスは嫌いじゃない。というか、求められる自体は嫌いじゃないんです。だけど、実際にはあまりいいと思った事がないんですよね。そこそこ気持ちがいい程度で、強烈な快感は知らない。でも、そんなものでしょう、と思っていたんです。ところが、その男性とは違っていました」

 キスだけでとろけそうになった。互いに、相手の舌を執拗に求め合う。歯の裏側を舌で撫でられたとき、膝の力が抜けた。さらに身体中を念入りに愛撫され、背中を唇と舌で撫で上げられると全身が震えた。敏恵さんも必死で、相手の性器を咥える。相手のうめき声を聞くのが嬉しかった。

「彼が入ってきたとき、ものすごい熱さを感じたんです。入れられたままキスを繰り返して、すべてが溶けていくような気がしました。彼は『素敵だ』『こんな気持ちのいいのは初めてだよ』って、囁(ささや)いてくれるし。これがセックスというものなんだ、恋しているとセックスってこれほど素晴らしいものなんだ、と思ってただひたすら、獣のようにお互いを貪り合いました」

 それから一ヶ月のうちに三回、会った。敏恵さんは恋している自分を止めようがなかった。
 どんなに冷静でいようと思っても、彼とのセックスを思い出すと、身体が熱くなり、家事の手が止まる。生まれて初めてマスターベーションもした。真っ昼間、太陽がさんさんと降り注ぐ台所で。彼の指使いを思い出しながら、ひたすら彼とのセックスを復習するかのように自分を慰めた。

地獄に突き落とされる

ところが、ある日、「早く会いたい」と打ったメールが返信されなかった。電話もつながらない。彼が勤めているはずの大手メーカーに電話してみたが、該当者はいないという。住んでいる場所は神奈川県ということと名前は聞いたが、本名かどうかさえ分からない。

「そのときふと思ったんです。恋していたのは私だけではなかったか、と。私は気持ちが煮詰まってきていたから、『家庭を壊す気はないけれど、いつかあなたと暮らせればいいと思っている』とか、『今すぐ飛んでいきたい』とか、相当、恋愛ムードが強かったんです。身体を重ねる回数が増えるほど、私の執着は募っていった。

だけど、三回目に会った時、彼のほうは少しテンションが低かったかもしれない。もちろん、それは電話がつながらなくなったとき思い返して、何となくそうそう感じた、ということなんですけど。わたしがどんどん盛り上がっていくから、彼の方はうつとおしくなってしまったんでしょうね」

 今だから、そんなふうに納得して話せるようになった、と敏恵さんは言った。それでも目は潤んでいる。当時は「彼に捨てられたショック」で、何も食べられなくなって一週間で三キロも痩せたという。四〇歳を目前にして、生まれて初めて大恋愛をし、天国に舞い上がるような気持だったのに、たった二ヶ月で地獄に突き落とされたのだ。その辛さは想像するにあまりある。

「気づいたら、季節は秋になっていました。ところが子供たちはまだ夏の服を着ている。憑(つ)きもの落ちたように、はっとしました。いつもなら、少し涼しくなると『いつまでも薄着じゃ風邪をひくよ』と口うるさく言うのに‥‥。私、自分の恋愛にかまけて、ろくに子どもの世話もしてなかったんですね。

改めて家の中を見渡すと、台所のシンクの隅とか洗面所とかが、どことなく薄汚れている。自分の気持ちが家になかった、と気づきました。だからといって、彼への執着がなくなったわけじゃないんだけど。もうどうにもならないと思えるまで三ヶ月くらいかかりました」

 遊ばれたのか
 彼との時間はいったい何だったのか、自分の熱い恋心は本物だったが、彼のそれも本物だったと考えていいのか。自分は愛されたのか遊ばれたのか。彼がいないのだから、聞くことはできない。答えも出ない。三ヶ月たったとき、敏恵さんはようやく一つの結論を出した。

「私は恋をした。それ以上でもそれ以下でもない」
 恋に成績をつけることもあるまい。いい恋か悪い恋かを決める必要もないだろう。そう思うことで、かろうじて自分を貶(おとし)めずにすんだのかもしれない。なぜなら、それでも恋をしてよかったと思えるか、と尋ねたときの敏恵さんの答えが「わからない」だったから。三年前のひと夏の思い出は、まだ敏恵さんの心の中で消化されてはいない。

「我を忘れるような恋」は、彼女にはいまだに生々しすぎて整理できていないようだ。ときおり、「せつない」「苦しい」という言葉を吐いては、敏恵さんは涙を振り払うように目をしばたかせた。

 敏恵さんがそれほど自身の恋で右往左往していたのに、その間、夫は気づかないようだったという。
「夫との間は、淡々としています。月に数回はセックスしている。ただ、私の気持ちの中では、あくまでも夫の浮気、私の恋、だから違うんだ、という思いがあるんです。冷静に考えれば、どちらもただの浮気なんでしょうけど」

 彼女の思考は、常にそこに戻る。相手の気持ちを忖度しても始まらないが、やはり彼としては、敏恵さんの熱さをもてあましたのだろう。もしかしたら、最初から数回で止めておくつもりだったかもしれない。敏恵さんの恋心を弄(もてあそ)ぶような側面が彼になかった、とは言い切れない。

もし、もう少し関係が続いて、納得ずくで別れれば、敏恵さんの気持ちももう少し沈静化できていたはずだ。だが、修羅場にならずにすんだのは、彼が適度なところで去ったから、ともいえる。

 短期間だったから恋ではなかった、と決めつけることはできない。あれほど熱い思いを味わっただけでもよかったんじゃないかということもできる。いずれにしても、家族に知られることもなく、短期間とはいえ、心身共に恋愛にのめり込むことができた。それを良しとするかどうかは、敏恵さん次第ではある。

 パソコンで「出会い系サイト」を検索すると、実に千二百五十万件が引っかかって来る。出会い系で会って、相手に貢がされたという女性もいる。逆に、すでに何年も親密なつきあいが続いていて、お互い年を取って配偶者がいなくなったら一緒になろうと約束している、という女性もいる。出会い系というと、どうしても「危険」「事件」というイメージがあるが、必ずしもそうとは限らない。

 出会い系で会った恋人と、二年ほど関係が続いている、という中部地方に住む小倉香奈子さん(三八歳)に会った。同い年の夫と結婚して九年、七歳のひとり息子がいる。香奈子さんは、化粧品関係の会社で、部下を四十人もつほどのキャリア・ウーマン。

