脳の教科書・加藤俊徳著
視覚系脳番地トレーニング
視覚系脳番地は後頭部にあり、両目のすぐ後方から伸びる視神経によって繋がれています。ベッドで仰向けに寝たとき、枕と接する部分に位置するのが視覚系脳番地だと考えるとわかりやすいでしょう。
左脳の視覚系脳番地は言語系の番地で、おもに文字を読むのに役立ちます。
一方、右脳側は画像や映像を見るときに使われる非言語系の脳番地です。マンガを読むとき、吹き出しのセリフを読んで理解する人がいる一方で、絵を見ただけで内容を理解できる人もいます。
前者は左脳側の脳番地が発達した「言語系人間」、後者は右脳側の脳番地が発達した「視覚系人間」と分類でき、その比率は7対3。ちなみに学校の成績が優秀な人は、そのほとんどが言語系人間です。
MRIで視覚系脳番地の枝ぶり見ていくと、職業によって左脳・右脳の発達の度合いが大きく分かれます。一般的な職業のほとんどは左脳側、つまり言語系の脳番地が発達していますが、自動車の開発に携わる技術者は右脳の視覚系脳番地が著しく発達しています。彼らは自動車という物体を見ながら設計を行っているだけに、おのずと非言語系の脳番地が伸びていったのでしょう。
また、レーサーや画家、デザイナーも視覚系脳番地が発達しており、画像や映像を見ただけで理解する能力が高いと考えられます。また、視覚系脳番地は、何かを「見る」番地、「動きをとらえる」番地と、目で見たものを「目利き」する番地の3つにわけられます。
ここで言う「目利き」とは、ものの違いを見分けるだけでなく、その良し悪しの区別までを判断すること、違いが判ること、良し悪しが判ることは似て非なることです。ですから、見えたり、動きをとらえることはできても、目利きができるようになるまでには時間がかかるのです。
●オセロの対戦中に白と黒を交代する
私は子供たちとオセロをするとき、途中で白と黒を交代するようにしています。実はこれも、視覚系脳番地のトレーニング。
目的は、相手の立場に立って状況を読むことにあります。
では、対局の途中で白と黒を交代するとどうなるでしょうか?
直前まで果敢に攻めていても、立場が変わった途端、攻めて(つまり交代の前の自分)がいなくなってしまうのです。こうした状況に陥ると、脳は自分の置かれている状況を把握しようとして、打てる手を必死に探そうとします。
このように、「攻め」と「守り」を変えるだけで、目で見た状況を分析し、適切な判断を下す能力を養うことができるのです。
ここで、「このトレーニングは思考系脳番地のトレーニングじゃないの?」と思った人がいるかもしれません。
もちろん、思考系脳番地も刺激は受けますが、やはり鍛えられるのは視覚系の脳番地。目で見た情報をいかに処理するかを考えることが、「視覚系の思考」を鍛えることにつながるのです。
単純に「見える」と言っても、その中には、現実に目で見えているものだけではなく、「脳の中で見えている」ものもあります。
人間はサルから進化するにあたって、「実際に見えていないが、頭の中では見えている」という、視覚処理に関する脳番地が著しく発達しました。たとえばサルは、テーブルにバナナが3本並んでいるのを見て、初め「バナナが3本並んでいる」と理解しますが、バナナが何らかの理由でそこからなくなってしまうと、そこにバナナが「存在していた」ことをすぐに忘れてしまいます。
しかし、人間はサルより長く『経緯』を記憶することができるので、「今まであったバナナがなくなった」と理解できるのです。「もともと3本あったはずなのに…・」と考えているとき、頭の中ではテーブルにあった3本のバナナが「見えて」いるわけです。
視覚系脳番地を鍛えるには、単に目の前のものを「見る」だけでなく、見たものを「分析する」ことが大事だということです。
フアッション雑誌を切り抜いて自分の服装をコーディネートしてみる
多くの人は、フアッション雑誌を見るときに、「こういう格好をしてみたいな」と思うだけで終わってしまうのではないでしょうか。実は、このフアッション雑誌の見方を少し変えると、視覚系脳番地を刺激することができるのです。
