女性の配偶者としての価値は、年を取るとともに急速に低下するが、それは男性には当てはまらない。男性の価値を形成する鍵となる要素の多くは、年齢と密接には関係していなかつたり、年齢の影響をあまり受けないものだからだ。 トップ画像

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男の価値の変化

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

男の価値の変化

女性の配偶者としての価値は、年を取るとともに急速に低下するが、それは男性には当てはまらない。男性の価値を形成する鍵となる要素の多くは、年齢と密接には関係していなかつたり、年齢の影響をあまり受けないものだからだ。そうした要素には、知性や協調性、責任感、政治力、親族のネットワーク、人脈、そして最も重要なものである、女性と子供に資源を提供する能力と意志などが含まれる。

 収入や社会的地位などから読み取れる男性の資源供給能力は、女性の繁殖的価値とは全く異なった年齢分布を示す。この差異には二つの重要な特徴がある。まず、男性の資源と地位は、女性の繁殖的価値にくらべ、人生の最も遅い時期にピークに達するのがふつうであること。

 そして、男性の場合、資源や地位の獲得の個人差が大きいことである。女性の繁殖的価値が、年を取るにつれて例外なく徐々に低下していくのに対し、男性の資源や社会的地位は、ある場合には年齢とともに下降し、ある場合には横這いのままであり、ある場合には急速に上昇する。

 また男性の場合、配偶者としての価値は変遷を判断するためには、社会的地位と資源の蓄積とも区別して考えなくてはならない。われわれの祖先が暮らしていた狩猟・採取社会では、狩りの技術が未発達だったり、獲物を長期保存する方法がなかったために、男性が備蓄できる肉の量には限りがあった。

 現在の狩猟・採取社会でも、男性が所有している土地の広さや肉の蓄えには大きな個人差がない。さらに、アチェ族のような社会では、個人個人の狩りの能力には差があるにもかかわらず、得られた肉は集団内で分配される。そのため、男性一人一人が狩から直接に得る資源の量はあまり変わらないことになる。

 とはいえ、肉が平等に分配される社会でも、優秀なハンターは能力の低いハンターよりも大きな繁殖的成功を収める。ハンターが自分の獲物を独占できない社会で、こうしたことが起こりうる理由は二つある。まず第一に、女性は優秀なハンターを好むので、狩りの技術の優れた男性は、そうでない男性よりも婚外セックスの機会に恵まれることになる。

 第二に、優秀なハンターの子供は、無能なハンターの子供に比べ、集団内の他のメンバーから優遇される。手に入る肉の量そのものは変わらなくとも、狩りの技量によって社会的地位に違いが生じるのだ。地位が高くなれば望ましい女性とセックスすることができ、子供たちはより良い扱いを受けられる。このように、地位と資源の所有とはそれぞれ異なった資質なのである。

農耕の出現と、後の貨幣経済の成立

約一万年前に起こった農耕の出現と、後の貨幣経済の成立は、狩猟・採集時代の祖先たちに比べ、はるかに大量の資源の蓄積を可能にした。ロックフェラー家の人間とホームレスのあいだの資源保有量の差は、アチェ族の族長と、もはや狩りができなくなった最下層の老人の差よりもはるかに大きい。

 しかし、社会的地位に関しては事情が異なる。貨幣経済は男性が持つ資源の差を拡大させたが、現代の男性のあいだに存在する。地位の隔たりは、われわれの祖先の場合と比べて、本質的には大きなものではない。

 社会的地位は、収入と違って判断しにくい。だが、世界各地に現存する狩猟・採集社会から、年齢によって地位がどう変わるかの手がかりを得ることができる。まず、一〇代の少年が最高の地位につくような社会は、知られている限り存在しない。

 たとえばティウィ族では、男性がひとりもしくはふたりの妻を迎えられるだけの地位に達するには、通常では少なくとも三〇歳、場合によっては中年になってからである。ティウィ族の若い男性は、ひとかどの地位を得て妻を迎えられるだけの政治的な力を持っていないのだ。

 クン族の男たちは、二〇代の一〇年間を、狩りについての知識や知恵を身に着け、技を磨くために費やす。部族のために大きな獲物の狩りに参加できるのは三〇代になってからだ。

 アチェ族でも、男性の地位は狩りの技量できまり、二〇代半ばから後半にかけてピークに達し、三〇代のあいだ、あるいは四〇大までその地位が保たれる。クン族でもアチェ族でも、六〇歳を過ぎると狩りができなくなるのがふつうで、そうなった男性は弓矢を持ち歩くのは止める。

 すると政治的地位は大幅に低下し、若い妻を惹きつけることもできなくなる。アチェ族の男性の地位は、二五歳から四〇歳の間に最も高くなるが、それは狩りの能力に密接に関係している。アチェ族やヤノマモ族、ティウィ族では、年上の男性は尊敬されて高い地位につき、若者たちから畏怖の念を抱かれるが、それは彼らが、棍棒や槍、戦斧などによる戦いに何度も勝利してきたからだ。
 
