脳の教科書・加藤俊徳著=
感情系トレーニング
職場でいつも顔を合わせている人を見て、「今日はいつもと違う」と感じることはありませんか。
「髪型が変わった」「ネクタイが派手だ」と明らかに原因が判るときもあれば、「何かが違う…・」というような、漠然とした「?」が生まれるときもあります。
後者のように、人の表情や雰囲気から違和感を「察知」するのは、感情系脳番地の働きです。
そこで、この「察知力」を高めるトレーニングをしましょう。
人と会ったときに、相手の体調や心理状態を一瞬で感じ取り、気づいたことを伝えるようにするのです。
「今日はなんだかお疲れですね」
「機嫌はいいみたいですけど、何かあった?」
「風邪ひいたんじゃない?」
「つまらなそうな顔しているね」
こんな感じです。
服装、表情、声の調子、皮膚の状態、テンションなど、言葉を使わなくてもキャッチできる情報はたくさんあります。
こうしたさまざまな情報に注目しながら、受け印象を相手に伝えるのです。
ポイントは、あくまでも“一瞬”で判断することです。
じっくり観察すれば何か変化を見つけることはできるでしょうが、時間をかければいいというものではありません。
相手の状態をわずかな時間で感じ取ることが、「察知力」の向上につながるのです。
病気やケガ、虫歯などがひどくなると、多くの血液が脳の「超前頭野」に流れることは前章で述べました。
超前頭野には、このように体に不調があるときだけでなく、怒ったり興奮したりしたときにも大領の血液が流れ込みます。これが、いわゆる「頭に血が上る」状態です。
あなたのまわりにも、頭に血が上りやすく、ちょっとしたことですぐに怒ってしまうような人がいるのではないでしょうか。
こういう人の怒る理由を探ってみると、「疲れている」「肩が痛いのを我慢している」など、体調不良が隠れた要因になっていることが多いようです。
体調が悪いことで思考力が低下し、それがもとで感情がブレやすくなるため、怒りや不満の感情が出やすくなるというわけです。このことからも、感情系脳番地と思考系脳番地が、密接に関係していることがわかるでしょう。
もっとも、原因は何であれ、些細(ささい)なことですぐに怒ってしまうようでは、人格が疑われてしまいますし、日常生活を送るうえでも支障をきたします。
こうしたことを避けるべく、朝出かける前に、「何があっても怒らない。キレたらその場を離れる、ひとにはやさしく、やさしく…・」と自分に言い聞かせましょう。
これだけのことで、超前頭野にひとつの「目的」を与えることになり、思考や感情の些細な変化に惑わされることなく、穏やかな状態で過ごすことができるのです。
ちなみに、脳では知識を得る場所と感情をコントロールする場所が異なります。
つまり、「頭がいい人」が「心が豊かな人」であるとは限らないのです。知識人と呼ばれる人たちが感情豊かかといえば、それはまた別の話でしょう。
実際、頭がよくてもドライな性格の人はたくさんいますし、その逆もまた然り、です。
知識を得ることと感情を豊かにすることは、それぞれ別々に訓練しなければならないのです。
嫉妬とあこがれは脳にどう影響する?
私たちは、他人の能力や成功をついつい妬(ねた)んでしまうことがあります。
「私のほうが実力があるのに!」
「どうしてアイツだけがいい思いをするんだ!」
そんなふうに思っても、嫉妬心からは有益なものは何一つ生まれません。それどころか、激しい嫉妬心は脳に悪い影響を与え事すらあります。
嫉妬すると、脳全体が熱を帯び、高度な情報処理をする「超前頭野(スーパーフロンタルエリア)」の血圧が上がってしまいます。その結果、脳の酸素効率が悪くなり、より複雑で深い思考力ができなくなります。
ところが、反対に人に憧れを抱くと、超前頭野がクールダウンされるため、脳の酸素効率が良くなります。
脳に与える負担は、人に憧れを抱くか、嫉妬心を抱くかで、まったく異なるのです。
つづく
伝達系脳番地トレーニング