デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
魅力の評価
男性のカジュアル・セックス戦略を解き明かすもう一つの手がかりは、あるシングルズ・バーで、相手の魅力に対する評価が一晩のうちにどう移り変わっていくかを探った研究から得ることができる。
ある研究では、男性一三七人と女性八〇人を対象に、午後九時、一〇時三〇分、一二時の三回、バーにいる異性の魅力度を一〇点満点で採点させた。すると、閉店時間が近づくにつれ、男性は女性をより魅力的に感じるようになることがわかった。
九時の段階では平均五・五点でしかなかった評価が、一二時には六・五点にまで上昇したのである。男性の魅力に対する女性の評価も、時間だ経つにつれて上がっていった。ときいえ、女性側の評価は、男性側の評価よりも、全般的に辛めだった。
九時の時点で女性が男性客に与えた評価は平均五・〇点であり、閉店時間の一二時近くになっても五・五点に上昇したに過ぎなかった。
男性が、閉店時間が近づくにつれ、女性の魅力にたいする評価を変えていく現象は、アルコールの摂取量とは無関係である。シングル一杯しか飲まなかった男性も、六杯飲んだ男性も、閉店時刻が近づくにつれ、同じょうに女性をより魅力的に見えるようになった。したがって、よく言われる「酔い眼(ピール・ゴーグル)」現象、すなわち酔いが回るにつれて魅力的に見えるという説明は誤りである。
そうではなく、夜が更け、カジュアル・セックスの機会が減少していくにつれて、ある種の心理的メカニズムが働き出すのだと考えるべきだろう。深夜になってまだ相手が見つからない場合。その男性の目には、バーに残りの女性客がより魅力的に思えてくる。この変化は、バーに残っている女性をセックスに誘おうとする努力を、いっそう強めることになるはずだ。
男性がカジュアル・セックスによってオーガズムを得たあと、その相手とはそれ以上関わるつもりがない場合は、もう一つの心理的変化が起こる。一部の男性は、セックスする前はきわめて魅力的に見えたパートナーが、いざ目的を達してしまうと、一〇分もしないうちに魅力を失い、ごく平凡にみえるようになったと報告している。
こうした感情や心理の変化は、これまで体系的に研究されたことがない。この現象は普遍的に見られるものなのか、もしそうならいかなる条件下で起こるのかを突き止めるには、さらに調査が必要だろう。
男性の性戦略に関してこれまで明らかになった事実から推論すると、こうした心理的変化は、次のような場合にはもっとも多く起こると考えられる。すなわち、男性が、永続的な関係を結ぼうとするのではなく、ただカジュアル・セックスの欲求に突き動かされており、さらに相手の女性の配偶市場における価値が、彼自身の価値より低い場合である。
セックスのあとで魅力の低下する現象は、すみやかな別離を促すことで、男性が望んでいない結婚を強いられたり、情事が世間に知られて評判が下がったりする危険を軽減させる機能を果たしているのだろうと言うのは、今のところ単なる推測にすぎない。
しかし、コストを費やすことなしに、カジュアル・セックスの利益だけを得ようとするメカニズムが進化してきたという考えは、理にかなったものである。今後、男性と女性のカジュアル・セックス戦略の研究が進めば、そうしたメカニズムの存在が確認されることだろう。
つづく
性的なバリエーション