男性の早死には、配偶市場における男女の数に深刻な不均衡をつくりだす要因のひとつであり、その不均衡は年を経るにつれてますます拡大していく。こうした現象は、婚姻機会の縮小(スクイーズ)と呼ばれる。トップ画像

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婚姻機会の縮小

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

婚姻機会の縮小

男性の早死には、配偶市場における男女の数に深刻な不均衡をつくりだす要因のひとつであり、その不均衡は年を経るにつれてますます拡大していく。こうした現象は、婚姻機会の縮小(スクイーズ)と呼ばれる。配偶者となりうる男性の数が足らないために、一部の女性が配偶市場から「絞り出される(スクイーズ・アウト)」からだ。

男女比はさまざまな要因に左右される。幼児・小児・青年・成人それぞれの死亡率は男女で異なっており、一生を通じて男性の方がより早い時期に死亡しやすい。また、男性は女性に比べ、生まれ育った場所から他所へ移り住むことが多く、そのために男女比の不均衡が生じる。

ベビーブームも不均衡を生みやすい

ベビーブーム世代に生まれた多くの女性は、結婚相手となる男性の少なさに悩むことになる。女性は普通自分よりも年上の男性を選ぼうとするが、ベビーブームより前に生まれた男性は絶定数が足りないからだ。男性の視点からすれば、ベビーブームの前に生まれた男たちは、ブームのただなかに生まれた年下の女性を結婚相手に選ぼうとするので、相対的な幅が広くなる。

その他にも、刑務所に服役するのは男性の方が圧倒的に多いことも、配偶市場における男女比の不均衡を加速させる。戦争の犠牲になるのも男性が多いため、戦後の配偶市場では女性の余剰が生じることになる。

一生における離婚と再婚のパターンも、婚姻機会の縮小を引き起こす主要な原因のひとつだ。離婚した男性は、自分よりもさらに若い女性と再婚したがる傾向がある。さらに離婚したあと再婚するのは女性より男性のほうが多いので、一生を通じて配偶市場における男女の数の差は常に拡大し続けることになる。

女性が離婚した場合、男性に比べて、再婚相手を見つけるのはむずかしい。カナダで行われた調査によれば、離婚した男性が再婚する率は、二〇〜二四歳で八三パーセント、二五〜二九歳では八八パーセントだった。

これに対し、女性の再婚率は二〇〜二四歳でも六一パーセントにすぎず、二五〜二九歳では四〇パーセントにまで落ちた。アメリカでも、離婚した女性が再婚する率は、一四〜二九歳では七六パーセントだが、三〇〜三九歳では五六パーセントに落ち、四〇〜四九歳では三二パーセント、五〇〜五九歳ではわずか一二パーセントになる。

こうした再婚パターンは北米に固有のものでなく、再婚に関する正確な統計がとられている国のすべてで見られる。四七カ国で行われた調査でも、男性に比べて、女性の再婚率は年齢に大きく左右されることが解っている。二五〜二九歳では、再婚する男女の数の差は小さい。

しかし五〇〜五四歳ともなると、男女の再婚率の差はきわめて大きくなってしまう。たとえばエジプトでは、この年齢層の男性の再婚率は女性の四倍である。エクアドルでは九倍、チュニジアでは実に一九倍にまで達する。

婚姻機会が縮小する傾向

女性が年を取るにつれて婚姻機会が縮小する傾向は、巨視的に見れば、男性と女性の性的心理から生じるものと言える。この傾向の核心をなしているのは、女性の繁殖的評価が年とともに急速に低下することである。そのために、われわれの祖先のうち、若い女性を配偶者に選んだ男性と、資源を持つ年上の男性を配偶者に選んだ女性とか、自然淘汰の際に有利になっていった。

祖先の女性たちが資源を持つ男性を好んだため、男性には、より激しく競争し、高いリスクを冒す方向へ淘汰圧がかかった。その結果、男性は女性よりも早く死ぬようになり、男性の不足はさらに加速されてしまった。

一生を通じて男女比の変化は、男女それぞれの性戦略に予想通りの影響を与えている。戦略面での最大の変化は、選択条件をどの程度厳しくするかである。男性が過剰な場合には、女性は選り好みできるのはごく一部の男性にかぎられる。大部分の男は、もし男女の数が均衡なら得られるはずの配偶者よりも、もっと値打ちの劣る女性で我慢しなければならない。

反対に男性が少ない場合には、女性にとって選択の幅が狭くなるため、選り好みをしておられなくなる。このように、男性と女性がどれだけ自分の理想にあった配偶者を獲得できるかは、男女の人数比に影響される。

男性の数の少なさは、結婚を不安定にする原因にもなる。配偶対象となる男性よりも女性の方が多いということは、大部分の女性が、男性から誠意ある献身を受けられないことを意味する。

身近に手にいる女性がたくさんいれば、男性は次から次へとカジュアル・セックスを追及することができる。このことは、アメリカの歴史における男女比の変化によって裏づけられている。一九七〇年から八〇年にかけてアメリカでは離婚が増加したが、これは配偶市場において女性が過剰だった時期とほぼ重なっているのだ。

対照的に、一九八〇年代末になると、その前の一〇年間に比べて新婚夫婦の離婚率が下がっているが、これは男性の割合の増加と軌を一にしている。この時期には、女性の結婚生活に対する満足度は、夫の側を上回っていた。だが、それに先立つ一五年間――男性の数が不足していた時期――には、妻の満足度は夫よりも下だった。

また、一九七三年から六〇年代末までの間に、ビジネスにおけるキャリア向上を目指す男性の数は倍増しているが、これも配偶市場における男性の割合が高くなった時期と一致しており、男性が以前よりも経済的成功を求めるようになったことを示唆している。