 電車で一時間ほど離れた場所に住む大輔さん(四二歳)とは、出会い系で知り合い、月に一、二回会っている。香奈子さんも働いているから、彼に合う時は、夫に残業だとか飲み会だとか適当に理由をつける。子供は、近所に住む香奈子さんの母親が見てくれるから安心だ。

「夫は本当にいい人なんです。子供好きだし、家事もよくやってくれる。私の仕事にも理解を示してくれるし、私が社内の昇進試験で必死だったときは、すべての家事を一ヶ月以上、引き受けてくました。生活していく上で、夫以上のパートナーがいるとは思えない。ただ、本当に申し訳ないけど、夫にはときめきがなくて。夫が求めてくればセックスはしますけど、

夫は余り好きでないみたいだから、せいぜい年に数回。私はもっと野心を持って、夢に向かって突っ走るような人に『男』を感じるんです。出会い系にアクセスしたのは、部下の女性に出会い系で会った男との関係を相談されたのがきっかけ。

どんなものかやってみよう、という軽い気持ちでした。相手は、友人が立ち上げた出会い系サイトに、義理でたまたまその日、アクセスしたんだ、とあとから言っていました。まさに運命の出会いとしか言いようがない」

 人生のパートナー

 相手の大輔さんは、三十代で起業し、現在はグループ会社をいくつも持つほどのやり手社長。強引でわがままで、ときに振り回されることもあるが、それでも香奈子さんは、「惚れ続けている」のだという。

「彼には家庭もあります。案外、家ではいいお父さんなんじゃないでしょうか。仕事が忙しいのに、趣味でバンドもやっている。私も影響で、前から興味のあったジャズボーカルを習い始めたんです。いつかセッションしたいね、と言っています。彼との関係には、進展があるんですよね。お互いよりよく変わっていこう、もっと人生を楽しみたい、豊かにしよう前向きな感じがある。夫との間は固定化してしまっている。もちろん、家庭としてはうまく行っているからいいんですけど‥‥」

 香奈子さんは突然、言葉を切った。彼との関係を心地よいものとし受け容れながらも、不安がないとも言えないのだろう。固定化して変化がないということは、安定とも言える。逆に恋愛には変化があり、その不安定さが常にいい方向へいくとは言い切れない、と彼女自身がわかっている。

「でも私は、彼が人生のパートナーだと思っています。生きることへの姿勢が似ているんです。一緒にいると、『生きている』かんじがする。出会い系で会ったことは、最初は気になりましたけど、今は心配していません。どこで知り合おうと、お互いの気持ちが大事ですから。私たちはたまたま、出会うべくして出会ったんじゃないかしら。もし出会い系サイトで会っていなくても、いつかどこかで必然的に出会えていたと思うんです」

 夫や子どもに対して罪悪感がないわけではない。それでも彼と会うのは、「自分自身が生き生きと日々を過ごすため」と、香奈子さんは遠慮がちながら、きっぱりと言い切った。

 恋と家庭。両方を必要とし、割り切ってどちらも上手くやれるのは男性だけではない。今や女性も、家庭と恋、夫と恋人を分けて愛せる時代になっているのかもしれない。

セックスしない女は女じゃない?

 世界で最もセックスの少ない国

 世の中ではセックスレスという言葉をよく聞くが、それは本当なのだろうか。世界的なコンドームメーカー・デュレックスの二〇〇五年の調査によると、アフリカを除く世界四一カ国三十一万七千人のアンケートで、日本はセックス頻度ダントツ(?)最下位だったと発表された。一位はギリシアで、平均年百三十八回、アジアの国々は平均的に欧米よりは少ないのだが、それでも日本人の平均四五回というのは、群を抜いて少ない。その結果を見て、私の周りでは、「そんなに多いの! 嘘だ、この調査」と言っている男女が多かった。一般的な人々の実態は、もっと少ないと見てもいいのかもしれない。

 いったい、どのくらいの期間、既婚で心身共に熟した女性たちがセックスから遠ざかっているのだろう。
「結婚して十年たちます。上の子が八歳、下の子が五歳。夫と最後にしたのは、下の子の七五三のときだったら、もう丸二年していません」

 そう話してくれたのは、美容師の山崎夕美さん(三十八歳)だ。二歳年上の夫は、世間では名の通った会社に勤めている。友人の紹介で知り合い、二年の交際を経て結婚した。ごく普通の恋愛で、ごく自然ななりゆきで結婚したという。

「夫のことは大好きだったから結婚したんです。今でも好きですよ。でも、子供ふたりいて、共働きだと、日常生活に追われて、夜はお互いバタンキューというのが本当のところなんですよ」

 男同士で飲んでいるみたい
 夕美さんは、勤め先の美容院に頼み込んで、週五回、夕方六時までの勤務にしてもらっている。オーナーが友人だからこそ、通ったわがままだ。それでも、朝は夫と上の子を送り出し、下の子を保育園に連れて行き、いったん家に戻ってきて家事を済ませて十時に出勤する。

夕方六時まで、昼食もそこそこに休むことなく働き、保育園に下の子を迎えに行って、上の子が待つ自宅に戻る。上の子が塾に行っている時は、夜八時ごろ、夫と交代で塾に迎えに行くこともある。

 夕飯は、下の子と二人でだけの日もあれば、夕美さんと子供達だけの日もある。どうしても夕美さんの指名の客がいれば、夫が早めに帰宅して、夫と子供たちだけで食事をすることもある。一家そろって食卓を囲めるのは、週に一度がせいぜいだという。

「日常生活って雑多が多いでしょう? やれ銀行だの郵便局だの、子供の学校の行事だの。本当は下の子が学校に上がるまでは、週四日勤務にしていたんですが、私でなければと言ってくれるお客さんの事を考えると、なかなかそれを言い出せなくて。
それに、あまり勤務数が少なくなると、クビになる恐れもなくはない。美容師なんていっぱいいますから」

 夕美さんは腕のいい美容師という評判なのだが、それでも自分の立場は盤石のものだと考えていないようだ。

「睡眠時間は、五時間あればいいほうですね、夫はいろいろ協力してくれますが、彼も仕事が忙しくて、かなり疲れている状態です。お互いに、セックスをするより眠りたい、という気持ちじゃないでしょうか。そのあたりはきちんと話し合ったことはありませんが」

 それでも、このままでいいと思っているわけじゃないという。
「人をきれいにするのが仕事なのに、自分は女を忘れたようになってはいけない、とよく思うんです。髪だけは商売柄、整えていますけど、肌の手入れも化粧もおざなり、ごくたまに、夫とふたりで子どもたちが寝た後、のんびりお酒を飲んだりするんですが、『まるで男同士で飲んでいるみたいだ』って夫が言うんですよね。スーパーで買ったジャージの上下なんて着ていたら、色気は感じないでしょう」

