
上野千鶴子著
男おひとりさま道10カ条
ススムさんにならって、わたしも「男おひとりさま道10カ条」を考えてみた
第1条 衣食住の基本のキ
男おひとりさまにとって、衣食住の自立は基本中の基本。とりわけ「食べる」ことは生きることの基本。365日、外食や中食ばかりでは栄養が偏るし、健康管理もできない。
夜更かしして暴飲暴食したり、「お米のジュース」ばかり飲んで主食を食べなかったり、朝食抜きで飛び出して大丈夫なのは、若いうちだけ。
規則正しい生活をして、睡眠を十分にとり、ひとりのしょくたくをともにしていればそれでよい、とでも3食をきちんととり、身の回りを清潔にしてすごそう。
つまり、生き物として生活する基本を大事にしようということ。こういう基本を、妻や母親任せにして何十年生きてきたとは信じられない。
孤独死した男性の死亡現場から、天井まで積み上げられたコンビニ弁当の空き箱が崩れてきたというエピソードがあるが、これではまるで緩慢な自殺行為というほかない。
第2条 体調管理は自分の責任
メタボ体型の男性のみならず、高齢者の男性は生活習慣病のひとが多い。
高血圧や糖尿病、肝臓機能障害などでクスリを手ばせない慢性病の人もいる。
根治できなくとも病気の進行を遅らせることのできる薬剤は色々で回っている。妻がいた時ならいざ知らず、体調管理は男おひとりさまの自己責任、と心得よう。
病気になれば、結局クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)が堕ちる。自分自身のために自分の体を心にかける。
これができないばっかりに、男性は過労死などをしてきたのだ。自己を過信せず、自分の体の声を耳に傾ければ、「危ない」という秦剛、「ストップ」のサインは聞こえるはず。
第3条 酒、ギャンブル、薬物などにはまらない。
辛い現実に直面したとき、そこから一時的に逃避させてくれる嗜癖(しへき)はいろいろあるが、何にはまるかは男女差がある。
男性は、酒、博打、それに女、女性の方は、過食に、ショッピング。女性も酒やセックスにはまる場合もあるが、アルコールやセックスへの依存は「女のくせに」と敷居が高い。
対して男性は、もともと「男らしさ」のアイテムに「飲む、うつ、買う」の3点セットがあるから、これにはまることへの抵抗が少ない。
アルコールを鯨飲(げいいん)し、博打に大枚をはたき、漁色家(ぎょしょくか)であることが、「男を上げる」条件だと勘違いしているひともいるくらいだ、男のほうがぜったいに現実逃避的だと、わたしは睨んでいる。
最初はわずかな「さみしさ」や「つらさ」を紛らわすために手を出した嗜癖(しへき)が、やがて依存になり、ぼろぼろになるまで健康や生活を破壊するにいたる。
いたずらに死期を早めるだけでなく、周囲を巻き添えにするはた迷惑な自爆テロといってよい。とくに男おひとりさまは、止めてくれるひとが周囲にだれもいないので要注意。辞めろとは言わないが、何事もほどほどに。
第4条 過去の栄光を誇らない
恒例の男おひとりさまで「困ったちゃん」は自慢しい。
現在の自分に自慢することがないので、いきおい過去の栄光に頼ることになる。聞かされる方は、かもしろくも、おかしくもない。
もともと男性は、若くても若くなくても自慢しい。自分の事しか喋らない傾向がある。恋人やバーのホステスさんなら、「いまの話、3度目よ」なんてイエローカードを出さずに、「すごいわねえ、あなた」と聞いてくれるかもしれないが、女の側に下心も利害もなければ、男の自慢話は鼻つまみだけ。
女が男を操ることを、「鼻毛を読まれる」とはよく言ったものだ。膝に持たれてナナメ45度を見上げると、ちょうど視界の真ん中にオヤジの鼻の穴がくる。女性がこんなことをしてくれるのは、熱い財布からカネを引き出そうとしているときだけ。
最近は女性もムダな我慢はしなくなったので、おショウバイでカネでも払って貰わなければ、自慢話を忍耐強く聞いてくれないだろう。
男性の集まりでも、過去の経歴にすがるひとは、周囲から干される傾向がある。ひとのねうちは、はたが見つけてくれる。自分の口から言うものではない。
