デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
愛人として望ましい条件
一時的なセックス・パートナーを数多く確保するために、男性が採用したもうひとつの心理的手段は、パートナーを選ぶ際の基準をゆるめることである。年齢、知性、性格、独身か既婚かなどの点に厳しい条件を付ければ、セックス・パートナーとなりうる異性の大部分を排除してしまうことになる。そうした基準を緩めさえすれば、より選択の幅が広がる。
前述した大学生対象の研究では、一時的な関係と永続的な関係のそれぞれの場合で、どの程度の年齢までパートナーとして許容できるか、その上限と下限を答えさせた。その結果、一時的な性関係の場合、男性が許容できる答えた年齢の幅は、女性よりも四歳ほど広がった。男子学生は、一六〜二八歳までの異性となら意地的な関係を結んでもいいと答えたのに対し、女子学生は、一八歳から二六歳までの相手しか認めなかったのだ。
このように男性が年齢を緩める現象は、永続的な配偶関係の場合には見られない。男性が永続的なパートナーとして求めるのは、一七歳から二二歳までの女性であり、女性の場合は、一九歳から二五歳までの男性だった。
男性は、他の様々な点でも、一時的なパートナーの選択基準を緩和する傾向が見られる。前述の調査では、一時的なパートナーとして望ましい資質を六七項目についてアンケートを行ったが、そのうち四一項目で、男性は女性よりも明確に要求水準を下げていた。
こと一時的な情事に関する限り、男性はパートナーに対し、魅力、体力、教育、寛容さ、貞節、独立心、優しさ、知性、信頼性、ユーモアセンス、社会性、資産、責任感、活発さ、協調性、感情的安定などの面であまり多くを要求しない。このような男性は、幅広い範囲で選択基準をゆるめることで、多数のセックス・パートナーを確保するという課題を解決しようとしているのである。
また、パートナーとして望ましくない資質六一項目について調査したところ、一時的な関係の場合、およそ全体の三分の一の項目で、女性の方が男性よりもパートナーに求める条件が厳しいことがわかった。
たとえば男性は、短期的な関係の場合、パートナーの心理的欠陥、暴力、バイセクシュアリティ、他人から嫌われやすいこと、飲酒癖、無教養、独占欲の強さ、好色さ、自己中心性、ユーモアのセンスの欠如といった欠点をそれほど気にしない。
ただ、次の四項目についてだけは、男性が女性よりも強い忌避感を示している。すなわちセックスに消極的であること、身体的な魅力の欠如、献身の要求、および頭に固さである。明らかに男性は、一時的な性関係を結ぶために、女性よりも選択基準を引き下げているのだ。
とはいえ、たとえ引き下げられても、基準は確かに存在する。実際、男性が性的関係を結ぶ際の基準は、より多くのパートナーと成功するための緻密な戦略の存在を教えてくれる。
一時的なセックス・パートナーを求める男性は、永続的な配偶者を求める場合と比較して、慎重で保守的な女性や、セックスに消極的な女性を避けがちである。また、永続的な配偶者を選ぶときとは正反対に、セックスの経験が豊富であることが高く評価される。
このことは、性的豊富な女性は、経験の少ない女性よりも、簡単にセックスに応じてくれるという通念を反映したものだろう。男性は、未来の妻が性的に奔放であることを望まないが、セックス・パートナーが奔放であることはあまり気にしないか、むしろ好ましく思いさえする。
女性が性的に奔放だったり、セックスに積極的だったり、経験が豊富だったりすると、おそらく、一時的な性関係を結べる確率が高くなる。反対に、身持ちが硬く、セックスに消極的な女性は、関係を結ぶのが難しいため、男性の短期的性戦略の障害となる。
男性が一時的なセックス・パートナーを求める際に基準を緩和する傾向は、献身という点にも顕著にあらわれている。結婚相手を探している男性は、相手の献身にたいしてプラス二・一七というたいへん高い評価を与えているが、逆に意地的な関係しか求めない男性は、短期間のパートナーの献身を好まず、マイナス一・四〇と否定的な評価を下している。
また、一時的なパートナーがすでに結婚していても、男性は気にかけない・むしろ、パートナーが他の男に献身していることは、自分が献身を求められる危険性の軽減につながる。
こうした発見は、男性がカジュアル・セックスにおける投資を最小限に抑えるために自分の欲求を変化させてきたという仮説を裏書きしてくれる。さらに、男性が進化の歴史において、その場限りの、あと腐れのないセックスを追求してきたという証拠を与えてくれるのだ。
つづく
クーリッジ効果