協調性のない人間は、いい配偶者になれない。すぐに激昂したり、暴力を振るったり、罵倒したり、子供を虐待したり、物を壊したり、家事を放棄したり、友人と仲たがいするような配偶者を持つことは、心理的・社会的・身体的に大きなコストとなる。 トップ画像

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残酷さと冷たさ

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

残酷さと冷たさ

長期的な配偶者に求められる資質の一つが「優しさ」であることは、万国共通である。それは、すすんで協力してくれる意志を示すものであり、長期的な配偶関係を成功させるためにはふたりの協調が不可欠だからだ。協調性のない人間は、いい配偶者になれない。すぐに激昂したり、暴力を振るったり、罵倒したり、子供を虐待したり、物を壊したり、家事を放棄したり、友人と仲たがいするような配偶者を持つことは、心理的・社会的・身体的に大きなコストとなる。

 そうしたコストかかるために、配偶者の残酷さや非情さ、粗暴さというものは、離婚の要因になることが多く、配偶関係解消に関する調査でも、五四の社会でその例が報告されている。すべての文化圏を通じて、離婚の原因としてこれを凌ぐのは浮気と不妊しかない。女性の離婚の原因に関する調査によれば、離婚女性の六三パーセントが夫からの精神的に虐待されたと述べており、二九パーセントは身体的な虐待を受けたと訴えている。

心理的な冷たさや残酷さは

結婚生活のさまざまな場面で表れるが、特に顕著なのは浮気や不妊に関係している。たとえば、インドの古い生活習慣を残す社会では、子供のいない夫婦のあいだでしばしばののしり合いが起こる。インドのある既婚男性はこう語っている。

「私たち夫婦は七年間一緒に暮らしてきたが、子供ができず、しまいにはおたがいうんざりしてしまった。妻は、毎月生理が始まるたびに、私の事をこう罵ったんだ。『あなたはそれでも男なの? 子供をつくる力ないなんて』。私はそのたびにいたたまれなくなり、落ちこんでしまった」。この夫婦は結局、離婚した。

 浮気もまた、残酷さや冷たさを誘発することがある。クイチェ族では、妻が不貞をはたらくと、夫から罵られる、虐待され、ときには食事も与えられなくなったりする。浮気した妻が、怒り狂った夫から殴られたり、レイプされたり、罵られたり、傷付けられたりするのは、世界中で見られる現象だ。

 このように、結婚生活の過程で繁殖上のダメージをもたらすできごとが起こると、残酷さが何らかの形で表面に現れる場合がある。いうなれば、一部の人間が示す残酷さや冷たさは、その背後には他の離婚原因が潜んでいることを示す兆候なのかもしれない。それは、配偶者のせいで課されたコストを解決するために、心理メカニズムや行動戦略が爆発した結果なのだ。

 一方、残酷さが、配偶者がもともと備えている人格的特徴である場合もある。われわれは、新婚夫婦を対象とした調査で、ある人間の人格的特徴と、その人間がどんな問題で配偶者を悩ませているかの相関関係を分析したことがある。協調性のない夫を持つ女性は、みんな不満を訴えていた。

 そうした夫たちは、尊大で、身体的・精神的な虐待を行い、不実で、思慮が浅く、気分屋で口うるさく、自己中心的だからだ。「協調性がない」と判断された夫をもつ妻の多くは、夫から見下されているという不満を述べている。彼らは、多くの時間と関心を割くことを妻に要求するが、自分は妻の感情などかえりみない。

 さらには、妻を叩いたり、殴ったり、侮辱的な呼び名で読んだりする。他の女に手を出したり、家事をいっさい手伝わなかったり、アルコールに溺れたりもする。妻の容姿をけなし、自分は本心を隠して空威張りする。こうした協調性のない配偶者と結婚してしまった人々は、当然ながら結婚生活に不満を抱き、その多くが結婚四年目までには離婚することになる。

