
デビィツド・M・バス 訳=狩野秀之
経済力
メスが、多くの資源を提供してくるオスを好む傾向を進化させることは、動物界におけるメスの配偶者選択の事例を通じても、おそらくもっとも古く、最も普遍的な現象だろう。イスラエルのネゲブ砂漠に住むオオモズを例にとってみよう。オスは、繁殖シーズンが始まる直前になると、カタツムリなどの餌や、巣作りに使える羽や布切れなどを集め、その数は90〜120にもなる。
それからオスは集めた品物を、自分の縄張りの中にある木の枝などの尖ったものに刺す。メスは自分のまわりにいるオスを見比べて、もっと多くの収集品をもつオスを交尾相手として選ぶ。生物学者ルーペン・ヨセフは、あるオスの収集品をいくつか取り除き、別のオスの収集品に付け加えてみた。
するとメスは、財産が増えたオスのほうに乗り換えたのである。メスは資源の持たないオスをまったく相手にせず、そうしたオスは独身生活を余儀なくされる。このように、メスが何らかの好みにもとづいて配偶者選択を行う場合には、オスの持つ資源が主要な判断基準になることが多い。
人間の場合、女性が、資源を持った永続的な配偶者を好む傾向に進化させるには、三つの前提条件が必要だった。第一に、人類の進化の過程で、男性によってさまざまな資源が蓄積され、所有され、コントロールされるようになる必要があった。
第二に、個人個人が所有する資産がそれぞれ異なり、またその資産のうちどれだけを女性や子どもたちに費やすかが、人によって異なっていなくてはならなかった。
かりに、すべての男性が同じ資産を持ち、女性のために同じだけの量を提供しようとしていたならば、資源の多い方を好む傾向など発達させる必要もなかったはずだからだ。そして第三に、ひとりの男性と継続的に配偶関係を結ぶことで得られる利益が、何人もの男性と関係することの利益を上回っていなくてはならなかった。
人類は、こうした条件をうまく満たしている。土地と生産手段という二つの資源をとってみても、世界中で男たちはそれらを所有し、独占し、コントロールしている。さらに、男性ひとりひとりが自由にできる資源の量には、貧しいホームレスからドナルド・トランプやロックフェラー一族のような大富豪まで、巨大な個人差がある。
また、長期間にわたる配偶関係を維持するためにどれだけの時間と資源を費やすかも、人によって千差万別だ。たくさんの女性と関係し、どの女性にもほとんど扶助を与えない遊び人もいれば、ひとりの女性と子どもたちのために持てるものをすべてを注ぎ込むよき父親もいる。
人類の進化の歴史において
女性は、一時的なセックスのパートナーを複数持つよりも、ひとりだけの配偶者と暮らすほうが、子どもを育てるのに必要な資源を手に入れやすかった。人間の男性は、妻や子供のために、霊長類のなかでも類を見ないほど多量の資源を提供する。
霊長類の大部分では、メスは自分の力だけで食物を獲得しなくてはならない。オスはふつう、配偶者に餌を分けてやったりはしないからだ。対照的に、人間の男性は、配偶者のために食物を提供し、安全な住みかを見つけ、それを外的から守り、さらに子供を保護する。子供たちに狩りの技術や敵との戦い方を教え、社会で力を得るにはどうすべきかを指導する。
自分の社会的地位を子供たちに受け継がせ、将来、他の人々との間に実りの多い関係を築けるように援助もしてくれるだろう。こうした利益は、その場限りのセックス相手からは、けっして得ることが出来ないものだ。もちろん、配偶者候補の全員がこのような利益をもたらしてくれるわけではない。
しかし、たとえ一部でも、利益をもたらしてくれる男性は存在する。そうしたタイプの男性を配偶者として選ぶ女性たちは、数千世代を経るうちに、きわめて有利な立場を獲得していった。
かくして、資源を持つ男性を好む傾向が進化するための舞台は整った。だが同時に、女性たちは男性が資源を持っていることを知る手がかりを必要とした。そうした手がかりは間接的なものであることも多い。ある男性の性格から、彼が将来、有力者となる可能性を秘めていると感じ取れる場合などだ。また、男性の運動能力や健康といった身体的な特徴が手がかりとなることもある。
あるいは、ある男性が周りの人間から一目置かれているといった伝聞情報も手がかりになるだろう。とはいえ、もっとも直接的な証拠となるのは経済的な資源である。
現在の女性たちがどんなタイプの配偶者を好んでいるかは、人類の過去の配偶行動を知るための入口を提供してくれる。われわれが蛇や高い所を恐れるという事実が、祖先が遭遇した危険を教えてくれるのと同じことだ。多くの研究が示すところによれば、現代のアメリカ人女性は、男性よりもはるかに配偶者の経済力を問題にする。一例として、1939年に行われたある調査をあげてみよう。
この調査はアメリカ人男女を対象に、恋人もしくは結婚相手のどんな資質が望ましいと考えるか、18の項目について「関係ない」から「必要不可欠」までの段階でランクづけさせたものである。相手の「経済に有望な見込み」については、女性は、「必要不可欠」とは見なさなかったが「重要」という評価を与えた。
一方男性に同じ資質について、「望ましいが特に重要ではない」という評価しか与えなかった。1939年の時点でアメリカ人女性は、経済的に有望な見込みに男性の二倍近くも高い評価を与えている。そしてその結果は、1956年に行われた調査でも、67年に行われた調査でも変わらなかった。