雑誌の中から、実際に自分が試してみたい服装の写真を切り抜き、コレクションしてみるのです。
この「切り抜き」という行為には、どんな意味があるのでしょうか。それは、切り抜いた方が、より明確なイメージを脳に植え付けられるからです。
そもそもフアッション雑誌自体、「こうなりたい」という理想像を読者に提供するメディアです。しかし、なんとなく写真を見ているだけでは、結局は受動的に「いいな」と思うだけで終わってしまいます。
一方、フアッションをコーディネートすることを前提に写真を切り抜いていくと、その切り抜きが自分の理想像を創るうえでの「コンテンツ」になっていきます。
言うなれば、写真を切り抜くのが「取材」であり、写真を集めて理想像をまとめ上げていくのが「編集」ということになるかもしれません。このように、必要な素材を集め、それらを組み合わせていくことで、単純に目にしただけの情報がリアルに脳に入ってくるのです。
これは、言い換えれば、フアッション雑誌を「主体的」に見るということ。
雑誌を眺めながら「いいな」「かっこいいな」と思うのは、雑誌を作っている側の意図通りに「思わされている」にすぎません。しかし、その雑誌の写真を切り抜き、自分流にまとめ上げれば、それは視覚系脳番地を主体的に使いこなしていることになるのです。
応用編としては、「彼女(彼氏)だったらこういう組み合わせが似合うんじゃないか」というように、第三者に合わせる視点で切り抜いても面白いでしょう。それを相手に見せて批評してもらえば、自分のセンスを見直すこともできます。
また、写真の衣装を見て、「私はロングスカートが似合うのか、それともミニスカートが似合うのか」「この場合、帽子が必要か不要か」など、写真に写っていないアィテムも含めて考えると、頭の中のイメージを広げる訓練になるでしょう。
●鏡を見ながら、毎日10種類以上の表情を作ってみる
突然ですが、あなたは笑っているときや怒っているとき、悲しいときに自分がどんな表情をつくっているか、頭の中でイメージできますか?
ここでは、鏡を見ながら顔の表情を変化させるトレーニングをしてみましょう。
自分の顔を鏡でまじまじ見るのは気恥ずかしいものですが、このトレーニングによって自分の表情を視覚系脳番地にインプットさせることができます。
鏡の前で自分のさまざまな表情を観察することで、実際に笑っているときや怒っているときに、自分がどんな顔をしているか、思い浮かべることができるでしょう。
これは、いわば「頭の中」で自分の顔を見ている状態だと言えます。すでに述べたように、視覚系脳番地を反応する「見る」には2つの種類あります。
ひとつは実際に目で見えているものや、その物体の動きを「見る」場合、もうひとつが、現実に見えていないものを記憶や想像を頼りに頭の中で「見る」場合です。
このトレーニングに関連するのは後者で、自分の顔を視覚系脳番地に日々更新していくことで、イメージを豊かにしようとう狙いがあるのです。
自分の顔よく見ていない人は、表情をうまく想像できないため、思い切り笑いたくてもうまく笑顔をつくることはできません。
結果として表情が乏しくなり、「あの人は愛想が悪い」「いつも無表情で何を考えているかわからない」などと誤解されることになってしまうのです。
そうならないためにも、毎日鏡で自分の顔を見て、10種類以上の喜怒哀楽の表情をつくるトレーニングをしてみましょう。
たとえば「笑う」表情だけでも、「ガハハと笑う」「苦笑いする」「泣き笑いを浮かべる」というようにさまざまなバリエーションがあります。また、「怒る」にしても、「激怒する」場合もあれば、「ダンマリを決め込む」という場合もあります。
普段、あまり感情を表に出さない人にとっては、10種類以上の表情をつくるのは難しいかもしれませんが、それでも、粘り強く続けてみてください、毎日続けていくうちに、表情のバリエーションは自然と増えていくでしょう。
つづく
記憶系脳番地トレーニング