第5条 ひとの話をよく聞く
その反対がこれ。居場所を見つけたいと思ったら、まず、「喋る」より「聞く」側に回ること。しやべくりで「おもしろいひと」と思ってもらえるのは、一時の事。
自分で喋ってばかりだと、すぐにあきられる。間を持たせようと思って喋りまくるのがサービスだと勘違いしている男性が多すぎる。
その反対に、「喋るのが苦手で」と黙っている男性もいる。「うちのお父さん、無口で」と妻がこぼすのは、夫の沈黙に対してではない。自分の言うことを聞いてくれないことに対してだ。
このひと、ホントに聞いているのかしら、言っていることが届いているのかしら、と不安になるからだ。
いぜん、「非モテ」系の男性を対象とした「花婿学校」の講師をしたことがあったが、そのとき、初対面の女性と30分間話をもたす、という課題を出した。難題ではない。
相手のことを聞いてあげる・・‥これだけで30分はかるくもつ。そのうえ好感度も上がること請け合いだ。ただし、本気で相手に関心示すことが大事だ。
第6条 つきあいは利害損得を離れる
仕事上の関係は、損得がらみ。だか、人生を定年でリセットしたあとには、利害損得を離れた水の如き清遊をよしとしよう。権力欲や名誉欲も持たないことだ。
欲得がらみの下心があれば、相手にはすぐにわかる。裏返しにいうと、利害や損得のない関係でも、あなたが相手にしてもらえるのは、純粋にあなたという人物の人柄が受け入れられているからだと確信できる。
ひとを利用しようとしてだれかに近づかず、あなたを利用しよという人を近づけないことだ。
とりわけ資産や名誉を持っていれば、甘い言葉であなたにすり寄ってくる誰彼は尽きないことだろう。それどころか、子どもたちやその配偶者、親族たちもあなたを利用しようとするだろう。
とくにカネがらみはトラブのもと。連帯保証人の判子はつかないこと。カネ貸してくれという友人がいたら、捨てるつもりで出せばよい。そして、先述の深澤さんのアドバイスどおり、その「友人」を「知人」のカテゴリーに、自分の中で変更しておけばよいだけだ。
第7条 女性の友人に下心はもたない
おひとりさまになった楽しみの一つは、男女ともに、配偶者以外の異性とおおぴらに付き合えること。異性の友人が入ることは人生の楽しみのひとつだ。
とくに男おひとりさまを女性はほっておかないから、あれこれお節介を焼いてくれる。手料理の差し入れや日常の心遣いなど、有り難く頂戴しておけばよい。その際、感謝を素直にあらわすこと、髪形でも料理の腕でも、なんであれ女性を誉める言葉を出し惜しみしないこと。
ただし、いまさら「つがい」になろうという下心は捨てること。もう?殖の季節ではない。女性をひとりゲットしたら、ほかの女性はすべて退いていく覚悟をしよう。
とりわけ女縁のつき合いに入り込んだら、抜け駆けは厳禁。総スッカンを食らう。
せっかく男女を問わず、多様な友だちがたくさんいたほうがよい、という気分になれたのに、これでは「家族定年」前に逆戻り。またまた同じことを繰り返す結果になる。
グループ交際がいちばん。共学育ちの戦後世代は、サークルや地域活動の経験から「男女の仲」にならずにすむ異性の交友関係に慣れているはずだ。
第8条 世代のちがう友人を求める
「年寄りがキライだから、デイケアには行きたくない」とのたまう年寄りはたくさんいる。他人の歳とった姿を見ると、わが身もそうかと否応なしに老い知らされる。
それに年寄りの話はグチと繰り返し多くて、うんざりする。
男性は、同世代であればあるほどパワーゲームから降りられず、「同期のササキくんは‥‥」とつい自分と比べるクセがなくならない。
老後は個人差がきわだつ。配偶者のいる同世代の男性から、同情の目を向けられるのもいまいましいし、暮らし向きや名誉で比較されるのもイヤだ。
その点、世代がちがうとパワーゲームからは降りられる。映画などでよく取り上げられるのは、祖父の年齢の老人と孫の世代の交流。父と息子のようなタテの関係には葛藤がつきものだが、
オジとオイのようなナナメの関係は比較的うまくいく。
