険しい谷底に熟した木の実がなっているのに見つけたからといって、食料を得られるわけではないのと同じことだ。したがって、配偶行動の次の段階は、理想的な伴侶を勝ち取るための行動になる。
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配偶者を惹きつける

本表紙
デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

配偶者を惹きつける

配偶者として望ましい資質をそなえた男女は、誰からも求められている。そのため、そうした異性を見つけるというだけでは、配偶者の獲得に成功するとは限らない。険しい谷底に熟した木の実がなっているのに見つけたからといって、食料を得られるわけではないのと同じことだ。したがって、配偶行動の次の段階は、理想的な伴侶を勝ち取るための行動になる。

 カリフォルニア沿岸に生息するゾウアザラシの群れでは、繁殖期になると、オスがその鋭い牙を使ってライバルたちを一対一の決闘で打ち負かそうとする。吠え合いや格闘は、ときには一昼夜にもわたって続く。敗北したオスたちは、傷つき、血の流れる身体を浜に横たえることになる。

 それはさながら、この野蛮にさえ見える競争の犠牲になり、精魂つき果てしまったかのようだ。しかし、勝者の仕事はそれだけで終わらない。勝利を収めたオスは、自分のハーレムを見回らなければならないのだ。ハーレムは通常、十数頭のメスからなる。優位オスは、メスたちをハーレムにつなぎとめ、他のオスがこっそりメスを奪いに来るのを撃退しながら、繁殖期間のあいだ自分の地位を守らなければならない。

 世代を重ねるうちに、より強く、大きく、賢いオスだけが、メスを手に入れられるようになっていった。身体大きい攻撃的なオスが、メスの交尾を独占的に行ない、次世代のオスはその形質を伝える遺伝子を受け継いでいく。その結果、現在のゾウアザラシのオスは。メスの体重のほぼ四倍、約千八百キロもの巨体となった。われわれ人間から見ると、交尾の最中にメスが圧死するのではないかとさえ感じるほどだ。

 一方、ゾウアザラシのメスは、勝利者のオスと交尾することを好むようになり、この傾向をもたらす遺伝子を次世代のメスに伝えていく。またメスたちは、より強く大きなオスを交尾相手に選ぶことにより、次世代のオスの体格や身体能力を決定する遺伝子を選別する役割を果たしている。

 身体が小さく、弱く、臆病なオスは、まず例外なくメスと交尾することはできない。そうした個体はいわば、進化の袋小路に入り込んでしまうのだ。ゾウアザラシの場合、全体のわずか五パーセントのオスが、メスの八十五パーセントを独占しているので、現在でも強い淘汰圧が働いている。

 ゾウアザラシのオスが闘うのは、ただ他のオスを打ち倒すためだけではなく、メスに交尾相手として選ばれるためでもある。メスは、小柄なオスが交尾しようと近寄って来ると、大きな唸り声を発する。唸り声を聞きつけた優位オスは、巨体を弾ませて駆けつけ、頭を大きくそらせ、たくましい胸を誇示して威嚇姿勢をとる。

 ふつうはこの姿勢を見ただけで、小柄なオスは慌ててその場を逃げ出す。こうした、メスが、オスを選ぶ際の好き嫌いは、オス同士の闘争を生み出す大きな要因になっている。

 もしメスが、小柄で弱いオスとでも平気で交尾するなら、メスが優位オスに警報を発するようなこともなく、体格と身体能力に対する淘汰圧はもっと弱いものになっていただろう。つまり、メスがどんなオスを好むかが、オスどうしの争いの基本ルールを決めているのだ。

 配偶行動の大部分における人間の振る舞いは、オスのゾウアザラシのそれとは異なっている。たとえば、ゾウアザラシではわずか五パーセントのオスが交尾の八十五パーセントを行うのにたいし、人間では、男性の九十パーセント以上が、人生のどこかの段階で配偶者を見つけることが出来るのである。

 また、ゾウアザラシのオスは、ハーレムのメスを独占しようと互いに争うが、勝者がその地位を維持できるのはせいぜい一シーズンか二シーズンである。それに対し、人間の大部分は、数年もしくは数十年持続する配偶関係を形成する。とはいえ、ゾウアザラシのオスと人間の男性との間には、共通する重要な特徴がある。双方とも、異性を惹きつけることに失敗すれば、子孫を残せなくなる危険にさらされる。

 動物全体を通じて、メスよりもオスのほうが配偶相手を求めて激しい競争を繰り広げることが多い。かなりの生物種では、オスは競争に勝利するために派手で目立ちやすい色彩を身にまとっている。ライバルのメスが交尾に成功するのを妨害しようと嫌がらせをすることもある。また、野生のアカゲザルのメスは、他のメスがオスと交尾しようとしているところを攻撃し、ときにはオスを奪い取って自分の配偶者にしてしまうことさえもある。

 サバンナヒヒの群れでは、オスをめぐるメスどうしの競争が、たんに交尾の機会にとどまらず、身体的な保護を与えるといった長期にわたる社会的関係を築く方向へと発展していく。

 人間の場合、女性どうしの競争は、一般に男性間の競争ほど激しくないが、それでも配偶システムのなかに深く組み込まれている。作家H・L・メンケンの言葉を引用すれば、「女性同士が挨拶がわりにキスをする姿は、プロボクサーが試合前に握手をかわすのを連想させずにおかない」のだ。本書では、異性を獲得するために、男性・女性それぞれのあいだで、どんな競争が繰り広げられているかを明らかにする。

その競争で採用される戦略は、多くの場合、相手の異性がどんな男もしくは女を好むかによって決定される。異性が望むような資質を欠いている男女は、配偶者選びのダンスに参加することもなく、ただ壁ぎわで眺めるはめになりかねない。
 つづく 配偶者をつなぎとめる