離婚――より一般的に言えば長期的な配偶関係の解消――は、あらゆる文化で見られる普遍的な現象である。たとえばクン族では、記録に残っている三三一組の夫婦のうち一三四組までが離婚したと報告されている。トップ画像

8 破局

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

8 破局

人間の配偶行動において、人生でただ一回しか結婚しないケースのほうがむしろ少数派である。アメリカでは、離婚と再婚が極めて多いため、全体の五〇パーセント近くの子供たちが、遺伝学上の父親と母親がそろった状態では暮らしていない。義理の親子関係はもはや例外ではなく、ごくふつうに見られるものに変わりつつある。

 一部で言われているのとは違い、こうした状態は最近になってはじめて生じたものでもなければ、家族の価値(ファミリー・バリュー)の急速な低下を反映したしたものでもない。

 離婚――より一般的に言えば長期的な配偶関係の解消――は、あらゆる文化で見られる普遍的な現象である。たとえばクン族では、記録に残っている三三一組の夫婦のうち一三四組までが離婚したと報告されている。またアチェ族の男女は、四〇歳に達するまでに結婚と離婚を平均一二回以上も繰り返す。

 配偶関係において終止符を打つのには、さまざま理由がある。配偶者にかかるコストが大きくなりすぎたために離婚することもあれば、より理想的な配偶者が現れたために別れることもある。

よくない結婚生活を続けることは、資源のロス、別の配偶者を獲得するチャンスの喪失、身体的・心理的虐待、子供への世話の不足などの点で高い代償をともない、生存期間および繁殖上の重要な課題を解決する妨げとなりかねない。一方、不幸な関係を解消すれば、新しい配偶者やより多くの資源、子供への十分な世話忠実な味方を得るといった利益が期待できるのである。

三つの状況

 われわれの祖先の時代には、配偶者の大部分は、老齢に達する前に病気にかかり、命を落とすのがふつうだった。たとえば男性は、部族間の戦いで傷を負ったり殺されたりした。古生物学上の記録から、祖先の男性のあいだに絶えず争いがあったことを明白に示す証拠が得られる。発掘された人間の肋骨のあいだから、槍や刃物の破片が見つかっているのだ。

 女性よりも男性の骨格のほうが、頭蓋骨や肋骨に損傷がある場合が多く、直接の戦闘を行ったのが主に男性だったことを示している。古生物学的記録として残っている最古の殺人は、約五万年前、右利きの狙撃者に胸部を刺されて殺されたネアンデルタール人男性である。

同じパターンの傷がこれほど多く見られることは、偶然では片づけられない。それは、人類進化の歴史において、他の人間によって傷を負わされたり殺されたりする被害が、長年繰り返されてきたことを示すものなのだ。

 伝統的な文化形式を保持している部族では、現在でも、男性同士の争いによる流血沙汰を見ることができる。たとえばアチェ族では、棍棒を使った儀式的な決闘が男性のあいだで行われており、ときにはそのため一生治らない傷害を負ったり、殺されたりするものも出る。妻にとってみれば、夫がこの決闘に出かけてしまうと、五体満足で戻ってくるという保証はない。

 またヤノマミ族の少年は、他の男を殺すまでは一人前の大人としての地位を認められない。ヤノマミの男は自分の負った傷跡を誇示したがり、ときには注意を引くためにあざやかな色を塗ったりする。人類の歴史を通じて、戦争の担い手となり、危険を背負ってきたのは男性だった。

 祖先の男性が命を落とした理由は、他の男たちの暴力だけではない。狩猟はつねに男性の仕事だったので、男たちは傷を負う危険を冒さなくてはならず、猪や野牛、バッファローといった大きな獲物を狙う時は特にそうだった。

 またアフリカのサバンナにはライオンや豹がおり、不注意だったり技術が未熟だったり無鉄砲だったりするハンターたちを襲った。誤って崖や木から落ちる可能性もあっただろう。

 われわれの祖先が暮らしていた環境では、夫が妻より先に死んだり、あるいはけがを負って、狩りをしたり妻を保護したりできなくなる可能性がつねにあった。だからこそ、女性にとって、別の配偶者を見つけ、確保することは、重要な適応的意味を持っていたのだ。

 われわれ祖先の女性たちは、戦いに参加しなかったし狩りに出ることもまれだった。女性はもっぱら食物の採取に従事し、一家の食糧資源の六〇〜八〇パーセントを調達していたが、この作業は狩猟に比べるとはるかに危険が少ない。