1960年代のおわりから70年代初頭にかけて起こったセクシャル・レボリューション(性革命)も、この男女間の差異を解消することはなかった。私は1980年代半ばに、以前行われていた研究を再度試みようと、同じ質問票を使って1491人のアメリカ人について調査した。
対象となったのは、マサチューセッツ、ミシガン、テキサス、カリフォルニアに住む男女で、彼らは自分の配偶者がそなえているべき資質を十八の項目についてランク付けするように求められた。その結果、八〇年代においても、女性は経済力を男性の二倍近くも高く評価していることが分かった。
女性が、経済力をまず第一に評価することは、他の様々な調査からも明らかにされている。心理学者ダグラス・ケンリックとその共同研究者たちは、人々が自分の配偶者のさまざまな資質をどの程度評しているかを示す有効な方法を開発した。調査対象にした男女に、配偶者の資質のそれぞれについて、許容できる「最低限のパーセンタイル」を示させた。
この「パーセンタイル」という概念を、ケンリックは次のような例を引いて説明している。「ある人物の経済力が50パーセンタイルに相当するという場合、その人物は、全体の50パーセントの人々よりも経済的に裕福だが、49パーセントよりは貧しいということになる」。
アメリカの大学の女子学生を対象にして調査を行ったところ、自分の夫の経済力の「許容できる最低限のパーセンタイル」は、70パーセンタイルだった。つまり、男性全体の70パーセントよりも高収入であることが求められるということだ。一方、男性が妻の経済力を求める最低パーセンタイルは、四〇でしかなかった。
新聞や雑誌に掲載れる、交際相手を求める個人広告を調べてみても、結婚を希望する女性たちが経済的資源を求めているのは明らかになる。1111件の個人広告を調査したある研究によれば、広告を出した女性が交際相手の条件として経済力を求めている例は、男性の約11倍にもなる。
つまり、男性と女性で経済的資本への欲求に差があるという現象は、大学生特有のものでもなければ、室もの方法によって人為的に作り出されたわけでもないのである。
女性が配偶者に経済力を求める傾向は、アメリカをはじめとする欧米諸国、あるいは資本主義社会に限られたものではない。私と同僚たちが中心になって行った配偶者選択に関する国際的な調査は、こうした傾向が普遍的に見られることを明らかにした。われわれは1984年から89年まで5年以上にわたって。6つの大陸と5つの島に分布する37の文化圏を対象に調査を行った。調査した社会集団は、人口統計的特徴においても多種多様だった。
対象となった国々のなかには、ナイジェリアやザンビアのように、いまだに一夫多妻制を維持している国もあれば、スペインやカナダのように、離婚率が低く、ひとりの配偶者と一生暮らす傾向が強い国もある。あるいは、スウェーデンやフィンランドのように、婚姻届けも出さずに同棲しているカップルが正式に結婚しているカップルと同じくらいの多い国もあれば、ブルガリアやギリシャのように、結婚せずに同棲している男女には冷たい視線を向けられる国もあった。最終的に、サンプルとなった人々は1万47人におよんだ。
研究の対象になった男女は、自分の配偶者候補もしくは配偶者の18項目の資質について、それぞれ「重要ではない」から「必要不可欠」までランク付けするように求められた。その結果、世界のあらゆる地域、あらわる政治体制(社会主義、共産国家を含む)、あらゆる人種・宗教グループ、そしてあらゆる婚姻システム(極端な一夫多妻制から一夫一妻制まで)において。女性は男性に比べ、経済力を高く評価していることが明らかになった。
全体としてみると、女性は配偶者の経済力を、男性の二倍も重視しているのだ。ただし、文化によって多少の違いはある。ナイジェリアやザンビア、インド、インドネシア、イラン、日本、台湾、コロンビア、ヴェネズエラといった国々の女性は、南アフリカ共和国のズールー族や、オランダ、フィンランドの女性たちにくらべ、経済力のある配偶者を好む傾向が強い。
例えば日本では、女性は男性に比べ、配偶者の経済力を150パーセント以上、すなわち約1.5倍も重視する。一方、オランダの女性は、男性よりも36パーセント高く評価するにすぎず、これは他の国の女性よりも低い。とはいうものの、男女間の差異そのものは厳然と存在している。
全世界で、女性は男性にくらべ、配偶者の経済力資源を強く求めているのである。
この発見は、人間の配偶行動の心理に進化的な基盤が存在することを示す、最初の普遍的かつ汎文化的な証拠を提供してくれる。われわれの祖先の女性たちは、体内での受精と9ヶ月におよび妊娠、およびその後の授乳期間という重荷を背負わされていた。そのため、豊富な資源を持つ男性を配偶者に選んだ女性は、そうでない女性に比べて大きな利益を得ることになった。
そうした配偶者を好む傾向は、祖先の女性たちが、生存と子孫の繁栄という適応上の課題を解決するうえで大きな助けとなってくれたのだ。
つづく
社会的地位
煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。