デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
競争と軋轢
人間の配偶行動における、あまり愉快でない事実のひとつは、価値の高いパートナーの数よりも、そうしたパートナーを求める人々の数のほうがつねに多いということだ。何人かの男性が、資源を獲得する卓越した能力を示したとしよう。女性は一般的にそうした男性を求めるので、彼らを配偶者として獲得しようとたがいに争うことになる。
しかし、結果として勝利者になるのは、配偶者としての値打ちの高い女性たちだけだ。すばらしい美貌の女性は多くの男から求愛されるが、口説き落せるのはやはりひと握りの男性だけだろう。
ひとりの人間が、優しさ、知性、頼りがい、運動神経、容姿、経済力といった資質すべて兼ね備えていることはごくまれである。大部分の人間は、望ましい資質をすべてそなえた理想像よりは、多少とも落ちる相手で妥協せざるをえない。
この冷厳な事実が、同性同士の競争と軋轢をひきおこす。それから逃れる方法は、配偶者獲得というゲームから完全に降りてしまう以外にはないが、配偶という人間の本質的な欲求は、簡単に消し去ることはできない。そうした欲求を満たそうとする努力が、人々を同性のメンバーどうしの競争の場へと送り込んでいく。
競争はさまざまなかたちで行われるので、当事者がつねに自覚しているとはかぎらない。フェイス・クリームの新商品を買った女もしくは男は、肌の手入れが競争の一環ではあると思っていないだろう。
最新のフィットネス器具で身体を鍛えたり、夜遅くまで働いたりすることを、競争だと自覚することもない。しかし、人々が配偶者を得たいという欲求を持っており、また異性から求められる資質をどれくらい備えているかが人によって異なる以上、同性間の競争が起こるのは、人間の配偶行動において避けられないことなのだ。
同じように、男女間の軋轢もまた容易に解消されない。一部の男性は、女性の性的心理というものに全く無知で鈍感だ。女性が望んでいるよりもずっと性急かつ頻?に、あるいはしつこく攻撃的にセックスを求めることも多い。性的嫌がらせや暴行の被害者がほとんど女性で、加害者は男性であるのは、男女の配偶戦略の本質的な違いから起因している。
男性の戦略は女性の欲求と相いれないので、そこに怒りや不満が生じる。同じように、望ましい資質に欠ける男性を女性が撥ねつけると、ふられた男性の側に欲求不満や恨みを残す、男性が女性の性戦略を妨害するのと同じように、女性もまた男性の性戦略を――男性に比べればより穏やかで、威圧的でない方法でではあるが――妨害しているのである。
カップルのあいだの軋轢を、完全になくすことは不可能だろう。仲良く幸福に暮らしているカップルもいるのは確かだが、それでも全く軋轢が生じないということはありえない。軋轢の要因は、しばしば不可避的に生じる。ものだからだ。
自分ではどうにもならない事情のために職を失った男性
たとえば、自分ではどうにもならない事情のために職を失った男性は、妻が離婚を望み始めたことを知るだろう。もはや彼は、妻が結婚を決意したときに期待しただけの資源を提供できないからだ。
あるいは、年を取ってしわが増えた女性――これもまた本人の責任ではない――、仕事で成功している夫が、若い女性に心惹かれるようになったのを知るかもしれない。男女間に生じる軋轢のなかには、それを生じさせた原因が不可避的であるために、解消できないものが存在する。
男性と女性のあいだの軋轢が、人間が進化させてきた配偶心理から生じているという事実は、一部の人々にとっては衝撃的だろう。それはひとつには、この事実が広く流布している通念に反するからだ。
男女間の軋轢が生じたのは、特定の文化的慣習が人間本来の自然な調和を壊した結果なのだという見方を、大部分の人々が身につけてしまっている。しかし、女性が性的な暴力を受けた時に感じる怒りや、男性が妻を寝取られた時に感じる憤りは、人間が進化させてきた配偶戦略から生じたものであって、資本主義や文化や社会化の結果ではない。
