サイモン・アンドレアエ/沢木あさみ＝訳

仲間グループから性的倒錯者へ

普通の健全な子どもたちは、セックス・プレイを許したほうがいい。だが、子どもたちがそれにとらわれたりしないよう、気をつけたほうがいい。子どもたちが自分の性と同じジェンダーを身につけていくように見守りながら、伝統的な男性観・女性観とはやや離れたことをしても、たじろがずに見守っていたほうがいい。

　親のこの仕事を、普通は子ども自身が助けてくれる。子どもは仲間から、そして両親から、どういう性なら社会的に受け入れられ、扱いやすく、自分の役にも立つのかを学んでいく。両親の指導なしに、いやどんな種類のガイダンスなしにこれを身に着けていく子どもも多い。

　だが、一つはセックス・プレイ、ジェンダー・プレイに親が協力してしまいすぎることで、もう一つは全面的に禁じてしまうことである。子どもにあまり早く性的体験をさせることは、とくに仲間ではなく、大人の手で体験をもたらすことは、心に傷を残すことが多い。
　児童理性的虐待が、そのいい例である。

だが思春期に達した。子どもに一切の性的知識を与えないのも、子どもにとって害になる。

レイプや獣姦、あるいは死姦など極端な行動に走る性倒錯者たちを調査してみると、その半数以上が性に関する話題を厳しく禁じられた家庭に育っている。

　自分で自分の首を絞めることでしか興奮できないネルヒン・クーパーは、１９９１年に出版した自伝『ブレスレス・オーガズム』の中で、自分の少年時代を追想している。セックスについて何も知らず、初めて夢精したとき、ミルクが出てきたのかと思ったという。
　
　また死体しか欲望を感じないカレン・グリーンリーも言う、自分は５歳か６歳のときに死体に魅せられていた。ジョン・Ｆ・ケネディの葬列をテレビで見た時どきりとしたが、両親とはよそよそしい関係だったのでその気持ちについて話せなかった。そうして彼女の倒錯には歯止めが利かなくなってしまったのである。

　セックスの実験をする勇気もなく。セックスについて両親と話もできないままに、ネルソンのような人々は異常な、そして不便な方向に進んでしまったのである。ジョン・マネーはいう。セクシュアルティの問題が汚いと見なされていると、拒否されたり嫌悪感をぶっけられたり罰せられるのを避けるため、性欲は倒錯的行為に向かうのだと。ある意味で倒錯は、現実的な対処なのである。

　『ザ・ホースマン』という回想記を書き、インターネットで自分と同類の、動物しか欲情しない人々のためのサイトを開いているマーク・マシューズは言う。彼はポニー相手に童貞を失ったが、いちばんよかったのは相手に笑われずにすんだことだったことだと。少年の頃両親は繰り返しマークに、セックスは悪ことだと説いた。ある時などは、いとことセックス・プレイをしているところを見つかって、母親に鞭でぶっ叩かれた。「私は悪魔だと、母は言いました」マークはこう書いている。

「なんて汚らわしいのと言いました。そして、女の子に触るのはいけないことなのだと、こままだと頭のおかしな大人になって病院に閉じ込められると言いました。そして二度と、女の子にそんなことをしてはいけないと」

　何年か経ち、１０代の初めになると、募る性欲と根深い女性への畏怖にとらわれて、彼は農場で一匹の牝馬のヴァギナに手を入れてみた。その後二、三年の間は、裸の女性のイメージをしながらマスターベーションをしたが、あの牝馬のヴァギナのことも常に頭に浮かんでいた。そして十六歳のとき、孤独で太り気味の自分に自信のなかったマークは、一緒にプロムに出かけようとある同級生を誘った。

　その同級生はその場でノーといい、あんたなんかギラギラしていて気持ちが悪いわ、お似合いなのは豚くらいじゃないの、とののしった。
「その瞬間」とマークは思い返す。「僕は諦めたいのです。この学校に、この町に、この国に、いえ世界中どこを探しても、僕と付き合ってくれる女の子なんかいないんだ、と」
　マークは近くの畑に行き、やけになってたまたま近くにいた牝馬を犯した。それが始まりだった。今はアメリカ中西部のトレイラー・パークで、“妻”だという牝馬のドッディと仲良く幸せに暮らしている。
　　つづく　48、ジェンダーにとらわれて　
　性的倒錯者の90％が男性だというのは、興味深い事実である