脳の教科書

運動系脳番地トレーニング

運動系脳番地のトレーニングは、他の脳番地にさまざまな影響を与えます。スポーツでは、対戦相手やボールの動きを目で見なければならないので、視覚系脳番地が働かす必要があります。また、監督の指示を聞き、それをプレーに生かすには聴覚系脳番地が働きま

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脳の教科書・加藤俊徳著

運動系脳番地トレーニング

運動系脳番地の最大の特徴は、あらゆる脳番地の中で、最も早く成長を始めることでしょう。
 人の成長過程では、まず運動系脳番地の枝ぶりが発達し、続いて前頭葉付近の思考系・感情系脳番地、次に脳の後方にある視覚系・記憶系の脳番地が伸びてきます。

また、運動系脳番地のトレーニングは、他の脳番地にさまざまな影響を与えます。
 スポーツでは、対戦相手やボールの動きを目で見なければならないので、視覚系脳番地が働かす必要があります。また、監督の指示を聞き、それをプレーに生かすには聴覚系脳番地が働きます。

スポーツに限らず、ピアノを弾くときにも運動系脳番地が使われますが、このきにも、楽譜を見て鍵盤にふれ、出される音を耳で確かめながら演奏するので、複数の脳番地が使われます。
 このように、運動系脳番地のトレーニングは他の脳番地との連携性を高めるうえでも非常に価値があります。あらゆる脳番地を総合的に伸ばしたいなら、まずは運動系脳番地のトレーニングから始めるといいでしょう。

 運動系脳番地が発達しやすい職業としてスポーツ選手や芸術家などが挙げられます。他にも農業や漁業に従事する人も運動系脳番地が発達していますし、意外なところでは裁縫が得意な人も、手先を器用に動かすには、運動系脳番地の働きが不可欠です。

 ちなみに運動系脳番地のすぐ後ろには、人間の感受性や皮膚感覚を担う脳番地があります。これは感情系脳番地とリンクしていますが、「今日は暖かくて気持ちがいいから外を散歩してみようかな」と思うのは、皮膚感覚と感情が連動しているからです。皮膚感覚を担う脳番地も、運動系脳番地と同様、幼少期から発達しており、他の脳番地の発達につながる基礎となっているのです。

●利き手と反対の手で歯みがきをする

生まれたばかりの赤ちゃんが体をバタつかせて大泣きできるのは、母親の胎内にいるときから、すでに体を動かす運動系脳番地の成長が始まっているからです。

 しかし赤ちゃんは、同じ体を動かすにしても、ものを食べたりしゃべったりすることはできません。これは歯が生えていないからや言葉を知らないからだけではなく、運動系脳番地の中の「口」や「舌」を動かす番地が未熟だからです。

 このことから、運動系脳番地では、手、足、口、舌など体の各部分の動きをつかさどる番地が分かれていることがわかるでしょう。手の器用さ、足腰の強さなどは、個別に鍛えていけば強化することができますが、その一方で、どうしても忘れがちなのが口と舌の動き。

 そこで、運動系脳番地のトレーニングとして「歯みがき」を取り入れてみたいと思います。脳番地の視点から見ると、「歯みがき」は、手と口の番地を同時に使う、非常に効果的な「運動」なのです。ただし、どうせなら普通にみがくのではない、多少アレンジを加えたいところです。

 まずは利き手とは別の手でみがいてみてください。あなたが右利きなら左手、左利きなら右手を使うことで脳に新鮮な刺激が伝わります。
 また、ブラッシングをするときには、歯ブラシをいつもと逆方に動かしてみたり、手元をグラインド(回転)させたりするといいでしょう。

 口の運動としては、「早口言葉」をおすすめです。
 私は最近、楽曲付の「脳番地体操・HAPPY」というものを監修しましたが、この中のでも「あいうえお」から始まる五十音や「なまむぎ・なまごめ・なまたまご」などの言葉を口の運動として取り入れました。

 口の運動が終わったら、次は舌です。子どもが「あっかんべ―」をするように、舌を口の外へおもいきり出してみてください。舌を伸ばしきると喉の奥が緩むような感じになることがわかるでしょう。この感覚が、舌を十分に使っている証拠なのです。
 利き手以外での歯みがきや舌の出し入れは、普段使わない筋肉を使ったり、首から肩にかけての凝りをほぐしたりとさまざまな効用がありますから、毎日続けることをおすすめします。

●運動系脳番地のトレーニングにおいて大事なことは、

楽しみながら体を動かすということです。しかし、読者の中には体を動かすことが苦手で、「運動」(スポーツ)と聞くだけで尻込みしてしまうような人もいるでしょう。そういう人が運動系脳番地を鍛えようとすると、どうしても「やらなくちゃ」」という焦りを感じてしまうようです。

