雄雌どちらか一方の性が、配偶者を選び、惹きつけ、つなぎとめ、あるいは取り替えるために発達させてきた戦略が、不幸にも、異性との摩擦を引き起こすことがある。 トップ画像煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。

男女間の摩擦

本表紙
デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

男女間の摩擦

雄雌どちらか一方の性が、配偶者を選び、惹きつけ、つなぎとめ、あるいは取り替えるために発達させてきた戦略が、不幸にも、異性との摩擦を引き起こすことがある。シリアゲムシのメスは、オスが価値ある「婚姻ギフト」――ふつうは餌になる昆虫の死体――をもってこないかぎり、交尾に応じようとはしない。メスがその婚姻ギフトを食べているあいだに、オスはメスと交尾するのである。交尾のあいだ、オスは婚姻ギフトを軽く押さえている。交尾が終わる前にメスが贈り物をもって逃げ出すのを防ぐためだろう。

 オスが精子をすべてメスの体内に送り込むには、約二十分間交尾を続けなくてはならない。そのためシリアゲムシのオスは、メスが食べるのにちょうど二十分かかる大きさの婚姻ギフトを選び取る能力を進化させた。もしギフトが小さすぎて交尾が完了する前に食べつくされてしまえば、オスは精子をすべて放出する前にメスの体から振り落とされるだろう。

 また、ギフトが大きすぎてメスが二十分では食べきれないようだと、交尾が終えたあと、オスとメスが食べ残しをめぐって争うことになる。したがってシリアゲムシのオスとメスとのあいだの争いは、次の二つの場合に起こる。ひとつはギフトが小さすぎたときに、オスが交尾を完遂しようとして起こる争いであり、いまひとつはギフトが大きすぎとき、残された食物資源をどちらが利用するかをめぐる争いだ。

 人間の男と女もまた、資源とセックスをめぐって衝突することがある。男女どちらかが採用した性戦略がうまく機能せず、もう一方の性戦略とのあいだに摩擦が生じるのであるのだ。配偶行動の進化心理学では、この現象を戦略上の干渉と呼ぶ。男女どちらが短期間の性的関係を求め、どちらが長期間の関係を求めるかを考えてみよう。

 一般に、男性と女性とでは、性交に同意するまでに、相手の事をどれだけ深く知りたがるかが異なっている。例外も多く個人差も大きいが、男性はふつう。セックスを求める際にあまり条件を付けない。

 たとえば男性は、見知らぬ女性であっても魅力的でさえあればセックスしたいと思い、そうした欲求を表面に出すことが多い。一方女性は、ほぼ例外なく、通りすがりの男性に身体を許そうとせず、何らかの誠意を求めようとする。

 この二つの性戦略のあいだには根本的な対立がある男性が短期的な希望を実現しようとすれば、女性の長期的な目標の達成をさまたげざるをえない。その場限りのセックスを強要することは、時間をかけた求愛という女性の要求を退けることになる。また、こうした干渉は、逆の方向にも起こりうる。求愛に長い時間をかけさせることは、手っ取り早いセックスという男性側の目標達成を妨害するものだからだ。一方の性が採用した戦略が、もう一方の戦略と抵触する場合、こうした摩擦が必ず生じることになる。

 結婚にこぎつけたからといって、男女間の摩擦がなくなるわけじゃない。結婚した女性は、夫を恩着せがましいうえに心が狭く、頼りにならないと愚痴をこぼす。夫は夫で、妻が我儘で主体性がなく、性的にも淡白すぎる不満を述べる。そして、男女どちらの側も、相手が浮気をしている――ちょっとした恋愛遊戯から泥沼の情事までさまざまだが――と訴えるのだ。
 こうした摩擦はすべて、配偶戦略の進化という視点から見て初めて、その本質を理解することができるようになる。

 男女間の軋轢は、普遍的に見られるとはいえ、ぜったいに避けられないというわけではない。軋轢を最小限に抑え、男女間に調和を生み出すような状況も存在する。その意味で、性戦略がどのように進化してきたかを知ることは、大きな利益になるだろう。ある戦略を生かし、別は放棄するような行動や、状況選ぶことによって、人生をより良いものにできるからだ。

 実際に人間の性戦略を理解し、何がそうした戦略を実行に移すきっかけとなるかを知ることが、男女間の摩擦を軽減するための第一歩となる。本書の以下の章では、そうした軋轢の本質を明らかにし、男女間に調和をもたらすための解決策を示すことにする。
 つづく さまざまな状況