進化は、繁殖成功度という非情な判断基準にしたがって進行していく。その過程で生み出される戦略がどれほど反感を招くものであり、その戦略の結果がどれほど忌々しいものだろうと関係ない。
同性間の軋轢が、特に破壊的な形で表れたのが戦争である
同性間の軋轢が、特に破壊的な形で表れたのが戦争である。戦争は、人類の歴史を通じて絶えず繰り返し行われてきた。男性が、配偶者獲得に必要な資源を手に入れるためならリスクを冒すことも辞さない傾向を持つ以上、戦争はもっぱら男性のエゴであるのも驚くにはあたらない。
ヤノマミ族では、他の部族に戦争を仕掛ける主な動機はふたつある。他の男たちの妻を奪い取りたいという欲求と、前の襲撃で拉致された妻を奪還したいという欲求である。
アメリカの人類学者ナポレオン・シャノンが、ヤノマミ族の情報提供者たちに、自分の国では自由や民主主義といったりそうのために戦争が行われると話したところ、彼はみな驚愕したという。ヤノマミ族の男たちからすれば、女性を手に入れるという目的以外のために生命を危険にさらすことなど馬鹿げていたからだ。
戦争の際にはレイプが頻発してきた
有史以来、戦争の際にはレイプが頻発してきたという事実は、性的な動機から戦争を起こすヤノマミの男たちが、特異でも例外的な存在でもないことを示している。
全世界の男性は、みな同じように進化してきた心理メカニズムを共有しているのだ。反対に、女性たちが徒党を組んで隣村を襲撃し、夫を略奪してきたという事例は、歴史を通じてひとつも存在しない。この事実は、男女の性差の本質をついて重要な示唆を与えてくれる。
すなわち、男性の配偶戦略は、女性よりも野蛮で攻撃的なことが多いのである。また、暴力の裏に性的な動機が潜んでいることは、同性間の軋轢と異性間の軋轢に密接な関係があることを示してもいる。
日常生活においても、男と女のあいだに戦争が起こっている。舞台はほんとうの戦場でこそないが、職場やパーティの席上、家庭などにおいて、何らかの社会的な関わりをもつ男性と女性が争っている。たとえば。配偶者選択の際に排除されるのは全員でなく、望ましい資質を備えていない人々に限られる。
たとえばパートナーより配偶者としての値打ちが低い一部の男性が、パートナーに浮気されているというような特別な状況のもとでのみ、カジュアル・セックスの相手ではなく永続的な配偶者である女性にたいして強いるものなのだ。
もうひとつ例をあげれば、性的暴行をくりかえすのは、一部の限られた男性だけである。大部分の男性はレイプ犯ではない。かりに逮捕される心配がない状況であっても、ほとんどの男性はレイプなど試みようとしないだろう。
あらゆる男性もしくは女性同士が団結して異性と対立しているという事実もない。そうではなくどちらか一方の性のメンバーどうしは、異性が用いる典型的な戦略とは異なった戦略のセットを一般に共有しているのである。
男女間の軋轢について論じることが可能なのは、軋轢の典型的なかたちが、男女それぞれが同性間で共有している戦略から生じたものだからだ。男性も女性も本質的には、同性のメンバーと結託してもいなければ、異性と対立しているわけでもないことを認識しておく必要がある。
現在われわれは、おそらく人類進化の歴史のいかなる時点にもまして、未来を決定する力を手にしている。虐待をはじめとする忌まわしい行動が、われわれの配偶戦略から生じているという事実は、そうした行為の存続を正当化するものではない。
人間が進化させてきた心理メカニズムは、社会的追放の恐れや評判の下落に反応するように作られている。それを利用することで、人間の戦略レパートリーの野蛮な部分を表出するのを阻止できるはずだ。
つづく
男と女の協調
煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。