動物界全体を通じた法則として、配偶システムが一雄多雌的になればなるほど、オスとメスとの死亡率は大きくなる。そうした配偶システムは、さまざまなリスク――他のオスと競争するリスク、メスを欲しがる資源を確保するリスク、メスを誘惑し、求愛するために自分を目立たせるリスクなど――背負うことを辞さないトップ画像

男が早死にする理由

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

男が早死にする理由

あらゆる社会で男性は女性よりも早死にする傾向があるという、困惑させられるような発見もまた、人間の配偶メカニズムから説明することができる。この点においては、自然淘汰は女性よりも男性に対して過去に作用するのだ。一般に男性の寿命は女性よりも短く、人生のあらゆる段階において、女性よりも多種多様な原因で命を落とす。

男性の寿命は女性より平均して短い

たとえばアメリカでは、男性の寿命は女性よりも平均して六〜八年短い。男性は女性にくらべ感染症への抵抗力が弱く、死因となる病気の数もそれだけ多種類におよぶ。また、高所から落ちたり、誤って毒物を飲んだり、溺れたり、火器の暴発や交通事故、火事爆発などに巻き込まれることが女性よりも多い。

生まれてから四年間のあいだに、男の子が事故で死亡する率は、女の子よりも三〇パーセント高く、成人するころには四〇〇パーセントも高くなる。殺害される割合も、男性は女性の三倍近い。

女性よりも危険な目に遭うことが多く。また自殺を図る率も高い。同性間の競争が最も激しくなる一六歳から二六歳の時期は、男性にとっては特に苛酷で、男性の死亡率は女性の死亡率より二〇〇パーセント近くも高くなる。

哺乳類の多くの種と同じように人間でも男性の死亡率のほうが高いのは、その性的な心理メカニズム、なかでも配偶者を求める競争に直接の原因がある。競争という危険な戦術が多用されればされるほど、得られる繁殖的な利益の個人差も大きくなる。一部のオスが複数のメスを独占するような状況下では、勝者は莫大な繁殖的利益を得られる一方で、敗者は莫大な損失を被ることにならざるを得ない。

アカシカはその典型的な例である。アカシカでは。ふつう、身体が大きく、角も大きいオスが、小柄なオスよりもはるかに大きな繁殖的成功を収める。身体の大きなオスは、角をつき合わせる戦いによって、競争者を打ち負かすことが出来る。しかし、そうした成功は、生き残りという面でのコストと引き換えに獲得されたものだ。

繁殖面での成功をもたらすのと同じ資質が、死亡率を高める方向にもはたらく。たとえば、わずかな資源しか得られない冬には、大型のオスはその身体を維持するに十分な餌を得られず、餓死することが多くなる。また、身体大きいと、それだけ捕食者に襲われやすく、機敏に逃げることもできない。同じオス同士の戦いで命を落とす危険だけでなく、このような可能性も考えに入れておかなければならないのだ。

そうした危険は、すべて身体を大型化させるというアカシカのオスの性戦略から生じてきている。この戦略は、メスを獲得する競争では利益をもたらすことが多いが、オスがメスに比べて短命である原因にもなっている

一雄多雌的になればなるほど、オスとメスとの死亡率は大きくなる

動物界全体を通じた法則として、配偶システムが一雄多雌的になればなるほど、オスとメスとの死亡率は大きくなる。そうした配偶システムは、さまざまなリスク――他のオスと競争するリスク、メスを欲しがる資源を確保するリスク、メスを誘惑し、求愛するために自分を目立たせるリスクなど――背負うことを辞さないオスに有利にはたらくからだ。

一部の男性が結婚を繰り返したり、情事を重ねることで複数の女性を獲得し、その一方で配偶者を得られない男性もいるわれわれの社会は、ゆるやかな一夫多妻の配偶システムを取っていると考えてもいい。そうしたシステムのもとでも、男性間の競争と、女性が裕福で地位の高い男性を選びたがるために、結果として男性がリスクを好んで背負う傾向が進化した。寿命の長さと引き換えに繁殖的成功を得ることになったのである。

繁殖は女性よりも男性にとって危険なかけであり、配偶者を全く得られない可能性の高い男性の方が高い。どんな社会でも、一生独身のまま過ごすのは女性よりも男性の方がはるかに多い。

一九八八年にアメリカで行われた調査では、二九歳で未婚なのは男性では四三パーセントに達するのに対し、女性ではわずか二九パーセントにすぎない。三四歳になると、結婚したことのない男性は全体の二五パーセントだが、女性では一六パーセントだ。男女間の未婚率のこのような差は、ティウィ族のような極端な一夫多妻社会でもっとも顕著になっている。ティウィ族では、女性は文字通り全員が結婚しており、ごく一部の男性は妻を二九人ももっている。その結果、当然ながら、多くの男性は独身生活を強いられることになる。

こうした適応的な理論からいえば、大きなリスクを背負い、したがって死亡率が高くなる現象は、配偶者たちがプールの底辺にいて、完全に繁殖の途を閉ざされている人々のあいだで起こりやすいはずだ。この推論は実際に証明されている。

ギャンブルや命がけの喧嘩といったリスクの高い行為

ギャンブルや命がけの喧嘩といったリスクの高い行為をする人間の大部分は、職もなく、結婚もしていない若い男性である。1972年にデトロイトで起こった殺人の四一パーセントは、無職の成人男性が犯人だった。男性の犯人の七三パーセントが独身者だった。デトロイト市全体の失業率が一一パーセントであることを考えると、この数字は極めて高い。市全体の未婚率は四三パーセントでしかない。

年齢層も一六歳〜三〇歳までのあいだに極端に集中している。要するに、無職で、結婚もできず、年齢も若いために、価値が低いと見なされる男性は、リスクを冒そうとする傾向が強く、それがときとして一線を踏み越え、生死にかかわる事件に繋がるのだろう。

ここで重要なのは、殺人という行為そのものが適応的な本質を持つわけではないということだ。そうではなく、男性が進化させてきた性的な心理メカニズムが、ある状況のもとではリスクを高める方向に作用するよう設計されているのである。

われわれの祖先の時代に、進んでリスクを背負った男たちが得た繁殖上の大きな利益と、より慎重な男たちが受けた繁殖上の不利益とが、たとえ長寿を犠牲にしても、男性同士の競争での勝利をもたらすような資質の進化を促した。生存という長寿という点からすれば、同性間競争による淘汰は、男性にとって苛酷な方向へ働いたと言っていい。
つづく 婚姻機会の縮小 

煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。