デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
欲望の減退
結婚生活が長くなるにつれて起こるもっとも顕著な変化のひとつは、セックスに関すものである。新婚夫婦を対象にした調査によれば、夫は、結婚したあと年を重ねるごとに、妻がセックスに応じようとしないという不満を募らせるようになる。結婚一年目には、妻がセックスに応じないという不満を持つ男性は一四パーセントにすぎないが、四年後にはその三倍の四三パーセントが不満を抱いくようになる。
また、夫がセックスに消極的だという不満をもつ女性の割合も、結婚一年目の四パーセントから、結婚五年目には一八パーセントへと増加していく。男女どちらも、年を重ねるにつれパートナーがセックスに消極的だという不満を抱くようになっていくが、不満をもつ割合は男性が女性の二倍以上高い。
結婚してから年月を経るにつれてパートナーとの性的なつながりが薄れていくことは、セックスの回数の減少にあらわれている。一九歳未満の既婚女性は、平均して月に一一ないし一二回セックスを行う。
三〇歳になるとその頻度は月に九回に下がり、四二歳で月六回、五〇歳を過ぎると、夫婦間のセックスの回数は週一回にまで落ちてしまう。この調査結果は、女性側あるいは男性側、もしくはその両方の性的関心が失われていくことを反映しているものと思われる。
年をとるにつれて、性的なつながりが希薄になることを示すもう一つの証拠は、既婚男女の性的な満足度とセックス回数が年月とともにどう変わっていくかを調べたギャラップ調査(統計学者G・ギャラップが開発した標本抽出調査方式)から得られている。
少なくとも毎週一回はセックスをしている夫婦の比率は、三〇歳では約八〇パーセントだったが、六〇歳になると約四〇パーセントに減少した。同時に、性的な満足度も同じように低下している。自分の性生活について「非常に満足している」と答えたカップルは、三〇歳では四〇パーセント近くいたのにたいし、六〇歳では二〇パーセントしかなかった。
子供の誕生も、セックスの頻度に大きな影響を及ぼす。ある調査によれば、二一組の夫婦を対象に、結婚第一日目から三年間のあいだ、セックスの回数を毎日記録してもらった。結婚して一年後のセックスの頻度は、最初の一ヶ月間の約半分だった。
ところが子供が誕生したしたことによるセックス頻度の減少はさらに大きく、最初の一ヶ月間に比べて約三分の一にまで下がってしまった。子供が生まれと、それまで配偶者に向けられていたエネルギーが子育てに向けられるため、夫婦間のセックスに長期にわたる得経を及ぼすのだろう。
結婚後の時間の経過が性生活に与える影響は、女性の容姿の変化に左右される。一五〇〇人以上の既婚男女を対象にした調査によれば、加齢に伴う容姿の通常の変化にたいして、男性と女性とでは異なった反応を示す。
女性が年を取ると、その夫は妻に性的関心をあまり示さなくなり、自分たちの性的関係に不満を抱くようになる。この効果が最も強力に表れるのは、妻の身体的魅力がめっきり衰えたと夫が感じている場合だ。新婚時代を過ぎると、妻より夫の方が相手への性的関心を失いやすいということは、他の調査でも立証されている。配偶者の加齢に伴う容姿の変化に対して、男性の性的欲求は女性よりも敏感に反応するのである。
つづく
献身の低下