 夕美さんは、ハハハと大きな声で笑う。明るくって気っ風のいい女性だから、友達も男女問わず多いらしい。
「それでもふと思いますよ。こまま三年、五年と夫とは何もなく過ぎてしまうのかなって。どう思っているのか、夫に聞いてみたいと焦ることもあるんですが、それもまた日常生活に取り紛れてしまう‥‥。

四〇歳も近くになってきたら、このまま『オバサン道』を突き進んだらいけない、とは思っているんですが。夫ですか? 浮気? まさか、とは思いますが分かりません。そこまで疑っている時間がないと言うのが本音です」

 そう言いながら、夕美さんはちょっと不安そうな表情を浮かべた。引っかかる所があるのだろうか。
「そういえば以前、夫が求めてきたとき、私、とても疲れていたので拒否したことがあったんです。それっきり夫は誘って来なくなった。気にはしていないと思うんだけど、私からもそのことには触れられなくて‥‥。夫婦であっても、性についてはなかなか話し合えませんね」

 夕美さんは、心のどこかで気づいている。自分が拒絶したことから端を発しているということに。
以前、四十代前半の男友達が言っていたことがある。

「ある晩、隣に寝ている妻に手を伸ばしたら、『疲れているから嫌』って背中を向けられたんだ。あのときの虚しさといったらなかった。それ以来、自分からは一度も誘っていない」

 彼によれば、男のプライドが傷つけられたということだろうか。断り方にしても、「嫌」という言い方はないだろう、というのが彼の言い分だった。子供が可愛いし、妻を嫌いになっているわけではないけど、彼はときどき、外で浮気を繰り返している。「男として」妻に見られないことが、彼を寂しい気持ちにするそうだ。

 夫も妻も、性に関しては些細なことで不安になったり自信を無くしたりしていく。恋人同士なら話せることも、夫婦という役割を担う立場になると、急に「話せないこと」と封印してしまう。

 セックスレスは、数年どころか十年、二十年に及ぶケースも少なくない。結婚して二十年、セックスレス十五年という女性、橋本涼子さん(四三歳)に会った。四歳年上の夫は、とある大手企業の部長職にあり、経済的にも恵まれているという。ひとり息子はすでに大学生になり、親元を離れた。

「主人は私が働くのを嫌がったので、私はずっと専業主婦です。三十代からいろいろ習い事はしていますが、これといって夢中になれるものがない。子供が離れた今、学生時代の友達などに会うと、みんな生き生きとしていて、自分だけが取り残されたような気がします」

 マスターベーションが日課に

 本当はもうひとり子供がほしかった。だが息子は、生まれつき身体が弱く、中学に入るまでは、無事に育つかどうか不安でたまらなかった。そのため、ふたり目を産みそこなってしまったという。

「主人も息子の健康のことは、ずいぶん心配していました。息子が四歳くらいのときだったかしら、人肌が恋しくて、夜中に夫のベッドに潜り込もうとしたことがあるんです。すると夫は、『おまえは息子のことを心配するより先に、自分の快楽が欲しいのか』って。あの一言はショックでした。その晩はまんじりともせず、泣き明かしたのを覚えています」

 涼子さんは、それ以来、夫に心を開いていない。息子が中学に入って急速に丈夫になっていったとき、夫から誘いがあったが、「ごめんなさい」と短く言っては撥ねつけた。夫は遠いあの日に、涼子さんが受けたショックなど覚えていないに違いない。むしろ、自分が拒絶されたことを腹立たしく思っていたようだ、涼子さんは言う。

「結婚しているから相手は夫しかいない。だけどその夫とする気になれないのだから、私はもう一生、セックスとは縁がない。そう思い込んできたし、それでいいと自分に信じ込ませもきた。だけど、ここ数年、『本当にそれでいいのか』という思いが強くなってきたんです。

身体と気持ちが連携していると思うから、誰にも体を開かない、心までぎすぎすした女になってしまう。それが不安で怖くて、だんだん気力がなくなってしまうんですよね」

 心療内科へも行ってみた。軽いうつ病と診断それ、抗うつ剤を飲んだが気分は晴れない。頭の中には、雑誌で読んだ「セックスしない女は女じゃない」というようなフレーズがいつもこびりついている。このまま女を捨てた生き方をしていいんだろうか。かといって、結婚している身で、他の男性と関係を持つとか恋愛するという発想は涼子さんにはない。

 二年前のある昼下がり、テレビドラマでのシーンが目に入った。気づくと夢中にみてしまっている自分がいた。そして、ドラマの終わりと同時に、深いため息をつき、体が火照っていることにびっくりする。

「自分の胸に直接触ってみたら、恥ずかしいけど乳首が固くなっていたんです。触っているうちに妙な気分になって、そのまま下着の中に手を入れたら、ひどく濡れていて・・‥。私がどんなに心で拒否しても、身体は女であることを忘れてはいない。それが何だかせつなくて、涙がぼろぼろこぼれてきました」

 それからまるで日課のように、涼子さんはマスターベーションをするようになった。頭の中で妄想するのは、「顔のない男」だ。その男はとても優しく、とても強引だ。涼子さんを乱暴に押し倒すが、耳元で優しく「どうしてほしい」と懇願してくる。

涼子さんの体中を、手と唇で優しく愛撫し、特に感じる乳首は舌を固くとがらせ転がすように舐めてくれる。恥ずかしがる涼子さんの足を強引に開き、顔を埋め、激しく愛撫。自分の指で下半身をこすりながら、涼子さんは「イク」という感覚を何度も得た。

「だんだん、指だけでは物足りなくなってきたんです。それで、雑誌に出ていた女性専用のアダルトグッズの店に、思い切って電話してみました。カタログを送ってもらい、通販で買うことにしたんです。

近所の人に見つかったらどうしようと心配だったんですが、化粧品という名目で代引きしてくれるというのでほっとしました。最初はローターと小さめのバイブレーターを買ったんです」

 届いた日はどきどきした。宅配業者に料金を支払い、小さな箱を前にしても、なかなか開封する気になれなかった。これを開けたら、自分には別の世界ができるような気がして、妙な罪悪感と甘美な期待が入り交じった。