 しかし義務感にかられてトレーニングをしても、脳に良い刺激を与えることはできません。そこで運動苦手な人に、楽しみながら脳番地を鍛える方法をご紹介しましょう。
 それは「カラオケ」です。
 といっても、単に歌を歌うわけではありません。
 自分が歌うときに「振り」をつけながら歌ってみるのです。
 かつて外来診療をしていたとき、私は患者さんたちの中に驚くほど肌が若い人たちがいることに気づきました。

 よく調べてみると、その人たちは、共通してダンスや日本舞踊など楽曲に合わせて体を動かすことを続けて鍛えてきた人たちであることがわかったのです。
「振り」をつけるのが恥ずかしいという人は、他の人が歌っているときに、曲に合わせてジェスチャーをするのもいいでしょう。

スポーツなどと違って体を激しく動かすわけではありませんが、これも立派な「運動」なのです。
 また、このトレーニングは、音楽を注意して聞くことでおのずと脳番地の反応が聴覚系脳番地にシフトするという効果もあります。 ちなみに、アイドルなどの曲を聴きながら振り真似をするのと、自分が考えた振り付けで自然に体を動かすのとは、脳番地の使われ方それぞれ異なります。

 振り真似をする場合には、もともとオリジナルの「型」があり、それを忠実にまねるという要素が入ります。一方、体を自然に動かす場合は、自分の動きを創り出すという点で、ある種の「独創性」が入ります。前者が「受動的な振り」なら、後者は「能動的な振り」だというわけです。
 意味合いが違うとはいえ、運動系脳番地を鍛えるうえではいずれも効果的ですから、トレーニングとして積極的に取り入れてみてください。

●頭が働かなくなったらひたすら歩く

どんなに考えても名案が浮かばず、行き詰ってしまうことはよくあります。
 これは、特定の脳番地に連携して負荷がかかっている状態であり、あまり良い状態とは言えません。この状況を変えるには、使っている脳番地を移動させる、「脳番地シフト」が必要でしょう。

 ところで、人と口論している最中に感情を抑えられなくなり、急に相手につかみかかる人がいます。実はこの場合も「脳番地シフト」が行われています。

 思考脳番地の働きが弱まり、感情系脳番地の勢いを借りて、運動系脳番地にシフトして相手に手を出してしまう――。怒りを向けられた相手としては迷惑な話ですが、本人にとっては見事に脳番地シフトを果たしているわけです。

 とはいえ、考えが行き詰まったときの対処法として「キレる」ことを推奨するわけにはいきません。他人に迷惑をかけない範囲でで「脳番地」をシフトさせるためには、まずは作業をいったん中断して、その場を離れてみましょう。

 ただし、作業をしている場所から一時的に離れるだけでは不十分。「なぜ、さっきは行き詰まってたんだろう」などと考え始めてしまったら、体は離れても「脳」は机の上から離れていないことになるからです。

 思考が行き詰まったときには、とにかく体を動かして脳の活動を無条件に運動系脳番地へシフトさせなければいけません。運動系脳番地から他の脳番地にシフトすることは簡単ではありませんが、その逆は比較的楽にできるのです。

 最近はあまり見かけませんが、昔のドラマでは、会社の休憩時間に屋上で社員同士がバドミントンやバレーボールに興じるシーンをよく見かけました。よくよく考えると、あれは非常に理にかなっていたわけです。

 手軽にできる運動として、おすすめしたいのが「歩く」こと。
「歩く」ことは体を動かすときの基本動作ですから、脳を活性化させるには、最も手軽で確実な方法です。

 思考が硬直化してきたなと思ったら、何も考えずに10〜15分ほどひたすら歩いてみてください。たとえわずかな時間でも、作業で酷使した脳番地の活動を意識的に休ませることができるはずです。

●脳番地の位置と大きさは?

「足」を動かす脳番地と、「手」を動かす脳番地は、いずれも運動系脳番地にありますが、近いようで離れた場所に位置しています。
「足」を動かす脳番地は、ちょうど頭のつむじの真下あたり。「手」を動かす脳番地があるのは、このつむじから左右3センチほど離れたところです。

 たった「3センチ」と思うかもしれませんが、顔の幅(右耳から左耳までの距離)の平均地は12センチほどですから、脳にとっては、たかが3センチ、されど3センチなのです。
 手を動かす脳番地は、生まれたばかりの赤ちゃんの場合、小豆1個くらいの大きさです。それが、つかいこむことによって、大豆ほどの大きさに成長し、さらに1円玉大にまで成長します。

 ただし、あまり手を動かさない人には、ここまで成長することはありません。
 さて、あなたの手を動かす脳番地は、どれくらいの大きさになっているでしょうか?
 「差し込み文書」
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 つづく 聴覚系脳番地トレーニング