われわれの祖先の男性にとって、カジュアル・セックスがもたらす最大の利益は、子孫の数がそれだけ増えることだった。男性にとっては、いかに数多くの異なった女性と性交するかということが適応上の最大の課題となった。 トップ画像

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好色さ

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

好色さ

解剖学や生理学は、カジュアル・セックスの歴史について、ほんの一握りの手がかりを与えてくれるに過ぎない。
 解剖学・生理学的特徴以外に、過去の時代におけるカジュアル・セックスについて教えてくれるものとしては、さまざまな心理メカニズムがある。だが、一過性の性関係がもたらす適応上の利益は男女それぞれが異なるために、進化が生み出した心理メカニズムもまた、男性と女性とでは異なったものとならざるを得なかった。

われわれの祖先の男性にとって、カジュアル・セックスがもたらす最大の利益は、子孫の数がそれだけ増えることだった。男性にとっては、いかに数多くの異なった女性と性交するかということが適応上の最大の課題となった。
この課題の答えとして男性は、バラエティに富んだ性的パートナーたちを求めつづける心理メカニズムを進化させていった。

 さまざまなパートナーとの性的関係を確保するための心理的手段の一つが、いわゆる好色さである。男性は、さまざまな女性と関係することを求める強い欲求を進化させてきた。かつてジミー・カーター大統領が記者に向かって「私の心にも好色さは潜んでいる」と語ったことがあるが、そのとき彼は、性的な多様性を求める男性に共通の欲望を正直に吐露していたのだ。

 男性は、つねにこの欲望に従って行動するわけではないが、好色さが男性を突き動かす力となっていることは確かだ。進化心理学者ドナルド・サイモンズが書いている通り、「たとえ一〇〇〇回に一回しかうまくいかないにせよ、好色さが情事のきっかけになっていることに違いはない」

では、人々は実際には、どのくらいの数の性的パートナーを求めているのだろうか? 
前述した一時的および永続的な配偶者関係に関する研究では、未婚のアメリカ人大学生を対象に次のような質問を行なった。
一ヶ月から一生まで様々な期間を設定し、その期間内をそれぞれ何人の相手とセックスしたいかを答えてもらったのである。その結果、どの期間内をとっても、男性は女性よりも多くの相手を望んでいることがわかった。

例えば今後一年間で何人とセックスしたいかという問いに対し、男性は平均して六人以上が望ましいと答えたが、女性はひとりだけで十分だという答えが多かった。

今後三年間の場合でも、男性が一〇人のパートナーを望んだのに対し、女性はわずかふたりだけだった。こうした性的パートナーの希望数の性差は、期間が長くなればなるほどさらに拡大する。

一生のうちで何人の相手とセックスしたいかという問いに、男性は平均一八人と答えたのに対し、女性は四〜五人だった。これまで西欧社会では、男性が「征服した女」の数を自慢する傾向は、精神的未熟や男性としての自信の無さの裏返しだと解釈されてきたが、実際には、短期的な配偶関係を結ぶための適応を示すものである。

多くの相手パートナーと関係を結ぶためのもう一つの心理的手段は、セックスに至るまでの時間を短縮することだ、セックスにこぎつけるまでの時間が短くなればなるほど、より多くの女性と関係することが可能になる。

前述の研究では、男女の大学生たちに次のような調査も行なった。好ましい異性がいたとき、知り合ってからの期間が一時間、一日、一週間、六ヶ月、一年、二年、五年のそれぞれの場合で、セックスに同意する可能性がどのくらいあるかを訊ねたのである。

この問いにたいし、好ましい相手と知り合って五年経っている場合には、男女とも、おそらくセックスするだろうと答えた。しかし期間が五年未満の場合では、例外なく、女性よりも男性のほうがセックスしようとする傾向が強かった。

男性にとっては、五年も六ヶ月も変わりはなく、知り合ってからの期間がどちらでも、同じ程度にセックスを望んでいた。それに対して女性は、知り合って五年になる相手とのセックスには同意しても、知り合って六ヶ月の相手とのセックスには、どちらとも言えないと答えた。

 一週間前に知り合ったばかりの相手とでも、男性は積極的にセックスしようとする。対照的に、女性は知り合って一週間では、まずセックスしようとしない。ほんの一時間前に出会った相手の場合、男性はセックスにやや抵抗を示すが、その抵抗もさして強いものではない。

 一方、大部分の女性にとっては。出会ってから一時間後のセックスはほとんどありえない。男性にとって、セックスに持ち込むまでの時間を短くすることは、できるだけ多くのパートナーと性交するという適応上の課題への、ひとつの解決策なのだ。
つづく 愛人として望ましい条件