妊娠七週まで、ヒトは女性の内性器となるミュラー管と男性の内性器となるウォルフ管の両方を持っています。妊娠八週頃精巣が形成されると、まず精巣のセルトリ細胞からミュラー管抑制ホルモンが分泌され、妊娠十一週頃までにミュラー管を退縮させます。    トップ画像

 ピンクバラ胎児期性ホルモンの性

内性器・外性器の分化 精巣または卵巣が形成されと、次に内性器や外性器が発達する第三段階へ移行します。ここまでの身体的性分化について、図一にまとめておきました。
 ホルモン分布図
 妊娠七週まで、ヒトは女性の内性器となるミュラー管と男性の内性器となるウォルフ管の両方を持っています。妊娠八週頃精巣が形成されると、まず精巣のセルトリ細胞からミュラー管抑制ホルモンが分泌され、妊娠十一週頃までにミュラー管を退縮させます。その後ラライディッヒ細胞から男性ホルモンが分泌されて、ウォルフ管が退縮し、ミュラー管が卵管、子宮、膣上部になります。

 外性器については、生殖結節・尿生殖溝・生殖ヒダとこれらを取り囲む生殖隆起が妊娠八週までに形成されますが、性差はありません。男性では、男性ホルモンの分泌が高まるとともに、生殖結節はペニスに、尿生殖溝は前部尿道に、生殖ヒダは尿道海綿体、生殖隆起は陰のうに分化します。

 その後妊娠七カ月から妊娠八カ月頃までに精巣が腹部から下降して、陰のうに納まります。精巣つまり睾丸が左右二個陰のうという袋の中に入って、男性の外性器の形成は終わりとなります。

 女性では、生殖結節・尿生殖溝はそれぞれクリトリス・膣前庭となり、生殖ヒダは小陰唇に生殖隆起は大陰唇となります。この外性器の分化は妊娠十二週から十三週で終わります。

 ところでせっかく精巣から男性ホルモンが分泌されても、男性ホルモンのレセプターが欠損しているために内性器や外性器が男性化しない場合があります。精巣性女性化症といいます。ウォルフ管や生殖結節・生殖隆起などの器官に男性ホルモンのレセプターがなくて、ホルモンの作用を受けることのできないため、内性器が欠け、外性器は女性型です。精巣を持つ男性でありながら、出生時は女性と判定され、多くは思春期に無月経で発見されます。原因はX染色体にある男性ホルモンのレセプターを作るTfm遺伝子の変異によるものです。

 似たようなものに還元酵素の欠損のために、外性器を男性化する男性ホルモンの一種を作ることが出来ない五α還元酵素があります。五α還元酵素欠損症では、精巣はあり内性器は男性化しますが、外性器の男性化は障害をうけ、出生時女性と判定される例が多いようです。

 しかし、思春期になると酵素欠損の影響を受けない男性ホルモンであるテストステロンの分泌が急増し、肥大したクリトリスと思われているものがペニス様となり勃起や射精も可能となります。女性として生まれて思春期から男性になるわけで、身体的性分化だけでなく、性の自己認識を考える上で貴重な症例となっています。

 これらの男性化異常の一方で女性化異常もあります。卵巣を持ち本来女性であるのに、副腎から大量の男性ホルモンを分泌して外性器を男性化させる先天性副腎性器症候群がその代表です。また以前に流産防止のために使われたホルモン剤が、男性ホルモンと同じ作用持っていたため女性の胎児の外性器が男性化したこともありました。

4、胎児期性ホルモンの性

脳の性分化 胎児期の性ホルモンは、脳にも影響を与えます。脳の性分化は性周期の有無や性行動に現れます。性周期は、下等な哺乳動物では発情期に、ヒトでは月経周期にあります。女性の場合、脳の奥深くにある視床下部から垂れ下がる脳下垂体から、性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)が周期をもって分泌することで性周期が発現します。

