本当に愛と結婚は、分かち合いがたく結びついているのだろうか? あるいは子育てや家計の管理、仕事などの重責に追われ、ストレスに見舞われているうちに、愛は崩壊していくものだろうか? トップ画像煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。

愛と結婚

本表紙
サイモン・アンドレアエ/沢木あさみ=訳

愛と結婚

それでは愛と結婚の関係とはどのようなものだろう? 本当に愛と結婚は、分かち合いがたく結びついているのだろうか? あるいは子育てや家計の管理、仕事などの重責に追われ、ストレスに見舞われているうちに、愛は崩壊していくものだろうか?

 そして愛がいつかは尽きる運命ならば、私たちはどうすればいいのだろう? 船が浸水し始めたちたん、その穴に栓をし、船の積み荷を捨てて、いつかは青い空の下の大海に戻れることを祈ればいいのだろうか? あるいは、どの船も浸水することはあると割り切って、とにかく沈まないように前に進めばいいのだろうか? あるいは船を見捨ててもっと高性能な最新式の船を探せばいいのだろうか?

 人類学者のヘレン・フィッシャーは、三番目の説を信じている。しかも彼女は、離婚や愛や死は古代から人間にとって大きな問題だったろうと言う。

世界中の離婚に関する国連の統計を見た彼女は、非常に多くの離婚が結婚後四年後に起きていることに気がついた

これは、最初の愛情が薄れ、まだ長期的な絆が出来上がっていない時期である。しかも離婚の主な原因は、不貞と子どもが出来ないことだった。

 実に分かりやすいではないか。相手の生殖能力に問題があって、あるいは相手の浮気によって、遺伝子を将来へ伝えられないのならば、あきらめたほうがいい。

 だがフィッシャーの理論はさらに先を行く。結婚後三年か四年で離婚率がぐっと高くなっているということは、誰かと結婚して子どもを一人産んだら、次の相手を見つけてもう一人子どもを作るほうが進化論に叶っている証拠だというのである。その方が、さらにバラエティに富んだ子孫が残せるからである。

 だがこの理論にはいくつか欠陥がある。まず一つ目は、恋をすることは多大な時間とエネルギーを取られるということである。なのに、なぜそんなことを何度も繰り返さなくてはならないのだろう?二番目は、結婚生活を捨てるということは少なくともしばらくは、一人になるということである。なぜそんなリスクを冒さなくてはならないのだろう? 

 そして三番目にはこれまでの相手よりいい相手に巡り会える保証はないということである。それに、自分の子どもでない子にやさしくしてくれるだろうか? だからどうしても我慢できない相手でない限り、何度も賭けを繰り返すよりは今の相手と一緒に居た方がいい。

 結婚生活の推移について研究を続けてきたアーサー・アーロンも、結婚の最初の年月を乗り切るのが難しいという点ではヘレン・フィッシャーに賛成している。だがアーロンはその難しさを、人がバラティに富んだ遺伝子を残したがっているのではなく。この以上の発展性が望めなくなる恐怖から来ているのではないかとしている。

付き合い始めて最初のころのカップルには、目新しい体験がたくさんある。お互いについて次々と発見もあるし、一緒に暮らし始め、結婚し、子どもを作るなど、発展的な出来事が続き気分は高まる。だが生活が単調になりお互いの性格も趣味も、生まれも育ちも知り尽くしてしまうと、発展の機会は消えていく。

 アーロンによるとこれは、人間なら避けようのないことである。そして船を見捨てるより、より良い関係づくりに努力したほうがいいと彼は言う。たとえば一緒につり橋を渡ったり、スカイダイビングやバンジージャンプのようなことをしてみたり、エキゾティックなリゾートに出かけるのである。
 出会ったときの頃に味わったような興奮や新鮮な気持ちを思い出せるようなことなら、何でもいいとアーロンは言う。

 だが、シアトルのジョン・ゴットマンの研究はさらに役に立つ、何がカップルを結びつけ、何が絆を断ち切るのか、ゴッドマンほど有益なアドバイスをしてくれる研究者はいない。

 優しげな心理学者ゴッドマンの研究室からは、ワシントン湖が見渡せる。その向こうには太平洋が広がり、その海はハワイやマンガィア、それにこの本の皮切となったピトケアン島にまで通じている。