 そうした地位を壮年のあいだで保ちつづけるためには、地位を狙う他の男たちからの攻撃を切り抜けなくてはならない。

 年齢と関係した同じように傾向は、現代の西欧社会でも観察することができる。西欧社会で男性の一生を通じて資源の指標となるのは、実際の金銭的収入である。男性と女性の資源が年と共にどう変わっていくかについての世界的な統計は取られていないが、アメリカにおける年齢別の収入の分布は毎年調査されている。

 たとえば一九八七年のアメリカ人男性の年齢別収入を見てみると、一〇代と二〇代前半の収入が最も少ない。二五歳〜三四歳の年代でも、収入のピーク時の三分の二にとどまっている。アメリカ人男性の収入が最も高くなるのは、三五歳〜五四歳のあいだであり、五五歳を過ぎるとその収入はふたたび下降していく。

 引退したり、仕事ができなくなったり、かつてのような高給を取れるだけの能力を失ってしまうからだろう。ただし、このような平均的な数字は、大きな個人差の存在を覆い隠してしまっている。老齢になっても収入が増え続ける場合もあれば、一生貧乏のままの場合もある。

 若い男性よりも年配の男性の方が、高い地位と多くの資源を手にする傾向があるために、同じ年齢の男性と女性とでは、ふつうは配偶者としての価値は違ってくる。

例えば同じ一五歳から二四歳のあいだに、女性は妊娠能力と繁殖価値が頂点に達するが、男性は成人のうちで地位と収入がもっとも低い状態にあることが多い、逆に三五歳から四四歳では、女性の大部分は繁殖可能年齢の終わりに差し掛かるが、男性の多くはこれから収入のピークを迎えることになる。

 女性の値打ちを決める中心となる要素が繁殖的価値であり、男性の値打ちを主に決める資源供給能力である以上、年齢が同じ男性とは女性とは値打ちが違っていて当然なのだ。

 年齢による配偶者の値打ちの変遷において、男性と女性で決定的に違うもうひとつの点は、個人差の大きさである。このために、男性の場合、年齢それ自体は配偶行動の副次的な要素になってしまっている。西欧社会における職業的地位は、雑役夫から成功した起業家というものまで多岐にわたっている。

同じ年齢の男性であっても、その収入はホームレスの小銭から、ロックフェラー一族の数十億ドルの小切手までさまざまだ。二〇代前半歳から四〇歳のあいだの年齢で、男性の資源獲得能力は驚くほどのばらつきを見せる。

中年女性がもっと年上の男性を好むのは

しかし、こうした平均的傾向は、選択する側である女性の個人的状況にも大きな差異があることを覆い隠してしまいがちだ。女性の視点からすれば、重要なのは平均値ではなく、個別の状況である。

 一部の中年女性がもっと年上の男性を好むのは、その男性が持つ資源のためではなく、同じ年齢の男性たちより、自分を高く評価してくれると考えるからだ。アフリカのアカ族では、高い地位につき、生涯に多くの資源を手にした男性は、結婚して子どもの世話を自分ではほとんどしない。

 それに対し、低い地位しか得られず、妻や子どもにわずかな資源しか提供できない男性は、子供の世話に多くの時間を割くことでそれを埋め合わせる。赤ん坊を抱いていることは、カロリー消費の点でも、他の活動を犠牲にするという点でも高くつく行為であり、父親の投資を示めす重要な指標のひとつである。

 そうすることで環境に潜む危険や気温の変化、事故や他人の攻撃から赤ん坊を守ることができる。アカ族では、集団内で高い地位にある男性は、自分の赤ん坊を平均して一日三〇分しか抱いてやらないのに対し、地位の低い男性は、自分の赤ん坊を抱き続ける。ふつう、女性は地位と資源を兼ね備えた男性を好むが、子供を世話しようとする意志もまた価値ある資源であり、それ以外の資質の欠如を部分的には埋め合わせてくれる。

 また、経済的資源を潤沢にもっている一部の女性たちは、男性を社会的な地位で選ぶ必要がない。男性の値打ちとは、女性の心理メカニズムによって判断されるものであり、そのメカニズムは状況に大きく左右される。しかし、だからといって平均的な傾向の重要性が否定されわけじゃない。

 実際のところ、数千世代にも及ぶ人類の進化史を通じて、自然淘汰によって形作られ出されたものが、そうした傾向だからだ。ただ、われわれ人類は、男女それぞれに特徴的かつ普遍的な配偶者選択をうながす心理メカニズムを進化させただけでなく、一生を通じ、自分が置かれている状況に応じて選択を変えていくメカニズムをも進化させた。
つづく 男が早死にする理由