サイモン・アンドレアエ/沢木あさみ=訳
90−60−90 妊娠率
どんな体型が魅力的か基準がはじき出すとき、こうした数字は一見、適当に作り上げたものと思えてしまう。ウエストとヒップの比率ほど様々で流行に影響を受けやすいのだから、一般論など無意味だと思われる。
大きなヒップのウィレンドルフのヴィーナスは、優美なミロのヴィーナスとは似ても似つかないし、ミロのヴィーナスは官能的なボッティチェリのヴィーナスと似ても似つかない。
それにこの三者のどれもが、ケイト・モスやジュディ・キッドのようなやせ細ったスーパーモデルとは似ても似つかない。
だがテキサス大学の心理学者デベンドラ・シンは、これに異を唱える。シンがウエストとヒップを自分のライフワークにしたのは、様々な社会や文化による好みの違いの奥底に何か共通するものがあるのではないかと思ったからである。人は外見で相手の魅力を判断する。ならば何がその基準になっているのだろう。
彼はまず、『プレイボーイ』誌の中綴じページのモデルたちと、1960年代から90年代後半までのミス・アメリカのスリーサイズを時代ごと調べてみた。すると、この女性たちはどんどん細くなってはいるけれど、ウエストとヒップの比率は変わらず、どの女性もヒップに対するウエストの割合が68パーセントから72パーセントであることが解った。シンはこれを“WHR”という単位で表し、WHR0.68から0.72と表現する。
だがこれは西洋社会だけの特殊な傾向だろうか?
それを調べるためにシンは、12人の女性の輪郭を書いた。そのうちの4人は細く、4人は中くらいで、4人は太っている。同じ体型のそれぞれに、WHRの高い(ヒップとの割合からいってウエストの太い)女性からWHRの低い女性まで、四種類用意しておいた。そして年齢も人種も文化背景も違う世界中の580人の人々に、どの輪郭が女性として魅力的かと思うか訊いてみた。
他を大きく引き離していちばん人気があったのは、中くらいの女性の中でWHRのいちばん低い(ヒップとの割合がいってウエストの細い)女性だった。次に人気があるのは中くらいの中でWHRが二番目に低い女性だったが、やがて痩せた女性や太った女性がランキングに入りはじめると、全体の太さに関係なくWHRが基準となっていることがわかってきた。
世界のどこの地域でも、太っていてもWHRの低い女性のほうが、中くらいでWHRの高い女性よりも魅力的だとみなされている。魅力的にだけでなく、若さと生命力を感じさせていると人々は答えた。
シンがこの絵をアメリカの外へ持っていくと、結果はさらに驚くべきものとなった。香港からインドまで、アフリカからアゾレス諸島まで、どれくらいの細さの女性が好きかは地域によって異なっていたが、好みのWHRに関してはどこでも同じ答えが出てきたのである。つねに、いちばんWHRの低い女性を指差し、部族の一人が言ったのだ。「これがいちばんきれいだ、6人か8人くらいは子どもを産めるだろう」そして、比較的ずん胴な女性を指して言った、「この女はあまり子を産まない」
さしてシンは言う、こうした女性の選び方は男性の中に植え付けられているのではないか。自分の子どもをたくさん産んでくれる伴侶を得られるように。これを裏付けように、オランダから興味深い報告が寄せられている。
人工授精を試みている女性たちの中でもWHRの低い女性たちの妊娠率が高いのだという。実際。WHRが10パーセント上がるたび、妊娠できる率は30パーセント下がるのだという。
つづく
52、完璧な平均値
心と快楽と身体のすれ違の「セックスレス」を、どうやって埋めていくのか。たかがセックス、されどセックス、といつも思う。そして、寿命が延び、いつまでも女、いつまでも男と願っても叶えられない現実は不倫、浮気しかないのか?