 ゴッドマンは、愛と結婚に関するアメリカ最大の研究所を運営している。ここでは、現代の典型的な結婚の本質とその推移をモニターしている。関係が特別にいいカップル、悪いカップル、あるいはごく普通のカップルがここを訪れ、ゴッドマンと彼の下で働く選りすぐりの研究者たちが詳細な調査を行うのである。

 ここに来るとまずカップルは、実験アパートメントでいつもと変わらない一日を二十四時間過ごす。ただし、壁にはカメラが取り付けられ、リビング・ルームにはマイクが設置され、バスルームには試験管がすえつけられ、尿や唾液を採集する。
 ゴッドマンはカップルの活動や相互作用を――ストレスの証拠や愛情表現、言い合いや結論の引き出し方をじっくりと観察するのである。

 そのカップルの二人はそれぞれゴッドマンの部屋で、自分が二人の関係についてどう思っているかを語る。出会いはどのようなものであったかとか、相手のどこに惹かれたか。いつ結婚したか。誰がどのような役割をしたか、そして、一緒に暮らし子どもを育てていることについて何を感じているか。
 それからよく二人の間で問題の種になるのは何かを挙げ、どうやってそれを解決するか表現してみるのである。
 
 このインタビューをしただけで、カップルが今後も一緒に続けるか離婚に至るか九十四%の確率でわかるとゴッドマンは言う。だがこの後の実験がさらに興味深い。二人はハイテクを駆使した実験室に連れていかれ、ストラップやワイヤをたくさん身体に付けられたのである。胸には心電図を取る機械が、指先には汗と心拍数をはかる装置が、横隔膜の周りには呼吸数を計る機械が、そして顔の周りにはカムコーダーがすえつけられる。そしてゴッドマンは被験者に、結婚生活にまつわる葛藤について語ってもらう。

 浮かび上がってくる話は、つねに同じである。彼は話をしてくれない。彼女は話を聞いてくれない。子どもがいるからセックスできない。毎日が単調だ。二人で過ごす時間がない。二人共通の関心事がない。愛は輝きを失ってしまった。生活がつまらない。どこでも聞かれそうな愚痴だが、この実験室では被験者がそうした不満を口にする間はずっと、呼吸や心拍、声の調子、手や足の微妙な動きをすべてモニターしているのである。

 それを、高度な訓練を受けた研究チームが、分析し、スキャンし、比較する。そのすべてを、灰色のあごひげときらめく目をした現代のネプチューン、ゴッドマンが司っているのである。

「実に面白いですよ」ゴッドマンは言う。「まるで実際の結婚生活をCATスキャンにかけているみたいです」。だがここで観察しているのは、脳ではなくハートのほうである。つねに変化し捉えがたいハート=気持ちの流れを、ゴッドマンは観察しているのである。

「まるで十五世紀のポルトガルの探検家のような気分ですよ」ゴッドマンは言う。「地図はあるけど、あまり当てにならない。私は、未知の領域の地図を書こうとしているのです。人間の心という未知の場所を」だがこうしたインタビュー結果から、マイクロフォンの記録から、モニターの記録から、何かが分かるのだろうか?

 問題なのは二人がどれくらい言い合いをするかとか、どれくらい我慢できないところを持っているかではないとゴッドマンは言う(誰にでも、どうすることもできない欠点はある)。あるいは、浮気心があるかどうかはさほど問題ではない。それより重要なのは、問題が持ち上がった時どの様に対応するかどうかなのだと彼は言う。

 たくさん言い争うが、仲直りするときの快感が葛藤を補って余りあるというカップルもいる。あまり言い合わず、問題を見逃すようにして、相手のいいところを見ようとするカップもいる。あるいは、妥協に時間を割き、葛藤がほとんど起きないカップルもいる。

 今挙げたようなパターンはよく見られるし、ある程度健全だと言える。だがゴッドマンは観察の結果、これがあったらいずれどんな結婚生活も終わるという要素を四つ挙げ、“黙示録の四騎士”と名付けている。

 それは批判(相手の行動や性格を責めること)、軽蔑(相手を見下すこと)、自己防衛(自分の責任を認めず相手に押し付けること)、引きこもり(話し合いをしようともせず相手を寄せ付けないこと)、の四つである。

 誰にでも時折みられるこの四つが常にみられるようになると――しかも愛情や支え合う気持ちが見られなくなると――結婚生活が危機に陥っているのは確かであり、やがては崩壊していく。

