アトランタの行動医学センターのジーン・アベルは、ここ四半世紀も、性の暴力的な専門に研究している。“ノーマル”の領域を越え、法の適用を受けざるを得なかった人々の行動についても、たびたび説明を求められることがある。 トップ画像ピンクバラ煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。

神経のネットワーク

本表紙
サイモン・アンドレアエ/沢木あさみ=訳

神経のネットワーク

アトランタの行動医学センターのジーン・アベルは、ここ四半世紀も、性の暴力的な専門に研究している。“ノーマル”の領域を越え、法の適用を受けざるを得なかった人々の行動についても、たびたび説明を求められることがある。

 派手な身振り、白い縮れ毛、心ここにあらずの態度、一見彼は、ナッティ・プロフェッサーを親切にしたような人物に見える。だがこの彼こそ今日の性科学者の分野で、もっとも鋭い見識を持っている学者の一人である。

 じかに何百というケースに接するうちにアベルは、人間は幼いうちに性のパターンを身に着けるのだと信じるようになった。幼児は何をすれば快感を、不快感を感じるかを経験させ積み重ね、それを徐々に覚えていく、そしていったん覚えたことは、なかなか忘れ去ることはできない。

 これを分かりやすく伝えるために彼は、六時間ものビデオを持って彼のもとを訪れたことのある男性のことを引き合いに出す。どのビデオにも、女性の手以外のものは写っていなかった。どの手も薬指にも、結婚指輪があった。中には指輪を回したり撫でたりする映像もあった。

 この男性は自分の住む町でこの女性に近づき、こう話し掛けたという。もうすぐ結婚するんですが、彼女にどんな指輪を贈ればいいかいいのかわからなくて困っています。そのときあなたの着けていらっしゃる指輪が目に入って、同じものを探したいので、ビデオに撮らせていただけますか? 

 プライドをくすぐられた女たちは、喜んで彼に協力した。ところが彼は、撮影を済ませると家に飛んで帰り、ビデオ・プレイヤーにテープを投げ込むと、マスターベーションを始めるのだった。

 これは何年か後、彼が本当に結婚しようと決心したき発覚した。彼の妻は彼を深く愛していたが、結婚指輪を見つめながら、ときには触りながらでないとオーガズムに達しないという事実を受け入れることはできなかった。指輪を外したり隠したりすると、インポテンツになってしまう。

 なぜこの患者は、こんなに変わった興奮の仕方を身につけたのだろう? それを解明するためにアベルは、胎内の環境や親の育て方を超えたところに注目することにした。どのように異常な配合のホルモンを浴びたところで、これほど特殊な性行動を起こす結果を呼ぶとは考えられなかったからである。アベルは患者の幼少期の終わりに注目し、なぜこのような刺激を求めるようになったのか解明しようとした。

 それをたどるためにまず、脳の発達のプロセスについて説明しておこう。

うまれたときすでに人間の脳には、愛情や言語、ものの扱い方など、驚くほど高度なプログラミングがされている。

だがまだこの時点の脳には非常に柔軟性があり、ある意味で完成していない。新しい経験をすれば、それが脳の構造そのものを作る要因ともなる。細胞と細胞をつなぎ、生存の助けとなる新しい経路を作るのである。

 そして人間が世界の匂いや色や形を吸収し始めたとたん、細胞と細胞をつなぐ物質も変化し始める。頻繁に感じる感覚や頻繁に繰り返される経験に関しては、特別に経路が出来上がるのである。使われない経路は、やがて消えていく。

 この形成期、脳の細胞と経路は作り変えられていき、徐々にはっきりとした形を取っていくのである。私たちの経験と経験に対する反応がネットワークとなっていき、それははっきりと脳に刻み込まれ、消すことが出来なくなっていくのである。

 とくに生後18ヶ月までは、これが著しい。そのため、セクシュアリティもこの間に形成されていく。母親の乳房に寄り添い安心感が得られたら、あとになっても誰かと寄り添うことで安心感を得るのである。逆に母親に拒否されたり虐待されたりしたら、その経験は脳の中に根をおろす。

 だがこの脳の形成は、いざとなれば消えていくものがあって初めて成り立つのである。使われない経路は消え去り、使われる経路がはっきりとした形をとっていく。そのほうが、効率がいい。ところが八歳くらいまでは、まったく使われない経路もそのまま消えずに、新しいつながりも比較的容易に作られやすい。