 家事を済ませてか、思い切って箱を開けた。ローターというのは聞いたことがあったが、実際には手に取るのは初めて。電池を入れて動かしてみる。小刻みに振動が伝わって来て、これをあそこ当てたら、と思うだけで下半身がじんわりと濡れてきたという。

 ローターをクリトリスに当てると、頭の中で何かが弾けた。さらにバイブレーターの威力に腰が抜けそうになったという。

 人肌が恋しい

 マスターベーションをする女性は、日本では六割程度と何かの調査で読んだことがあるが、性的な欲求を満たすなら、マスターベーションは非常に有効だ。自分で自分の欲求を解消した上で、自分なりの快感のありようも分るようになるのだから。それを「ひとりでそんなことをするのは惨めな」だとか、「好きな人いて初めて欲求がわくもの」だとか、決めつけない方がいいと思う。

 好きな人がいることと、性欲が湧くことは別だ。自分の性欲をきちんと認めて、それを解消していく術を見出すことは、女性にとって、実はとても大事なことではないだろうか。

 涼子さんは、その後もバイブを購入した。大きめでICチップ入りのものだ。人間にはできないような複雑で繊細な動きをするので、今は手放せなくなった、と話す。

 バイブは確かに性欲は満たされた。自分がどういう性的な幻想を抱いていたかもよく解った。逞しい男性に、恥ずかしい格好をさせられて、どこまでも責められ続け、「いや、いや」と言いながら、感じまくる。それが涼子さんの理想的なセックスだ。

 そして今、涼子さんは、自分の性について、少しだけ現実的に考えるようになった。
「物理的に快感は得られるし、妄想の中で、実際あり得ないようなことを考えながら昂揚感を覚えることもできる。このまま何も知らずに年を取ってしまうのか、と絶望的になっていた以前に比べたら、少なくとも私は『感じることができる女』だということが、この二年間でよくわかりました。でも、それはあくまでもひとりで、という条件付きなんですよね。

やはり誰かとセックスするのとは違うような気がする。だからといって、誰かとしてしまえばそれでいいというわけではなくて‥‥。うーん、どういったらいいんでしょう」

 涼子さん、言いたいことが伝わらない焦りからか、天を仰いでしまう。のけぞらせた白い首筋が、妙に色っぽく見える。おそらく、彼女は、夫との関係を修復したい思いに駆られているのではないだろうか。

もともと夫には不満があるものの、憎んでいるわけでもない。「あの日のこと」を話し合い、誤解がとけて気持ちが柔らかくなれば、夫との関係も変わってくるはずだ。ここまで夫婦をやってきたのだから、もう一度、修復する努力をしてみても無駄ではない。

「そう。バイブは圧倒的な快感を与えてくれるけど、人肌との密着性みたいなものがないでしょう? 快感が欲しい、オーガズムを味わいたいと思っていたけど、いざそれが得られたら、今度は人肌が恋しい、と思うようになってしまったんです。

人間って、どこまでもない物ねだりをするものなのですね。夫の事も、もう一度、よく考えてみたいと思うようになりました」

 セックスの原点、男女の原点は、涼子さんが言うようにお互いの皮膚の密着にあるのではないだろうか。オーガズムはある種の反射神経だから、慣れれば一人で得られる。だが、肌を密着させる安心感や心地よさは、やはり愛情や信頼を持った人とでなければ感じることができない。

そこそこ、セックスレスに潜む、大きな問題も内包されている。セックスレスは、肉体のみならず、互いの心の問題としてもっと真剣に考得ていくべきだろう。

 私の価値はいくら

 きれいごとの座談会

 ここ数年、世間の人々が「勝ち組」と「負け組」に分類されるようになり、女としての「勝ち負け」も話題にのぼる。嫌な時代だ。個性を問われる前に勝ち負けか、とうんざりしていのだが、女にとって、「女としての勝ち負け」はかなり大きなことらしい。

 以前、あるヘアカラーリング剤のテレビコマーシャルで、商品を勧めた後に、「あなたにはその価値があるから」というナレーションが流れるのを聞いたことがある。何か、腑に落ちない、居心地の悪さを感じた。

コマーシャルだから、何をどう言っても構わないのだが、女に対して「価値のあるなし」を問うところが、違和感をもたらしたのだと思う。それは何を基準とした価値観から来るのか。

 ひとつには、夫、あるいは自身に金、名誉、地位などがあるのかどうか。もうひとつは、夫もしくは素敵な恋人に目いっぱい愛されているかどうか。愛されているかどうかは、自己評価でなくてもいい。愛されているように見えれば、自分は「勝ち組」であり、「それだけ価値のある女」ということになる。

 かつて、三十代後半から四十代前半の既婚女性たち六人集まってもらって、「今、幸せかどうか。その理由は?」と尋ねたことがある。全員、専業主婦で、夫たちは一流企業に勤め、そこそこ地位もある。六人のうち四人が高級外車を自分で運転してきている。あとのふたりは会場となった都心のホテルから、ごく近いところに住んでいる。

 最初、彼女たちは控えめながらも、自分の生活ぶりを静かに報告していた。「子供は手がかかるがかわいい」「お受験が大変」「夫は多忙だけど、週末はふたりでデートすることもある」「家族のために料理するのはたのしい」「でも自分に手間をかけるのも大事。美容院、エステ、ショッピングにいく時間は必ず取る」子供が大きくなるまでには資格を取りたいから勉強している」

「いずれ大学に戻りたい」「いつまでも女としての輝いていたい」等々、もちろん、嘘とは言わないが、かなり「きれいごと」が続いた。六人にいっぺんに話を聞いているから、周りの同年代の女性たちをはばかって、「本音」は出しにくいに違いない。だが、人生、きれいごとばかりではないはず。

 不安なこと、自分で自分が嫌になるようなことはないのか、とさりげなく尋ねた。すると、それまで発言の少なかった三十代後半の女性が、突然、「夫が傍を通るだけで、鳥肌が立つんです。洗濯物も夫の分だけ別に洗っている」と涙声で告白してきた。

すると、「うちはセックスレス。もう五年になる」と言い出す女性が現れ、そこからは、女性たちの不安と不満の嵐が一気に吹き荒れた。

 機会があれば浮気するかも

 全員に一致していたのが、「夫とのセックスの少なさ」あるいは「おざなりセックス」だった。中のひとりは、
「うちの夫は、夜中に酔っぱらって帰ってきて、『ねえねえ』と私を揺り動かすんです。それで私に口でやれ、と言う。断ると怒るから、嫌々くわえますけどね。だんだん興奮してくると、今度は彼は自分でこすって、最後は私の口に発射する。もちろん私はすぐ出しますよ。夫のなんか飲みたくない」

