
デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
配偶戦略の多様性
男性と女性の欲求の違いは、ヒトという種に存在する多様性の重要な部分を構成している。とはいえ、男女それぞれの中にも、同じくらい大きな変異が見られることも確かだ。カジュアル・セックスだけの関係を求めるのは、女性より男性のほうが多いが、それでも生涯一夫一妻を守り続ける男性もいるし、反対にカジュアル・セックスのほうを好む女性もいる。
一般的な傾向とは逆に、経済的な資源目当てに女性を選ぶ男性もいれば、男性を容姿で選ぶ女性もいる。男女それぞれの中のこうした差異を、統計上の盲点として見過ごすべきではない。それは、人間の配偶戦略のレパートリーの豊かさを理解するのに欠かせないものだからだ。
性的な多様性は、戦略のレパートリーの中でのどの戦略を採用するかを促す個人的状況に左右される。その選択は、おそらく意識的に行われるわけではない。たえば、経済的資源が乏しい状況にあるアカ族の男性は、子供への世話という形で多くの投資を行う配偶戦略をとる。
クン族では、十分に魅力的で、投資する意志のある男性を次から次に惹きつけられる状況にある女性は、何度も結婚をくりかえす。どんな配偶戦略も、われわれが進化させてきた心理メカニズムに深く根差しているとはいえ、状況に関係なく、無条件に実行されることはない。それぞれの性戦略を促進する鍵となる社会的状況を知ることは、男女間および男女それぞれの中における配偶行動の多様性を把握するうえで役立つだろう。
そうした多様性を知れば、われわれを駆り立てている利己的な関心のもとになっている価値観を吟味することができる。西欧社会では、ひとりの配偶者と一生添い遂げることを理想として称揚する傾向があり、この慣習に従わない人々は、逸脱しており、未成熟で、罪深い存在と見なされる。
そうした価値観は、それを持っている人間の隠された性戦略を明らかにしていると考えられる。たとえば、生涯変わらない愛情という理想を説くことは、女性に最大の利益をもたらすことが多い。
多くの男性と関係を持っている女性は、一夫一妻を堅持している女性にとって、夫の資源や関心、献身を奪い取る脅威となりうるからである。また、男性にとっても、一夫一妻戦略をとるように勧めることは――たとえ自分はその戦略にしたがわなくても――大きな利益となる。
多くの女性と関係する男は、他の独身男性の配偶機会を奪うと同時に、既婚男性には妻を寝取られる危険をもたらすからだ。セックスにたいする我々の価値観は、進化させてきた配偶戦略の表明であることが多いのである。
カジュアル・セックス戦略は人類の進化の歴史に深くかかわっている
男女どちらの場合でも、カジュアル・セックス戦略は人類の進化の歴史に深くかかわっている。男性はカジュアル・セックスに貪欲であり、女性は消極的あると強調する進化論的説明は、実情を捕らえていない。
男性の戦略レパートリーの一環として、ひとりの配偶者に献身することが出来るのと同じように、女性もまたカジュアル・セックスという戦略を用いることができる。そして現実に、自分にとって利益となると分かれば、カジュアル・セックスを求める。
ダーウィンが性淘汰の理論を提唱してから一世紀の間。男性科学者たちはこの理論に執拗に抵抗し続けた。反対理由のひとつは、彼らが、女性は配偶者行動において受動的だと信じ込んでいたことにあった。
女性が積極的に配偶者を取捨選択し、それによる淘汰が強力な進化的原動力になるなどと説く、科学的事実というよりSF小説に近いと見なされていたのである。だが1970年代になると、科学者たちは徐々に昆虫を初めとする動物における、メスによる配偶者選択の重要性を認めるようになった。
80年代には、われわれ自身の種すなわちヒトにおいても、女性が配偶者を選んだり、配偶者をめぐって競争するために積極的に戦略を用いることが実証されはじめた。とはいえ、90年代になってからも、大部分の科学者は、女性が永続的な配偶者の獲得という単一の配偶戦略しかもつていないという見方に固執しつづけている。
しかし科学的な証拠と違うことを示唆している。一部の女性が永続的な配偶関係よりもカジュアル・セックスを求め、配偶者選択の基準を、奔放なライフスタイルや身体的魅力を備えた男性を好む方向へと変化させているという事実は、女性が短期的な配偶関係に適した心理メカニズムをも備えていることを教えてくれる。
また、浮気する既婚女性が、夫より地位の高い男性を相手に選びがちであるという事実も、そうした心理メカニズムの存在を裏書きしている。さらに、投資してくれる男性の死や、男女比の望ましくない不均衡といった予測しうる事態に直面した女性は、配偶行動の目標を短期的な関係に切り換えるという事実も、その例証になるだろう。
配偶者を頻?に代えたり多くの相手と関係したりすることを、非難する人々は多い、そうした道徳観を他人に押し付つけることは彼らの利益になるからだろう。しかし科学的見地に立ち、長い時間にわたる進化という視点から見れば、人間の数多い配偶戦略のレパートリーのなかで、あるひとつの戦略だけに価値をおく倫理的な理由は何もない。
むしろ、性戦略の多様性のなかにこそ、人間の本質は存在する。欲求の豊かな多様性を認識することで、男女間の調和へとまた一歩近づくことができるのである。
つづく
文化的な差異
煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。