身体の均衡が保たれているかは、その人間の若さを示す指標ともなる。この事実は、魅力の基準は、健康と若さを物差しにして組み立てられているという仮説を、さらに補強してくれるものである。そして魅力の基準は、成長のきわめて初期の段階から トップ画像

身体的な美しさの基準

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

身体的な美しさの基準

 若さを重視することは、男性が繁殖能力の高い女性を求める傾向の、もっとも目につきやすい側面であるにすぎない。進化の理論は、美の普遍的な基準をより強く求めている。われわれが美しいと感じる風景は、水、獲物、隠れ場所といった要素を含み、祖先が暮らしていたサバンナの環境に似ていることが多い。

 それと同じように、われわれが女性の美しさを判断する基準は、その女性の繁殖能力を推測する手がかりを含んでいる。美は、それを観る者の目によって決定される。しかし、その目と、目の背後にある精神は、数百万年にわたる人類進化の歴史がかたちづくったものなのだ。

 われわれの祖先は、女性の健康と若さを判断するうえで、二種類の目に見える手掛かりを利用していた。ひとつは、豊かな唇、滑らかで張りのある肌、澄んだ目、光沢のある髪、引き締まった筋肉といた身体的な特徴であり、もうひとつは、きびきびとした若々しい足取り、表情の豊かさ、快活さといった行動上の特徴である。

 このような特徴は、女性の健康と若さ、ひいては?殖能力の高さを示すものだから、それはやがて男性が女性の美しさ判断する基準になっていった。

 その結果、われわれ祖先の男性たちは、そうした望ましい特徴をそなえた女性を好む傾向を進化させた。高い繁殖価値を示すような特徴の持ち主を、配偶者を選ばなかった男性――たちえば、白髪交じりで、肌にシワがより、筋肉もたるんでいる女性と結婚してしまった男性――は、ごくわずかな子孫しか残すことができず、その血脈はすぐに途絶えてしまっただろう。

 クレランド・フォードとフランク・ビーチは、こうした美に関する進化的な説明を明確に裏付ける、普遍的な美の基準が存在していることを明らかにした。なめらかで張りのある肌といった若さのしるし、あるいは腫物がないといった健康のしるしは、世界のあらゆる場所で魅力的な要素と見なされている。

 一方、不健康や老いを示すものは魅力的でないと見なされる。顔色の悪さは、性的魅力を減退させるのがふつうだし、吹き出物や白癬、怪我の傷、不潔さも好まれない。対照的に、清潔さや健康状態の良さは、あらゆる文化で魅力的な要素と見なされる。

 一例を上げれば、人類学者ブロニスラフ・マリノフスキーは、北西メラネシアのトロブリアンド諸島の住民を調査し、次のように報告している。「腫れ物、潰瘍、発疹などは、性的接触という観点からすると、きわめて忌むべきものと考えられている」。逆に、美しいとみなそれるための「必須条件」は、「健康、髪が豊かであること、歯がきれいなこと、肌がなめらかこと」である。

 とりわけ、生き生きとした目や、豊かな形のいい唇といった要素は、トロブリアンド島民によって大きな重要性を持っており、薄くしなびた唇よりもはるかに価値のあるものと見なされている。

 若さを示す要素もまた、女性の魅力の審美学において高い評価を与えられている。たとえば、さまざまな年齢の女性の写真を男女両方の判定者に見せ、容貌の魅力の度合いをランクづけさせたところ、女性の年齢がたかくなればなるほど、魅力が衰えていくことが明らかになった。そしてこの結果は、判定者の性別・年齢に拘わらず同じだった。

 ただ、男性の判定者が与える評価は、女性の判定者による評価にくらべ、対象となる女性の年齢が高くなると急激に下落する傾向が見られた。このことは、男性にとって、女性の年齢がその?殖的価値を知る手がかりとして大きな意味をもっていることを、如実に物語っている。

 旧来の心理学理論の多くは、魅力というものの基準は子供たちが文化を学習して行く過程で徐々に身に着けていくもので、最低でも三、四歳になるまでは体得されないものと考えてきた。

 心理学者ジュディス・ラングロワとその共同研究者たちは、乳幼児が他人の容貌にたいしてどんな社会的反応を示すかを調査することで、この通念をひっくり返してしまった。この調査では、まず大人に、白人および黒人の女性が映ったスライドを見せて、どの女性が魅力的かを評価させる。

 次に、生後二、三か月と六〜八ヶ月のどちらも乳児に、それぞれ魅力度の異なる女性の写真を一対ずつ見せる。その結果、生後二、三ヶ月と六、八ヶ月のどちらの乳児たちも、より魅力的な顔した女性の写真を長く見つめていることが分かった。このことから、人間はきわめて初期の段階から美の基準を身に着けていると推測できる。また、ラングロワたちは、続けて行った調査で次のような事実をも明らかにしている。

