ある程度年を取らなければヒヒ社会の階層の上位に昇ることはできない。同じように、人間の場合も、少年や青年が、名声や高い地位を得たり、成熟した年上の男たちにとって代ったりすることは稀である トップ画像

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年齢

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デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之

年齢

男性の年齢もまた、彼がどの程度の資源を自由にできるのかを知るための重要な手掛かりとなる。
 ヒヒの雄は、ある程度年を取らなければヒヒ社会の階層の上位に昇ることはできない。同じように、人間の場合も、少年や青年が、名声や高い地位を得たり、成熟した年上の男たちにとって代ったりすることは稀である。この傾向の極端なかたちはオーストラリアのティウィ族にみられる。

 ティウィ族の社会で長老支配制であり、もっとも年老いた男たちが権力と特権の大部分を握り、複雑な縁組のネットワークを通じて婚姻システム全体をコントロールしている。これほどはないにせよ、アメリカ社会においても、歳をとるにつれて社会的地位が上がり、富も蓄積されていくのがふつうだ。

 われわれが研究対象とした三七の文化圏のすべてで、女性が自分よりも年上の男を好んで配偶者にする傾向がみられた。調査結果の平均値をとると、女性は自分よりも約3.5歳年上の男性をもっとも好むことになる。年齢差がいちばん小さかったのはフランス系よりカナダ人の女性たちで、理想の配偶者との年齢差は二歳未満だった。

一方、差が最も大きいのがイラン女性で、五歳以上年上の男性を理想としていた。現実の妻と夫の年齢差は、全世界の平均が約三歳であり、女性たちが自分たちの好みにもとづいて結婚を決断していることがうかがえる。

なぜ女性が年上の男を求めるかを理解するには、年齢を重ねることで生じるさまざまな変化に目をける必要がある。もっとも根本的な変化の一つは、自由にできる資源の量である。現在の先進諸国では、年齢が上がるにしたがって収入が増えていくのがふつうだ。たとえばアメリカの場合、三〇歳の男性は二〇歳の男性にくらべて、平均して1万4千ドルほど収入が多い。さらに40歳になると、収入は30歳の場合より、7千ドル増える。この傾向は、先進諸国だけに限らない。

まだ近代化の波に及んでいない伝統的な社会においても年上となればなるほど社会的地位は高くなる。先ほど例に挙げたティウィ族の場合、男は30歳になってはじめて、ある程度の社会的地位を得て最初の妻をめとれるようになるのがふつうだ。そして、四〇歳にならないうちは、妻をもう一人得られるだけの地位に達することができない。年齢と資源と社会的地位は、あらゆる文化において密接に関連している。

伝統的な社会では、こうした年齢と地位との結びつきは、ある部分では身体的な能力と狩りの技量に関係している。男性の身体的能力は、最初は歳を経るにしたがって高まっていき、20代後半から30代前半にピークを迎える。年齢と狩と技量の関係については、これまで体系的に研究されたことがないが、人類学者たちの観察によれば、だいたい30代にピークに達すると考えられる。

30代になると体力は多少衰えてくるが、知識、忍耐力、技術、経験といったものの向上が、それを埋め合わせて余りあるからだ。すなわち、女性が年上の男性を好む傾向は、狩によって得られる資源に生活を依存していた狩猟・採取民の祖先たちの派生してきたものなのだろう。

 女性が年上の男性を好む理由は、資源などの目に見えるもの以外にもある。年上の男性は、経験を積み、精神的にも安定しており、経済的にも頼りになることが多い。たとえばアメリカでは、男性は30代にさしかかると、感情的に安定し、常識をわきまえるようになり、信頼性を増す傾向がみられる。女性の配偶者選びに関する調査で、ある女性はこう回答している。「年上の男性の方が、真面目な話ができるから好感が持てる。年下の男性は幼稚で、人生を真剣に考えていない」。

 また、ある男性がどんな地位に到達できるかも、年齢を経るにしたがってはっきりしてくる。そのため、年上の男性を配偶者に選ぶ女性は、夫がどの程度まで出世できるかを前もって見定めやすい。

