サイモン・アンドレアエ/沢木あさみ=訳
貞節な妻
花嫁は処女でなければならないという思い込みは強く、異常なものだった。だが祭壇で儀式を行ったあとも、女性の苦難は続く、花嫁の純潔を確実にするための手段が色々あったように、人妻の貞操を守るためにも実に様々な手段が講じられてきたのである。
女性は他の男の種を宿さず嫁いでくれそれでいいというわけではなかった。夫を裏切った夫の財産に打撃を与えることのなどないよう、ありとあらゆる手を打たれてきた。
結婚の契約は、もとから不平等なものだった。その差が更に、広がるのである。男性は浮気をしてもいい。だが女性はいけない。絶対にいけない。
まず男性は野蛮にも、妻の身を物理的に拘束することができた。家から出ることを禁じるのである。自分の身うちでも夫の身内でもない男性との接触は、全面的に禁じられた。
そしてこの種の隔離は、イスラム世界で極端な形をとる。ナイジェリア北部には泥の中庭が、ムガル人のインドには豪奢に飾り立てたハーレムができたのである。アフリカの東海岸には、スワヒリ語のことわざがある。徳のある女性は、生涯二度しか外に出ないと言うのである。一度目は結婚式であり、二度目は自分の葬式だという。
こうした女性の拘束は、ずっと昔から行われてきた。民主主義のゆりかごであったはずのアテネの女性たちでさえ、今日のイランの女性よりも自由がなかった。女性たちはとにかく、出かけなかったのである。市場に買い物に行くことさえなかった。
家の外に出るのは宗教的儀式があるときだけ。詩人リュシアスは自分の妹や姪が、女性の鑑だと歌っている。とても慎ましやかで、男性の親戚の前でさえ恥ずかしげな様子を見せると言うのである。
たとえ外に出かけても女性は、隔離されているのも同然だった。重いカーテンに隠された輿に乗り、外からも見えず、しかも従者ついていては、移動型のハーレムも同然だったろう。あるいは、全身を布で隠すこともあった。こうやってヴェールをかぶり、体の線を――ときには顔までも――すっぽりと隠している。
私は夫がいる女で他の男は手を出してはいけないのだと宣言しているも同然だった
イスラム世界では、男も女も同じように服装も振る舞いも控えめにしていたが、女性は、親しみを込めた動作や目での会話を一切禁止にされていた。
それはアラーが守るものを守るためである。
中国では11世紀の頃から、
さらに極端な手段で女性を拘束する。走って逃げるどころか歩くことすらできなくなるように、女性の足を縛るのである。まだ幼く骨の柔らかいうちに、専門家が足を拳のように固め、だんだんきつく縛っていく、つま先を、かかとに着きそうなほど強く足の裏に向かって折り曲げる。
足は極端に小さくなったが、上流階級の女性の理想は約十pとされていた。
この纏足(てんそく)と呼ばれる習慣は痛みを伴い、歩けなくなり、足は永遠に変形したままになる。だが中国の女性が美しくあるためには、纏足が欠かせなかった。いわば、国中でフェティシズムに溺れていたのだ。
詩人たちは纏足についてとうとうと歌い、息子を持つ母たちは“大きな足をした(つまり普通の足)”嫁などまっぴらごめんだと言っていた。
結婚した女性を拘束することは、世界中どこでも行なわれていた。中世ヨーロッパの女性たちは、中国や中東の女性たちより自由だったが、それもその行動は厳しく監視されていた。
家の外に出かけるときは男性の護衛か年上の女性が付き添い、近づいてくる男性を退け、何か不始末があれば、あとで主人に報告するのだった。夫がしばらく妻の元を離れなければなくなると、あらゆるものの侵入を阻むため、重い鉄の貞操帯をつけさせたという歴史家もいる。
もちろん誰にも、こうしたことが強制されているわけではない。ほとんどの社会で、貧乏な女たちは極端な隔離から免れていた。理由はただ一つ、そんな余裕はなかったからである。外に出て働かなければならないのだから、体をすっぽり覆う布を身に着けたり、神輿に乗ったり、高い塀の中で閉じこもって暮らすわけにはいかない。
こうして女性の隔離は、地位を示すシンボルにもなっていった。豊かな家であればあるほど、女性を隔離していることを吹聴するようになったのである。
インドでは上流階級のほうが、女性の住む部屋の窓は小さくしていた。中東では上流階級の女性の方が、家の外に出ることが少なかった。そして中国でも、女性の足を縛る余裕があるのは上流のいえだけだったのである。
嫉妬深い夫たち
これで嫉妬深い夫たちも少しは安心しただろうが、もちろんこのやり方には欠点があった。どのような手を打っても、人間の知性というものは抜け道を見つけ出すのである。ならば長い目で見るなら、女性たちに(そして相手になる男性たち)道を誤らせないための心理的な拘束を与えた方がよさそうだった。
そのために家族が、宗教が、ある法律を使ったレトリックには、二種類ある。その一つ目はボジティブな言い方で、結婚するまで処女を守り、結婚した後は貞操を守る女性の一家は繁栄し、女性自身の名声も高まり、幸せな人生を送れるというものである。
だがこれ以上に、ネガティブな言い方のほうが効果はある。姦通を犯した女と、誘った男にはむごい罰が下るという言い方である。
つづく
26、 罪は死につながる
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