サイモン・アンドレアエ/沢木あさみ=訳
ジェンダーにとらわれて
子どものセクシュアルティに大人が与えすぎたり、逆に締め付けすぎたりすると、性的倒錯に走りやすくなる。同じことは、ジェンダーについても言える。男の子はどうあるべきで女子はどうあるべきか、型どおりの理想を押し付け、それを守らない子を罰したりすると、子どもはジェンダーに、夜に一人になった時だけ脱げるきつい靴のように感じるようになる。
自分で自分の首を絞めるのが好きなネルソン・クーパーはまた、服装倒錯者でもある。彼は姉のフラワー・ガールのドレスに身を包み、中に入ったら女の子になって出てこられる機械があればいいのにと母親に話したことを覚えている。母親はこれを嘲って笑い、彼の欲望は闇に隠れることになった。
彼はこれを小さな女性用のビキニパンティをはいてマスターベーションすることで紛らわせたのである。
性的倒錯者の90%が男性だというのは、興味深い事実である。
子宮の中でテストステロンを浴びることによって脳の構造が変わるため、女性の青写真の上に男性の性欲をかぶせるのが混乱のもとになっているのではないかという人々もいる。だが男性を倒錯へと走らせ抑圧や虐待は、女性にも同じ影響を与えているのである。
実際、女の子に女らしさを押し付けるのはもっと危険なのも知れない。多くの家庭ではいまだに、ジェンダーに関してステレオタイプの考え方を子どもに強制する。男の子は強く、冒険好きで、責任感が強くなければいけない。女の子は従順で、満ち足りたことを知り、受け身で親切でなければならない。
これに反すると怒られ、罰せられる。また伝統的に女の子に対する規制の方が多かったため、ステレオタイプは女の子の方にますます重くのしかかる。
女の子にあまり厳しくこれを強制すると、憤りを募らせ、親や社会やジェンダーに復習することで恨みを晴らそうとしかねない。
その結果男性の性的倒錯とはまるで違った女性ならではの異常が数々現れ、精神分析医たちは今、せっせとこれを分類している。
男性の性的倒錯者たちの欲望が自分の身体の外に、とくに性的快楽に向かうのに対し、女性の異常は自分の身体に、あるいはセックスと関係のない行動に現れる。それは、万引きや摂食障害、そして自傷行為などである。
性のモラルが揺れる社会の中で、性的実験と性的倒錯の間に境界線を引くのは難しい。だが性的倒錯者の場合、普通と違ったパートナーや異常な行為に向ける関心は一時的なものでなく、まさにとりつかれてしまうのである。そしてこうした本物の倒錯者は、人口の僅か1パーセントしかいない。
小児性愛者のやはり40パーセントの右脳に異形が認められた
それに彼らを生み出したのは親の過ちや辛い学校生活ではない。時には脳の奇形が原因となっていることもある。トロントのロン・ランゲビンが行った調査によると、サディスト的傾向のある倒錯者のうち40パーセント以上の人々の左脳に異常が見られたという。またオンタリオのクイーンズ大学のスティーブ・ハッカーは、小児性愛者のやはり40パーセントの右脳に異形が認められたと報告している。
ボルティモアの国立性的トラウマ研究所のフレッド・ベルリンによると、性的倒錯者には染色体異常、ホルモン異常、脳の奇形など多くの身体的な異常が認められるという。こういう異常があるからと言って、必ず性的倒錯者になるわけではないし、性的倒錯者のすべてが異常を抱えているわけでもない。だが、親からの虐待や仲間内での不幸な体験と同じように、身体的な異常は倒錯の大きな原因になっている。
つづく
49、結果(人間の趣味嗜好にいかに多様性があるか…)
どんな人間でも――自分では完全に主流に属していると思っていても――少なくともファンタジーの世界では、特異な嗜好をみにつけいく、ナンシー・フライデーの集めた書簡の数々を見ても分るし、大衆向けポルノ雑誌を見てもわかる。人間は常に、基本となる性欲にちょっとしたひねりを、ちょっとした飾りを加えたくなるのである。