女性には、出産という関門が待ち構えていた

しかし女性には、出産という関門が待ち構えていた。現代のように医療技術が発達していなかったため、多くの女性が妊娠と出産という危険な過程の途中で命を落とすことになった。妻に死なれ、独り身となった男性は、またゼロから配偶者探しに求愛をやり直さなければならない。

 それを避けるためには、あらかじめ妻を失う可能性を念頭におき、代わりの配偶者を確保する下準備を整えておく心理メカニズムをもつ必要がある。配偶者の死を待たず、代わりの候補を物色しておくことは、男女双方にとって有益なことだったのである。

 配偶者以外の男女に目を向けるようになるきっかけは、配偶者のけがや病気、死以外にもあった。女性にとっては、夫が集団内で地位を失ったり、追放されたり、ライバルの男に屈服させられたりすることは、そうしたきっかけになった。あるいは、父親として不適格であるとか、子供をつくれない身体であることがわかるとか、狩猟の腕が悪い、妻や子を虐待する、浮気に走って他の女に資源を注ぎ込む、性的不能であることも、理由になり得た。

 一方男性からすれば、妻の食物集めが下手であるとか、一家の資産を浪費するとか、母親として不適格、不妊もしくは冷感症、あるいは浮気をして他の男の子どもを妊娠するといったことが、ほかの女性に目を向けるきっかけになっただろう。

 また、男女どちらも、重い病気にり患したり、寄生虫にとつかれる可能性もある。選んだときには生気に満ちあふれていた配偶者も、年を経るにつれ深刻な問題を抱え込みかねない。ひとたび配偶者の価値が下がってしまうと、今度は他の相手が魅力的に思えてくる。

 とはいえ、配偶者の価値の低下および死の可能性は、他の男女に目を向けさせる要因の一部に過ぎない。もうひとつの重要な要因は、本人の価値の上昇である。自分の価値が高くなれば、かつては獲得できなかったような相手を配偶者に迎えることが可能になる。たとえば、ある男性が、巨大な獲物を仕留めたり、敵を殺したり、たれかの子供の命を救うといった偉業をなしとげ、その社会的地位が一気に上がったとする。

 地位のめざましい上昇により、いまの妻が色褪せて見えるほど若くて魅力的な女性を娶ったり、複数の妻を持つことが可能になる。高い地位に駆けあがった男性にはさまざまな選択肢が与えられるのだ。

 それに対して、女性の配偶者としての価値は、繁殖上の価値と密接に結びついているので、男性のように劇的に高まることはふつうありえない。だか、地位や権力を手に入れたり、危機に際して手腕を発揮したり、並外れた知恵が深いことを示したり、あるいは息子や娘が高い地位を占めることによって、自分の配偶者としての価値を高めることは可能だ。
 このような、配偶者としての価値が変化する可能性は、現代に生きるわれわれにもついてまわっている。

 それ以外にも、他の男女に目を向けることを促す要因は存在する。離婚を誘発するもう一つの重要な要素は、より望ましい配偶者候補が身近にいることである。それまで得られなかった理想の配偶者が、突然手の届くところに現れれば、新しい配偶者を探す気などなかった人々も、強く惹きつけられるようになる。

 あるいは、隣接する部族のメンバーと知り合いになり、そのひとりが、現在の婚姻関係を解消しても十分釣り合うほど価値が高いという場合もありうる。

 要約すれば、長期的な配偶関係の解消を促す主要な要因として、三つの状況が考えられる。ひとつは、現在の配偶者がその能力や資源を失ったり、当初は供給するはずだった繁殖に必要な資源を提供できなくなった場合。二つめは、本人が豊富な資源を手に入れたり、高い地位に着いたりして、配偶者の選択肢が以前よりもはるかに増えた場合、そして最後に、別の配偶者候補が手の届くところにいた場合である。この三種類の状況は、われわれの祖先たちの生活において頻繁に出現していたはずだ。

 したがって人類は、現在の配偶関係がもたらす利益およびコストと、別の選択肢を選んだ場合の利益およびコストを比較検討する心理メカニズムを進化させただろうと推測できる。このメカニズムは、配偶者の価値の変化によって起動され、他の配偶者候補を探して評価し、代わりの候補者への求愛を引き起こす仕組みになっていたにいたにちがいない。
 つづく  関係を解消する心理 

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