 この話は、かなりの衝撃だった。私も含め、みんな黙り込んだ。だが一瞬、間が空いたあと、「うちも似たようなもの」と全員がため息をついた。

「機会があれば浮気しちゃうかも」
 という意見にも全員が頷(うなず)く。

「女としてきれいでいたい、と私自身は思っているけど、夫は私を女として見ているわけじゃないんですよね。何のためにきれいでいたいかというと、もしかしたら女友達の目を意識しているのかもしれない。単なる見栄なのかもね」

 四十代の女性が「ぶっちゃけた話」と前置きしながらそう言うと、他の女性たちもみなうんうん、と深い共感。「きれいごと」で終始しがちな座談会は、凄まじい告白大会になった。

だが、私は納得していた。全員、持ち家があって、夫はエリートで、子供も明るく健康で、自身も女として満たされている。絵に描いたような、そんな百パーセントの幸福など、あるはずがないのだから。

 傍(はた)から見れば、彼女たちは女として「勝ち組」であり、当然、そこに入るだけの「価値のある女」なのかもしれない。だが、内情なんて誰にもわかりはしない。実際、全員が何らかの深い悩みを抱えていたのだから。近所の人から見れば、「お金があって、仲のいい素敵な家族」に見えるのだろうけど、人生はそう単純でない。

「だから、私は自分の価値を、もっと客観的に知りたかったのかもしれません」
 そう話してくれたのは、知人の紹介で知り合った、中村久美子さん(四三歳)だ。身体はスレンダーなのに、胸が大きく、肉感的な印象をもたらす。

 久美子さんは、社内結婚をして十九年、十六歳と十四歳の男の子をもつ専業主婦だ。五歳年上の夫は中堅企業の部長補佐。「そこそこの出世で満足してしまうタイプ」で、人がいいのだけが取り柄だと、久美子さんは寂しそうに笑った。

「夫はいい人なだけに、何か頼まれると断れ切れない。だから雑用が増える。そのお鉢がこちらにも回ってくる。マンションの役員や町内会の役員まで引き受けちゃうんですよ。そんなことしないで、もっと仕事をしてくれれば出世できるのにね。私は強い男性に憧れていましたから」

 久美子さん、夫に対してなにやら深い不満があるようだ。「人のために」に尽くす夫の人間性は好ましいはずなのに、妻から見ると、「人がいいだけの情けない夫」になってしまうのだろうか。

「私から見ると、”男”として物足りないんですよね。男なら、もっとがむしゃらに生きてほしい、と思うこともあって、私が夫を男として見られないから、夫もいつの間にか私を女として見なくなってしまったんでしょうね」

 たまに夫婦で酒を酌み交わしても、夫はいつも疲れていて、たいてい先に酔いつぶれる。夫婦でロマンチックな時間を過ごしたいと願う久美子さんの希望は、叶えられないままだった。

 メル友と昼間のホテルへ

「四十代入った頃からですかね、生きているのってつまらないなあ、と思うようになったんです。結婚して子育てして、私に残るのは何だろう。子供も大きくなると、ひとりで育ったような顔している。夫は私に見向きもしない。

なんのために頑張ってきたのかなあって。つまらない、つまらない、と独り言をいうようになっていました。そんなとき、スポーツジムで知り合った、遊び好きの女友達が、『これは面白いわよ』って教えてくれたのが、とある出会い系サイトだったんです。

出会い系なんて怖いと思ったけど、彼女は、『会わなくたっていいの。メル友になれば。話し相手がいれば楽しいわよ』って、軽い気持ちでアクセスしたら、メル友ができたんです」

 相手は三歳年下の既婚者だったが、久美子さんは同い年だとさばを読んだ。お互い家族のこと、世間話などをメールで送り合った。たわいもないやりとりが三ヶ月ほど続いたころ、どちらからともなく、「会ってみたいね」という話になる。

「そのころは電話でも話すようになって親近感はありました。恋愛感情というよりは、学生時代の友達のような感覚で「会いたいね」と。お互い都内在住だったので、『じゃあ、○○日でどう?』なんて軽い感じで決まった。私も特に気負いはなかったです、当日までは」

 都内のシティホテルでランチを取ることにしてた。待ちあわせはロビーで。当日になって、久美子さんは、都内のホテルで男と待ち合わせ、という事実に突然、心が揺れた。

「知らない男と待ち合わせてご飯を食べる。私、何をしているんだろう、と思いました。それなのに時間が迫ると、シャワーを浴びて、タンスの引き出し奥深くに眠っていた、レースがたくさんついた下着を選んでいる自分がいた。

緊張しているんだけど、反面、気持ちも弾んでいる。とにかく、約束したのだから、約束を破ってはいけない。そう思って出かけて行きました」

 誰とどういう目的で会う約束をしたのか、などとは考えない。約束を破ってはいけない。それが「女の、自分へのいい訳」だ。こういう場合は、どうしても必要なのだ。そんな言い訳が。

 ロビーに着くと、携帯に電話がかかってきた。身長一七五センチはある背筋を伸ばした男性が、電話を手にしながら近づいてくる姿が目に入った。想像より、ずっと素敵な男性だった。笑顔がきれいだった。と久美子さんは言う。

確かに、年を経ると、顔が歪んでくる男性は多い。ゆっくりとランチを楽しんだ。彼の声は身体にしみこんでくるような、決して低くはないが深くて心地よい声だった。

「二時間くらいかけた食事の後、彼が『もう少しだけいいですか?』と言うので、思わず頷きました。私もまだ別れたくなかった。散歩でもするのかな、と思ったけど、内心はホテルにいるのだから、部屋を取ってくれたらいいのに、とチラッと思いました」

 彼は久美子さんの思いを見通していた。さりげなくエレベーターに押し込まれ、つぎの瞬間、ぐいっと手を握られた。
「あなたは本当に素敵な女性だ」
 彼は耳元で囁いた。
「恥ずかしいんですけど、その瞬間、あそこが濡れてくるのがわかったんです。そんなこと、今までなかったから、自分でも驚いてしまった」

 彼は久美子さんに考える余裕を与えなかった。部屋に入るや否や、いきなり背後から抱きしめ、うなじに熱いキスを浴びせる。そのまま身体を正面に向け、唇を軽く噛む、と思う間もなく、尖らせた舌で歯の裏を刺激的に舐めてくる。

