人間の配偶行動、ロマンス、セックス、愛情などがもともと戦略的なものとみなすのは、奇異に思えるかもしれない。だが、われわれ人間が配偶者をランダムに選ぶことはないし、無差別に異性を誘惑することも、退屈しのぎに競争相手を蹴落とすこともない。
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性戦略という適応

本表紙
デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

性戦略という適応

戦略とは、目標を達成するための方法、課題を解決する手段だ。人間の配偶行動、ロマンス、セックス、愛情などがもともと戦略的なものとみなすのは、奇異に思えるかもしれない。だが、われわれ人間が配偶者をランダムに選ぶことはないし、無差別に異性を誘惑することも、退屈しのぎに競争相手を蹴落とすこともない。

 人間の配偶行動は戦略的であり、その戦略は、配偶者獲得のためのさまざまな問題を解決するために組み立てられている。人間がそうした問題を解決しているかを理解するには、まず性的な戦略を分析してみなくてはならない。戦略は、配偶者獲得の戦場で生き残るために必須のものなのだ。

 適応は、生き残りと繁殖という難問に対して、進化が編み出した解答である。数百万年におよぶ進化の歴史を通じて、自然淘汰は、生命の維持に必要な栄養分を供給するという問題を解決するために、身体のなかにさまざまな飢餓メカニズムを作り出した。

また、何を食べ、何を食べないか(たとえば木の実や果物は口にしても、土や砂利は口にしない)と言う問題の解決のために、われわれの味蕾(みらい)は脂肪や糖分に敏感になっている。極端な暑さや寒さへの対応として、汗腺や身体を震わすメカニズムが生み出された。

 捕食者や攻撃的な競争愛に対処するために、恐怖や怒りなどの、逃走や闘いをうながす感情が生じた。病気や寄生虫への対抗策としては、複雑な免疫システムが作り出された。こうした適応は、敵意に満ちた自然が投げかけてくるさまざまな難題にたいして、人間がひねり出してきた解答だった。

それはすなわち、我々が生き残るための戦略だったのだ。適切な形質を進化させられなかった者たちは、生き残ることはできなかったのである。

 同じように、性的な戦略は、配偶者を獲得するという問題にたいする適応的な解答である。人類進化の歴史の中で、うまく配偶相手を見つけることが出来なかった個体は、子孫を残すことなく消えていった。

われわれはみな、競争に勝利して繁殖能力の高い配偶者を獲得し、子孫を残すために十分な期間だけライバルの干渉を防ぎ、繁殖の成功を妨げる問題をことごとく解決してきた先祖たちの、途切れることのない長い連鎖から生み出されてきた。われわれの体内には、そうした性的なサクセス・ストーリーの遺産が受け継がれていのである。

 それぞれの性戦略は、適応上のある特定の問題――いかに好ましい異性を見定めるかとか、異性を惹きつける際にいかに競争相手を出し抜くかといったこと――に合わせて編みだされている。そうした個々の性戦略の背後には、心理メカニズムが存在している。

それは例えば、異性の選り好みであったり、恋愛感情であったり、あるいは性欲や嫉妬であったりする。そして、個々の心理メカニズムは、身体的特徴や性的関心のサイン、あるいは不倫願望のあらわれといった、外部からの情報もしくは刺激に反応する。

 また、心理メカニズムは、自分自身に関係した情報――例えば、自分が魅力的な異性を惹きつけるだけの資質を備えているかどうか――によって作動させられることもある。

本書の最終的な目的は、人間の男女がたがいに異性を求めている過程で直面してきたさまざまな適応上の問題を分析し、その解決のために編み出されてきた複雑な性戦略を明らかにすることである。

 一つ注意しておきたいのは、「性戦略」という用語は配偶の問題を探るうえで役立つ隠喩(メタフォー)ではあるが、目的を意識した行為を指すものと誤解されやすいという点である。性戦略は、意図的な計画や意志の存在を必要としない。たとえば、われわれの汗腺は、体温調節という目的を達成するための「戦略」ではあるが、意図的な計画や目的意識を必要とするわけではない。

むしろ逆に人間の性戦略の大部分は、その当事者が無意識に行う場合に、もっとうまく機能する。それはちょうど、ピアニストが自分の指の動きを意識した途端に、演奏がうまくいかなくなるのに似ている。
 つづく 配偶者を選ぶ