デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
体格と体力・健康
偉大なバスケットボール選手マジック・ジョンソンは、これまでに何千人という女性と寝てきたと告白したが、この事実はかならずしも、女性が優れた肉体や運動能力をそなえた男性を好む傾向があることを示している。数千人と言う数は衝撃的だが、女性がスポーツ選手に惹かれるという傾向そのものは驚くに当たらない。
運動神経、体格、体力といった身体的特性は、女性が配偶者を選ぶ際に、参考になる貴重な情報を提供してくれるのだ。
メスが配偶者を選ぶ際に身体的特徴を重視することは、動物界全体を通じて広くみられる現象だ。たとえば「闘士ガエル(ゲラディエーター・フロッグ)の名で知られるカエルの場合、オスが巣を作り、卵を守る。大部分の交尾行動では、オスはじっと動かずにおり、そこへオスを試そうとするメスが体当たりをする。
メスはかなり激しくぶつかるので、オスがこらえきれずに吹っ飛ばされることもある。オスが動かされ過ぎたり、巣から追い出されたり場合には、メスはすぐにそのオスを見捨ててて他のオスを試しに行く。体当たりされてもびくともしないか、わずかしか動かされないオスを見つけると、メスの大部分はそのまま交尾する。
メスがそうした強いオスを強いオスを拒むケースはごくまれしかない。メスの体当たり行動は、オスがどれだけ卵をどれだけしっかりと守ってくれるかを判断するのに役に立つ。体当たりテストは、卵の保護という役目を果たすための身体能力を明らかにしてくれるのである。
ときとして女性は、体格と腕力にまさる男性によって身体的に支配されしまうことがある。その場合、男性の意志決定に従わないと、暴力をふるわれたり性的に支配されたりしかねない。こうした支配は、われわれの祖先の時代は日常茶飯事だったに違いない。事実、ヒト以外のさまざまな霊長類の研究から、男性による女性の身体的・性的な支配という現象は、われわれ霊長類の祖先から受け継いだ遺産であることがわかっている。
霊長類学者バーバラ・スマッツは、アフリカのサバンナに棲むヒヒの群れを身近で観察し、その交尾パターンを研究した。スマッツは、ヒヒのメスたちの多くが、オスと「特別な友情」を結び、自分や子どもたちを身体的に保護してもらうことを発見した。
そして繁殖シーズンになると、メスは自分の「友人」に優先的に交尾を許すのである。つまり、ヒヒのメスは、セックスと引き替えにオスによる保護を手に入れているのだ。
同じことが人間の場合にもみられる。女性にとって永続的な配偶関係が女性にもたらす利益の一つは、男性が与えてくれる身体的な保護である。男性の体格、腕力、運動能力などは、保護を受けるという適応上の課題を解決する際の手掛かりとなる。女性の配偶者選びこうした手掛かりに基づいていることは、さまざまな証拠から明らかだ。
一時的もしくは永続的な配偶関係についてのある研究では、アメリカ人女性を対象に、さまざまな身体的な資質を「望ましい」「望ましくない」に区別させている。その結果、たとえば背の低い男性は、永続的な配偶として「望ましくない」と判断されている。
一方、背が高く、頑健な肉体をもち、運動能力のすぐれた男性は、配偶者候補として「たいへん望ましい」と評価された。また、もうひとつ別の調査の対象となったアメリカ女性たちは、理想の結婚相手の条件として、アメリカ人男性の平均身長――約五フィート十一インチ――より背が高いことをあげている。平均より背の高い男性は、平均以下の男性よりデートや結婚の相手として望ましいとされているのだ。
交際相手を求める個人広告に関する調査では、相手の身長について要件をつけている女性たちのうちじつに八十パーセントが。六フィート以上の男性を求めていることが明らかになっている。さらに、背の高い男性の出した個人広告には、背の低い男性の広告よりも数多くの女性から問い合わせ寄せられている。
つまり、背の高い男性は背の低い男性よりも頻?にデートを重ね、配偶者選択の幅が広いことになる。女性は、暴力的な男たちから身を護るという課題を、自分を保護してくれるだけの体格・体力・運動能力をそなえた男性を配偶者に選ぶことによって、少なくとも部分的には解決したのである。
また、ほとんどすべての文化を通じて、長身の男性は高い地位を得安い傾向がある。狩猟・採取民の社会における指導者は、文字どおり身体的にも大男であることが多い。西欧社会でも、長身の男性は多くの収入を得て、他人よりも早く高い地位に昇進する傾向がある。たとえばアメリカの歴代大統領のうち、身長が六フィート以下だったのはごく少数でしかない。
政治家たちもこうした有権者の好みをよく知っており、1988年の大統領選挙の際のテレビ討論で、ジョージ・ブッシュは、自分より背の低い対立候補マイケル・デュカキスのなるべく近くに立とうとしていた。
そうやって相手の身長の違いを印象付ける事に成功したのだ。進化心理学者ブルース・エリスは次のように述べている。
身長は、社会生活における優位を示す信頼できる指標となる…・背の低い警官は背の高い警官よりも襲われる確率が高いだろう…・このことは、背の高い人間は敵から畏怖され、一目置かれることを示している。…女性が交際相手を求める個人広告でも背の高い男性を求められることが多く、長身の男性が出した個人広告には数多くの反響がある。そのため、彼らは、背の低い男性よりも美人のガールフレンドを手に入れやすいのだ。
