二 変わりて男子となる――性の分化
1、 性の分化のあらすじ
前の「性の存在理由」に続いて、この章では女性と男性の発生の道筋――ヒトの性の分化の過程について取り上げようと思います。
聖書は、女性のイブは男性のアダムの肋骨から造られたと書いています。つまり女性は男性から造られる第二の性というわけです。しかもヘブライ語の肋骨という言葉には、不運とかつまづきとかいう意味もあって、女性があまり褒められていなかったことがうかがわれます
仏教でも似たようなもので、女性は業が深く障(さわり)多く、とても成仏できないと言われていました。後に法然によって仏を信ずれば、死後女性の姿を男子に変えて極楽に導くという女性往生論(小栗一九八七p.84)が説かれました。変わりて男子になって極楽行くという変性男子(へんじょうなんし)の往生論です。
面白いことに、実は母胎の中で、その変性男子の現象がみられます。発生から見るとヒトの基本となる性は女性です。男性は、その基本型である女性への分化の途中で、いくつかの変化が加えられて造られる性なのです。ですから当然男性への性分化は、女性への性分化に比べて危なかっしくもろいところもあります。もちろん男性への分化がなければ、有性生殖の贈り物は受けとれません。
性の分化の過程は、表一のように大きく分けて五つの段階があります。
表1 性の分化のあらすじ
○1遺伝子の性
○2性腺の性
○3胎児期性ホルモンの性
・内性器の分化
・外性器の分化
・脳の性分化
○4社会・文化の性
○5思春期性ホルモンの性
この表一は性分化を担うものと時期により区別しています。時期的には第一段階から第三段階が胎児期に行われ、第四段階と第五段階は生後に行います。最初の段階は卵子に精子が到達して受精した時、性決定遺伝子が存在するか否かによって始まります。
次に、卵巣、精巣という性腺が形成される第二段階です。第三の段階では、胎児期に卵巣や精巣から分泌される性ホルモンによって発現される性の分化です。この第三段階では、内性器、外性器に加えて脳の性分化が行われます。脳の性分化は、性周期や性行動に関わります。
分娩後にはじまる第四段階は、生まれ育った社会や文化の影響による性の分化です。これは、自分が女である、あるいは男であるという後天的にえられた自覚、つまり性の自己認識や、生まれ育った社会や文化の中で身につけた女性あるいは男性であることを表現する全てのパフォーマンスである性役割が形成される段階です。
この第四段階は人間社会の中での、女性と男性の分化の過程といえます。ボーヴォワールが「第二の性」という著作の冒頭に、「人は女に生まれない、女になるのだ」と書いたのは、この第四段階を問題としているのです。
さらに思春期になって著しく分泌量を増した性ホルモンが二次性徴を発展させるのが第五段階です。以上のような、性の分化は、受精から胎児期をへて生まれ育つ中で段階的に行われ、けして単純に包丁で分割するようなものではありません。
2、遺伝子の性
遺伝子は染色体の中に折りたたまれています。ヒトの体細胞には二十二対四十四本の常染色体と一対二本の性染色体があります。性を決定する遺伝子はこの性染色体にあります。染色体は、女性ではXX型であり男性ではXY型です。有性生殖のために、男性は身体の仕組みに大切な役割をもつ遺伝子が沢山あるX染色体を一本犠牲にしました。X染色体を一本犠牲にして、性決定に関わる遺伝子ばかりのY染色体を作ったのです。
男性のX染色体は一本になってしまいました。そのために、男性は胎児期流産したり、血友病など先天性疾患になる率が高いのです。病気を防ぐ免疫力も男性は弱いと指摘されています。だから平均寿命は男性が短くて、男性の生命力は女性に比べ弱いのです。
母親由来の生殖細胞である卵子の核の中には二十二本の常染色体と性染色体はXが一本あります。精子には、父親由来の二十二本の常染色体に加えてXまたはYの性染色体のいずれかがあります。
染色体の性は、卵管にたどりついた精子の内の一つだけが、卵子の内部に進入して両方の核が融合する受精の瞬間に決まります。受精卵の遺伝子の性は精子側の染色体がXであるかYであるかで、まず決まります。
