デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
感情を操作する
資源を提供したり愛情や優しさを示すといった戦術も、ときに失敗に終わる。そんな場合には人はなりふり構わずに感情的戦術に活路を見出そうとする。この傾向は、本人の配偶者市場における価値がパートナーより劣っている場合によく見られる。
このカテゴリーに属する戦術としては、「パートナーが他人に関心をみせたらわめきちらす」「パートナーに罪の意識を感じさせる」「自分がいかにパートナーに頼り切っているかを切々と訴える」などがあげられる。
譲歩や卑下といった行為も、感情操作の戦術の一種である。こうした戦術の例としては、「配偶者の言うことにはすべて従う」「なんでも配偶者の好きなようにさせる」「配偶者の好みに合わせて自分を変えると約束する」などである。一般に、女性の方が男性よりも譲歩する傾向が強いとされているが、配偶者確保に関する研究によれば、実際には逆であることがわかっている。
男性が配偶者繋ぎとめるために譲歩し、卑下する割合は、女性よりも二五パーセント近くも多いのである。この傾向は、恋愛中の大学生カップル、新婚夫婦、結婚後数年を経た夫婦のどの場合にも共通に見られた。
こうした性差が、調査対象とした男性の回答に偏向があるために生じたのではないことは、彼らの配偶者対象とした調査でも同じ結果が出ている点から明らかである。譲歩と卑下に関する性差は、どのような種類のカップルにでも確実に存在る傾向なのだ。
一般に、女性はより受け身の性だと信じられている。にもかかわらず、なぜ男性は、女性にくらべ譲歩と卑下の戦術を多用するのか? おそらく、自分は妻やガールフレンドにくらべて価値が劣ると思っている男性は、相手をつなぎとめるために譲歩するのだろう。
あるいは、いまにも去ってしまいそうな女性をなだめ、懐柔するために、譲歩の戦術が使われる場合もありそうだ。しかし、その正確な答えはいまだにわかっていない。
もうひとつの感情操作戦術として、相手の性的嫉妬を意図的に誘発し、配偶者を繋ぎとめるのに利用することがある。この戦術に分類される行為としては、「配偶者を嫉妬させるために、異性とデートする」「パーティの席上で、わざと異性と会話して見せる」「他の異性に興味がある振りをして、配偶者をやきもきさせる」などがあげられる。
この戦術は発揮する効果は、女性が用いた場合では男性が用いた場合の二倍近くに評価された。とはいえ、女性が他の男に媚を売ってパートナーの嫉妬心をくすぐり、それを逆利用して彼をつなぎとめるためようとすることは、きわめて微妙なバランスを要する行動でもある。もし無分別に嫉妬を誘ってしまえば、パートナーの男性から尻軽女とみなされ、本当に見捨てられることになりかねないからだ。
女性がどんな状況で意図的に嫉妬を呼び起こそうとするかを、ある研究が明らかにしている。この研究は、男性と女性のあいだで、パートナーとの関係への依存度にどれだけ違いがあるかを調査したものだった。こうした性差は、パートナーそれぞれの価値を示す尺度である。ふつう、相手への依存度が低い人ほど、配偶市場における価値が高いからだ。
一般に女性は、パートナーを焦らして嫉妬させようとする傾向が男性より強いが、すべての女性がこの戦術を採用しているわけではない。自分はパートナー比べて配偶関係への依存度が高いと解答した女性の場合は、五〇パーセントがパートナーをわざと嫉妬させようとしていたが、パートナーよりも依存度が低いと答えた女性では、こうした行動をとっているのはわずか二六パーセントにすぎなかった。
女性は、パートナーとの関係を密接にし、その結びつきの強さを試し、相手が心変わりしていないかどうかを確かめ、所有欲を呼び起こす手段として、わざとパートナーの嫉妬心を刺激するよう動機づけされている。
そして女性が、男性の献身のレベルを調べ、評価する手段として嫉妬心を利用する要因は、配偶関係の依存度の差に関する調査結果が示しているように、その男女が配偶市場において持つ価値の違いがある。
つづく
競争者を寄せ付けない方法