部族の習慣は、ヘレナにとって驚きの連続だった。殴り合いの儀式をし、シャマンのようなダンスをし、陶酔状態を引き起こすドラッグを使う。ヘレナが思春期を迎えると、彼女も儀式を経験することになった。トップ画像
赤バラ煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。

世間・神様・道徳 セックスと社会

本表紙
サイモン・アンドレアエ/沢木あさみ=訳

世間・神様・道徳 セックスと社会

ヒトはなぜ結婚するのか
 ヘレナ・バレロが連れられてきたのは、1937年のことだった。グランデ川とオリノコ川上流のあいだに広がるブラジルのジャングルに開拓者として乗り込んできたスペイン人家族の娘、ヘレナは、賢く元気な子どもだった。
 その日の事件は、ヘレナにとってまったく予期せぬことだった。

 ヘレナの家族はカヌーで、ある廃屋を目指して川を進んでいた。これからその廃屋を住まいとし、定住するつもりだったのである。ふと、すぐ傍から煙が立ち昇るのが目に入った。
 一行は岸辺に向かい、様子を見ようと父が上陸した。だが二分後、父は大慌てで帰ってきた。パニックを起こしている。矢が一本、父の腕に刺さっている。「インディオだ! 荷物を捨てろ! 逃げよう!」
 
 家族はカヌーに飛び乗り大急ぎで川を下り始めたが、インディオたちは追いかけてきた。そして、雨のように矢を浴びせかけてくる。その一本がヘレナの腹をかすめ、太ももに刺さった。どうやら逃げおおせたとバレロ一家が思った途端、目の前の岩を組み合わせた砦が現れた。そこには矢と槍を構えた兵士がずらりと並んでいる。

 絶望に駆られた一家は船を捨て、早瀬に飛び込んだり。隠れる所を求めて岸辺に向かったが、ヘレナの小さな二人の弟はうまく進めず、太ももに矢を受けたヘレナも歩くことはできなかった。

 ヘレナの両親は弟達を抱き上げると、森の中へ走って逃げた。きっと助けに来るからとヘレナに向かって叫びながら。

 気を失ったヘレナが気づいたときはすでに夜で、彼女はその原住民の村の中ほどにある焚火のそばに寝かされていた。これが、ヘレナの冒険の旅である。

 この後ヘレナは、世界で最後に残された“未開民族”の暮らしがどういうものか内側から知ることになる。

ヤノマモ族というその部族は

50人ほどの集団に分かれて、ジャングルの奥深くに、砦のような村々を囲んで住んでいた。蜘蛛やヒキガエルや蛇を食べ、儀式では死んだ親戚の骨を口にすることもあった。
 
 女たちは鼻に骨を飾り、男たちはペニスを竿のようなもので隠していた。男も女も、ウルクと呼ばれる赤いペース状のもので身体を飾り立てていた。

 この部族の習慣は、ヘレナにとって驚きの連続だった。殴り合いの儀式をし、シャマンのようなダンスをし、陶酔状態を引き起こすドラッグを使う。ヘレナが思春期を迎えると、彼女も儀式を経験することになった。

突然二人の女性が彼女を捕まえ、竹の籠に閉じ込めると、その後何週間も、ほんのわずかの食物と飲み物しか与えてくれなかったのだ。この期間を過ぎると、女たちはヘレナを洗い、飾り付け、村中に彼女が大人になったことを見せて歩くのだった。

ヤノマモ族の言葉で言えば、今や彼女も“ちゃんとした”女になったのだ。男たちが、ヘレナに興味を示し始めた。彼女の名は村の外にも広まり、やがて未来の夫が兵士の群れを率いてやってきた。

ヤノマモ族の結婚には、西洋流の誘惑や口説きはまったく見られない。結婚はしばしば略奪の産物である。兵士たちが近隣の村を襲い、男たちを殺したりうちのめしたりし、子どもは脳みそをかきだし、泣き叫ぶ女たちをさらっていのである。

