妻の不貞は、男性にとってきわめて屈辱的なものと見なされることが多く、ある場合には、「正当な理由をもつ男性」なら致命的な暴力の行使が法的に認められさえする。一例を上げれば、一九七四年までのテキサスでは、夫が、自分の妻と愛人が同衾しているのを目撃した場合は、そのふたりを殺しても罪に問われなかった。トップ画像

なぜ嫉妬による殺人が起こるか

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

なぜ嫉妬による殺人が起こるか

男性の性的な嫉妬は、人間の生活において、瑣末(さまつ「こまかいこと、わずかなこと」)もしくは副次的な要素とは言えない。それは、ある場合にはきわめて強いものとなり、妻や間男の殺害に至ることさえあるからだ。次に示す例では、妻の浮気による繁殖上のダメージに気づいたことが、明らかに妻殺しの動機となったことを、犯人である夫自身が語っている。

知ってのとおり、私たちはいつも妻の浮気のせいで口論していた。だがあの日、もっと悪いことが起きてしまったんだ。私が仕事から戻り、家に入ると、すぐ小さい娘を抱き上げた。すると妻が振り向いて、こう言ったんだ。「あんたってほんとに間抜けね。この子があんたの娘じゃなくて、別の男の子供だってことも気づいてないんだから」。その言葉はショックだった! 私は逆上し、ライフルを持ちだして妻を撃った。

 妻の不貞は、男性にとってきわめて屈辱的なものと見なされることが多く、ある場合には、「正当な理由をもつ男性」なら致命的な暴力の行使が法的に認められさえする。一例を上げれば、一九七四年までのテキサスでは、夫が、自分の妻と愛人が同衾しているのを目撃した場合は、そのふたりを殺しても罪に問われなかった。

そのような酷い侮辱を受けた場合には、妻や愛人を殺すのが当然の反応だと考えられていたのだ。夫が浮気をした妻を殺すことを認める法律は、歴史を通じて、世界各地に存在していた。

ヤップ諸島の慣習では、妻と愛人の情事の現場を取り押さえた夫は、その二人を殺す権利が認められている。また、古代ローマ法では、妻と愛人との性交が自分の家のなかで行われた場合に限り、二人を殺害することが合法とされた。

夫が妻に対して暴力を振るう場合――たんに妻を殴ることから、殺してしまうことまであらゆるケースを含めて――その動機の圧倒的多数を占めるのは性的な嫉妬である。夫から暴力受けて逃げ出した妻四四人を対象にした調査によれば、そのうち五五パーセントが、夫が暴力を振るう主要な動機は嫉妬だと答えた。

性的な嫉妬はまた、殺人の動機として大きな割合を示している、アフリカの英領植民地に住むティヴ族、ソガ族、ギス族。ニョロ族、メイヤ族のあいだの殺人について調べた研究によると、夫が妻を殺害した七〇の事例のうち、四六パーセントは、妻の浮気、夫への無関心、夫との性拒否といった性的な事柄に関係していた。

女性が犯す殺人も、その背景には男性の性的嫉妬がからんでいるように見える。女性が男性を殺害する場合の多くは、怒り狂って脅したり暴力振るったりする夫に傷つけられるのを恐れて、自衛のための殺人という手段を取ったケースである。

ある調査によれば、男性の嫉妬が関係している殺人事件四七件のうち、嫉妬に狂った男が、実際の浮気もしくはその疑いのために女性を殺害したケースが一六件、ライバルの男性を殺害したケースが一七件、そして浮気を責められた女性が自衛のために男性を殺害したケースが九件あった。

この行動もまた、アメリカもしくは西欧社会に限られたものではない。スーダン、ウガンダ、インドといった国々でも、性的な嫉妬は殺人の主要な動機となっている。スーダンで行われたある調査によると、男性が起こした三〇〇件の殺人事件のうち、七四件は性的な嫉妬が主な原因だった。

これまで調査された限りでは、あらゆる社会で配偶者殺人の大多数を占めているのは、妻が浮気したり、逃げたり、別れると言って脅したりしたことに、男性が逆上したケースである。さらに、男性が別の男を殺した事例の約二〇パーセントは、女性をめぐる対立や、自分の配偶者や娘、親族の女性に相手がちょっかいを出したことが原因になっている。

妻の浮気を阻止し、確実に自分の子を産ませるという嫉妬の適応的な機能と、妻殺しという一見すると非適応的な行為と結びつけるのは難しい。妻の殺害は、重要な繁殖資源の破壊に他ならず、繁殖的な成功を妨げることになるからである。それでも、いくつかの説明が考えられる。

ひとつは次のような考え方だ。不貞をはたらいた妻の圧倒的多数は殺されずにすんでいる。したがって、暴力的な嫉妬が病的にエスカレートし、意図的もしくは偶発的な妻殺しにまで至るようなケースは、メカニズムの突発的な狂いに過ぎないのではないか、というものだ。

しかしこの説明は、いくつかの事例には当てはまるものの、多くのケースでは、男性自身が、妻を殺そうという明確な意志を持っていたということを認めており、なかには殺害するために妻の行方を執拗に追い続けていた例もあるからだ。

もうひとつの解釈は、嫉妬から生じた殺人は、たしかに極端な例ではあるが、本質的には人間が進化させてきたメカニズムの表出なのだという考え方である。人類の進化史を振り返ってみると、妻を殺害することが、あらゆる状況において繁殖上のダメージとなる行為だったとは限らない。

というのも、妻が夫のもとを去れば、たんに夫が繁殖上の資源を失うだけでなく、その資源が競争相手の手に渡ることによって、さらなるコストを支払う結果にもつながる。繁殖成功度という点からすれば、二重の打撃となるのである。

妻を寝取られながら何もせず泣き寝入りするような男

また、妻を寝取られながら何もせず泣き寝入りするような男は、嘲りの対象となり、評判を落とすことになる。さらに、一夫多妻制の社会では、不貞を働いた妻を殺害することは、その男性の名誉を回復するとともに、残りの妻たちの浮気を防ぐ強力な抑止力としてはたく。

逆に、妻ひとりに浮気されながら何の行動も起こさない男性は、将来簡単に妻を寝取られる危険を背負い込むことになる。人類の進化史において、ある状況のもとでは、不実な妻の殺害は、ダメージを減らし、繁殖上の資源流失を防ぐための方策でありえたのだ。

殺人にともなうコストと利益の双方を考慮すると、次のように推測するのが理にかなっているだろう。ある状況のもとでは、不貞をはたらいたり自分の元から逃げ出そうとしている妻を殺害することは、そのまま浮気を放置したり出て行くのを黙認するよりも、繁殖上の利益は大きい。

浮気した妻を殺そうと考えたり実際に殺したりすることは、人類の進化史において、おそらく適応的な行為だったのであり、したがって人類が進化させてきたメカニズムの一部でもあると考えられる。

このような推測は衝動的で、恐ろしくさえ感じられるが、もし社会が配偶者殺人という深刻な問題に真剣に取り組みつづけるなら、それを引き起こす心理メカニズム、とりわけどんな状況下でそのメカニズムが起動し、特に危険な結末を生み出すのかという問題に対峙せざるを得ないだろう。

とはいえ、圧倒的大多数の事例では、嫉妬は殺人ではなく、配偶者を繋ぎとめておくためのより穏健な戦術へとつながる。そうした戦術のうち、おそらくもっとも重要なものは、配偶者の欲求を満たしてやることだ。
つづく 配偶者の欲求を満たす 

煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。