
デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
セックスの拒否
妻が夫とのセックスを拒むことは、夫に自分の繁殖資源を利用されることを防ぐ効果的な手段である――男女どちらも、そのように意識しているわけではないが、人類進化の歴史を通じて、セックスは繁殖に不可欠な行為だった。したがって、妻がセックスを許さないことは、夫が妻を得るために行ってきた投資の、繁殖面での配当を無にすることになる。
それはまた、妻がセックスの対象を他の男に変えたことを意味する場合もある。そのため男性は、自分の性戦略に対するこのような妨害を警戒する心理メカニズムを進化させてきたと思われる。
配偶関係の解消に関する国際調査によれば、一二の社会が、セックスの拒否を婚姻解消の理由としてあげている。この一二の社会すべてにおいて、離婚の原因となりうるのは妻の側の性交拒否であり、夫の側の拒否ではなかった。
望ましくない配偶者と別れるための重要な戦術
離婚に関する別の研究でも、セックスの拒否は、望ましくない配偶者と別れるための重要な戦術であることが解った。離婚を目的とする女性たちの戦術の例としては、「夫との身体的な接触を拒む」「セックスに関して、冷たくよそよそしい態度をとる」「夫に身体を触らせない」「セックスを求められても無視する」などがあげられている。こうした戦術を用いているのは、女性だけにかぎられる。
この戦術が成功した例としては、ある女性が次のような体験談がある。それまで何度も夫と別れようとしたが、上手くいかずにいた彼女は、友人に相談し、アドバスを求めた、しばらく話をしているうちに、彼女が心底から夫と別れたいと思っていたにもかかわらず、夫からセックスを求められて拒まずにいたことが明らかになった。
友人は、セックスを拒否するように勧めた。すると一週間後には、セックスを拒絶された夫は激怒し、その二日後に荷物をまとめて出ていったという。このふたりはほどなく離婚した。
一般に、女性は愛情を得るために、セックスを提供し、男性はセックスを得るために愛情を提供する。したがって、セックスを拒絶することは、男性の愛情に終止符を打ち、別離を促す効果的な手段となりうるものである。
経済力の欠如
女性に資源を提供する能力と意志は、男性の配偶者としての価値を決める重要な要素であり、女性に結婚相手として選ばれるか否か、配偶者を獲得し、確保するためにどんな戦略を採用するべきか、とも密接に関わっている。
そのために、進化的な観点から言えば、妻や子供に資源を提供しないことは、配偶関係の解消をもたらす男性側の大きな要因となる。資源を提供できない。あるいは提供しようとしない男性は、最初に女性から配偶者として選ばれる際の基準をクリアできないのだ。
事実、男性が家族を食べさせていけないことは、全世界で離婚の原因となってい。配偶関係の解消に関する国際調査によれば、二〇の社会で離婚の最大原因となっていたのが経済力の不足だった。
また、十分な住居を用意できなかったことが最大の原因とされた社会が四つ、十分な食料を提供できないことが最大の要因である社会が三つ、衣服が十分でないことが原因の社会が四つあった。
こうした問題はすべて、男性の側にあった場合にのみ離婚の原因となる。女性が資源を提供できないからといって、それが離婚の理由となる社会はひとつもなかった。
男性の経済力欠如がどれほど深刻な問題かは、次の事例に示されている。離婚に関する調査に協力してくれた、ある二〇代後半の女性の回答である。
私の夫は何度も失業を繰り返し、ひどく貧乏でした。ひとつの仕事を長く続けることが出来ないのです。ある仕事を二年やっては辞め、別の仕事を一年やっては辞め、といった調子です。経済的にひどく苦しくなったので、ソーシャルワーカーに相談に行きましたが、どうにもなりませんでした。
そのくせ、毎日寝てばかりいるんです。ある日、そんな夫にとうとう我慢ならなくなりました。その夜私が家を空けて帰って見ると、夫はずっと起きようともせず、子供たちをベッドに寝かせてもいなかったんです。
出かけるときテレビを見ていた子供たちが、帰って来てもあいかわらずテレビを見ていました。翌日、私は夫に出て行ってくれと言いました。すごく強い口調でね。
現代のアメリカ社会では、妻が夫より多くの収入を得るようになると、やがて離婚に至ることが多い。ある研究によれば、妻の収入が夫より多いカップルの離婚率は、夫の収入の方が多いカップルにくらべて五〇パーセントも高いという。
実際に、仕事で成功した妻をもつ男性は、そのことを不愉快に感じがちだ。女性を対象にした離婚の原因について調べた調査で、ある女性は、夫が「わたしのほうが収入が高いことを不快に思い、自分が一人前の男でないように感じた」のが離婚の原因だったと述べている。
女性はまた、野心に欠けている夫に対しても不満を抱く、ある女性はこう語っている。「私はフルタイムで働いているのに、夫はパートタイムの仕事しかせず、あとは一日中酔っぱらっているだけでした。それで私は、自分が望む地位を手に入れるために、もっと助けになってくれる男性を探そうと決めたんです」。
こうして、資源を提供するという、女性が配偶者を求める第一の条件を満たせない男性は見捨てられることになる。女性の方が多くの収入を得ている場合はなおさらだ。
つづく
残酷さと冷たさ