脳の教科書

脳全体をひっぱる司令塔

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 脳の教科書・加藤俊徳著=

脳全体をひっぱる司令塔

思考系脳は、左脳、右脳それぞれの前頭葉の部分に位置します。
前頭葉とは、大脳の中心よりやや前方にあり、思考や意欲、創造力など高度な機能をつかさどる部位のこと。ですから、思考系脳番地は、「こうなりたい」と強く望んだり、集中力を強くしたりする機能が集まっているのが特徴です。

 左脳側にある番地、具体的で正確な答えを出すために使われる傾向にあります。一方、右脳側は、図形や映像の感想など明確な答えがない場合に働くことがわかっています。
 このうち右脳系の脳番地が強く働き過ぎると、思考があいまいではっきりとした答えを出せない、優柔不断な人になりがち。逆に左脳が強く働くと、物事を既存の知識やフレームに当てはめようとする傾向が強くなるため、融通の利かない人になる可能性があります。

 思考系脳番地の中には、意思決定を行う番地(10番)がありますが、脳のMRI画像を見ると、意志の強い人ほどこの番地の「枝ぶり」が太くなっていることがわかります。
 ちなみに、思考系脳番地が発達しやすい職業として、経営者や学者が挙げられます。とくに経営者は、重要な決断を迫られる分、この番地が発達している人が多いのでしょう。

 また、思考系脳番地はその人の将来のビジョンに対応しやすいという特徴もあります。「勝ちたい」「儲けたい」「モテたい」という強い意志を持っている人ほど、その目標を実現するために、理解系・聴覚系・視覚系・記憶系の脳番地に向けて「必要な情報を取りに行きなさい」と、明確な指示を出します。

 思考系脳番地は五感をつかさどる脳番地と深いつながりがあるので、具体的な指示を与えると、いい情報が次々に集められ、目標実現が近づくというわけです。
 このように考えると、思考系脳番地は「脳の司令塔」的存在だと言えるでしょう。

「自分の意見に対する、反論を考えてみる」

 医者にとっての最悪の事態とは患者さんが亡くなることであり、あってはならない事態であることは言うまでもありません。

 これを防ぐために、医者はまず、「どの方法をとれば最悪の事態にならないか」を考えることから始めます。治療を施した際に起こり得るリスクを想定し、それらをクリアしたうで、次第に「この方法なら必ず治るだろう」という思考に移っていくのです。
 
逆に「この方法なら治るだろう」という見込みから出発すると、不測の事態に対応できず、最悪の事態に陥るかもしれません。治療すれば9割がた治る状況でも、医者は残る1割の立場で正反対の意見をぶつけながら、治る確率を100%に近づけようとするのです。
 これは何も医者に限ったことではないでしょう。

 あらゆる仕事において、「自分はこう思う」という確固たる意見を持っていたとしても、正反対の意見を同時に検討することは大事なことです。正反対の意見によって自分の意見を別の角度から見ることになりますから、結果として説得力が生まれます。

この作業を行うと、視野が広がります。自分の考えに自信を持っていると、そこに固執してしまい、視野が狭まることもしばしばですが、あえて反対意見を立てることで、自説に縛られることを未然に防ぐことができるのです。このように、複数の意見を自分の頭の中に戦わせると、思考系脳番地が非常に働きやすくなります。

以前、これを裏付けるような話を聞きました、現在、経営者として成功している人たちの多くがは、新聞記事やテレビのニュースを見ながら、解説やコメンテーターの意見とは逆の視点から考えることを習慣にしているということでした。

 会社経営においては、自分の下した決定に幹部が異論を唱えくることもあるため、彼らを納得させるための訓練として、シミュレーションを行っているのでしょう。
このように、さまざまなシチュエーションを設定したうえで思考することを、私は「思考実験」と呼んでいます。

思考実験は物事をいろいろな角度から見られるため、脳に強い刺激を与えてくれます。思考のパターンをできるだけダイナミックに変化させて、普段使っていない脳番地にいい刺激を与えましょう。
嫉妬とあこがれは脳にどう影響する?
 私たちは、他人の能力や成功をついつい妬(ねた)んでしまうことがあります。
「私のほうが実力があるのに!」
「どうしてアイツだけがいい思いをするんだ!」
 そんなふうに思っても、嫉妬心からは有益なものは何一つ生まれません。それどころか、激しい嫉妬心は脳に悪い影響を与え事すらあります。

 嫉妬すると、脳全体が熱を帯び、高度な情報処理をする「超前頭野(スーパーフロンタルエリア)」の血圧が上がってしまいます。その結果、脳の酸素効率が悪くなり、より複雑で深い思考力ができなくなります。

 ところが、反対に人に憧れを抱くと、超前頭野がクールダウンされるため、脳の酸素効率が良くなります。
 脳に与える負担は、人に憧れを抱くか、嫉妬心を抱くかで、まったく異なるのです。
 つづく 死ぬまで成長し続ける感情系脳番地