ヘレナを連れに来た男はこれほど荒っぽくなかったが、優しいわけではなかった。ヘレナは次のようにその経験を語っている。

私はハンモックで寝ていました。すると、身体中に何か塗った男がたくさんやって来ました。先頭の男が矢を手に傍にきて、私をじっと見つめました。私は顔を背け、屋根を観ました。屋根の葉の隙間から、逃げ出したいと思いました。

男たちのイチバン前にいた男が矢を捨て、私の腕をつかみました。私はまだ、男から顔を背けて屋根を見ていました。するとその男が言いました。「この女を連れて行くために来た」

ヘレナの村の女性たちは。まだヘレナを失いたくなかった。彼女の身体を巡って、争いが始まった。兵士たちは彼女連れ去ろうと足を引っ張り、女たちは首にしがみついた。ヘレナがついに気を失うと、死んだと思った男たちは諦めて帰った。

こうやってヘレナは難を逃れたが、やがて村の長老、フジウエと結婚する。

ブジウエにはすでに、4人の妻がいた。

やがてヘレナは知る。妻同士の間にはつねに緊張が漂っていることを。一度などは新入りの妻が森で夫と過ごしあと帰って来ると、棒を持って待ち構えていた年上の妻に殴られた。

こういった争いはしばしば起こり、流血沙汰になることがよくあった。夫はそばで傍観していることがあれば、喧嘩に加わり片方の、あるいは両方の妻を殴ることもあった。

ブジウエとの生活は厳しいものだった。妻たちが嫉妬深いだけではなく、フジウエ自身も乱暴な男で、妻の誰かが自分の兄弟の焚火の側に座るだけで怒った。またしょっちゅう、妻たちの頭を殴った。ヘレナは彼との間に二人の男児をもうけたが、やがて夫は襲撃に逢い死んだ。

その後ヘレナは残酷で意地の悪いアカウエという男に割り当てられたが、アカウエはしょっちゅうヘレナを殺すと口走った。やって来たときは少女だったヘレナも今はいい歳になり、もう魅力はない、おまえがいるせいでもっと若い女と楽しめないと罵るのである。

ヘレナは夫の侮辱にも暴力にも耐えたが、やがてほどなく、彼女のジャングル生活は終わりを告げる。いよいよ命が危ないと思ったとき、偶然通りかかったベネズエラの交易船に、ヘレナは何とか乗り込んだのである。

4日後、彼女はリオに着いた。新聞記者たちはヘレナがどんな目に遭ったか聞きつけ、この白人の女性が野蛮人のあいだで暮らしを、今日のタブロイド紙とよく似た調子で書きたてた。
なぜ、そんなに興味をかき立てられたのだろう?

ヘレナが潜り抜けてきた体験はたしかにめったにないものだった。それは危機的な目に遭ったほかの女性たちの体験談より、複雑で力強く、多くを語るエピソードだった。

なぜならヘレナは未開民族と生活を共にして、外から観察しただけではないからである。未開民族と同じょうに暮らし、儀式に参加し、伝統にのっとって結婚式までしたからである。

だが、彼女の体験の意味は本当はどこにあったのだろう? いわゆる文明社会とあまりにかけ離れた“未開の”民族の中で体験した、悪夢のような旅行記にすぎないのだろうか?
ジャングルという厳しい環境の中で暮らすヤノマモの人々は、本来の人間の姿から逸脱してしまっているのだろうか?

それともヘレナの物語がこれほど衝撃を与えるのは、どこかで効いたことのあるような話だからだろうか? 

ヘレナが体験したことは、全世界で行われている結婚の原理が、いささか極端な形で表れていただけだということはありえないだろうか?
つづく 18、違う? 同じ? 人類の性行動は
 太平洋には、ロマンティックな恋愛の苦しみも喜びも知らない民族がいる。北アフリカの大草原には、嫉妬を禁じられている人々がいる。西アフリカのある部族では女性の方が豊かで数も少ないため、男性に性の奉仕を求め、男はそれに従う・・・・。