 だがこの時期をすぎると、大事な経路は固まり、役に立たない、あるいは一回しか使われなかった経路は忘れられ、脳の発達はスピードを落としていく。新しい経路は形成されにくくなり、記憶も経験も、これまでほど蓄積されないし、その影響も長続きしないものになる。

 これは、新しい経験をできないということではないし、新しいつながりが作れないということでもない。新しい外国語や楽器の習得は、いくらからでも始められる。ただ年を取れば取るほど、自動的に記憶したりいざというときそれをさっと呼び起こすのは難しくなる。記憶を入れる場所は減り、つながりを作る速度も落ちているからである。

13歳から14歳になるころには、脳の“大掃除”はおわっている。

役に立つ経路はきちんと残され、余分な経路は捨て去られている。脳は、ほぼ完成した。それぞれの人間の個性が、ほぼ形成され終わったといっていい。そこになされていたプログラミングは生涯失われることなく、身につけた好みも経験も技術もこの先ずっと続く。

 この点に関し、ジョン・ホランドとジュラルド・エーデルマンが始めた研究を踏まえて、性科学者のたちはこう考えるようになってきている。子どもが幼いうちに与えられた刺激ほど、脳の構造に影響を与えやすい。

 だが大事なのは、刺激のタイミングだけではない。繰り返されることも、必要なのである。アベルの患者に結婚指輪に対するフェティシズムを植え付けたのも、この繰り返しがあったからなのである。

 アベルはこの患者の謎を解くため、幼少時代までさかのぼって調べてみた。そして、次のような事実を知った。子供の頃この患者の叔母が、彼の家に頻繁に訪ねて来ていた。彼はその叔母のことを、とても美しい人だと思っていた。ときどき叔母は彼を膝の上に座らせてくれた。そして彼を抱きながら、薬指の結婚指輪をくるくると回していた。彼はそれに、うっとりとしたのだという。

 ときどき叔母は指輪を外し、彼に触らせてくれることもあった。このちょっとした遊びを、かれは叔母と結びつけていた。そして叔母は、彼にとって愛情の対象だった。そのために彼は、結婚指輪に性的な興奮を覚えるようになったのである。
 美しい叔母と指輪。そのときから彼はこり“快感の輪”のとりこになり、それがパターン化して、脳の中に植え付けられていったのである。
 
 だがこの種のフェティシズムは、いつもいつも快感が原因となるとは限らない。人に害を与える行動につながることもあり得るのである。アベルを初めとする性科学者たちは言う。子どものとき感じた強い刺激は、感情の昂ぶりのパターンを作り出し、それは生涯残ると、子どものとき虐待を受けた人々が大人になって逆に虐待する側にまわることも、ここから説明することができる。

肉体的な、あるいは性的な虐待、精神的な辱めを受けると、当然心に傷を残す。

なのに、なぜ、虐待されながら育った人々が虐待をするようになったのだろう? こういう人々は虐待を行う時とき、被害者と加害者の両方にアイデンティティを感じている。加害者として、彼らは子どものとき受けた虐待に復讐している。

 そして被害者としては、馴染みのパターンを繰り返している。いくら痛ましい経験でも慣れたものには、懐かしさを感じるからである。

 子どもが受ける刺激の多くは、両親が発するものである。子どもを叱り、諭すのも、褒美を与えるのも、だいたい両親だからである。だが深く調べていくと、解ってくる。子どものセクシュアリティの発達に影響を与え、やがて個性的な嗜好に導くのは、両親だけではない。子どもの友だちが、とりわけ子供が友だちとどのような交流を持っていたかが、セクシュアリティの形成に大きな役割を果たすのである。

 欲望を感じる相手が男か女かは生まれつき決まっている。両親との交流の中で、人との絆の築き方を学んでいく。そして幼い頃に受けた刺激によって、性的嗜好に個性が芽生える。これを人間は、五歳までにすべて終えるのである。

 そしてこの年頃になると、子どもたちは実験を始める。その実験には、普通二種類ある。セックス・プレイとジェンダー・プレイである。
  つづく 46、四,五歳児のセックス・プレイとジェンダー・プレイ 
 誰にも見られないと思うと、四歳から五歳の子供たちは誰かと抱き合い、リズミカルな、まるでセックスのような運動を始める。もちろんオーガズムは(普通は)感じていないが、大人がセックスをするような動作を通じて、快感を得ているらしい。