 それだけではない。ゴッドマンによると、それは心理状態だけにではなく、肉体の健康にも関わってくるのだという。ある研究でゴッドマンのチームは、相手に批判や軽蔑の気持ちを持っているカップルほど、

向こう五年間病気にかかりやすいという法則を発見した。批判の気持ちが高ければ高いほど、病気なる確率も上がり、病状も重くなる。

これは相手に対して否定的な態度を取ることが、血圧を上げ、ストレスを高め、過剰な興奮をもたらし、人を落ち着きがなく攻撃的にするからだという。

 関係の始まりの頃は、二人とも相手の気を引こうとし、しかも欠点は目に入らない。このときに感じるストレスや興奮はいい方向へ向かい、快く感じるのである。たとえ、言い合いや喧嘩で起きたものであってもである。出会って数年たち、日々の生活の中に最初に感じた高まりが消えていくと、結婚は嵐の中の港になり、嵐そのものではなくなったほうがいい。

 外に出ても、問題はたくさんあるのに、家の中の問題にまで対処する余裕はないからである。私たちは平和を、安全を、そして心地よさを、相手に与えたいと思うし、与えて欲しいしと思う。だからこの時期にホルモンが興奮をもたらすと、関係を修復する方向に刃向かわず、むしろ関係に打撃を与えるのである。だから相手に失望した者は、かつては理想的だと思えた相手ってもう一度魅力的な自分になろうとはせずに、怒りと軽蔑をぶつけるのである。そして相手の欠点が、よりいっそう鮮明に見えてきてしまうのである。

 四人の騎士がチラチラと見え隠れする結婚をしている人、すなわちすべての結婚している人に向けて、ゴッドマンはシンプルな知恵とアドバイスを授けてくる。相手のための場所を作ること。
 相手の苦痛を和らげるように努めること。そして時々はどうしてもパートナーを批判してしまうのなら、それを凌ぐ誉め言葉や励ましを送り、相手を支えるように心がけること。

 よき忠告というものがすべてそうであるように、これを言うのは優しいが実行するのは難しい。なぜ愛を長続きさせることがこれほど難しいのだろう?

 遺伝子を伝えるために、人類は愛を必要としてきた。だがきっと人間はまだ、きちんとした愛し方ができるほどの進化は遂げていないのだろう。だから誠実な愛情を、長続きさせることに必ずしも成功しないだろう。

 今日の社会では、結婚生活も歴史上なかったほどのストレスにさらされている。寿命が飛躍的に延びたことで、結婚生活に必要なものも先祖たちには考えられなかったほど多くなってきている。その上、何よりも自己実現を大切にするようにと、文化が声たかにメッセージを送ってくる。

 人と人のつながり、人と仕事とのつながりが一時的で置き換えがきくものだという考え方が広まれば広まるほど、私たちは情熱的な恋愛にこそ、感情の発露を見出しそうとしたくなる。そして先祖と違い私たちは、恋愛を結婚の最大の理由とする。

 いくら年をとって自分たちが変わらないと、愛は途絶えることなく、いや、変質することさえないように期待しながら、結婚に対する期待がこれほど大きくなったのに対して、失望した人間か結婚を解消するのはたやすくなる一方である。これなら、結婚の半分は離婚を迎えても不思議ではない。

 結婚には苦労が付き物である。そして現代のような形の結婚以外にも、人間には様々な選択肢が数多くある。ピトケアン島の乱交、オニーダ人のフリーセックス、家父長制ヘブライ人の採った一夫多妻制、初期キリスト教徒の禁欲主義、ハーレムを築いた古代の専制君主たち、そして、半分気が狂ったように官邸式恋愛に走った中世の騎士たち。バラティは驚くほど豊かである。

 けれども、こうした無数の選択肢よりは、結婚という形には価値があるように思われるのである。一人前の男と一人前の女が愛を誓う。貧しきときも富めるときも、健やかなるときも病めるときも、死が二人を分かつまで。この形が人間の幸せに、平和に、安定にいちばんいいのではないだろうか? 人間関係を良くするのに、いちばん賢明な方法ではないだろうか?

 三十五億年も嘘をつき合い、騙し合い、傷つけ合い、操り合ってきて数々の傷を負った種としては、これは祝うべきことなのではないだろうか? 希望を持ってもいいのではないだろうか? 私には、そう思われてならない。 完
  つづく 66、訳者あとがき
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