結婚可能な男性の不足

結婚可能な男性の不足は、女性に対し、資源の供給により大きな責任を背負わせることにもなる。その第一の理由は、女性が男性からの援助を当てにできなくなるからだ。さらに、経済力をつけることは、自分の値打ちを高めようとする女性の戦略の一環でもある。

女性より男性の数が少ない時期には、働いて収入を得ている女性の数が増加することは、過去の歴史が実証している。一九二〇年代のアメリカでは、移民法が改正された影響で、外国生まれの移民たちの間では男性よりも女性の方がずっと多くなり、そうした女性たちの就労率が飛躍的に高まった。投資してくれる男性の数が少ないと、女性が自分で資源を確保する必要性が増大する。

また、男性が少ない配偶環境におかれた女性たちは、自分の競争力を高めようとして、容姿に磨きをかけたり、健康を誇示するようにふるまったり、ときには男性を惹きつけるために性的な誘いをかけたえする。

一九六〇年代の末から七〇年代にかけてアメリカで起こった性革命は、ひとつの注目すべき変化を含んでいた。多くの女性がセックスを留保することを止め、男性に誠意ある献身を求めることなしに、性的関係を結ぶようになったのである。

この性的な姿勢の変化が生じたのは、ベビーブーム期に生まれた女性が年上の男性の不足に悩んでいた時期と一致している。ダイエット産業が勃興したり、美容・化粧品産業が繁栄をきわめたり、美容整形手術が流行ったりといった風潮が示すように、女性たちの間で容姿をめぐる競争が激化していったのも、やはり男性が不足していたこの時期だった。

多くの男性が少数の女性を争うような状況では、男女間のバランスは女性の側に傾く。女性は男性から望むものを容易に引き出すことができ、一方で男性は、望ましい女性を惹きつけ、確保するために、他の男と激しい競争しなければならない。

男性が献身を示し続け、配偶関係を解消しようと望まないことが多いので、結婚生活は安定したものになる。女性の数が少ないと、男性は代わりの配偶者を簡単に見つけられず、カジュアル・セックスを求めるのも難しいからだ。

かくして男性は、女性が永続的な配偶者に求める条件を満たすべく努力することになり、とりわけ資源を獲得し子供に投資する意志を示そうとしている。

しかし、男性が過剰な場合に起こる変化のすべてが、女性の利益になるわけではない。大きな悪影響のひとつとして、女性に対する暴力がエスカレートすることに悩まされる可能性が考えられる。男性過剰の時期には、数多くの男性が、周りに十分な数の女性がいないために結婚の道を閉ざされる。さらに、そうした状況下でうまく女性を獲得できた男たちは、ライバルに奪われないように嫉妬深くガードする。

一方、既婚の女性には、今の夫以外にもたくさんの選択肢があるので、別れると言って夫を脅すのにも真実味が出てくる。こうした状況のもとでは、夫は性的嫉妬に苛まれやすくなり、脅しや暴力を用いて妻を支配しようとしたり、妻に手を出そうとする男たちへの暴力をエスカレートさせたりするだろう。

配偶者を得られない男性が多数存在することは、性的暴力やレイプを増やす恐れもある。暴力は、希望を無理せずに叶えられるだけの資源(リソース)を持たない人々にとっての頼みの綱(リコース)となりやすいからだ。レイプの犯人は、女性が配偶者を求める地位や資源を持たない社会的な境界人(マージナルマン)であることが多い。

さらに、人口における男性の割合が低い社会の方が、戦争の起こる率が明らかに高いという事実がある。このことは、男性数が過剰な状況下では、男性間の競争が過熱するという推測を裏書きしてくれる。

男女比の変化は、配偶戦略にもそれに応じた変化を引き起こす

一生のあいだに生じる男女比の変化は、配偶戦略にもそれに応じた変化を引き起こす。女性はふつう、高い地位と潤沢な資源をもつ成熟した男性を好む。そのため若い男性は、結婚相手となる女性が不足した状態に置かれることが多い。若い男性の配偶戦略は、こうした局所的な女性欠乏という事態を反映している。

彼らはきわめてリスクの高い競争戦略を取り、性的暴力、強盗、傷害、殺人といった暴力犯罪の大部分に関与しているのだ。ある研究によれば、レイプで逮捕された男性の七一パーセントが、一五歳〜二九歳の間だったという。こうした暴力犯罪は、若い男性がまともなやり方では惹きつけたりコントロールしたりできない女性にたいして行わられている。

男性が三〇代ないし四〇代に達し、さまざまな危機を乗り越えてそれなりの地位を手に入れるころには、一般的に、男女比は彼らに有利な方向へ変化している。選択の対象となる女性はたくさんおり、配偶市場における彼らの価値も若い頃よりずっと高くなっている。カジュアル・セックスや婚外情事、離婚と再婚のくりかえし、一夫多妻などを通じて、複数の配偶者を得ることも容易になる。

とはいえ、配偶者としての値打ちがもともと低い男性は、年齢がどうあれ、こうした立場を享受することはできない。一部の男性は配偶市場から完全に締め出されてしまっているのだ。

一方、女性は年を取るにつれて男女比が日増しに不利になっていくのを実感するようになり、配偶戦略の修正を迫られることが多くなる。男性を選ぶ基準を下げ、ライバルの女性との競争にさらに力を入れ、なるべく自分で資源を確保するようになるのだ。こうした継時的な変化はすべて、われわれが進化させてきた配偶戦略の産物なのである。
つづく 一生添いとげるために