詳しく言えば、Y染色体の短腕にあるTDF(精巣決定因子)と呼ばれる性決定遺伝子の有無により決まります。通常哺乳類では、胎児は母親の女性ホルモンが沢山ある体内で育ち、何もなければ性腺や生殖器は女性化するものなのです。TDF遺伝子は、未分化な性腺がそのままでは卵巣となる所を抑制して精巣を形成する働きを持っています。
最近の報告では、Y染色体の性決定領域であるSRY遺伝子が、どうやらTDFであるといわれています。SRY遺伝子は、既にDNAの塩基配列もわかっていて、SRY遺伝子のDNAの塩基配列が一つ間違ったために、Y染色体を持ちながら男性ではないXY型女性がいることも報告されています。
さらにマウスのSry遺伝子をメスのマウスの受精卵に注入して、オスへの性転換に成功した話(Koopman1991)も最新のニュースとして伝わっています。
とにかくTDF遺伝子が男性への分化の最初の担い手であることは確かのようです。ただし受精直後から働くわけではありません。妊娠四週では、受精卵は約一cm位の胎芽となり、将来卵巣や精巣となる部位の生殖隆起が体腔に突き出てきます。妊娠五週では頭や顔や手足も区別されますが、TDF遺伝子は働きません、妊娠七週になって、TDF遺伝子は性分化の演奏のタクトを振りはじめます。
すでにこの段階で性染色体や遺伝子に異常を認める場合があります。性染色体異常であるXO型のターナー症候群、XXY型のクラインフェルター症候群や、男性ホルモンのレセプター(受容体)を作る遺伝子が欠落している精巣性女性化症などは、様々な性分化の異常を伴います。具体的には、性分化異常を認めるそれぞれの段階で取り上げます。
3 性腺の性
女性の卵巣と、男性の精巣は、それぞれの性に特有のホルモンつまり女性ホルモンと男性ホルモンを分泌する器官であり、二つあわせて性腺と呼びます。男性の精巣とは睾丸のことです。女性ホルモンを分泌する卵巣を形成するか、男性ホルモンを分泌する精巣を形成するかが第二段階の性腺の性です。
性腺の元になるのは、胎児の生殖器隆起の中にある生殖腺原基です。TDF遺伝子があれば、妊娠七週以降。生殖腺原基の内部を発達させ、妊娠八週には精巣が作られます。精巣では、まずセルトリ細胞が発育して精細管が形成されます。
このセルトリ細胞からはミュラー管抑制ホルモンが分泌されます。ミュラー管とは、子宮や膣など女性の内性器になるものですから、男性に分化していく場合には不要で発育を抑制する必要があります。
次に精巣の間質にライディッヒ細胞が出現します。ライディッヒ細胞は男性ホルモンを分泌し、第三段階での男性分化を担います。染色体の中にTDF遺伝子がない場合には生殖腺原基の表層が発達して卵巣となります。
卵巣への分化は精巣への分化より少し遅れて妊娠八週頃よりはじまります。卵巣の中では、卵母細胞や女性ホルモンを分泌する卵胞が作られてゆきます。卵巣や精巣の形成は以上のように行われます。しかし、卵巣や精巣の形成が不完全であったり、あるいは二つともできてしまう場合があります。
XO型の性染色体であるターナー症候群では、X染色体が一本しかないために卵巣は作りますが卵胞を作ることが出来ません。当然卵胞からの女性ホルモンの分泌が低いため生殖器は女性型ですが発育は未熟で、思春期をすぎても身体は子供のようです。
染色体がXX型であるクラインフェルター症候群は過剰なX染色体を持つ男子の性染色体異常症です。Y染色体がありますから、胎生期に精巣が形成され、内性器や外性器を男性化します。しかし、理由はよくわかりませんが思春期以降精巣の働きが低下し、男性ホルモンも定値となって女性のような乳房や脂肪のつき方をします。
その他、真性半陰陽といって男女両性の性腺を同時に持っている人もいます。通常は精巣または卵巣が左右一対あるものです。真性半陰陽の人は、一つの身体に精巣と卵巣の二つがあり、胎生期には精巣の働きが活発で、思春期になると卵巣機能が活発になります。これらの人々の内性器や外性器は、女性とも男性ともいいきれない両性的な形をしています。
つづく
胎児期性ホルモンの性
煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。