サイモン・アンドレアエ/沢木あさみ=訳
陽気なシンメトリー
ラングロイスの平均に関する理論とジョンストンの部分に関する理論に加え、アルバカーキにあるニューメキシコ大学のランディ・ソーンヒルも、顔の美しさとその認識に関する画期的な理論や展開している。
リバプール大学のジョン・マニングが行った画期的な研究では、女性の場合軟組織が排卵期にふくらみ、顔がシンメトリーになるという。いちばん受胎しやすい時期に、いちばん美しくなるのである。
行動生態学者のソーンヒルは研究生活に入って最初の20年、ニホンシリアゲムシの性生活について研究していた。そして80年代中盤に、人間の性生活へと研究対象を変えた。自分の研究成果を、自分が属する種に適用できるのではないかと思ったのである。
ソーンヒルにとって特に興味深かったのは、シンメトリーとセクシーさの関係だった。シリアゲムシの仲間内では、シンメトリーな、すなわちきちんと左右対称な形をしている個体ほど、性の相手を惹きつけるのに有利なのだという。たとえ相手から姿が見えなくても、そういう個体特有のフェロモンを発して相手を惹きつけるようなものである。
人間が同じような判断を下すかどうか調べるため、ソーンヒルは学生を何百人も集め、七ヵ所について、シンメトリーであるかどうか計測した。両足、両方のくるぶし、両手、両手首、両肘、そして両耳の長さと幅である。
それからソーンヒルは口外しないと約束した上で学生たちに、初体験の年齢これまでセックスした相手の数などについて質問した。
同僚のギャングステッドと共にその結果分析してみると、明らかなパターンが浮かび上がってきた。もっともシンメトリーな男たちは、もっとも左右不均衡な男たちより、初体験の年齢が三・四年早かった。明らかにシンメトリーであることは、セックスの相手を見つける上で有利なようだった。男女問わず、シンメトリーな人々の方がそうでない人より、これまで多くの性の相手に恵まれてきたことが解ったのである。
そしてこれは、始まりに過ぎなかった。研究を続けていったソーンヒルとギャングステッドは、シンメトリーな男のほうが女性にオーガズムを与える回数が多いと言うことを発見したのである。(ここでベイカーとべリスの女性の不貞に関する理論を思い出して欲しい)。それだけでない。
シンメトリーな男のほうが、知性も高いという
シンメトリーな男のほうが、知性も高いという。それに、ミシガン大学から寄せられた情報によると、男も女もシンメトリーであるほど健康で、鼻血や不眠から、嫉妬や怒りにいたるまで、あらゆる種類の発作的な症状を見せることが少ないという。
私たちの先祖が生きていた世界では、身体の多くの部分が見えていただろうし、見える場所はすべてその人物の繁殖能力に関しての情報を伝えていただろう。そういう環境の中で、人類はシンメトリーな個体を好むように進化してきた。ソーシャルとギャングステッドの研究によると、シンメトリーな乳房を持つ女性は妊娠しやすいという。
シンメトリーな体型は安定した成長の証であり、シンメトリーな顔は遺伝子が良く混ざっていることと寄生に対抗力があることの証である。だがシンメトリーについては、まだまだ発見は続きそうである。
つづく
54、匂い
女性用であれば男性用であれ最も高価な香水の成分は、果物や花、あるいはスパイスから得られるのではなく、動物の下半身から得られるのである。ジャコウジカの腹から獲れる麝香、マッコウクジラの腸から獲れる竜涎、エチオピアの雄猫のアナルにある腺から獲れるシベット、ビーバーの下半身から獲れるカストリウム。いずれも多大な費用をかけて、時には非合法で、この絶滅しつつある動物たちから獲るのである。