息子とはうまくいかなくても、息子の年齢の他人とはうまくいく男性もいる。それに世代のちがう友人は、異文化を運んできてくれる。パソコンの新しい使い方をおしえてくれたり、サブカルチャーの情報をもたらしてくれたりする。
ただし、教える、導く、説教するはタブー。「教える」とは、相手に「教わる」キモチがあるときしか成り立たない行為であると、肝に銘ずるべし。
第9条 資産と収入の管理は確実に
日本の夫には家計管理権を妻にゆだねているひとが意外に多い。
これは世界的にも珍しい現象で、「日本の妻は虐げられているというけれど、実際に家で実権を握っているのは妻の方で…」とよくいわれるのはこのせいである。
なかには資産管理まで妻に任せっぱなしで、気がついていたら家が建っていたという男性もいる。もっとすごいのは、共働きの妻が、家計費はすべて夫の収入でまかない、自分の収入は財テクに回して、離婚した時には妻名義の家が別に建っていたという実例がある。
夫が家計管理をしないのは、日本の夫がカネに鷹揚(おうよう)で寛大というわけではなく、少ない給料のやりくりの責任を妻に押し付けているだけ。たんなる責任回避である場合が多い。
資産と収入の管理は自分で行い、おいすぎる投資話や子どもからの二世帯ローンなどのお誘いにはのらないようにしよう。
寝たきりになったりしても、他人さまのお世話になって生きられる金額をシミュレーションし、葬式と墓の費用を残して、自分のために使おう。そして、たとえ少額でも遺産相続で遺族が争わないように、むきちんと自分の意志を現した遺書を書いておこう。
第10条 まさかのときのセーフティネットを用意する
それでもやっぱり、いつなにが起きるか解らないのが、おひとりさまの暮らし。
女おひとりさまは入院キッドを用意したり、連絡網を手配したりして、緊急時に備えている。
備えあれば患いなし。心配性なのはちっとも困ったことではない。むしろみたくない、聞きたくない、考えたくない、と逃避しているほうがまずい。
貴重品のしまい場所や緊急時の連絡先リストなどは、わかるところに置いておく。
意識不明で病院に担ぎ込まれた時のために、血液型、既往症や服薬一覧、薬剤へのアレルギーの有無などのメモも用意しておこう。
それよりなにより、変調を感じたときに気軽に連絡できる相手を複数確保しておくこと、もちろんいざというときになれば119番で緊急車を呼ぶ手もあるし、多くの自治体が独居高齢者のための緊急通報装置を設置しているが、この程度の事でボタンを押して大騒ぎになったら、と思うと手を伸ばすのがためらわれるものだ。
それより「へんだな」と感じたときに不安を訴える友人が複数いた方がいい。電話を掛けたら夜中に車がやって来て、強引に病院に連れて行ってくれたおかげで命拾いした人もいる。
意識不明で昏倒(こんとう)する状態にる前に、カラダがなんらかのサインをおくってくれているもの。あの時のあれが‥‥と、あとで思い当たるのは、カラダのサインを男性が無視しがちだからだ。
最後に、たとえひとり暮らしでも、1日1回か数日に一度は、連絡したり顔を合わせたりする関係を作っておこう。友人でなくても、デイケアの職員でもヘルパーさんでも、隣人でも買い物に行くお店の人でもいい。
「あれ、あのひと、今日はどうしたのかな?」と不審に思ってもらえる。家でひとり死ぬのはOK、覚悟はできている。だが発見が遅れて、はたに迷惑がかかるのを防ぐためだ。
ポットのお湯の使用状況やガスの利用状況の情報が遠方に住む子どもに伝わるというサービスもあるが、遠くの子どもより、まず近くの他人だ。それに自分の挙動が逐一子どもに伝わるのは、親子と言えどもプライバシーの侵害でイヤだ、というひともいる。
ある高齢者は、読まない新聞を毎日とっているという。配達の人が、溜まった新聞を見つけて通報してくれるのを期待しているからだ。
以上、男おひとりさまを経験したことのないわたしが、こんな説教臭いことをいうのもはばかられるが、女性からみて、「男おひとりさまのここがイヤ」「あそこがダメ」ということだけはよくわかる。
あとはご自分で、カスタムメードのヴァージョンを追加して欲しい。
つづく
第5章 ひとりで死ねるか