 性腺刺激ホルモンには、卵巣に働き卵胞の成熟を促す卵胞刺激ホルモンと、排卵を起こさせる黄体ホルモンの二つがあります。図二のように女性の二つの性腺刺激ホルモンはその分泌量がピークをもって変化する周期を繰り返します。
ホルモン分布図2
図2 性周期
 一方男性の性腺刺激ホルモンは、女性と同じものですが分泌量の変動はわずかで、周期性はありません。性行動については、大脳皮質の発達したヒトの場合は複雑ですが、単純なラットでは、メスのロードーシス(脊髄前弯姿勢)、オスのマウンティング(乗駕姿勢)などが典型的な雌性・雄性性行動として観察されます。性周期や性行動を司る性中枢は視床下部や近くの大脳辺縁系のあたりにあります。ここに胎児期の性ホルモンが働いて性周期や性行動を決定するのです。

 出生直後のオスラットから精巣を摘出して男性ホルモンがない状態にすると、メスのように性周期をもち雄性性行動をとります。また出生直後のメスに、男性ホルモンを投与すると、性周期は失われ雄性性行動が増えます。このような動物実験から哺乳類の脳の性分化は、男性ホルモンがなければ視床下部の性中枢が、脳下垂体の性腺刺激ホルモンを周期的に分泌させ、性周期をもつとともに、雌性の性行動をとることもわかりました。もし、男性ホルモンがあれば性周期を作るシステムを抑制し、雄性の性行動をとるわけで、脳の性分化もメスが基本というわけです。

 では、ヒトはどうでしょうか。ヒトの場合では、妊娠四ヶ月から五ヶ月にかけて、男性の胎児では精巣から大量の男性ホルモンが分泌されていることがわかっています。また、妊娠四ヶ月ごろから、男性ホルモンが胎児の脳に取り込まれているという報告もありますから、ヒトの脳の性分化はこの頃からと考えられています。

 さらに、この胎児の脳には性ホルモンの作用を受け入れる皿であるレセプター(受容体)があることもわかりました。このレセプターは女性ホルモンの一つである卵胞ホルモンの受け皿で、性中枢のある視床下部やその周辺に存在しているようです。驚いたことに男性ホルモンは、脳の細胞の中で、特殊な酵素が働いて卵胞ホルモンに変化するのです。
ホルモン化学図式
図三のように、実は男性ホルモンと女性ホルモンである卵胞ホルモン・黄体ホルモンの化学構造式は、よく似ていて、男性ホルモンから女性ホルモンへの変身は難しくないのです。つまり男性の場合、胎児の精巣から分泌される男性ホルモンが、卵胞ホルモンに変身して視床下部の性中枢に働き、その結果性周期の発現は抑制されるわけです。
写真図
図3 性ホルモンの化学構造式
ふと考えてみると、卵胞ホルモンを沢山もっている女性ではどうなんでしょう。どうして女性では、血液中にある卵胞ホルモンが、視床下部に働いて性周期の発現を抑えないのでしょうか。実は女性の場合、脳の性分化が行われる時期にだけ、血液中に卵胞ホルモンと結合するα胎児蛋白という蛋白質が出現してくるようです。

このα胎児蛋白が卵胞ホルモンと結合し脳のレセプターにまで到達させないない仕組みをもっているようです。もう一つの女性ホルモンである黄体ホルモンにも、脳での性周期を守る働きがあるようです。

脳の性分化の中で、ヒトの性行動・セックスへの影響はラットのように単純に評価できないのはもちろんです。ラットの実験にヒントをえたのでしようか、ドイツのダーナーは、男性同性愛者の発生頻度を世代別に調査をしています。すると、第二次世界大戦期に極めてストレスの強い生活を営んでいた母親から生まれた男児が、他の世代と比べて同性愛者になる比率が高かったと報告しています。

母親のストレスが強く、胎児の脳に十分な量の男性ホルモンが働かなくて、成人になって同性愛者になったというわけです。胎児期の男性ホルモンの量だけが、性行動の全て決定するわけではありませんが、同性愛に胎児期の性ホルモン分泌が関与している可能性もあるという意味でとりあげました。
つづく 6 社会・文化の性・セックス

煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。