デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
浮気
男性がある女性の繁殖能力を確保するのに失敗したことを、もっとはっきりと示すのは、その女性の浮気である。同じように、女性がある男性の資源の確保に失敗したことを、もっとはっきりと示すのは、その男性の浮気だ。
配偶関係の解消のひきおこす四三種類の要因――そのなかには、男の子が出来ないことから、セックスが行われないことまで含まれる――のうち浮気は、八八の社会で原因として上げられている。ただ、浮気を離婚の主因としてあげた社会のなかでも、その傾向には性差が存在する。
男女どちらの側の浮気よって離婚が起こる社会が二五であるのに対し、妻が浮気をした場合のみ離婚が引き起こされる社会は四四にのぼっており、反対に夫が浮気によってのみ離婚に至る社会はわずかに二つに過ぎなかった。さらに、この二つの社会においても、妻が浮気をした場合には処罰を受けないことは稀であり、男女間のダブルスタンダード(二重基準)の例外とは見なしにくい。
夫が妻の不貞を知った時
どちらの社会でも、夫が妻の不貞を知った時には、妻に対して暴力を振るったりすることは知られており、場合によっては殴り殺されることさえある。この二つの社会では、不義をはたらいた妻は、離縁されることはなくとも、軽い罪で逃れることもできないのだ。
女性の浮気の方が、離婚の引き金となる要因になりやすいという発見は、きわめて意外なものである。というのも、浮気をする割合は男性の方が高いから。たとえば、キンゼイ報告によれば、調査対象とした既婚男性の五〇パーセントが浮気をしていたのに対し、既婚女性では二六パーセントにすぎなかった。
浮気に対する二重基準
こうした、浮気に対する二重基準的な反応は、アメリカもしくは西欧社会に限られたものではなく、世界中で見ることができる。この普遍性は、三つの源泉から生じていると思われる。第一に、女性よりも男性の方が、自分の意志を強く押し通せるので、女性にくらべ、浮気を責められにくいこと。
第二に、世界共通の傾向として、女性の方がパートナーの浮気に対して比較的寛容であること。なぜなら、人類進化の歴史を通じて、パートナーの浮気そのものから受けるコストは――それによる資源や献身の損失がない限り――女性の方が男性より小さいからだ。
第三に、女性の方が夫の浮気に耐える傾向が世界的に見られること。これは、女性は離婚した場合に莫大な大きなコストを覚悟なければならず、特に子供がいる場合には、婚姻市場における価値が大幅に下がってしまうからだろう。女性の側の浮気の方が、配偶関係修復不能の亀裂をもたらし、破局へと導くことが多いのは、以上のような理由による。
浮気が配偶関係の解消きっかけとなることは誰でも知っている。そのため、不幸な結婚から逃げ出すための手段として、意図的に浮気を利用される場合もある。れわれは一〇〇人の男女を対象に、配偶簡易の破綻に関する調査を行った。望ましくない関係から脱け出すためにどんな戦術を用いたかを訊ねた。
離婚という目的を達成するうえで
次に、そこで列挙された戦術が、離婚という目的を達成するうえでどれくらい効果的であるかを、五四人からなる別のグループにひとつひとつ判定させてみた。その結果、理想的でない配偶者と別れるもっとも一般的な手段とされたのが浮気を始めることであり、具体的には大っぴらに何人もの相手と関係したり、疑惑を招くような状況で異性といる所を目撃されるように仕向けることだった。
場合によっては、実際に浮気をする必要さえなく、ただそうほのめかすだけでもいい。異性といちゃついて見せたり、別の男もしくは女と恋に落ちているとパートナーに直接告げるといった戦術によって、関係を解消させることが出来るのである。
これと似た戦術としては、「自分たち二人の関係が健全であるか確認するために、ほかの人間とデートしたい」と言うことなどがある。これはおそらく、徐々に献身の度合いを弱めていくことで、配偶関係を穏やかに解消するための方策なのだろう。
たとえ実際に浮気をしていなくても、配偶者と別れるための口実として浮気を利用することは、離婚の正当化に役立つ。たとえばトラック諸島では、妻と別れたいと思った夫は、妻が不貞をはたらいていると噂を流し、自分もそれを信じて激怒しているふりをすればいい。
離婚する人間は、自分を取り巻く社会的ネットワークにたいし、その離婚の正当性をアピールしようとする。パートナーに浮気されたふりを装うことは、その正当性の材料を提供してくれる。浮気は、配偶関係の破綻をもたらす大きな理由であると、広く認められているからである。
つづく
不妊