生後一二ヶ月の幼児を、美しい容貌のマスクつけた人物と遊ばせた場合と、醜い容貌のマスクつけた人物と遊ばせた場合とでは、前者の方が、幼児が喜び、遊びに熱中して、不機嫌になりにくいのである。

また、別の調査では、生後一二ヶ月の幼児に、きれいな顔立ちの人形と醜い人形を与えて見たところ、きれいな顔の人形と遊んでいる時間の方がずっと長いことがわかっている。

 つまり、人間の乳幼児は、いかなる訓練も必要とせずに、こうした審美的な基準を身に着けているらしいのだ。この事実は、魅力的かどうかを判断する基準は、文化を学習していく過程で徐々に身につけられていくものだという定説と真っ向から対立するものである。

美を構成する要素は、恣意的なものでもなければ、文化によって異なるものでもない。心理学者マイケル・カニンガムは、さまざまな人種・民族に属する人々を対象に、次のような調査を行った。

同じく多種多様な民族・人種の女性の写真を見せ、との女性が魅力的かを判定させるのである。その結果、どの女性が美人で、どれが美人でないかについて、大分部の意見が一致することが明になった。たとえば、アジア人男性とアメリカ人男性のあいだでは、どのアジア人女性とどのアメリカ人女性がもっとも魅力的で、どれがもっとも魅力的でないかの判断が一致した。こうした意見の一致は、中国人、インド人、イギリス人のあいだにも見られたし、南アフリカとアメリカの男性、あるいは同じアメリカの黒人と白人のあいででも観察することができた。

近年の科学の進歩は、女性の美を進化論的な見地から説明することの正当性を裏書きしてくれる。まず、魅力的な顔を作り出している要素とは何かを探るために、最新のコンピーター・グラフィックス技術を使って、さまざまな人間の顔を合成する試みが行われている。

合成された顔は、さまざまな数――四、八、十六もしくは三二――の実在する人間の顔からつくりだされたものである。次に、合成された顔を複数の人間に見せ、どのくらい魅力的かをランクづけしてもらい、同時に、合成の元となった実在の人々の顔もランクづけさせた。その結果は驚くべきものだった。合成された顔のほうが、元になった実在の顔よりも、ほぼ例外なく魅力的だとされたのである。

しかも、一六個の顔から合成したものは、四個の顔からの合成よりも魅力的であり、もっとも魅力的だと評価されたのは三二個の顔から合成したものだった。実在の顔を合成していく過程では、それぞれの顔が不均衡な部分が排除それ、容貌がより左右対称になっていく。つまり、左右対称で均整の取れた顔は、実在の顔よりも魅力的に感じられるということになる。

心理学者スティーヴ・ギャングスタッドと生物学者ランディ・ソーンヒルが中心となって行った研究は、均整のとれた顔がなぜ魅力的に感じられるのかという問題に、ひとつの解答を与えてくれる。ギャングスタッドとソーンヒルは、顔や身体の不均衡と魅力の評価との関係を研究した。一般に、成長の過程において、外部から悪い影響が繰り返し加えられると不均衡が生じることになる。

そうした悪影響の例としては、まず、怪我などの身体的な損傷があり、これらは健康状態を知る手掛かりにもなる。さらに、体内に住み着いた寄生虫なども影響を及ぼすこともある。寄生虫などの存在が身体の不均衡を生じさせるとすれば、身体の不均衡の程度は、その個体がどれだけ健康であるかを示すバロメーターとして、あるいは個体の成長がさまざまな抑圧因子にとってどれだけ妨げられてきたかを表す指標として利用することが出来るだろう。

たとえば、シシリアゲムシやツバメでは、オスが身体の均整がとれたメスを交尾相手として好み、身体に不均衡な部分のあるメスを避ける傾向がはっきりと観察できる。それと同じ傾向が人間の場合に見られる。

ギャングスタッドとソーンヒルは、さまざまな人々の足の幅、手の幅、耳の長さと幅などを計測し、それと魅力との関係を探っている。このような身体の部位は、それぞれ独立では、その個人の魅力とはほとんど関係ないと考えられている。

しかし、そうした部位どうしの均整がとれていないと、その個人の魅力的でないと見なされやすいことが明らかになった。ふつう、人間の身体の不均衡は、年を取るにつれて増大していく。たとえば老人の顔は、若者の顔にくらべると均整を欠いている。

したがって、どれくらい身体の均衡が保たれているかは、その人間の若さを示す指標ともなる。この事実は、魅力の基準は、健康と若さを物差しにして組み立てられているという仮説を、さらに補強してくれるものである。そして魅力の基準は、成長のきわめて初期の段階から、すでに身につけられている。
つづく 体形 

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