「自分が何をしているのかわかりませんでした。下着がどんどん濡れていく、顔は真っ白になる。私、男の人は夫の前にひとりしか知らないのです。夫はセックスにそんなに手間をかける人じゃないから、キスひとつでこんなに身体の感覚が麻痺するものか、と驚きました」

 セックスも丁寧だった。柔らかく細かい指使いで性感帯を刺激する。久美子さんは、腰から全身に激しい快感が広がっていくのを何度も感じた。そのたびに、意識が朦朧(もうろう)としていく。

「最後はバックからがんがん突かれて、彼は私の背中に射精しました。男の人の精液をかけられたのは初めてだったので、ちょっと驚きましたけど」

 彼の腕枕で、ふたりはしばらく話をした。快感でまだ頭がぼうっとしているから、言葉はあまり耳に入ってこなかったが、ひたすら「人肌の心地よさ」を感じたという。彼の腕にほおずりしながら、久美子さんは「恋」していると思った。

 うれしさと軽蔑の気持ち

 身支度を整えての帰り際、彼が「むき出しで悪いけど」と、何かを手に押し付けてきた。見ると、一万円札が二枚、折りたたまれている。

「『何、これ』と思わず言ってしまいました。彼は何も言わずに、『帰ろう』って。駅まで一緒に行く間も、彼は何かを言ったけど、私は答えることはできなかった。ショックでした。

彼は最初から私を買うつもりだったの? 私、自分を売ったの? 私の価値は二万円なんだ。いろんなことをぐるぐる考えていました」

 その後、彼からの連絡はぷっつり途絶えた。久美子さんも、なぜか連絡する気は失せてしまう。数日、彼女は家にこもってぼんやりと考え続けていた。

「私の価値は二万円。それが頭に染み付いてしまって。だけどある晩、夫の鼾(いびき)を聞き、寝顔を見ながら思ったんです。この人は私の事を、そのへんにある家具と同じように見ている。あって当たり前、多少、壊れていても気づきもしない。

私も人として夫のことは嫌いじゃないけど、それでも女として見てくれないことに多少の恨みはある。女として、ひとりの男に見捨てられている私を、別の男が二万円も出して買うんだなあ、と。二万円稼ぐのは簡単じゃありませんからね」

 最初はショックだったのに、冷静に考えるうちに、「自分にも価値があるんだ」というように変化していく。女の思考は不思議なものだ。

 二週間後、久美子さんは再度、出会い系にアクセスしていた。出会ったのは、五〇代のサラリーマン。待ち合わせた瞬間、彼の目が彼女の胸に注がれた。ベッドでは、一時間もべろべろと胸を舐められ続けたが、彼は帰り際に三万円くれた。

「だれも見向きもしなかった胸なのに、これが武器になるのか、と不思議でした。これからは胸を強調する下着や洋服を身に着けていきます。男の視線を感じたり、寝たときに『きれいな胸だね』って言われると、うれしいのが半分。だけど一方では、『こんなものがいいの?』という軽蔑の気持ちもある。

男なんて、所詮、女心を見ようとしない。それは夫も、他の男性も一緒なのかもしれない、と思うようになりました。それとは裏腹に、身体だけはどんどん感じるようになっているのが、自分でも哀しいんですけど」

 恋愛感情がなくても、身体は感じる。エロスが金に変換されるとき、久美子さんは自分の価値を見いだす。

 月に数回、彼女は出会い系や街で知り合った男性とホテルに行く。男に聞かれれば、「最低二万円」と笑って答える。一番高かったのは、五〇代後半の自称・自営業で七万円だった。

「その人は、アナルにまで入れてきたんです。ゆっくり指でほぐしてくれたけど、少し出血して痛かった。なんでこんなことをしているんだろうって涙が出てきた。そうしたら七万円。何だか中途半端な数字ですけどね。前と後ろをセットにすると七万円か、と思いました」

「もらったお金は全額、貯めています。この二年間で、相手が延べ二十七人、合計金額が七十万円ちょっと。もうしばらく続けてみるつもりです」

いったい何のために? 彼女は一瞬、唇の端に自嘲的な表情を見せたが、あえて淡々と言った。

「私とセックスをしたい、と思ってくれる男がいるのを確認したいから、そして、私自身の価値の総額を知りたいから」

 女の価値とは、いったい何なのか。誰がどうやって測るものなのか。久美子さんの寂しそうな微笑や、どこか自分を嗤(わら)うような表情が、今も脳裏から消えない。

 イケない女は女じゃない?

 日本の夫婦のセックスレス

  米国の製薬会社イーライリリーの韓国法人が二〇〇六年発表した、「夫婦の性に対する満足度」という調査がある。
 韓国、日本、米国、フランスの三〇代から五〇代の既婚者一二〇〇人を対象に調べたところ、配偶者との性生活に満足する割合は、韓国女性が三〇パーセント、日本女性が三〇・七パーセントだったという。フランス女性が八〇パーセントで最も高く、アメリカ女性は六五・三パーセント。

 一方、男性では、日本が四七・三パーセントで最も低く、韓国は五〇パーセント。フランスが九二・七パーセント、アメリカが七八パーセントと欧米二カ国は高い数値を示している。この結果を踏まえて男女双方で考えた場合、やはり日本人の性的満足度の低さは注目に値する。

 日本人のコメントは発表されていないが、韓国男性は低い満足度について「性交渉の回数が少ない」「妻が関心がなく、テクニックがない」などという理由を挙げている。

 女性側は「夫が自分の満足感だけ考えていて、前後のロマンチックな雰囲気に気を使ってくれない」と指摘した。これは日本でも、ほとんど変わらないのではないだろうか。

 先に、日本人のセックスの頻度が稀に見る低さであるというコンドームメーカーの調査結果を記したが、今回は満足度の低さも明らかになった。特に今回は、夫婦の性生活を対象にしているから、日本の既婚女性がいかに「不満」を抱えているかが白日のもとにさらされたと言ってもいい。日本の夫婦がセックスレスになるのは、不思議ではない。

「私たち夫婦がセックスレスになるなんて、考えられませんでした」
 神奈川県に住む、松永多香子さん(四四歳)は、自嘲的な表情で、そう切り出した。
中肉中背、栗色のショートヘアが若さを醸し出し、切れ長の目に年齢相応の色気が宿る。友達の紹介で知り合った男性と二年の交際へ経て結婚したのが。二七歳のとき。相手は二歳年上、中堅メーカーの会社員で、現在は課長職。「出世したとは言えない」夫だという。結婚して十七年、高校生と、中学生のふたりの娘がいる。