 ただ、三七の文化圏を対象にした調査によれば二〇歳の女性は自分よりも二、三歳年上の男性と結婚することを望み、年齢が大きくかけ離れた男性との結婚は望まない傾向がある。ふつう男性の経済力が最も豊かになるのは40代ないし50代であるにもかかわらずだ。若い女性が、極端に歳の離れた男性を好まない理由のひとつは、彼らが自分よりずっと早く死ぬ可能性が高く、長い期間にわたって子供を扶養し、保護することが出来ないからだろう。

 さらに、年齢差から生じる目に見えない断絶が、夫婦間に不和をもたらし、離婚の可能性を高めることもありうる。このような理由から若い女性たちは、すでに高い地位を得はいてもその先がない高齢の男性よりは、二、三歳年上で将来有望な男を配偶者に選びたがる。

 とはいえ、すべての女性が自分よりも年上の男性を配偶者に選ぶわけではない。なかには年下の男を配偶者に選ぶ女性もたちもいる。中国のある小さな村では、十七、八歳の女性が、わずか一四、五歳の「花婿」と結婚することがある。ただその背景には特殊な事情があり、若い「花婿」たちは、みな高貴な家系の出身で生まれながらにして裕福であり、将来は巨額の遺産を手にすることが出来る人々だった。

 女性の「少し年上男性を好む」傾向は、高い地位と資産を示す明白な印が外にある場合や、資産を受け継ぐことが確実な場合には、覆すことが出来るものなのだ。

 女性が、かなり年下の男性を配偶者にする例外はほかにもある。ただ多くの場合、女性の側に年下の男性への強い欲求は見られない。むしろ、歳をとった女性と若すぎる男性は、ともに配偶者獲得競争の場において弱い立場にあるために、その組み合わせが生じるのだともいえる。たとえばティウィ族では、若い男性の最初の妻は、年上――ときには十歳以上も上――であるのがふつうだ。まだ社会的地位が低い若者は、年を取った女性しか手に入れることが出来ないからだ。

 さらに例外的なケースとして、すでに高い地位と多くの資源を手にしている女性が、かなり年下の男性を配偶者に選ぶことがある。女優のシェールやジョーン・コリンズが二〇年下の男と結婚したのは、その典型的な例だろう。だが、こうしたケースはごくまれである。すでに資源を手に入れている女性は、自分と同じくらいか、自分よりも豊かな男性を配偶者に選びたがる傾向があるからだ。

 一時的に若い男と暮らす女性もいるだろうが、そうした女性もそろそろ結婚して落ち着こうと思うと、自分よりも年上の男性を探すのがふつうだ。シェールやジョーン・コリンズの場合も、年下の男とのロマンスは長続きしないことを示しただけだった。

 こうした、経済力、社会的地位、年齢といった指標は、すべて一つのものに集約することができる。すなわち、その男性が、女性や子どもたちが利用できる資源をどれだけ所有し、コントロールできるかということである。自然淘汰による進化の長い歴史を通じて、女性は男性を成功への足掛かりと見なすようになった。

 とはいえ、ただ資源を所有しているというだけでは十分ではない。資源をこれから長い間保持しつづけることも必要であり、そうした資質を備えていそうな男性を女性は求めている。

 早婚の傾向が強い文化では、男性の経済力を直接判断することはむずかしいため、間接的な評価に頼らざるを得なくなる。実際問題として、貨幣経済を持たない狩猟・採取民の社会では、当然ながら経済力を基準に配偶者を選ぶことはできない。たとえばティウィ族の若い男性は、女性たちと年長の男たちの双方から入念に観察される。

 その人なりを手がかりに、だれが「有望株」であり、将来高い地位と資産を手にすることが出来そうか、あるいは誰が落伍者として取り残されそうかが判断されるのだ。若い男たちの将来性を評価する場合、主な判断材料となるのは、狩りの技術、戦士としての力量、そしてとりわけ、部族内で高い地位にのぼり、権力を得ようとする強い意志である。

 あらゆる時代と文化を通じて、女性たちは、男性が将来多くの資源を手に入れることができるかどうかを、その人格的特徴を手掛かりに判断し、配偶者を選んできた。

 そして、地位の獲得と長期にわたる資源の支配とを可能にする資質を備えた男性を高く評価するタイプの女性は、そうした資源を軽視する女性にくらべて、はるかに成功をおさめてきたのである。
 つづく 野心と勤勉さ