女性が長身の男性を好む傾向は、西欧社会だけに限られたものではない。人類学者トマス・グレガーによれば、ブラジルのアマゾン川流域に住むメヒナク族では、男性のレスリングの技術が重視される。そこには、体格の違いがはっきり表れるからである。
筋骨隆々とたくましい男性は、たくさんの女性を得ることが出来るその一方で侮辱的に「ベリツィ」と呼ばれる小柄な男性は、女性に恵まれない。メヒナク族ではただ身長が高いというだけで、明らかに有利な立場に立てるのだ…・村人たちに言わせると、レスリングの強い男たちは畏怖すべき存在であり…・恐れと尊敬をかちえている。女性たちから見ると、彼らは「アウィツィリ」すなわち美しい存在であり、恋人や夫として憧れの対象である。レスリングのチャンピオンは最も男らしいと見なされ、恋愛だけでなく政治においても勝利者となる。それにくらべ、レスリングの敗者は悲惨なものだ。いつも負けばかりいる男は、他にどれだけ長所をそなえていても落伍者としか扱われない。女たちのだれ一人として、レスリングの弱い男を恋人に夫にしたいとは思わない。
バーバラ・スマッツは、人類の進化の歴史において、身体的な保護こそが、男性が女性にもたらすもっとも重要な貢献だったと考えている。女性を身体的に支配し、女性に性的な選択の余地を与えまいとする暴力的な男たちが存在したことは、先史時代の女性の配偶者選択に重大な影響を及ぼしたにちがいない。
現在でも、多くの社会で性的威圧やレイプの危険が存在する以上、配偶者がどの程度の保護を与えてくれるかは配偶者選択の際に大きな意味をもってくる。多くの女性は、ただ街中にひとりでいるだけで不安を感じるものだ。背が高く、腕力と運動能力のすぐれた男性は、性的暴力をふるう男たちを防ぐ盾として役立つだろう。
健康
女性が健康な配偶者を求めるのは、万国共通だ。前述の国際調査の対象となったアメリカ三七の文化圏のすべてで、女性たちは結婚相手が健康であることを「重要」もしくは「必要不可欠」と評価している。
アメリカ人女性のみを対象にした別の調査でも、健康状態が悪い男性――そのなかには身体の不潔さから性病までが含まれる――は、配偶者としてもっとも望ましくないという結果がでている。
生物学者クレランド・フォードとフランク・ビーチによれば、完治していない傷や身体的欠陥、蒼白な顔色など、健康状態の悪さを示す特徴は、世界のあらゆる文化で否定的にとらえられているという。
ある人間が健康であるかどうかは、外見だけでなく、その行動からも推し測ることができる。たとえば、生気に富み、エネルギッシュで、はつらつとした人間は、まちがいなく魅力的にみえるだろう。そうした行動には多くのエネルギーが必要なので、健康状態のいい人間にしかできないからだ。
健康がきわめて重視されるのは人間に限ったことではない。たとえば、ある種の動物たちは、自分の身体の大きさや声の大きさ、あるいは派手な特徴などをディスプレィする。ディスプレィ行動には多くのコストがかかるが、それによって自分が健康であり、活力に満ちあふれていることを示すのである。
クジャクのオスがもつ、色鮮やかなで絢爛たる飾り羽はその好例であり、あたかも「私を見てくれ。私こんなに大きな、邪魔くさい羽を平気で運べるくらい健康で、しかもまだ余裕があるんだぞ」 と告げているようだ。
なぜクジヤクノオスが、生き残りという現実的な目的には適さないように見える飾り羽をそなえているのかという謎は、最近になってようやく解き明かされつつある。生物学者ウィリアム・D・ハミルトンとマリーナ・ズクは、きらびやかな飾り羽は、そのオスの体内に寄生虫があまりいないことを示すシグナルではないかと考えている。
平均より多くの寄生虫にとりつかれているオスは、飾り羽が貧弱であることが明らかになっているからだ。大きな飾り羽という荷物を背負っているのは、そのオスが健康で頑健であることを示している。クジャクのメスが、きらびやかな羽をもつオスを好むのは、それが健康であることのしるしだからなのだ。
われわれの祖先の女性が、不健康もしくは病気におかされている配偶者を選んだ場合、四つの不利益を甘受しなくてはならなかっただろう。まず第一に、自分や家族に病気が感染する危険性がある。第二に、夫が配偶者としての責務を十分に果たすことが出来ず、自分や子どもたちに、食料や保護、健康管理や教育といった大きな利益をもたらしてくれない。
第三に、夫が早死にして、子どもが成人する前にさまざまな資源の供給が断たれる可能性が高い。そのために、新しい夫を探し、配偶関係をもう一度築き上げていくコストを覚悟しなければならない。そして第四に、もし健康状態の一部が遺伝するものなら、自分の子どもたちに不健康な遺伝子が伝わってしまう恐れがある。
健康な配偶者を選ぶことは、こうした問題が生じるのを避け、資源が長期にわたって安定供給されることを保証してくれる。
つづく
愛と献身
煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。