「短大を出て勤めた会社で、六歳年上の先輩と付き合うようになったんです。私にとっては、初めての大人のつき合いだったし、大恋愛だった。彼と結婚したいと本気で思っていました。

でも私が二十四歳のとき、彼は五歳年上の女性と電撃結婚してしまった。相手の女性が妊娠したそうです。彼は『たった一回の過ちだった。だけど子供が出来たから責任を取る』って。ショックでしたね。男なんて信用できない、と泣いてばかりいました。そんなとき、友達が夫となった人を紹介してくれたんです」

慣習自体がなくなった

 第一印象からして、誠実でまじめを絵に描いたような人だった。友達として付き合ってみませんか、と彼に言われて、寂しかった多香子さんは、それでいいなら、と彼と会うようになった。実際、付き合い始めて一年経っても、セックスの関係はなかったという。

「本当にまじめなんです。一年以上デートを重ねて、彼が『結婚を前提にしない?』と言い出し、私が承諾したところで初めてキスしました。セックスも結婚半年前にやっと、という感じ。それだけ私を大事にしてくれているんだな、と嬉しかったですけどね。結婚後もまじめなのは変わっていません。

子供たちには、ベタベタの父親でしたし、私が三十代後半ばになるまでは、セックスも月に二回くらいはしていました。夫はもともと淡泊なほうですが、夫婦の義務としてしなくちゃいけないと思っていたんじゃないでしょうか」

 それなのに、なぜセックスレスになったのか。きっかけは、多香子さんの日常が突然変わったこと。彼女が三五歳のとき、父親が脳溢血で倒れて入院した。介護していた母が、その二ヶ月後に過労からめまいを起こし、自宅の階段から落ちて足を骨折してしまう。

多香子さんは、ふたりが入院している病院を毎日のように訪れて、世話をせざるを得なくなった。そんな日々が一年近く続いた。彼女自身も疲れていたし、夫も彼女を思いやって夜はまったく誘ってこなかった。そうしているうちに、セックスする習慣自体がなくなってしまった。

「父は一年後に亡くなり、母はよくなったんですが、うちの夫婦関係は、あの時期を境に変わってしまいました。夫は相変わらず真面目で優しいけど、ここ八年ほど、まったくセックスはありません。私から誘うわけにもいかなくて」

 多香子さんはセックスが嫌いではないが、自分から夫に「したい」と言えるほどオープンではない。セックスに関しては奥手だし、女は受け身であるべきだと心のどこかで思っている。

「それほど経験もなかったし。だけど、四〇歳になるころから、せっかく女として生まれたのに、このままでいいのだろうかと思うようになったんです。夫に見向きもされない女であることが、惨めでたまらなかった。それに‥‥」

 言いかけて、多香子さんは口をつぐんだ。何か言えないことがあるようだ。想像はついたが、こちらから何か言うのは控えた。多香子さんはそのまま黙り込んだ、しばらしてから、ようやく絞り出すような声を出した。

 感じたことがない

「私、本当に感じたという経験がないんです」
 一般的には、現代の女性はセックスを楽しんでいるように思われがちだが、実際には、オーガズムを感じたことのない女性は、とても多い。私の周りでも、本当によく聞く話だ。だが、それは私がセックスや男女関係の話について書いているから耳に入ってくることであって、普通はなかなか友達同士でも話せないようだ。

「イケない」女性達は、そのことを非常に恥ずかしがる。そして既婚の場合、セックスが多い。セックスレスだから感じる機会がないのか、感じないからセックスレスになりがちなのか、そのあたりは定かではないのだが。

 一口に「感じない」と言っても、いろいろなタイプがいる。クリトリスでは感じるが、挿入では感じないとか、自分では感じるが、男性に触られてもイケないとか。多香子さんの場合は、自分でクリトリスを触るとかなり気持ちいい、男性に触られると、そこそこ感じる。ただ、ペニスであれバイブであれ、中では全く感じなかった。それが彼女の焦燥感に拍車をかけた。

「女はやっぱり感じてナンボ、イッてナンボだというイメージが、私の中に根強くあるんです。イケない女は女じゃない、とつらくてたまらなかった。夫には言えなかったし、セックスレスになってからは、よけい言えませんでした」

 四〇歳の誕生日の翌日、多香子さんはついに大台を超えてしまったことで、少し鬱々としながら、横浜のデパートに買い物に行った。読みたかった本や、その日の夕食の材料を買って帰ろうとしたが、まっすぐ帰る気にはなれず、ぶらぶら街を歩いていた。そこへ彼女の歩調に合わせるように、白い外車が横に並び、若い男性が窓から顔を出して道を聞いてきた。

「教えると『友達と待ち合わせているんだけど、時間が余ってしまったんです。ちょっとドライブにつきあっもらえませんか』と言うんですよ。見たところ、せいぜい二〇代半ばくらい。『こんなおばさんとドライブしてもしょうがないでしょ』と言うと、彼はにこっと笑って、『おばさんにはみえないけどな』って。

真っ白い歯がきれいで、思わず見とれてしまいました。『危険じゃないよ、僕、こういう者だから』と彼はいきなり学生証を見せたんです。有名大学の大学院でした。それで何となく安心して、車に乗ってしまったんですね」

 車は気持ちよく走り出した。彼は、たわいもないことを話す。多香子さんは相槌を打ったり、彼をからかったりしながら、心から笑った。楽しかった。若い男の子と一緒にいることで、自分まで若くなったような気がした。

「息子がいないから、若い男の子の感覚なんてまったくわからない。話しながら、男の子って気持ちいいなあ、と思いましたね」

 気がつくと、彼は横浜市から出て、人気のない林のような場所で車を停めていた。いきなり彼女の顔を自分の方に向かせてキスしてきた。驚いたが、抵抗する気はなかった。彼の手は器用にストッキングと下着の中に滑り込んでくる。やめさせようとしたが、彼の手はすでに多香子さんのクリトリスを探し当てていた。

「あまりにソフトな触り方に、下半身が痺れたようになってしまって、身動きが取れませんでした。キスはずっと続いているし、舌を深く吸われて、全身の力が抜けていきました。彼は耳元で、『ホテルに行こう』って囁くんです。どうしても続きがしたい。私もそう思って、つい頷いてしまいました」

 男を買ってしまいました

 下調べをしていたのだろうか、すぐそばにラブホテルがあった。車はそこへ滑り込み、多香子さん曰く、「気づいたらベッドにいた」というほど、彼はスムーズに多香子さんを誘い込んでいた。彼にリードされて、ペニスを口に含んだ。フェラチオは好きではなかったが、彼のは愛しく感じて、一生懸命舌を使って愛撫した。