配偶者に優しさを求めている

多くの人々は、配偶者に優しさを求めている。従って望ましくない配偶者と別れるための最も効果的な方法の一つは、わざと冷たく、残酷かつけんか腰に振る舞うことである。配偶者が愛想を尽かすように仕向けるための有効な手段として、男女双方が挙げた戦術には次のようなものがある。配偶者を冷たくあしらう、他人の面前で罵倒する、わざと感情を傷つける、喧嘩を挑発する、わけもなく怒鳴りつける、些細な行き違いを大袈裟に言いつのって怒らせる、などだ。

 配偶者と別れる手段として、残酷さや冷たさを示す例は世界中でみられる。クイチェ族では、浮気をした妻と別れ対と思う夫は、さまざまな手段を用いて、妻をいたたまれない状況に追い込む。

「望ましくない妻は文句をつけられ、罵られ、食事も与えられなくなる。夫は妻を罵倒し、虐待し、公然と浮気をする。他の女性と結婚したり、愛人を家に向かい入れたりして、妻の面目を失わせることさえある」。こうした行為はすべて、男女双方が配偶者に求めている優しさとは正反対の残酷さを示すためのものなのだ。
 

妻どうしの軋轢

一夫多妻制は、さまざまな文化で見られる慣習である。八五三の文化圏を調査したところ、その八三パーセントが一夫多妻制を容認していることが明らかになっている。アフリカ西部のいくつかの社会では、年長の男性の二五パーセントが、同時にふたりもしくはそれ以上の妻をもっていた。一夫多妻が法的に認められていない社会でも、そうした例はときおり見られる。

ある調査によれば、アメリカ全体で――その大部分は西部諸州だが――事実上の一夫多妻婚が二万五千組から三万五千組存在していると推定される。

 また、経済的に成功したアメリカ人男性四三七人を対象にした別の調査では、一部の男性がふたつの家庭を持っており、どちらも相手の事を全く知らないでいることが明らかになっている。

 女性の視点からすれば、夫が別の妻をもつことは大きな不利益につながる。あるひとりの妻とその子供たちに資源が提供されれば、それ以外の妻と子供立はその資源を受けることができないからだ。

複数の妻たちがたがいに利益をもたらし合うこともないではないが、多くの場合は、ある妻の利益は別の妻の損失になる。配偶関係解消に関する調査によれば、二五の社会で、一夫多妻が離婚の原因となっている。その大部分は、妻同士の軋轢のためである。

 妻同士の争いは、一夫多妻を行ってきた先祖の男性が妻たちをうまくコントロールするうえで解決すべき課題となった。妻たち全員を幸せにし、だれも浮気をしないようにしなければならなかった。妻の浮気は、男性にとっても繁殖資源の大いなる損失となるからだ。複数の妻をもつ男性の中には、資源の分配に厳格なルールを設定する者もいた。

 妻全員に同等の心配りをして、平等にセックスするのである。ケニアのキプシギス族では、夫が妻たちに、それぞれの土地を平等に分け与える。キプシギスの男性は妻たちとは別の住居を持ち、妻ひとりひとりと決まった日数だけ、平等になるように過ごす。こうした戦術はすべて、妻たちのあいだの軋轢を最小限にとどめようとするものだ。

 姉妹を同時に妻とする姉妹型一夫多妻も、そうした試みのひとつだろう。姉妹間には遺伝子の共通性があるので、妻たちにとっての利害が一致し、心理的にも調和しやすいと思われているからだ。
 
 ただし、男性がいくら妻同士を仲良くさせようとしても、無駄に終わる場合もある。たとえばガンビアでは、一夫多妻が法的に認められているのにもかかわらず、夫が二人目の妻を迎えようとすると、最初の妻が夫のもとを去るケースが多い。妻たちは、夫の時間や資源を他の女性と別け合うことがいかに困難かをよく承知しているのだ。
 つづく 結婚生活を続けるために