女性たちは自分を若く、健康的に見せようとする心理的動機を進化させてきたのだ。必然的に、配偶者を惹きつけようとする競争は、異性が最も望んでいる資質においてライバルを圧倒するという側面を備えることになった

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5、パートナーを惹きつける

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

5、パートナーを惹きつける

配偶者に何を望むのかをはっきり認識していても、望んだものを獲得できるという保証はない。成功するためには、自分なら、相手が求めている利益を与えられるということを示してやらなければならない。

 たとえば、祖先の女性たちが男性の地位の高さを望んだからこそ、男性は高い地位につき、それを誇示しようとする心理的動機を進化させてきた。男たちが未来の配偶者に若さと健康を望んだからこそ、女性たちは自分を若く、健康的に見せようとする心理的動機を進化させてきたのだ。必然的に、配偶者を惹きつけようとする競争は、異性が最も望んでいる資質においてライバルを圧倒するという側面を備えることになった。

 この共進化の過程で、異性に押し付けられた適応上の課題を解決するための心理メカニズムが進化していった。腕のいい釣り師は、魚が進化させてきた食物の嗜好にもっと合った疑似餌(ルアー)を使う。同じように、配偶者獲得競争は、異性が進化させてきた欲求にもっとも適合した心理的な戦術を使うのである。

したがって、男性と女性がそれぞれ配偶者に求める資質は何であるかを知れば、配偶者を惹きつける方法をも理解することができる。

とはいえ、人間は社会的な真空状態のかで配偶者を得るのではない。望ましいパートナーを手に入れようとすれば、激しい社会的な軋轢(あつれき)が生じることになる。誘惑が成功するかどうかは、自分なら相手の潜在的な欲求を満たしてやれるというシグナルをうまく送るだけでなく、競争相手が送る誘惑のシグナルを妨害できるかどうかにかかっている。

そのため人類は、言葉で競争相手を貶(おとし)めるという、動物界でも他に類を見ない干渉手段を進化させてきた。ライバルの評判を失墜させるための中傷・懺言(ざんげん)・誹謗(ひぼう)などはすべて、うまく配偶者を惹きつけようとするプロセスの一環なのだ。

 こうした中傷の戦略は、誘惑の戦略と同じく、資源や容貌(よぼう)など自分の価値ある資源に相手の目を向けさせる心理的メカニズムを利用することで機能している。ある男性が、思いを寄せている女性にむかって、恋敵の男性に野心が欠けていると言ったとしよう。

その言葉が効果をもつには、女性が、資源を獲得する能力の低い男性を嫌うように方向づけられていなくてはならない。同じように、女性が男性に向かって、恋敵の女性は男出入りが激しいと中傷する場合には、男性の側に、セックスの相手をひとりに限定しない女性を排除する方向づけがなされている必要がある。

 また、誘惑や中傷の戦略の成功は、そのとき目指す相手がカジュアル・セックスのパートナーを求めているのか、それとも結婚相手を求めているのかにもかかっている。たとえば、ある女性が、恋敵の女のことを、手当たり次第に男と寝ていると中傷したとする。

男性が配偶者を求めている場合には、この戦略はきわめて効果的である。男性は未来の妻が性的に奔放であることを好まないからだ。だが、男性がその場限りのセックス相手を求めている場合には、この戦略は裏目に出てしまう。

大部分の男性は、一時的にしか関係しない相手がどんな性生活を送っていようと気にしていないからだ。同じように、女性からさまに性的魅力をひけらかすのも、一時的な戦術としては有効でも、長い目で見ればマイナスにはたらく。誘惑がどれくらいの効果を発揮するかは、そのときの配偶行動の状況に左右される。男性も女性も、求める関係の長短に応じて、誘惑のテクニックを変えていくのである。

 カジュアル・セックスをめぐる駆け引きのルールは、婚姻市場のルールとは根本的に異なる。長期的な配偶者関係を結ぶ場合には、男女どちらも求愛に長い時間をかけようとする。その過程で、相手がどんな資質をそなえているか、その資質がどれぐらい強力かを値踏みすることができるし、相手がどんなコストを背負っているかを見抜くこともできるからだ。

 出会った当初は、相手の地位や資源を過大評価してしまっても、やがて真実が明らかになってくる。前にどんな配偶者がいたかもわかるし、前の配偶者との間に子供がいたかどうかも知ることができる。

 一時的な情事の場合には、こうした品定めが行われないため、欺(あざむ)かれる可能性は飛躍的に大きくなる。相手が名声や地位、収入を偽ったとしても、それを見抜くことはできない。過去に結婚したことがあるかどうかわからないままだ。悪い評判が耳に届くころには、もう遅すぎる。

一時的な情事は、言ってみれば岩だらけの荒れ地のようなもので、一歩一歩ごとに、策略や嘘が不注意な人間を待ち受けているのだ。さらに問題を深刻にしているのは、そういっただましが、相手がもっとも重要視している部分――たとえば、女性にとっては男性の地位や資産、献身度であり、男性にとっては女性の容貌や性的な貞淑さ――において行われるという点にある。

 カジュアル・セックスをめぐる駆け引きには、男女双方が参加するが、その関与の仕方は同等ではない。カジュアル・セックスを求める男性の数は、同じ願望をもつ女性の数より多いという事実が、男性に、相手となる女性の不足という高いハードルを課すことになる。そのため、結婚を求める場合と違って、短期的な情事においては女性が主導権を握りやすい。

カジュアル・セックスの願望を抱く女性ひとりにたいして、彼女と寝たがる男性は少なくとも1ダースはいる。対象となる男性が数多くいれば、女性は自分の好みに合った相手をよりどりみどりに選べるわけだ。しかし結婚相手を選ぶ際には、そんな贅沢な選択が許されるのは、最高の条件をそなえたひと握りの女性だけだろう。

 とはいえ、永続的配偶者を求める場合も、一時的なセックス・パートナーを探す場合も、相手を惹きつけるためのディスプレィ行動が必要であることに変わりはない。ハタオリドリが自分の巣を、あるいはシリアゲムシが「婚姻ギフト」をディスプレィするのと同じように、人間の男女もまた、配偶市場における自分の長所を宣伝する。

ただ、男性と女性とでは求めるものが違うために、何をディスプレィするかもおのずと異なったものになるのだ。
 つづく  資源のディスプレィ