彼の指は多香子さんのクリトリスを刺激し続けている。と、そのとき、小さなモーター音がして、何かが挿入された。バイブレーターだった。彼がバイブを出し入れする。多香子さんは、それまで感じたことのないような、腰のあたり全体から揺さぶられているような快感を覚えていった。

「何もかも分からなくなってしまうほどではなかったけど、中で感じたのは初めての経験でした。気持ちいいって、こういう感じなのか、と思った。その後、彼が入ってきたときは、またほとんど感じなくなってしまったんだけど、『イクー』って叫んで演技したんです。彼、すごく頑張ってくれたから」

 彼はきちんとコンドームをし、すべてが終わって外したときも、ゴムの口先を縛ってティシュに包んでゴミ箱に捨てた。マナーをわきまえた子だな、と多香子さんは感じた。

 ところが、帰り際、彼は急に甘えるような口調で、「ホテル代がない」と言い出した。そのホテルは、部屋からシューターを使って払うシステムになっていた。

「しかたないから、六千円だったかな、私が払いました。そうしたら彼は、私を抱きしめながら、『少しでいいから、お小遣いくれない?』って言うんですよ。驚いたけど、そんな若い子に嫌とは言えない。『いくらほしいの?』と聞いたら、一万円って言うんです。渡しましたよ。

 彼は車で市内まで送ってくれたんですが、態度はずっと変わらなかったですね。帰りの車内で相当、ああいうことをしていたんでしょうね。慣れていたんだと思います」

 多香子さんは、ときどきつかえながらも、最後まで話し切ると、ふうっと大きなため息をついた。私たちは喫茶店の隅で話していたのだが、彼女は目の前にあった水を一気に飲み干した。

「私、男を買ってしまったんだ、と気づいたのは、彼と別れてひとりになってから。男を買った代金は一万六千円。かれは別れ際にバイブをくれたけど、持って帰る気になれなくて、駅のトイレのゴミ箱に捨てました。電車に乗ってから、急に涙がこぼれて来て・・‥。なぜあんな若い子の誘いに乗ってしまったのか、なぜ彼が私を浴していると決めつけてしまったのか。惨めさが募るばかりでした」

 水を飲み干したが、彼女の手にはグラスにかかったままで、指の色が変わるほどグラスを握りしめているのがわかった。悔しかったわけではない、自分の愚かさを??ってやりたい気分だったという。

「しばらくは毎日、そのことばかり考え続けました。男を買ってしまった馬鹿な自分のことを。だけど、ずっと考えていたら、少し気持ちが変わっていったんです。一万六千円払っても、結局、私はイケなかった。だけど、こちらが払うと分かっていたら、もっといろいろ要求しても良かったんじゃないかって。

あれは偶然の出会いだったし、買ってしまったのも偶発的なできごとだったけど、確信犯的に買ったらどうなるんだろう。そんなふうにも考えました」

 出張ホスト

 男を買う。セックスを買う。自分にそれができるのか。だが、してみないとオーガズムは、手に入らない。バイブで初めての「快感」が忘れられなかった。もっともっと強い快感を一度でいいから味わいたい。女として、女なんだから、本当の女になるために。多香子さんは強迫観念のように、そう思うようになった。

「ネットで出張ホストクラブを探して、個人でやっている人の所にメールを出してみたんです。『僕だったら、きっとあなたを感じさせることが出来ると思う』という返事が来たので、会ってみました。ホテルに行ったけど、ほとんど感じなかった。

どうしてこんな『全然、感じないわけ? 集中していないからじゃない?』って逆に怒られちゃって。お金払って怒られて、どうしてこんな目に合わなければいけないのか、と思いましたよ。ホテル代を含めて、二万八千円も払ったのに」

 その後、別の出張ホストも買ってみたが、やはりオーガズムは得られなかった。それどころか、クラミジアをうつされて、病院通いをするはめになった。それでも、「イケない女は女じゃない」という気持ちはくすぶっている。二年前からは、パートに出るようになった。男を買うには軍資金が必要だから。

「次こそ感じるんじゃないか、という思いで、月に一回くらい出張ホストを買っています。二〇歳くらいの若い子から、熟年ホストまで試してみたけど、『これがオーガズムだ』と思えたことはないんです。誰か”本物のテクニシャン”を知っていたら、紹介して欲しいくらいです」

 水のお代わりをして、またそれを半分くらい一気に飲んだ彼女は、グラスをじっと見ながら静かに言った。
「わかっているんです、自分が馬鹿なことをしているのは。それでも感じたい、という思いは止められない」

 痛々しさすら感じた。だが同時に、彼女は同情など望んでいないと分かったから、私は彼女にかける言葉をどうしても見つけることができなかった。

 差し込み文書=
 多香子さんは初めて男を買ったとき、キスですごく感じ、クリトリスでも同じくすごく感じたという。初めてバイブを膣へ挿入して「イキ」かけたという感覚を味わったということは、非日常的異空間に身を投じ罪悪感・恐怖心を抱くセクシャル・シチュエーションによって身体も心も興奮させたことが一因であることは間違いないであろう。

 バイブ挿入し膣襞(ちつひだ)へ振動と亀頭部がくねくねと回り快感を与える。バブル振動をのぞけば極めてペニスに近い動きをすることから快感を与えられるが、しかし物足りなさは否めない。アダルトグッズ、バイブなどはプラスチック製がほとんどだから、ソフト感覚に欠けることから人によっては痛みを感じたり、接触感が今一つという思いを持つ人も少なくない。

「女性がペニス挿入でオーガズムに達するのは約二十%程度であるという調査結果がある。排卵日が最もオーガズムを得やすく、排卵日に妊娠を誘う子宮頚部(噴門)微細動することが大きく関与している。排卵日こそがオーガズムに達することが容易な日だと言える」女性が性感を凄く感じる「口、膣、肛門、子宮頚部」四つの噴門がある。

 当サイトの商品宣伝であるが、「避妊用具」「膣挿入温水洗浄器」の接触感はペニスとほぼ同じであり、膣との引っかかり具合もよいことで、短時間でオーガズを女性に与えられ、気持ちいいセックスであることから女性からの性拒否という事態は起こりにくいし、成熟した女へと導く早道でもある。セックスレスに悩む中高年、高齢者でも強烈な刺激によってセックスが復活する可能性を秘めている。女性六十七歳、久々に一、二回はオーガズムに達した例がある。セックスレスに改善法を参照してください。
つづく イクという感覚を知りたい

煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。